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南充浩 オフィシャルブログ

D2Cブランドの販売手法は大手ブランドには導入しづらいという話

2020年5月21日 ネット通販 1

緊急事態宣言の解除が発表されてから、多くの商業施設が稼働し始めている。

とはいっても、5月度の売上高も各社とも惨憺たる有様だろう。何しろまともに実店舗が営業できなかったのだから。

4月度の売上高速報はすでに各社から発表されており、ここではくどくどとは繰り返さない。

4月も実店舗はほとんど営業できていないから各社とも厳しい数字が並ぶ。ただ、都心店に重心を置いている企業と地方ロードサイド路面店に比重をかけている企業では落ち込み具合が違う。

東京都や大阪府などの都心の方がコロナショックは大きいから都心でしかもインショップ型の出店をしていた企業はほとんど営業していた店舗がない状態にある。

例えば、

ユナイテッドアローズは、全242店中、4月8日から179店を休業、順次休業店は増え、「4月末時点の営業店舗はアウトレット1店舗のみ」(広報担当者)

という状態だったし、アダストリアは4月8日から国内約1240店中半数が休業、4月末時点では全店休業となっていた。

これではまともに売上高は稼げない。

一方で、このところ負け組と呼ばれていたしまむらは落ち込み幅が28%減ともっとも少なく済んだが、理由はロードサイド路面店が主力なので5月7日時点で、全1432店中で26店だけしか休業していなかったためである。消費者の購買意欲は高くはないだろうが、店舗を営業していれば、一日に何千円か何万円かは売れる。店舗を営業していなければ売上高はゼロである。

で、これらの結果は各メディアでまとめて報じられているが、これに対してSNS上では「ネット通販を含めていないのでは?」という声が少なからずあがっていたのだが、このブログでも何度か紹介しているようにネット通販売上高で実店舗営業停止を補填できる現状ではない。大手になればなるほど実店舗売上高の大きさは圧倒的である。

ユニクロのネット通販売上高は今期1000億円を突破する見通しだったが、国内ユニクロの売上高はこれを含めても8700億円ある。仮に実店舗がすべて閉まってしまえばネット通販だけでは国内ユニクロ事業は成立しない。

 

ちなみに、単独ブランドでネット通販売上高100億円を越えているのは現状ユニクロとジーユーしかない。オンワードやユナイテッドアローズも300億円くらいあるじゃないかと言われそうだが、あれらは展開している全ブランド合計の売上高である。どれか一つの単独ブランドの売上高ではない。

もちろん、今後、アパレルのネット通販売上高がさらに拡大する傾向にはあるだろうが、何百億円とか何千億円という規模のビッグブランドがネット通販だけで売上高を成り立たせるというのは今後も不可能ではないかと考えている。

 

とはいえ、近年流行りのD2Cブランド(笑)なんていうのもある。

ビジネスとして成功しているブランドもあるが、それらは一様に売り上げ規模は小さい。売り上げ規模が小さいということは生産数量・販売数量も少ないということである。

以前に「D2Cブランドの売上高は3億円未満がほとんど」という内容の記事をこのブログで紹介したことがあったが、それが現状である。

 

売上高3億円未満で赤字という国内D2Cのリアル

 

 

売上高の規模、すなわち生産数量と販売数量の違いを無視して、「D2Cが好調だからアパレルのネット通販はもっと大幅に拡大できる」という論調が世の中に溢れていて笑ってしまう。

 

ちょっと前置きが長くなってしまったが、それについてキチンと考察している記事を紹介する。

当方にとって数少ない友人の一人であるマサ佐藤氏のサイトに、深地雅也さんが寄稿された記事である。

下敷きにはナンタラベルガーの人の記事への疑問点があるが、なぜラーメン屋の親爺とコンサルタントはいつも腕組みをして写真撮影されるのか疑問で仕方がない。

 

D2C型のMDサイクルって何だ?

 

商品投入の仕方、つまりD2C型のMDサイクルに変える必要がある。これまでのように年間でシーズンを7~8に分けたサイクルで販売するだけではなく、いかに商品を連続的に出していくのかが大事になってくる。オンライン専門ブランドは毎日1商品投入することもあり、サンフランシスコ発のD2C型アパレルブランド「エバーレーン(EVERLANE)」は、ファストファッションではなくベーシックアパレルだが、週に3~5型の新商品を打ち出すことで、継続的にサイトに来てもらうようにしている。

 

ほかにも疑問満載のラーメン屋の親爺、もといナンタラベルガー氏の記事なのだが、今回はこの部分に焦点を当てている。

 

このやり方で展開して上手くやれているブランドは確かにありますが、日本の成功事例だといいところ年商で3000〜5000万円程度の事例がほとんど。既存アパレルに適用するのは難しいのでは?と思うのです。

 

とのことで、深く同意する。

 

深地さんは当方とは違ってこの手のウェブ通販のサイトの運営も手掛けているし、その手の知り合いも多い。そうした知見から導き出した結論は

 

