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南充浩 オフィシャルブログ

20数年遅れで定価設定を見直したGAP

2020年8月27日 企業研究 1

先日、こんな記事を見かけて「今更?」と感じた。

「ギャップ」が今秋アジア向け新キャンペーンを開始 品質や価格、コミュニケーション手法を改定

コミュニケーション手法云々は個人的にはどうでもいい。あまり興味がない。そういうエモいこと(江本孟紀ではない)はやりたくないし、やられたくない。

それよりもこの記事で注目したのは

 

「良質な商品を、心地よい価格で、そして最善のサービスとともにお客さまにお届けすることを約束」するとして、質、価格、コミュニケーションといった点で新機軸を打ち出す。

 

とある。

持って回ったような文章でストレートには伝わってこない気がするが、要するに価格を下げるという話だと思った。

で、その後、GAPのオンラインストアを見ると、新商品から定価が本当に下がっていた。

メンズのジーンズがだいたい4990~5990円、メンズのシャツが2990~3990円くらいの定価になっていた。

これが本来のGAPというブランドの定価だと思う。

今までのGAPの定価設定が高すぎたということは何度もこのブログで書いた。定価はシーズンごとに変動するが、ジーンズがだいたい安くても7800円、高いと12800円くらいだった。

この定価をある程度、夏冬のバーゲンまで貫き通すならそれはそれで説得力があるが、GAPはそこまで我慢強くない。夏冬のバーゲン時期を待たずに値下げをする。

しかも大幅値下げをする。

 

5年くらい前までGAPで定期的に買っていた。理由はめちゃくちゃ安くなるからである。以前にも何度かこのブログで書いたが、ジーンズなんて最終的には1990円くらいにまで値下がりするし、スエットフルジップパーカだって定価7800円が1990円とか990円とかに値下がりする。

この値下がりを見ると、GAPの定価設定にまったく何の説得力もないと感じる。

GAPであまり買わない人ならその定価設定に引っかかるかもしれないが、GAPをよく利用する人は繰り返される大幅値下げを何度も見ているから、端からGAPの定価設定を信じない。

顧客が定価を信用していないから定価では売れずに在庫が増える。

在庫が増えるとそれを減らすために値下げをする。

しかし、少しくらいの値下げだと、底値に慣れてしまっている顧客の財布のヒモは緩まないから、値下げをした割には不良在庫は減らない。

不良在庫を減らすために、底値にまで値下げをする。

悪循環である。

 

GAPよりも低価格が売りだったオールドネイビーが日本から撤退したが、多くのアパレル有識者の指摘はちょっとズレていると感じた。

オールドネイビーの定価は確かに「GAPの定価」より安い。だが、GAPを定価で買う人なんていうのはよほどに珍しい人で、GAP顧客は底値、または底値近くでしか買わない。

そしてGAPの底値というのはオールドネイビーの定価よりも圧倒的に安い。

だったら、わざわざオールドネイビーを定価で買う必要などない。GAPの底値で買えばいいのである。

そしてGAPは大量生産することで製造原価率を下げる手法を使っているから、底値や底値近くになるまで売り切れる心配がない。安心して値下がりするまで待てばいい。

少なくとも定価の半額になるくらいまで待っても売り切れる可能性はほとんどない。

だからオールドネイビーは日本で思ったほどには売れなかったといえる。

 

GAPの日本市場での価格戦略のミスである。

記事には

 

進出して約10年となる中国や約25年の日本などのアジア市場において

 

とある。GAPが日本に上陸したのは90年代後半のことで、もう25年近くが経過している。

なぜ、25年弱もあんなアホな価格戦略を放置していたのか疑問でならない。上陸直後のことはよく覚えている。

業界の当時のオジサンたちはこぞって視察に出かけ、商品を試しに購入していた。

業界オジサンたちの商品に対する評価は

1、定価が品質の割に高すぎる

2、商品の品質はそれほど良くない

3、サイズ感が欧米人向けで大きすぎる

というものだった。

 

当方も90年代後半に値下げ品を試しに買ってみた。

業界のオジサンたちの評価と同様だった。たしか、黒無地のストレッチパンツを買った記憶があるのだが、一度洗濯するとねじれて丈が縮んだ。「いやいや、ビンテージジーンズとちゃうねんぞ!」と呆れ果ててそのねじれて丈が縮んだストレッチパンツは捨てた。

そこからしばらくGAPは買わなかったが、2000年ごろからまた底値品を買い始めた。このころには品質面はだいぶと改善されていた。洗濯でねじれて縮むようなことはなくなっていた。その辺りから底値品を定期的に買うようになった。

なぜ、20年以上もアホな価格戦略を放置したのか。

日本にはユニクロ、無印良品などの低価格品が90年代後半から躍進しているうえに、GAPよりも圧倒的に品質が上回っている。しかも定価設定はGAPよりも圧倒的に安い。

そういう競合がひしめき合う中で、どうしてあの価格戦略で勝ち抜けると思ったのか、まったく理解ができない。

 

尤も、GAPの最大の市場はカナダも含めた北米なので、北米が売れているから日本などどうでもいいということだったのかもしれない。

しかし、北米市場にも頭打ち感が出てくれば、当然、海外での売上高を伸ばさねばならなくなる。そのために20数年遅れで重い腰を上げたというところなのではないかと思う。

今回の新設定がGAPというブランドの本来の定価だと思うが、この取り組みは遅きに失したとしか感じられない。せめて15年前にやっておくべきではなかったか。

20数年遅れの価格戦略でGAPが日本市場で巻き返せる可能性は極めて低いと当方は見ているが、今後の成り行きを生暖かく見守りたいと思う。

 

 

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 comment
  • スズキマサトシ より: 2020/08/31(月) 1:07 PM

    ギャップが騒がれた時のリアルタイム年齢ではないのであくまで想像ですが、白人である自分たちへの憧れを利用し、取れるなら取っておこうという浅ましい価格設定でスタート。プロパー消化しなくても後に引けず、でも、激安設定でなんとか対処出来てきてしまったので、見直す機会も逸してきたんでしょうね。

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