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南充浩 オフィシャルブログ

矛盾する「小ロット生産」で「低価格」というブランド

2020年12月10日 企業研究 2

最強の矛と最強の盾がぶつかり合うとどうなるのか?というのが「矛盾」である。

聖闘士星矢の場合は、両方砕けるという結末になるのだが、流石は車田正美先生である。

韓非子が唱えた「矛盾」だが、2000年以上が経過した現在も至るところで目にする。人間は2000年経ってもほとんど進歩していない。

 

繊維・衣料品業界も「矛盾」が溢れている。

例えばこのニュースである。

 

ストライプのEC限定ブランド「スラー」がデビュー、サステナブルなプチプラファッションを提案 (fashionsnap.com)

 

各メディアで報じられているが、記事を読んだ限りにおいてはどのようにこれが成り立つのかさっぱりわからない。

 

ストライプインターナショナルから、EC限定の新ブランド「スラー(SLURR)」が来年2月にデビューする。ミレニアル世代をターゲットに設定し、シンプルでガーリーなトレンドアイテムをプチプライスで提供。「サステナブル」「プチプラトレンド」「支援活動」の3つのキーワードを軸に、ユーザー参加型のブランドを目指す。

 

とのことだが、普通のやり方ではこの3つのキーワードは同等には成り立たないはずである。

 

価格はアウターが5000円〜、トップスが1700円〜、ボトムスが3500円〜、ワンピースが4000円〜、雑貨が1300円〜。新作は毎週4〜5型を投入していく。

ブランドではサステナビリティを意識していることから、大量生産は行わずに必要な量だけを生産し、売り切れた場合にのみ追加で発注する。デビューシーズンは1型あたり100枚前後を生産するという。

 

とのことである。

ストライプがECの新ブランド プチプライスから社会支援に関心を | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

こちらの記事はもう少し製造や売上高について触れている。

 

初年度の売上高目標は3億円。

 

とのことであり、製造に関しては

 

これを機に、小ロット生産に対応する中国工場2カ所と新たに提携、今後も同様の工場を増やし、EC専業やDtoC(メーカー直販)ブランドの生産面を整えていく。

 

とのことである。

小ロット生産工場と提携しているから、過剰生産せずにサステナブルだということなのだろうが、個人的には首を傾げざるを得ない。この中国工場の人員や規模などがまったく報じられていないので、推測の部分も多くなってしまうが、小ロット生産で成り立つ工場というのは、基本的には規模はそれほど大きくないことが多い。少ない人員だから小ロット生産の方がしやすいという工場が多い。

少ない人員で運営している工場なので、こういう工場は基本的にトータルしてもたくさんの数量を作ることができないため、収益を上げるためには

1、高い工賃をもらう

2、多品種小ロットの生産を手掛ける

という形で成り立っている場合が多い。

 

売上高=買い上げ客数×客単価

 

という構図と同じである。

もう一度の「スラー」というブランドの商品価格を見てみよう。

価格はアウターが5000円〜、トップスが1700円〜、ボトムスが3500円〜、ワンピースが4000円〜、雑貨が1300円〜。新作は毎週4〜5型を投入していく。

とある。

この価格でいうなら、1枚当たりの縫製工賃は恐らく100円とか200円レベルだろう。高いアイテムでも500円くらいか。

 

通常のプチプラブランドはユニクロに代表されるように、工賃は安くても枚数が大量なので、工場としては成り立つわけである。極端な話として、1枚当たり100円の縫製工賃でも100万枚の生産ならそれだけで売上高は1億円になる。

だが、繰り返すが、この「スラー」というブランドは「1型あたり100枚前後を生産」としているため、縫製工場としては工賃は安いわ、生産数量は少ないわ、という非常に美味しくない案件でしかない。

「スラー」の生産をメインとして経営が成り立つ工場は、いくら中国といえども存在しないだろう。

 

もう一つの可能性としては、大ロット生産をメインとしている工場の隙間に「スラー」を差し込むというやり方が考えられる。

これならば、工場の経営は成り立つが、逆に大ロット向けの工場サイドからすると、こんなめんどくさくて安い案件を受ける理由は見当たらない。それを受け入れさせるには、スラー以外によほどの美味しい何かを提示する必要に迫られる。

そう考えると大ロット工場の隙間に差し込むというのはあまり現実的ではないが、もし仮にそうだとするとストライプインターナショナルは何か別の美味しい案件と抱き合わせているのではないかと考えられる。

 

小ロットで安い商品というのは、小規模工場に対してはまったくサステナブルでもないし、支援活動でもない。

一方の大ロット工場に対しても支援活動にはなり得ない。逆に大ロット工場にスラーというブランドが支援されているという構図となってしまう。

プチプラで小ロット生産、おまけにサステナブル・支援活動というのは、最強の矛と最強の盾がぶつかり合うようなもので、一報としては報道する必要はあるが、詳細を追求する必要があるのではないかと思う。

個人的には、疑問点しかなく手放しでは到底称賛する気にはなれない。

 

 

最強の拳と最強の盾を備えたドラゴンの聖闘士聖衣をどうぞ~

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 comment
  • ハマオ より: 2020/12/10(木) 11:25 AM

    ストライプは結局表面上社長は代わりましたが大株主である以上経営に関与しているんですかね
    あの方は
    ストライプは大風呂敷を広げるけど結局その後が全く成果が出てない事が多いですね。
    はやりのキーワードに敏感なだけで実務は全く伴っていないようですが

  • sakeparadise より: 2020/12/14(月) 11:32 PM

    持ち帰り弁当の元商品開発者のセミナーで、ちくわの穴を2,3ミリ大きくして年間億単位の材料費減になったと聴いたことがある。衣のおかげでちくわが薄くなったクレームは全くなかったらしい。スケールメリットとはこうゆうものだと20代ながら感心した。
    記事の様な夢物語はインフラが革命的に変わらないと実現不可能ではないか?
    アパレルの生産管理に約20年携わってきたが、進化したと感じたのはCADによる型紙製作の簡素化くらい。
    手でパターンを引き→青焼きして紙で出力→海外へ郵送
    が、CADで送信 グレーディング(サイズ別型紙)も簡単
    生産管理の仕事は終電後のパタンナーを営業車で自宅に送るというキャバ嬢送迎のようなことも任命されていた。実際はお泊り関係にもなってしまったが、それはさておき。
    CAD以外は画期的な進化は何も無かった生産現場だった気がする。とにかく人を介さないと進まないことが多すぎる。
    以前南さんが書いていたが、画期的な省人化を実現出来る機械開発をしないと、この業界は国内海外問わず衰退してしまうだろう。
    工業生産分野では繊維衣料業界は圧倒的に自動機械化が遅れている気がする。
    あと外注も含めた分業が細かすぎ。
    理想は同一敷地内で最低人員で一気通貫(生地・糸の染色から製品の仕上げ出荷まで)出来ることでしょう。
    弁当の内容とは真逆だが、1型ロッドが50枚でも1000枚でも同じ工賃で出来る仕組みを構築することが商売の継続として必要なのではないか?

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