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南充浩 オフィシャルブログ

「今の勝ちパターン」は「永遠の勝ちパターン」ではないということ

2021年3月16日 メディア 3

一つのシステムが成功しても、そのシステムは時代が進むと環境の変化によって、弊害化してしまう。

だから常に一定期間でシステムをメンテナンスせねばならない。しかし、口で言うのは容易いが、実際にやるとなるとどこをどのようにメンテナンスせねばならないかがわからない。それが人間というものである。もちろん自分も含めて。

例えばこの記事

苦境GEが金融撤退 「複合経営」終止符、製造業に専念: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

米ゼネラル・エレクトリック(GE)は10日、航空機リース事業を同業に売却し、金融子会社のGEキャピタルも解散すると発表した。中興の祖である故ジャック・ウェルチ氏が推し進めた金融から脱し、世界の企業が手本としたGE流の製造業と金融の複合経営は終わりを迎える。電力タービンや医療機器などの製造業に専念するが、かつての高収益に戻るビジネスモデルは見えない。

 

かつてGEを再興した金融業が近年は足を引っ張る形となっていた。その転換期はリーマンショックだったとこの記事は伝えている。

 

だが、08年のリーマン・ショック後の金融危機が住宅ローンや保険などの金融事業を直撃。高リスクの金融商品を多く手掛けていたGEキャピタルは巨額赤字を垂れ流し、経営は一気に傾いた。

 

とのことで、リーマンショック以降、世界的な経済の仕組みや市場、消費者の志向などが変化してしまったため、元には戻らなかったということである。

 

勝ちパターンは永遠に勝ちパターンではないということである。

 

これと同じことを国内の百貨店に対しても感じる。

一般的に「委託販売」と呼ばれる「派遣店員付き消化仕入れ」形態が百貨店の問題点の一つにもなっているが、かつてはこれが成功パターンだったことは考慮する必要がある。考慮した上で変えるのか変えなのか、変えるとすればどう変えるのかを議論しなくてはならない。

別に派遣店員付き消化仕入れが「根源的絶対悪」ではない。当時は百貨店もアパレルも儲かる最良のシステムだった。この最良のシステムで割を食った人もいただろうが、そんなものは何時の時代でもどの最良システムでも発生する。不利益者ゼロなんていうシステムはこの世には存在しない。

 

アパレルの大量退店が招く百貨店の「空洞化」 | 百貨店・量販店・総合スーパー | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

メディアお得意の「百貨店ヤバイ」記事だが、この記事は比較的マシだと思っている。

繊維・アパレル業界人からすると「衣料品はユニクロ・ジーユー、百貨店だけじゃないよ」という思いが強いのではないかと思うが、メディアが「マス層が興味を持っている」と考えるアパレル業界ニュースとは「ユニクロ、ジーユー、しまむら、無印良品、ワークマン、大手ファストファッション、百貨店、百貨店向け大手アパレル、ネット通販」にほぼ限定されているのが実情である。

実は先日、某大手出版社の編集者とメールのやりとりをしたが、これと同じ返事をいただいた。

そして、このメディアの観測は「ほぼ正しい」「あながち的外れではない」と感じている。

 

ニューズピックスという他人のふんどしで相撲を取るみたいなウェブメディアがあるが、ここでは有象無象の自称識者が居酒屋談義を繰り広げているが、アパレルに関するニュースでコメントが伸びるのが「ユニクロ、ジーユー、百貨店関係、ネット通販」である。ニューズピックス歴の長い知人に言わせると「H&Mですらコメントはほとんどもらえない」とのことなので、マス層の興味や知識はそういうことなのだろう。

逆に言うと、アパレル業界人が思うよりも、各ブランドへの興味や関心はマス層には薄い。個々のブランドの顧客以外、マス層はそんなセグメント化されたブランドの動向には興味も知識もないといえる。

 

それはさておき。

記事の中から興味深い部分を見て行こう。

 

婦人服売り場が2~3フロアを占めるような状況に対し、百貨店業界内では長らく、売り場面積の過剰感が指摘されてきた。にもかかわらず、衣料品がずっと稼ぎ頭だった成功体験から脱せずに、売り場の転換に時間がかかっている。

 

別の地方百貨店幹部は「過去20年間で衣料品の売り上げは半分近く減ったのに、売り場面積はあまり変わっていない。遅ればせながら、売り場のバランス変更を考えないといけない」と言う。

 

これも2005年くらいから多くの識者が指摘し続けてきた。だが変わらなかった。70年代から2005年くらいまではこのシステムが最良だったからだ。

ただ、リーマンショックを契機にこの問題には着手すべきだったと今でも思っている。たしか、このブログでもその頃にそんな内容を書いているはずである。

 

日本の百貨店では、売り上げたときに商品を仕入れ計上する「消化仕入れ(売り上げ仕入れ)」と呼ばれる独特の取引形態が主流だ。百貨店側は在庫リスクを負わず、多様な商品を店頭に並べられる。アパレルメーカーは在庫リスクを負いつつ店員の派遣など販売現場の主な業務を担うが、好立地の売り場を提供してもらえる。両者ではこのような「持ちつ持たれつ」の関係が続いてきた。

 

これもかつては最良システムだったが、今は逆回転を起こしている。

もちろん、すべての物事にはメリットとデメリットがある。今でも販売員付き消化仕入れのメリットは残っている。

どのメリットを捨てるのかという議論をすべきだろう。ただ、ハッキリと言えることは「今のままでは現状維持すらできない」ということである。

 

一方、この記事にはおかしな部分もある。

 

取引条件の変更を提案するなどして百貨店側は引き止めに躍起だが、そもそも消費者が服を買わない状況では焼け石に水だ。

 

服を買わないというのは分析としておかしいだろう。

統計では、国内アパレル小売市場規模はこのところずっと9兆2000億円前後で横ばいが続いている。となると「服を買わない」のではなく「百貨店で服を買わない」という方が正しいだろう。

百貨店で服を買わなくなった消費者はどこで買っているのか?

