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南充浩 オフィシャルブログ

長所は状況や環境の変化で短所になってしまうという話

2021年4月1日 企業研究 2

物事の長所と短所は必ず表裏一体である。

即断即決と言えば長所のように聞こえるが、悪く言えば「浅慮」である。また慎重といえば長所に聞こえるが、悪く言えば優柔不断・決断力が無いともいえる。

そして、長所と短所は同じ物なので、状況や環境の変化によって、それが良く出たり悪く出たりする。

例えば、通り一遍のありふれたこの日本企業批判記事。

日本でユニコーン企業が「7社だけ」の根本原因 | 中国・台湾 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

タイトルを見ただけで十分だろう。中身を読むまでもない。これこそ金型に流し込まれた量産記事の際たる例である。

だが、一方でこんな指摘記事もある。

日本企業の株主優待を「ガラパゴスで時代遅れ」と侮る投資家の落とし穴 | 企業サバイバル最前線 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

こちらの方が、金型量産記事に染まり切った人々が読む必要があるだろう。

キモの部分が無料会員ページになっているが、抜粋して引用したい。

個人投資家と機関投資家のゼロサムゲームいう本質が隠されているのは、株主優待にではなく、むしろ「ユニコーン待望論」にある。ユニコーンとは、未上場で時価総額が1000億円以上の企業を指す。急成長するユニコーンこそが、様々な産業に刺激を与え、経済を活性化させると信じられている。

ユニコーン企業は圧倒的に米中に多く、日本にはほとんど存在しない。時価総額が1000億円に達する前に東証マザーズなど新興市場に上場するという選択肢があるためだ。米中では未上場のままで時価総額を増加させるので、ユニコーンが数多く存在する。

 

ここまでは現状確認とユニコーンについての定義である。

では、ユニコーンが本当に社会や広い投資家にとって最善の存在なのかというと、そうではない。理由は以下である。

 

ユニコーンになる前に、比較的小さな時価総額で上場する日本では、その企業の時価総額が小さいうちに一般の個人投資家が投資をする機会がある。その企業が大きくなるのを個人投資家が応援し続け、配当やキャピタルゲインを享受する機会がある国が日本だ。

一方、未上場であるユニコーン企業の株主は、ファンドや金融機関などの機関投資家だ。この投資機会は、特殊で閉鎖的な世界でしか得られず、一般の個人投資家は投資をする機会すら与えられない。ユニコーン企業の株主が、縁故主義的な投資家ばかりとなる可能性さえある。

ユニコーン企業が上場するまでの巨額のキャピタルゲインは、特殊な機関投資家だけが享受する。ある程度大きくなってしまったユニコーン企業が上場した後、個人投資家がそこから投資をしても、上場後の旨味が大きいかどうかは不明だ。

 

どちらが、民主的で広く門戸が開かれているかというと日本の方だろう。欧米中国のユニコーンというのは、見方によっては格差を拡大させる効果しかないともいえる。

このように、長所と短所は表裏一体だし、時代や状況、環境の変化で良くも悪くも見える。

 

ライフウェアは完成形に!+Jが可能にするユニクロ全方位戦略のすごさ _小売・物流業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】 (diamond-rm.net)

 

アパレルでも同様で、今の勝ち組であるZARA、ユニクロの賛美記事と過去の勝ち組だったワールド、オンワード樫山の批判記事が溢れている。

だが、ワールド、オンワードの仕組みもそれが最も効果的だった時代があり、それに対応したものだったから、巨大企業へと成長できた。

上にリンクを貼った記事は、最近のこの著者の中では珍しくバランスの取れた論調であり、その点は評価したい。

 

オンワード樫山は、百貨店依存率が非常に高く、それを今の視点で批判する人もいるが、当時、百貨店に事業集中することは正しい戦略だった。実際、同社は幾度も過去最高益を更新していた。

また、ワールドの過剰な数字、データ重視による企画の弱体化を批判する人も多いが、当時は、市場、いわゆるDCブランドとよばれる領域は成長しており、そこに向けた欠品の撲滅とデータによる感覚経営の排除は、すくなくとも今のアパレルビジネスの経営管理に絶大な影響を与えた。ワールドの戦略は、当時、アパレルビジネスに多大な売上と利益を企業にたたき出す解法だったのである。

 

とあり、同感である。

当時は最適化されたシステムだったが、時代や環境の変化でそれが適合しなくなったのは、百貨店の「販売員付き消化仕入れ」と同様である。また、中で運用する人の考え方が安直化し、硬直化した結果でもある。

法律でもそうだが、解釈によって運用が変わる。本来あってはいけないことだが、システムも運用者によって精度は変わってしまう。

 

だから、今の部分だけを抜き取って、ユニクロだけを絶賛し、その他のアパレル企業を批判する態度からは何も生産的議論は生まれないし、それらは自ら改革を先導するという責任を放棄する評論家の態度である。すべての企業活動には、そこに至る必然性と歴史的な背景があるということである。

 

とのことで、この結論にも激しく同感である。

通り一遍の現状批判と勝ち組礼賛だけでは何の問題も解決できない。

 

 

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 comment
  • gonkim より: 2021/04/01(木) 5:04 PM

    成功経験が足を引っ張ることは往々にしてありますよね
    成功の復讐というらしいでしけど
    オンワードのビジネススタイルも
    ワールドのビジネススタイルも
    それぞれその時代には正解であったことは間違いない
    ただOLが消えてしまい 着飾ったオフィスウェアは不要になった
    そこにユニクロが滑り込んだだけですよね
    オンキヨーのミニコンポだって当時はあこがれで
    大学生のアルバイトで購入されたでしょう
    それが上場廃止ですからね
    事象を後追いで 批判や冷笑することはたやすいことですよね

  • BOCONON より: 2021/04/01(木) 6:36 PM

    これはそんなに古い記事でもないから,ユニクロでは今でも似たようなやり方をしているのではないかと思う。つまり売り場に並ぶ商品は実質全部柳井正CEOが決めている,という事。まことに驚くべき勘の鋭さですね。
            ↓
    https://diamond.jp/articles/-/248356?page=2

    とは言え,もう70歳過ぎている柳井氏が今の地位を退くのはそんなに遠い先の事では多分ないと思われる。だがその後は誰が引き継ぐのか,氏の代わりが務まるような人材がそもそも周囲にいるのか。あるいはこれもまた彼が卓越した商人としての勘で決めるのだろうか。「こいつなら後を任せても大丈夫!」などと。
    そんなにうまく行くものかどうか...実際むかし一度禅譲に失敗しているし,僕はユニクロの将来は案外あやういところがあるような気がしています。取り敢えず,去年大量に売れ残っていた “バブァーそっくりジャケット” のような大ハズレ商品が今後増えて来るようなら,ユニクロの社員さん達は(大きなお世話ですが)危機感を持った方が良いのではあるまいか。

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