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南充浩 オフィシャルブログ

パクリ問題に見る「洋服をデザインする」という言葉の解釈の違い

2021年1月7日 デザイナー 3

アパレル業界の良いところであり、悪いところであるのが参入障壁の低さである。(継続できるかどうかはまた別の問題)

ド素人の参入によって業界や売れ行きが活性化されている部分もある。

しかし、ド素人が増えれば増えるほど、パクリ問題が常に付きまとう。冷静に考えてみてもらえば理解できると思うが、毎シーズン何型もそれなりに売れるであろうという服のデザインを考えるのはド素人には無理である。

ビギナーズラックで、最初の1型か2型かは考えつくかもしれないが、毎シーズン平均的にそれを出し続けるというのはド素人にはほとんど不可能である。

アパレル事業というのは、1シーズンの1型だけで終了するものではなく、何年も継続することが目的である。特に勉強もせずに「デザイン」ができるのなら、世の中はもっとヒットブランドで溢れている。

 

パクリ問題でいうと、昨年12月19日報道のG&Rが有名だが、これはプロデューサーに超有名人を据えたためにかえって表面化しやすかっただけで、実際は無名ブランドでも横行している。単に報道されていないだけに過ぎない。

続・いつだって可笑しいほど誰もが誰かパクリパクられて生きるのさ

この回でも書いたが、アリババのパクリにせよ、どのブランドのパクリにせよ、色くらい変えるという工夫はできなかったのかと外野にいる身としては疑問で仕方がない。

こんな特徴のあるグリーンをそのまま使ったのでは、バレても仕方がない。例えばこれをベージュにするとか、ネイビーにするとかに変更するくらいの工夫は必要である。

そして、その工夫こそが「デザインをする」という作業の一端である。(パクリはよくないが)

この商品なんて、アリババなり他のネット通販で見た物をそのまま作っている(もしくは買い付けただけ)だけの話であり、これのどこに「デザインしました」(某ディレクター)と言い切れる要素があるのか。そう言い切れてしまう思考には驚くしかない。同じ日本語を使っているが、恐らくは地球人と火星人ほどの違いがあるだろう。

 

 

年末、東京で活躍している若い衆が帰省したのでお会いした。

若い割には地に足の着いたアパレルビジネス論を好む男なので、当方は評価している。その一方でWEBやらド素人ブランドの組み立てなんかも仕事として受けており、東京に集まるド素人の気分に関しての知見はいつも聞きごたえがある。

やはり、彼に持ち込まれるド素人案件もアレンジも施さないレベルの丸パクリが多いという。

で、試しに先ほどのG&Rに対する疑問をぶつけてみた。なぜ、色変更すらしなかったのか?と。

 

そうすると、彼はこう答えた。

「我々からするとデザインするというのは、パクるにせよどこかを変更しないとまずいという認識がありますが、ド素人さんたちは、『これがいいやん』『この服かわいいから、これを作りたい』という願望を口に出すことを『デザインする行為』だと思い込んでいるんですよね」

と。

これには、流石に驚くしかない。

業界ド素人アンケートを行って詳細な統計データを取ったわけではないが、彼の言う通りだとすると、「デザインする」という言葉の解釈が、それこそ地球人と火星人ほど違っていたというわけである。そりゃ、パクリ事件が跡を絶たないはずである。

たしかに昔から業界にパクリはよくあった。

 

それでも、ド素人たるタレントブランド、読モブランド、インフルエンサーブランドなどが参入する前は、各社は「パクリ」とわかりつつやっていた。

訴えられない程度にはアレンジするくらいの処置をするところは多かったし、まれに丸パクリもあったが、その時は「訴えられなければいいな」くらいの神頼みはあった。(笑)

 

2000年代半ば、当方は某大手展示会運営会社にいた。ルームスやIFFではない。リードでもない。(笑)

その時、定年間際の超ベテランの先輩が80年代ごろの昔話をしてくれたことがあった。

展示会出展社の商品をすぐに丸パクリして、パクリ元よりも2週間くらい早く店頭に出すということを繰り返していた悪質業者があったという。ちなみに2000年代半ばのこの時にはその悪質業者は倒産していた。