1,ファッションビル

2,郊外ショッピングセンター

3,アウトレット店

4,ネット通販

ではないかと考えられる。

メンズでいうなら、当方のような今年51歳になる初老でさえ、元々百貨店で服を買う習慣がそれほどなかった。90年代はファッションビルでバーゲン品を買っていた。

当時からすでに「百貨店はオッサン(オバハン)くさい服が多い、流行りの服はファッションビル」という状況だった。それでも何枚かは百貨店で買っていたが2005年くらいからほとんど買わなくなった。ファッションビルのみとなった。

2010年以降は百貨店で服を全く買っていない。ファッションビルでもほとんど買わなくなった。フリーランスになって生活に困窮したこともあるが、ユニクロ・ジーユー・無印良品・ライトオン・ジーンズメイト・アダストリアの値下げ品ばかりを買うようになった。

51歳でさえこの消費行動なのだから、それよりも下の年代は推して知るべしではないか。

 

知っている範囲では現在百貨店に対して識者から2つの提言がある。

1,旗艦店に集中すべし

2,遅まきながら販売員付き消化仕入れを廃止してPB開発を行うべし

である。

どちらが正しいかはわからない。実際にやってみれば様々な外的要因・内的要因が干渉する。またどちらかを選んでやってみればもう後戻りはできない。

社会の事象は全てそういうものである。どちらを選ぶのかは百貨店経営陣が決めるべきだろう。

くどい様だが、現状維持を続けても立ち行かないことは明白である。

また、どちらを選んでも、かつてのような百貨店の隆盛には戻らないだろう。

 

何事においても長所と短所は表裏一体だし、成功モデルこそが時代と環境の変化によって弊害化するし、その逆もある。

 

 

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 comment
  • 愛読者 より: 2021/03/16(火) 1:04 PM

    「遅まきながら販売員付き消化仕入れを廃止してPB開発を行うべし」と言う意見はまったく有効性はないと思います。何をどのように制作してどのように販売するのかは、その一つ一つに膨大なノウハウが必要であり、いわゆる素材と工場におけるスケールの問題を議論しないかぎり、中途半端なOEMシフト(丸投げとまでは言わないが)になるだけではないかと思います。ユニクロは一日にしてならずと思います。

  • BOCONON より: 2021/03/17(水) 4:11 PM

    僕もそう思います。
    PBはもう30年以上前からいろんな百貨店が試みてきたけれど,ほぼ全滅状態だ。そして30年前既に百貨店関係者も何かで「もう百貨店がファッションをリードする時代は終わったんでしょうね…」と言っていた記憶が僕にはある。最近も百貨店の某ショップの販売員氏と喋っていたら「もう百貨店で買い物する人は限られてますからね…」とアキラメ顔で言われた。要は「抜本的な改革ができるならもうとっくにやっているよ」という事ですね。
    5ch.等でもみんな洋服やおしゃれと言えばほとんどユニクロやGU,しまむら(まれに無印良品)の話しかしない。そのユニクロすら「最近高い」なんて言われている始末で。セレクトショップもほとんど名前も出て来ず,百貨店はなおさら。つまり世の中の大多数の人にとって洋服買うのに百貨店なんて最初から選択肢にない。昔のOLみたいに「百貨店では流行の服見るだけ。買うのは安いファッションビル」なんて事もあまりありそうもない。
    これはけだしいわゆる世界的規模で起きている「中流の崩壊」のせいであるから,今のところたぶん誰にもどうにもできない。僕なんぞが「5万円以下で良いスーツなんて無理」とか言ってもかえって嗤われるだけ。
    先日池袋東武に行ったら,紳士服売り場のフロアが埋まらなくなったらしくベッドや自転車並べて売っていて違和感が凄かった。池袋丸井ももうじき閉店するらしい。どうやら百貨店は当面上野丸井みたいに雑居ビル状態になって行くか,池袋西武や新宿高島屋みたいに「金持ちしか相手にしない」方向に行くしかないように見える。それもうまく行くかどうか・・・まあデパート好きとしては健闘を祈る,と言っておきましょう。

  • 元販売員 より: 2021/03/18(木) 7:34 PM

    これは公平な指摘だと思った。
    よく消化仕入れが諸悪の根源という主張を見るけど実態を踏まえていない。
    80年代に現役だった堤清二が日本は問屋が優秀なのでバイヤーが育たないし必要ない。
    海外のように買取するより消化仕入れの方が日本では効率が良い。
    西武は70年代バイヤー育成頑張っていたが、バイヤー育成を諦めた。
    と述べていて色々試行錯誤した上のカリスマワンマン社長の発言だったから説得力あった。

    自分は日本の所得が上がらないのが主因なのではないかと思う。
    海外に比べ日本はどんどん貧しくなっている。

    PBの開発は自分はアリだと思う。なにもユニクロ対抗である必要はない。
    ニッチな高価格帯だったりスキママーケットを狙って開発すれば良い。
    伊勢丹の旧オンリーアイやクローバー、ストロベリーはそういうコンセプトだった。
    現場の百貨店社員も一応4大卒なのでマスコミがどうこういう前に2010年代前半頃から
    数より売切、利益率重視に舵をきっていた。
    ただ社長が売り上げ重視になってしまうのでそれが浸透しないんだよねえ…。
    マスコミも散々煽るけど売り上げの数ばっかり報じるから社長もそれ意識せざるを得ないという。

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