Instagramのフォロワーが多い、所謂インフルエンサーのブランドで上手く運営できているところの事例についてご紹介します。まず商品の展開は1週間につき2〜3型程度。1型100点程度を仕入れておき、それを1週間で完売を目指す、という手法です。つまり1週間で200〜300点程度は売り切る、という事です。人気インフルエンサーになると一晩で完売するようですね。もちろんそれを実現する準備もしっかりしているようですが。

 

ということである。

ここからはその売り切るための方法がまとめられている。

逆にこのブログにはその手の方面には疎い読者も多いだろうから、抜粋して引用するので自社のネット通販の参考にしてもらいたい。

 

ではその200〜300点をどのように売り切るか?ですが、随分前から仕込みは始まっています。まず商品企画の段階でサンプルや工場見学している風景を逐一、ストーリーズで紹介します。とにかくその商品に対する思いやこだわり、熱量を定期的に配信。商品販売までに顧客の購買意欲をとにかく喚起するのです。ここでどれだけ盛り上げておけるかで売上に大きな差がでます。企画の段階でソーシャルの反応が見れるので、何が売れるかは予め予測がつきやすいのだとか。

商品の展開は先述した通り1週間に1度、大体金曜日の夜に販売がスタートされます。ここからはルーティンで、日曜日の夜にインスタライブ(大体、ユーザーが自宅に居るので)、翌週からストーリーズで翌週販売の商品紹介、完売したものに関しては完売報告、再入荷したらその報告をしていきます。こういったサイクルでユーザーとのコミュニケーションもルーティン化しておく事が重要です。ストーリーズやインスタライブを見逃した人には、ハイライトやIGTVで動画を残しておき、いつでも閲覧可能にしておきます。

(中略)

これだけしっかり準備しておく事で、販売した商品を1週間で売り切るのです。万が一、余った場合はもうその週以降は販売はしないようですね。それくらい売り切る事に重点を置いているのです。

 

とある。どうだろう?

こんなやり方で何百億円、何千億円の売上高が稼げると思うのだろうか?こんなめんどくさいチマチマしたやり方で大規模な売上高を稼ぐことは不可能である。

 

ご覧頂いておわかりでしょうが、売り切る事に重点を置いたこのスキームでは規模拡大は難しいです。完売しなければ既存ユーザーの飢餓感を煽る事もできませんから、開始◯時間で完売!という御触れ書きも出せません。

そう、これは需要に対して供給を抑えるからこそ可能な販売手法なのです。インフルエンサーが個人でやる分にはそれなりに収益は見込めますが、組織化した企業がやるようなスキームでは無いのです。

なので、このようなブランドでは配送もサンキューレターも全部、インフルエンサーが自分でやっています。また、それがファンからしても嬉しいようで、サンキューレターが届けば、ファンは喜んでストーリーズにアップ。UGCが発生するという仕組みですね。

 

というのが結論である。

 

今回のコロナショックでたしかにネット通販需要は増えた。というより実店舗が休業しているのだから服に限らずネット通販で買うしかない。しかし、洋服のネット通販での売れ行きはさほど伸びてはいない。出かけないから、人に会わないからということも大きな要因だが、それに加えて「試着してみないと似合っているかどうかわからない」という部分も大きいだろう。

当方もだいぶとネット通販で服を買うことに慣れたし、失敗することも減ってきたが、それでもまだたまにある。

届いて着用して鏡を見ると、思ったほど似合ってないということがある。サイズが小さくて着られないのではない。「似合っていない」「カッコ悪く見える」のである。

どこに服の価値観を置くかは人それぞれだが、当方は「似合っていない」「カッコ悪く見える」服というのは自分にとって所有する意味がないと思っている。

資料としての存在価値はもちろんあるが、利用価値はゼロだと思っている。

そういうリスクがあるから、服のネット通販はIT関係者が夢想するほどには伸びず、結局今回のコロナ需要は生活必需品や消耗品、食料品、ガンプラを含めた玩具、ゲーム、書籍などに流れたと考えるべきだろう。これらの商品は「似合っている」とか「カッコ悪く見える」とかは関係ないからだ。

 

 

そんなわけで、5月13日に発売されたユーラヴェンガンダムのプラモデルをAmazonでどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2020/05/21(木) 11:13 AM

    まだツイッターも無いような頃に、アメリカのeBayとか海外通販で仕入れたものをヤフオクで転売、って小遣い稼ぎしてたことがあって、多いときで週に20~30点発送してましたが、梱包して宛名かいて発送しましたメール送ってとやってると、相当大変でした(一応、サンキューカードみたいのも入れてましたw)
    ちゃんと仕事としてやるにしても、一人で週に200~300点とかの発送作業とか考えただけで嫌っすね。インフルエンサーの人気なんて、いつ無くなるかわからないし、普通にサラリーマンの方が楽じゃないでしょうかね?w

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