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南充浩 オフィシャルブログ

混迷する三陽商会

2020年4月17日 企業研究 2

気心の知れたフリーランス同士のコラボは上手く行く場合が多いが、一定人数以上の組織では強いリーダーシップを持った指導者か少人数の指導陣がいる方が上手く行く。企業も国も。

強い指導者がいなくなって組織が混迷する場合や、元から強い指導者がいなかったために組織が混迷していく場合は非常に多い。というか組織が弱るのはほとんどがこの場合である。特にアパレル業界では。

 

黒木亮著の「アパレル興亡」では東京スタイルをモデルとしたオリエント・レディ社の創業から解体までを編年体で記述している。

東京スタイルの某OBによると「この本にはトップクラスしか知り得なかったような内部情報も描かれているので、相当丹念に関係者を取材されたのではないか」という。

強いリーダーシップを発揮した創業者、半ば強引に創業者からバトンを奪い取った2代目社長だったが、この2人がいなくなると東京スタイルは急速に弱体化した。

3代目社長はダボハゼ式に買収を繰り返したが、ダボハゼ式の買収が企業を弱らせるのはライザップの例を見ても明らかである。

その結果、サンエーインターと合併し、合併後、すぐに3代目社長は解任されその後、東京スタイルは休眠会社となって実質無くなった。

豊富だった現預金もダボハゼ式の買収で減っており、残りもサンエーインターに合法的に奪い取られてしまい、まさに「金持ちの田舎者の親爺が綺麗なアバズレ女に騙されて全財産吸い取られた」(アパレル業界関係者談)という事態になった。

 

いろいろと弊害もあったが強いリーダーシップの2代目社長が逝去してから、急速に混迷を深めていった。

 

現在、これと似たように見えるのが三陽商会である。

今のところ強いリーダーシップを持った経営陣は見当たらず、勢力争いで混迷しているように見える上に、新しいビジネス的な施策はほとんど見えない。

 

その人となりは分からないが、元ゴールドウインの人を呼んできて副社長にし、その4カ月後にその副社長を社長にするという人事はちょっと混迷しているように見える。

とはいえ、バーバリーとの提携切れ以降の経営陣の施策と考え方が正しかったとも到底思えない。

 

ダイヤモンドという媒体は、ときどき企業内部にすごく踏み込んだ良記事を掲載する。

前体制のZOZOに関する記事も辛らつだったが、今回の三陽商会に関する記事もなかなかで他の媒体ではお目にかかれないから一読の価値はある。

 

三陽商会「大甘再生プラン」で内輪揉め、ガバナンス不全で大迷走の内情

https://diamond.jp/articles/-/234908

 

前経営体制にガバナンスがはっきりあったとは到底思えないが、今回の不可思議なトップ交代の背景についてはこれを読むと納得できる。

 

コロナという危機に対処しなければならない状況下で、三陽商会の内部では内輪揉めの様相を呈している。いったい何が起きているのか。

 

事の発端は2019年10月末。業績不振の責任を取って岩田功社長(当時)が辞職し、当時取締役兼常務執行役員だった中山氏を、次のリーダーが決まるまでのリリーフとして社長に据えたことがきっかけだという。

 中山氏を引き立てたのは岩田氏だ。17年1月、岩田氏が社長の座に就いたと同時に執行役員人事総務本部長になり、18年3月には取締役に昇格、19年10月には岩田氏の後釜になるという「異例のスピード出世」(幹部)の人材である。人事畑出身で、三陽の事業に関する実績に目立ったものはない。

 

そして1月30日の取締役会。再生委員会から「再生プラン」が提案された。ところが中山氏はその場で、「まだ足りないところがあるので引き取らせてほしい。2月の取締役会まで私が(社長を)やる」と言い出した。周囲が困惑する中、再生プランのかじ取りを中山氏がすることになる。

「当時、中山氏は新体制ではトップを継続しないという前提だった。保身が強い人なので自分が居残るためになんとかしたかったのだろう」と前出の幹部は振り返る。

 