この悪質業者に対して警告を与えたそうだが、

「パクりましたよね?」と問い詰めると、悪質業者は「うん。パクった」とあっさり認めたそうである。

 

このエピソードを聞いて思わず笑ってしまった。この悪質業者のパクリ行為は到底許されるものではないが、パクっているということは自覚していたということである。

これはこれで、この業者の倫理観はどうなっていたのかと疑問を抱くしかないが、自分がパクっているかパクっていないかすらわからないまま、無自覚でブランドを展開・運営する今のド素人さんたちの方がよほど危険な存在ではないかと、個人的には思う。

 

そして問題はインフルエンサーなどのド素人さんだけではなく、一応この業界で何年間か経験を積んでいる人でも「自分の好みを表明すること」や「出来合いの物の中から選ぶこと」を「デザインすること」だと考えている人が少なくないという今の状況である。

G&R問題でも「企画担当者がサンプルをそのまま提出しました」というような意味合いの説明がなされていたが、この説明が事実だとすると、この企画担当者自体が「デザインする」という業務を理解していない可能性が極めて高いし、この運営会社の幹部の認識も同様である可能性が高いということになる。

 

繊維・アパレル業界の参入障壁をもう少し高くする取り組みが必要なのではないかと思うがどうだろうか。

 

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 comment
  • slave より: 2021/01/07(木) 1:33 PM

    企画としてアパレルで働いていますが、どの人間も上の人達はバブルでアパレルに飛び付いただけで専門的な知識(現場の生地などの知識は長けている事が多いです)がないのでこういった仕様やデザインにしようと思います。と意図や資料だけでは納得してくれません。実績とかに絡んでくるのは理解できますが、このようなものを作りたいと考えていますと他社製品の画像を見せないと理解してもらえないのです。従ってパクリの要素が入るのが必然となってきます。

  • BOCONON より: 2021/01/07(木) 10:15 PM

    アケオメコトヨロ。

    以前のコメントに冗談で「最近は洋服まで韓国風が流行って来ているから,韓国から洋服仕入れて売るビジネスやったら儲かるに違いない。早いもん勝ちだっ!」と書きましたが,そんな事は目端の利く人はとっくに始めているようで。
                  ↓
    https://www.danshihack.com/2019/10/01/junp/kurumi.html

    1月6日の記事にあった “パクリインフルエンサーブランド” というのは僕はちっとも知りませんでしたが,こりゃひでえや。パクリのみならず完全に韓国の商品を横流ししただけのものまでしれっと「私のブランド」なんて言っている。”デザイン” どころの話じゃないし,しかも最初の謝罪文では何だか薄ぼんやりと「私の気持ち」なんて書いていて,自分が何をやらかしたのか,何が問題なのかもよく分かっていない様子である。かてて加えてこんな事はこのインフルエンサーに限った話ではなく,大して珍しくもない話らしい。南さんのおっしゃる通り,本当にシロウトはヤバいですね。

    ・・・いや,シロウトに限らないな。
    音楽の世界でも昔から(先日亡くなった筒美京平の多くの曲を始め)パクリ疑惑はつきものではある。しかし,五輪ロゴの佐野研二郎に限らず,デザイナーやイラストレーター等ヴィジュアル方面の人たちは,疑惑も何も,全く臆面もなくヒネリもないパクリを当然のようにやってしまう体質があるようで,僕は昔から「なんでこれがOKなんだ?」と思う事しばしばであります。

  • gonwokim より: 2021/01/08(金) 6:09 PM

    大阪 アメリカ村三角公園のそばで
    裾上げをしてくれるおにいちゃんの店で作業を待っていると
    近所のカジュアル店のスタッフが100枚くらいのTシャツを持ち込んで
    「これ うちのタグです 1枚50円でお願いします」
    すると おにいちゃんはそもそもあったタグの上に
    預かったタグを縫い付けていきました
    「えっ!切らないの元々のやタグを」
    と聞くと そんなの気にしないよ この店に来る客はですって
    東大門あたりで買ったTシャツを自社製品として売るのでしょうかね
    この場合 パクリなのか?

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