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南充浩 オフィシャルブログ

洋服の製造原価率を上げるのが簡単である理由

2021年3月25日 トレンド 1

最近、ふと思い返してみると「原価率〇〇%の新ブランド」というキャッチフレーズをあまり耳にしなくなったことに気が付く。

もちろん、まだそれを掲げておられる既存のブランドはある。それはそれなりにブレなくて良い姿勢だといえる。

が、それに追随したようにまるで雨後の筍、真夏の雑草、のように湧いて出ていた原価率ブランドはあまり目にしなくなった。

記憶が頼りなので誤差はあるかもしれないのでお許し願いたいのだが、どうだろうか、原価率の新ブランドがほとんど登場しなくなり、メディアでもあまり取り上げられなくなったのは、2019年頃からだろうか。

 

代わりに登場したキャッチフレーズが「エコ・エシカル・サステナブル・エスディージーズ系」と「D2C」である。特に2020年以降は、この2系統の冠をかぶせた新ブランドだらけで逆に同質化して埋没してしまっていてさっぱり印象に残らない。さらに言えばこの2系統のキャッチフレーズを合体させて兼ね備えているブランドも珍しくない。

ぶっちゃけ数が多すぎるのと、この2系統のキャッチフレーズの両方に興味がないので、当方の記憶には一切残っていない。

同じキャッチフレーズを冠してそれが標準装備化されてしまえば、消費者は何を基準にブランドや商品を選択するようになるのかというと、「商品デザイン」「価格」だろう。

そのどちらかを重視するか、はたまた「商品デザイン」+「価格」の両方を兼ね備えたブランドを選ぶかということになり、「エコ系(めんどくさいから略する)」の中でも「一部の勝ち組」と「大多数の負け組」が生じ、負け組は不良在庫を抱え、場合によっては倒産に至り、逆に売れ残り不良在庫が市場に破格値で出回ることになる。(笑)倒産品なのだから投げ売られるのは当然である。

多分、数年後にはそういうことになっているだろう。

それにしても、小泉純一郎時代から変わらぬ「ワンフレーズ」好きの国民性には驚くとともに失笑を禁じ得ないが、アパレル業界のワンフレーズは消費者には響きにくいものが多いように思う。

恐らくは「原価率〇〇%」も「エコ系」も「D2C」も業界人やメディア人が思っているほど大多数の消費者には響いていない。ついでに言うと当方にも響いていない。

 

さて、これまでずっと疑問だったのだが「原価率〇〇%」の「原価率」とはどの原価率を指しているのだろうか?

「製造原価率」なのか「仕入れ原価率」なのか。

某社が自社直営工場で洋服を縫製した場合、「原価率」というのは「製造原価率」とほぼ近しいということになる。しかし、協力工場、契約工場、下請け工場に出した場合、その工場から納品される時に幾何かの工場の利益が乗せられるため、製造原価率と仕入れ原価率はその利益分の差ができる。

今、単純化して工場と直接取引している構図で考えているが、現実的には某社は商社やOEMを使っているため、より構造は複雑化することとなり、製造原価と仕入れ原価は大きく異なる。

 

まあ、そんなわけで「原価率〇〇%」だけでは正直なところ何を言っているのかさっぱりわからない。

 

当方は、仕入れビジネスということをあまりしたことがないので、洋服の製造に関していうと「製造原価というものは、上げるのは簡単で下げるのは難しい」ということである。

「製造原価が高い」ということは、一見すると高品質なように感じてしまう。

実際に、高い生地を使ったから、丁寧さを追求して縫製工賃を上げたから、高い加工を施したから、製造原価が上がったという場合も洋服の製造に関しては珍しくない。普通にある。

だが、これら以外にも製造原価が上がる要因はたくさんある。そしてそれらは品質の向上とはまったく関係ない。

 

ひどく大雑把に出してみると

 

1,ミニマムロット未満の生産数になること

2,中間業者を多数介在させること

3,指示や計画が杜撰で何度も修正を行わせた場合

4,杜撰さが原因でリードタイムがタイトになり納期を急がせた場合

 

などなど

がある。

ご理解いただけただろうか?

これらはいずれも品質の向上とは一切関係がない。しかし、確実に製造原価は高まる。

生地にも縫製にもミニマムロットが各工場の規模によって設定されている。これを下回った場合、生産効率が落ちるため、工場としては割高な価格設定となっている。

1型100枚というミニマムロットの縫製工場があったとすると、100枚未満だと1枚当たりの工賃は幾ばくか高くなる。

生地にしてもミニマムロット3反という工場があったとして、1反だけ製造をお願いした場合は金額が上がる。

数量が少ないので製造原価総額は変わらなかったり少し下がるのではないかと思うが、必然的・自動的に製造原価率は上がることになる。

また、製造の仲介業者がやたらと介在するとそれぞれにマージンが発生するので自動的に製造原価は高くなる仲介業者を外せば良いとは思わないが介在させすぎても意味はない。だから、改革に成功したアパレルの事例だと、多数存在した仲介業者を3社くらいに統合して製造原価を下げたということがある。

 

あと、指示や計画が杜撰な場合、修正費や急がせた追加料金が発生するから製造原価は結果的に高くなる。まあ、もっとも踏み倒すブランドも珍しくないとか(笑)。

 

こんな具合なので、製造原価を上げることは外野が想像するよりもはるかに容易い。逆に、杜撰であればあるほど製造原価は勝手に上がる。

 

だから、「原価率自慢」のブランドに対して、当方はほとんど心が動かないわけである。「原価率自慢」のブランドは実際に、何の要因で原価率が高いのかまでは説明していない。

 

今の2系統のキャッチ―なワンフレーズも恐らくは遠からずポシャると思うので、次はどんなワンフレーズが誕生するのか今から楽しみでならない。(笑)

 

 

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 comment
  • oguyh より: 2021/03/25(木) 2:21 PM

    突然のコメント失礼致します。
    毎日昼休憩時にブログを読ませて頂いており、勉強させて頂いております。
    アパレル従事者(企画と生産)ですが、今回の話しは衝撃でした。私の認識では原価率=仕入れ原価率です。他社に生産を依頼してのマージン抜きの製造原価なんて原価でも何でも無いと思うのですが。
    余りに衝撃でしたので思わずコメントしてしまいました。こんな原価率を外部に開示している企業があるんでしょうか。それは例えばジャケットの原価に生地値しか入れておらず、工賃を加算していないのと大差無いと思います。

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