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南充浩 オフィシャルブログ

「ブランド品への渇望」が弱まったと感じる

2021年4月6日 お買い得品 3

若い頃を思い返してみる。

大学を卒業し、衣料品販売職に「偶然」就いてしまうまで、衣料品に興味はなかったということを再三書いてきた。

しかし、今と違ってテレビは良く視ていたので、ニュースは欠かさず視ていた。

80年代後半ごろのニュースでは、夏と冬のバーゲンには、ファッションビルや商業施設の開店前に長蛇の列ができていたことを報道していた。

大阪で言えば、当時のホットスポットは、なんばシティと阪急ファイブだっただろうか。MIOもルクアもルクアイーレもグランフロントもなんばパークスもまだこの世に存在しない。

一度も着用したことがなかったが、世の中はDCブランドブームだったようだ。

 

母親にイズミヤとジャスコの平場で買った1900円の服で育てられた当方からすると、1着数万円は軽く越えるというDCブランドの服なんて常人が買える商品だとは思わなかったし、それを並んでまで買いたいという人がそれほどいるというのも信じられなかった。

 

大学に入学すると、それなりに友人ができた。

もちろん男性が圧倒的である。昔から女性に縁はあまりない。多分今後もない。

今でいう大学デビューみたいな男子学生も多く、リーバイスやらリーやらのジーンズを買う人が多かった。ちなみに当方は大学デビューすらしていない。

大学構内には生協というものがあって、食堂以外に書籍やら文具やらも販売されていた。

で、その生協でたまにリーバイス、リー、あたりのブランドジーンズが3割引きで販売される機会があった。今でいうところの「催事」である。

当時のリーバイス、リーのジーンズは6900円・7900円・8900円がメイン価格帯だったから、3割引きだと4830円・5530円・6230円となる。

ジャスコとイズミヤの平場で売られている謎ブランドの1900円ジーンズを愛用していた人間からすると、3割引きでも高くて驚いたものだったが、友人が買いに行くというので何度か付き合った。

そして催事コーナーに行くと、同大学生が多数群がって複数本を購入している光景を目の当たりにした。

 

こんなに高いジーンズをまとめ買いする人がこんなにいるとは!

 

と異次元人の集団ではないかとすら感じた。

 

社会人になると、自分がそういう商品を扱う側になってしまったのだが、2008年ぐらいまで毎年、何らかのファッションブームがあった。

90年代前半のソフトジーンズブーム、半ばのビンテージジーンズブーム、97年のアムラー、99年ごろのマルキューブーム、ローライズジーンズブーム、2005年の神戸エレガンスブーム、プレミアムジーンズブーム、2008年のスキニージーンズブーム

という具合だ。もちろん今並べたのは一部であり、ほかにもいろいろなファッションブームがあり、その時々で開店前には行列ができていた。

 

今、そういう行列を作ってまで買うブランドやファッションなんてあまり存在しない。

転売目的も含めてナイキの限定モデルスニーカーやシュプリームの限定品くらいだろうか。それ以外のマスターゲットのブランドだとユニクロ、ジーユーくらいだろう。あと思いつくのは2009年のH&M、フォーエバー21のファストファッションブームである。こちらは短命に終わったが。

2020年になってから、大衆のユニクロ、ジーユーへの傾倒ぶりがより顕著になったと感じる。

 

その最たる例が2020年秋の+Jの復活である。

転売目的者も含め入店まで3時間待ちも珍しくなく、通販サイトはサーバーダウンしてしまった。2009年のスタート時と比べても行列の長さは圧倒的に伸びている。

2010年、2011年ごろになると、+Jが供給過剰になり、当時990円くらいで投げ売られていたことと比べると、復活後の+J人気は異様だといえる。

 

ジーユーだと4月9日発売のアンダーカバーコラボが話題を集めそうだ。

3月発売のミハラヤスヒロコラボは早々に値下げされただけでなく、その翌週である今朝、スエット類(パーカ含む)と半袖Tシャツが590円へとさらに値下げされた。買うのをもう1週待つべきだったと悔やんでいる次第である。

 

長々と書いてきたが、自分が加齢で体力とともに気力の衰えもあるのだろうが、業界に入ったころのように「あのブランドが欲しい」とか「あのブランドのあの商品が欲しい」というファッションへの「渇望」が少なくなった。マスの消費者も同様ではないのかと思っている。

