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南充浩 オフィシャルブログ

「洋服の過剰供給」に異を唱えながら新規ブランドが続々と立ち上がる矛盾

2021年3月18日 トレンド 2

最近、「アパレルの過剰供給に向き合う」というスローガンを掲げた新規ブランドが続々と立ち上がっている。

自分はこの手のニュースを見たときに、真っ先に疑問しか感じない。

わざわざ新ブランドなんか立ち上げたら、さらに供給量が増えるんじゃねえの?と。

 

既存のブランドが売れ行き絶不調だったとしても、最低限の売れ行きは算出できる。なぜなら長年運営できてきているわけだから、ミニマム売上高はどれくらいなのかは把握できる。

しかし「新ブランド」というのは海の物とも山の物ともわからない。

バカ売れする可能性もあるが、全く売れない可能性もある。そして、現在の国内アパレル市場において、新ブランドがバカ売れする可能性は極めて低く、売れない可能性の方が高い。

確率論だけでいえば、新ブランドが立ち上がれば立ち上がるほど、業界全体の不良在庫が増えるということになる。

逆説的に言えば「安易に新ブランドを立ち上げない方が業界全体の不良在庫を増やしにくい」と言える。

本当に不良在庫を減らしたいのであれば、既存のブランドのリニューアルを図った方が効率的ではないかと思うが、手垢のついた既存ブランドよりも新ブランドの方がアピールしやすいという一面もあるのではないかと思う。

だが、この20年間くらいを見ていると、既存ブランドのリニューアルも成功しにくいが、新ブランド立ち上げも同等かそれ以上に成功しにくいと感じられる。

たまたま、昨日こんなニュースを見て、上のようなことを改めて考えた次第だ。

 

オンワード、流行を追わない服を作るD2Cブランド「ONWARD DD」始動 (fashionsnap.com)

 

第1弾のD2Cブランド「オンワード・ディー・ディー(ONWARD DD)」を立ち上げ、3月17日の今日から公式オンラインストアで取り扱っている。

オンワード・ディー・ディーではファッション業界で慢性化している過剰供給の課題に向き合う。

 

とのことで、なんだか目的に対しての手段が逆効果でしかないのではないかと思ってしまう。

既存ブランドのマーチャンダイジング精度を高めるとか、販促を強化するとか、そういうことの方が売れ残りの不良在庫を減らすには、未知の新ブランドを立ち上げるよりもはるかに効率的ではないかとしか当方には思えない。

「売るため」に新ブランドを立ち上げ、「売るため」に社会問題の冠をかぶせただけで、これは何もこのブランドに限らず、ほとんどの新規ブランドは同じだと個人的には思って眺めている。

 

で、もう一つ疑問なのが最近の「流行、トレンドの否定」である。

例えば、ベーシックで「部品」を標榜していたユニクロ、作業服のワークマン、こういうブランドが「流行、トレンドを否定」するのは理解できる。ブランドのコンセプト自体がそうだからだ。

だが、通常のファッションアパレル、カジュアルアパレルが「流行、トレンド」を過剰に否定して見せるのは自分で自分の首を絞めているだけではないかと思う。

このオンワードディーディーもその一つである。

 

ブランドコンセプトに「流行にのれない服」を掲げ、トレンドを追求せず長く着用できるアイテムを展開することで課題解決を目指す。

 

とある。

しかし、ブランドのルック画像を見ると、それこそ今のマストレンドそのものである。

https://www.fashionsnap.com/article/2021-03-17/onwarddd/#lg=1&slide=2

 

 

 

このルック画像で表示された商品を今後、3年くらいはモデルチェンジせずに売り続けるというのなら、納得もできるが、じゃあ、来年の今頃も本当にこの商品を販売しているのだろうか?その覚悟はあるのだろうか?

 

以前にも書いたように、近代ファッション以前でもその時代時代でトレンドや流行が各国にあった。

江戸時代の日本にだって着物や髪型でトレンドがあった。古代ローマ帝国のトーガと呼ばれる布でさえ巻き付け方にトレンドやオシャレがあった。

人間が衣服を身にまとう限り、かならずトレンドや流行は発生する。

 

最近、展示会や店頭、着用している人々を眺めていると、女性の中でトレンド層ではブーツカットパンツを着用していることが増えつつある。

2008年のスキニーブームの前の時代はブーツカット全盛期で、このままその時代に戻るのかどうかはわからない。トレンド先端層の小さなブームだけで終わるのかもしれない。

だがトレンドがあるから、ブーツカット復活の動きがあるのだろう。それが「社会問題だ」というなら、各ブランドは連合してブーツカットパンツを企画製造しなければいい。「エコに反するから2008年に買ったスキニーを穿き続けろ!」と世の中に宣言すればどうか。

 

「ベーシックを長く売り続けることが正解」だという声がイキった識者から聞こえることがあるが、それならどうしてレギュラーストレートジーンズを長く売り続けた旧大手ジーンズメーカー各社の業績は低下してしまったのか?どうして経営破綻が相次いだのか?

どうしてワイシャツを作り続けた大手シャツアパレルは山喜を除いてすべて経営破綻してしまったのか?

ベーシックな昔ながらのメンズ白肌着は苦戦し続けているのか?

これらの業種への総括無しで「変わらないベーシック」を礼賛しても、それは単に無責任なアドバイスに過ぎないのではないか。

個人的な服装としてはやみくもにトレンドを追いかけ続けるのはアホらしいと思っているが、逆に全く変わらなさすぎると洋服を買う意味を見出せなくなる。そうなったら、多分、自分は洋服を買わなくなる。

 

「供給過剰を槍玉にあげながらの新ブランド立ち上げ」「トレンドの過剰否定」、この2つのお題目はキャッチ―で人目を惹きやすいのかもしれないが、洋服ブランドの活動としては究極の自己矛盾を抱えているのではないかと思う。

 

 

 

 

何年かに一度しかモデルチェンジしないリーバイス501をどうぞ~ エコやわ~(笑)

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 comment
  • xian より: 2021/03/18(木) 11:19 AM

    いっそ布そのものを売ったらどうでしょうw

  • くま より: 2021/04/13(火) 11:13 AM

    そういう新ブランドを見る度に「え、ユニクロとか無印でいいじゃん…」と思っていたけど「そういう新しいものが大事なのかな…」と思うようにしましたがやはりただのエコビジネスですよね…
    環境問題はエコを冠した商品を作るのではなく、1つのものをどれだけ大切に使い続けることが当たり前の消費者意識とビジネススタイルに変わっていかないと根本的に解決しないと思ってます

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