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南充浩 オフィシャルブログ

プランニングが根本から間違っていた三陽商会の新ブランド「キャスト」

2020年10月8日 企業研究 2

「今まで誰もやったことがない」

という物事には、それ相応の「できない事情」があると考えた方が正しいだろう。

人間の中には超天才はほんの一握りしかおらず、あとは凡人かそれ以下である。もちろん当方も含めて。

今まで誰もやったことがない物事であっても、過去に何人もの人間がそれ自体を構想したことはあったと考えた方が正解に近いだろう。

それでも実際には実行できなかった、実行したが世に知られる前に終わった、というのはそれ相応の理由があるからである。

 

三陽商会の不採算事業はラブレスとキャスト 大江社長「収益事業化の目処がつかなければ躊躇なく撤退」

https://www.fashionsnap.com/article/2020-10-06/sanyo-loveless-cast/

極めて当たり前の方針である。

ラブレスは2019年にブランド誕生から15周年を迎えたが、店頭販売実績においては2019年4月から前年割れの状態が続いている。今期は実店舗数を15店舗から8店舗に削減する方針で、代官山店のほか、複合商業施設向けの「ラブレス サニーサイドフロア(LOVELESS Sunny Side Floor)」新宿フラッグス店などが閉店した。販管費は20億円から11億円に半減させることで、営業損失を11億円から2億円に改善する計画だ。

キャストは20代後半〜30代前半の女性をターゲットに2019年7月に立ち上がったばかりで、デビュー時はオンライン上で公開する映画作品から商品が購入できる日本初のシネマコマース型のマーケティング手法を導入し、話題を集めたが振るわず、今期は実店舗の体制を29店舗から10店舗と3分の1に縮小し、販管費は7.5億円から3億円に削減。6億円の赤字を計上した営業損益はブレイクイーブン(損益均衡)を目指す。

 

とある。

不採算のブランドを縮小するのはまったく当然だが、ラブレスとキャストではまったくその立場が異なる。

ラブレスはすでに2004年からスタートしていたブランドで、今年で16年目を迎える。お上品な三陽商会らしからぬテイストのブランドで、大きく売り上げ規模が拡大できるような見込みはないが、コアなファンを獲得しており、一時期は小粒ながら好調なブランドでもあった。

しかし、世の中は盛者必衰、諸行無常である。

最近の苦戦は、そんなラブレスの隆盛期は終わったということなのだろう。

これをどう回復させるか、そのまま廃止するかは経営陣次第ではないかと思うが、完全廃止は少しもったいない気もする。

 

一方のキャストだが、これは昨年夏に立ち上がったばかりのブランドである。

ハッキリと言ってしまうと、立ち上げたこと自体が失敗だったブランドである。

苦戦が続く三陽商会にあって、起爆剤としての新規ブランド導入というのは、完全に誤った方針だったとは思わない。

問題だったのは、ブランドの組み立て方である。

 

文中にもあるように、「デビュー時はオンライン上で公開する映画作品から商品が購入できる日本初のシネマコマース型のマーケティング手法」とあるが、普通に物を考えられる人はこんな手法で服を買いたいと思う人がそれほど多くはないことをすぐに理解できるのではないかと思う。

この手法が成り立つためには、

1、すでに有名な既存の映画とタイアップする

2、新作映画の場合は莫大な広告宣伝費を使って広く告知する(業界メディア、経済メディア程度では足りない)

この2つの場合だけだろうと思う。

1の場合だと、何でも構わないが、例えばゴッドファーザーだとか、ローマの休日だとか、ミッションインポッシブルだとか、そういう誰でもが知っている既存の映画とタイアップするわけである。

ゴッドファーザーの映画の中の誰それが着用していたスーツを完全再現する、みたいな手法である。

2の場合は、それこそハリウッド映画並みの広告宣伝費が必要になる。

 

だが、実際はそこそこに有名な女優は使っているが、告知は圧倒的に足りないし、出来上がった映画もたかだか30分程度である。これなら映画というよりインターネットドラマである。

しかも「映画」がコンセプトなのだから、それこそ月に一度とか、2カ月に一度とか、季節ごととか、定期的な新作公開が必要になるにもかかわらず、スタート当初から第二話の公開は「未定」というお粗末ぶりだった。

プランニングした人というのは、根本から考え方が間違っているのだが、たかだか30分のドラマでさえ、女優を3人も抑えるならギャラも含めて莫大な製作費がかかる。

恐らくは軽く1億円を越えたのではないかと想像されるが、赤字続きの三陽商会にこの出費はかなり痛かっただろうが、この愚策を承認した当時の経営陣も同罪である。

 

これまでオリジナルの新作映画(ドラマ)と連動した洋服のブランドというものは存在しなかった。存在したかもしれないがキャストと同様に離陸できずに終わった。

じゃあ、どうして存在できなかったかというと、それ相応の理由があったからで、今、当方が挙げたことがその理由の一つである。

ここを解決せずに「今まで誰もやったことがないから新しいだろ?」と言ったところで、経済的合理性がない取り組みは必ず失敗に終わる。キャストもその一つである。

ラブレスはそれなりに三陽商会に貢献した時期もあったが、キャストは三陽商会の傷口を広げてより重傷化させただけだった。

三陽商会の新経営陣は、キャストのような「天下の愚策」を二度と繰り返すべきではない。

 

 

そんな三陽商会の三陽山長の靴をAmazonでどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2020/10/08(木) 12:52 PM

    三陽商会の服は特にお金出してまで買おうとは思わないけど、三陽山長の革靴はちょっときになりますね。ま、高くて買えないですけどw
    三陽商会つぶれて三陽山長も無くなったら、ちょっと悲しい・・・。ま、どっちみち買えないけどw

  • BOCONON より: 2020/11/20(金) 9:11 PM

    「苦しまぎれ」というのの見本みたいな話ですなw 「誰か止める奴はいなかったのか」という・・・

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