もちろん、そうではないという人もおられるだろうが、やはり10数年前に比べて、経済的な理由も加わるのだろうが、ユニクロ、ジーユーでいいやと言う人が増えたのではないかと感じる。

自分が業界に入って「やっぱりブランド品は違うな」と感じたのは、ネームバリューだけではなく、実際に使用されている素材、色、柄、デザインアレンジ、シルエットなどどれもがイズミヤ・ジャスコの安い服とは全く異なっていたからだ。

恐らくはデザインソースは同じなのだと思う。しかし、企画ノウハウ・製造ノウハウが明かされていないため「似たような物」が安くでは作れなかったのではないかと思っている。

時代が進むごとにそのあたりのノウハウが少しずつ流出し、2010年以降ではほぼ流出しきってしまった感がある。

 

そのため、厳密に見れば違いもあるが、価格差が5倍~10倍ある物とほとんど同じように見えるユニクロ、ジーユー商品ができるようになった。

ほとんど同じように見えるなら安い方で構わないという人が多いのだろう。

昔のように「安物はやっぱり変だから、頑張って高いブランド品を買いたい」という「渇望」が全体的に弱まっているように感じられてならない。

よく言えば「成熟化」ということになるが、今後、景気が回復したところで、昔のような「ファッションへの渇望」は戻らないだろう。ユニクロ、ジーユーに限らず、これだけ「安くてそこそこ良い物(見た目も含めて)」に慣れてしまうと、背伸びをする必要が感じられなくなる。

加齢で気力の衰えた初老にはそんな風に思える。

 

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 comment
  • OZ より: 2021/04/06(火) 9:05 PM

    渇望は薄れてきたかもしれません。
    南さんとは少し違うのかもしれませんが、40歳を過ぎ、日々何を着ようか悩むのではなく、自分にとっての一軍の服を高回転でローテーションしている状態です。
    ブランド物を買わないわけではないですが、高頻度に活躍するベーシックアイテムだけですね。ユニクロも(Uに限ってですが)着用します。僕の場合は商品の同質化というよりも、ファッションを楽しむ渇望が、薄れてきたのかもしれません。
    +Jの異様さは同感です。過去に協業してイマイチだったことも当然記憶にありますが、僕くらいの年齢で洋服大好き!っていう若い時代を過ごしてきた人間でもジルサンダーってあんまり着てる人いなかったような。。まだネーム的にはマイナー?なルメールの方が親しみがありますね。
    まぁ、なんにせよ、日々何着ようかなぁというドキドキがやってきたら生活が充実するかもしれませんね。

  • BOCONON より: 2021/04/07(水) 1:12 PM

    南さん,今回はいささか混乱しているような。去年の人死にが出るかと思うような,+J に客が文字通り殺到した,というのはむしろ皆さんブランドに飢えている,という証明のような気がする。いくらユニクロでも,まぎれもないモード系ですからね,あれは。
    僕は「ブランドのロゴのついた服なんてダセえ」と思う方なので,去年の Supreme なんてどうって事もないロゴがついているだけのTシャツ等が大人気というのは何だか奇妙な感じがした。最近は僕がダンロップのなかなか良いデザインのスニーカーなど穿いていると,若いもんはダンロップってだけでバカにしやがるし。
    あるいは最近TVCMで「ブランドバッグのレンタル」なんてやってますが,ああいうのが商売になるのなら,皆さんブランドに渇望がなくなったわけでもなくて「その渇望の現われ方が昔と違うだけじゃねえの?」という気もする。さすがに今どき地方のショッピングセンターにヴィトンのバッグ持って来るプリン頭のDQN女なんてものはいないにしても。
    “クルマなんて必要ない” というのと同様「ブランド品なんてみんな持ってないから自分だけ持つのはイヤ」なんてのはどうも “すっぱいブドウの論理” に近いような気がしないでもないですな。

  • BOCONON より: 2021/04/07(水) 1:32 PM

    さらに余計な事をつけ加えると,最近南さんユニクロユニクロ GU GU 言い過ぎでっせw 口調がまるで「洋服はもうユニクロと GU(ほかせいぜいワークマン)があればもう何もいらない」と言っているかのようで,しかしそんな結論を出してしまえば最早南さんの存在意義もないようなものではないかと・・・と云うのは言い過ぎか。

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