とのことである。

正直この「保身」というのがよく理解できない。短期間とはいえ、社長を務めたわけだからそれなりの金額の退職金ももらえるだろうし、年金もそれなりの金額の支給は確定しているだろう。

一介のフリーランスの当方からすれば、それで十分ではないかと思う。社長という立場と企業を切り盛りすることに対して何らかの快楽を感じているのだろうが、自分一人だけの会社なら好きにしても構わないが、何百人という従業員を抱えている会社の運営は一歩間違えると、多くの従業員を路頭に迷わせることとなり、その責任は重い。

当方ならそんな重い責任はさっさと投げ捨てて、退職金と年金でガンダムのプラモデルでも作っていた方がよほど快楽である。

恵まれた人間と言うのはそれほど欲深いということだろうか。隴を得て蜀を望むというところか。

 

で、再建プランについてもダイヤモンドの分析は的確な部分が多い。

前体制のデジタルトランスフォーメーションが的確だったとは当方は全く思わないがそれ以外はダイヤの指摘の通りではないかと思う。

映画をコンセプトに掲げた新ブランド「キャスト」は明らかにコンセプト倒れで、映画がコンセプトなのに第1弾しか公開されず、第2弾は公開どころか恐らく製作さえされていないままに、コンセプトが変更になっている。

パーソナルオーダースーツの新ブランド「STORY & THE STUDY」も先行する各社に比べて価格は1万~1万5000円ほど高く、品質のほどはわからないが、新規客が購入するにはちょっとハードルが高い。時流に乗っかっただけにしか当方には見えない。

それは置いておいて、ダイヤモンドは今回の再建プランについて、

22年2月期(2年後)の売上高は550億円の計画だ。

その一方で、販売管理費については、22年2月期までに40億円減らすとした。最も大きな要因は約150の売り場撤退によるコスト減で、19億円をここで圧縮。さらに広告宣伝・販売促進費を8億円圧縮するという。

売上高と販管費の見通しだけでも、説得力に欠けた再生プランであることは明白だ。売り場が減り、販売促進費を大きく削れば、間違いなく服は売れなくなる。特別な売り上げ増につながりそうな施策は打ち出されておらず、これまで実現できていない「100億円以上の売り上げ増」を見込むのは、いくらなんでも無理がある。

 

販管費の圧縮云々はさておき、たしかに目新しい施策がなく、150店舗の閉鎖を打ち出していながら、2年後には100億円増収させるというのは、ちょっと考えただけでかなり難しいことがわかる。

1店舗当たりの売上高が平均で年間1億円だったとしても単純計算では150億円の減収になる。

またバブル期やアムラーブームのころのように黙っていても服が売れるような状況ならまだしも、コロナ終息後もそう簡単に売上高が伸びないことは想像に難くない。

150店舗閉鎖したのに100億円増収しようということは、残った各店舗が年間3000万円くらいは最低でも増収しないと厳しいだろう。そしてこの状況下で、各店舗でそれほどの増収ができるとは思えない。

ネット通販がという意見もあるだろうが、コロナで有効な手段がネット通販だと分かった時点で、各社はさらに強化するから、レッドオーシャンになってやすやすと増収させることはこれまで以上に厳しいだろう。

現在、三陽商会のネット売上高は84億円くらいだから、店舗で50億円増収を狙ったとしても、あと50億円くらいは2年間で増収させなくてはならないから、かなりハードルが高い。

 

このまま混迷が続けば、三陽商会という会社が何年か後には無くなってしまう可能性も少なくはないと見ているが、さてどうなることやら。

 

 

アパレル興亡をどうぞ~

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 comment
  • 細野 より: 2020/04/17(金) 8:57 PM

    同じSANYOだけに、三洋電機と同じ末路を辿らないように頑張るしか無いのかな。白物家電、半導体とアパレル産業ってかつては日本の主力産業だったけど、今は他の国にシェアを奪われてるところが似てますね。

  • BOCONON より: 2020/04/18(土) 6:07 PM

    どうやらマッキントッシュをどうするかなんてレヴェルの話じゃない御様子で。

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