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南充浩 オフィシャルブログ

現時点ではネット通販は実店舗の不調を弾き返せるほどの強力兵器ではない

2020年4月3日 ネット通販 3

新型コロナの流行に伴う休業や営業時間短縮によって、各社が売上高を確保するためには、EC、いわゆるネット通販の強化くらいしか手立てがない。

消費者側も外出は控えるので、買い物をする手段としてはネット通販が増えざるを得ない。

そのため、各社とも2月、3月はネット通販の業績だけは一部の例外を除けば好調・堅調であるといえる。

 

繊維・ファッション業界は各段階でそれぞれが分業で成立しており、それぞれの段階で深い知識差が存在する。

今までは、大きく見ると製造側とファッション側の知識差が目立っていたが、ネット通販の隆盛によって、製造側、ファッション側、WEB側とそれぞれに知識差があることが顕著となったように感じる。

WEB側はアパレルのことに対して理解がないし、アパレル側、とくにアパレルの年配幹部層はWEBやネットのことに関して理解がまったくない。

これも以前に書いたが、高度経済成長から2010年頃までの長い期間、アパレルビジネスというのは、ブームになった商品やブームになった売り方を漫然と真似れば、それなりに売上高が稼げてきたという歴史がある。

例えば、ビンテージジーンズがブームだということになると、各社そろってビンテージ風ジーンズを発売し、それがまたそれなりの売上高を稼いでくれた。(95年~98年ごろ)

2005年ごろなら「神戸エレガンスブーム」だろうか。クイーンズコート、クリアー、ディアプリンセスなどなど類似ブランドのオンパレードだった。

97年ならアムラーに象徴された厚底ブーツだろうか。

 

ビジネスモデルで言うと、SPAやクイックレスポンス(QR)なんかがその代表だろう。

もっと古い話でいうと、オーダーやセミオーダーから既製服へシフトしたなんていうのもそうだろう。

 

そのため、現在のアパレルの老経営者層はネット通販にも同様の感覚で臨んでいると、当方には感じられる。

 

ネット通販が流行っているから、当社もやれば漫然とやってたってン十億円くらいは簡単に稼げるだろう。

 

そんな風な考えを言葉の端々からにじませる老経営者も少なくはない。

 

今回は、ユナイテッドアローズの報道を例にとってこの考えが如何に甘いかを考えてみたい。

 

ユナイテッドアローズが新型コロナ直撃で3月の店頭売上激減、EC化率は3割超え

https://www.fashionsnap.com/article/2020-04-02/ua-2020march-ec/

 

ユナイテッドアローズの3月単体の店頭とECを含めた売上は、前年同月比74.7%と減少し、買上客数も86.2%と振るわなかった。

(中略)

店頭売上減少の対策として会員限定セールや送料無料サービスを行ったことが功を奏し、ECのみの売上は2月から好調を維持した。

店頭のみの売上は前年同月比61.2%だったのに対して、自社オンラインストアとゾゾタウン(ZOZOTOWN)での売上は123.8%に伸長。同社のEC化率は、2019年第3四半期時点で約20%だったところ、3月単月は32.6%と高水準を達成した。

 

とある。

数字だけ見れば、やはりECは伸びているからECをすべての苦境から救ってくれる「魔法の杖」のように感じる人がいてもおかしくはない。

 

しかし、順を追って考えてみれば、現時点でのEC(ネット通販)というものは、会社の業績をひっくり返すほどの規模ではないということが理解できるはずだ。

まず、コロナ禍がより鮮明となった3月はEC売上高が23・8%と大幅に増加し、EC化比率も32・6%まで高まっている。

ECが伸びたことは間違いないが、仮にもし、コロナ禍がなければここまで伸びたかどうかはわからない。個人的には伸びただろうが、伸び率はもう少し小さかったのではないかと思う。

EC売上高が23%増したのは、値引き販売の効果もさることながら、やはりコロナによる外出自粛や通勤自粛によるところが大きかったといえる。いわゆるネットを長時間使う人が増えたという効果で、実店舗で考えると通行客が増えたとかそういうことに近いといえる。

でネットの売上比率が高まったのは、実店舗の売上高が下がったからで、百分率の計算を行う際の分母が小さくなったからだといえる。

実際に店舗売上高は39%減している。実店舗売上高が約40%も下落して金額自体が小さくなったため、ECの売上比率は自動的に高まったと考えられる。そして、ネット通販の売上高自体も伸びているからなおさらである。

 

だから、老経営者が「アローズはネットが伸びているから、当社のネット通販も伸びて当然だ」とイージーに考えるのは危険きわまりない。

コロナ禍による割引販売はさておき、ユナイテッドアローズのネットへの注力、ユナイテッドアローズの知名度の高さ、ブランドステイタスの高さ、これらがなければこの業績には到達できない。

大阪・本町界隈にある古臭い卸売りアパレルが急にネット通販をやり始めたところで、ユナイテッドアローズと同じ結果にはならないということである。

余談だが、大阪・本町界隈の古臭い卸売りアパレルで一つ思い出したことがあるが、他社に先駆けて15年から20年前にコンピューターシステムで在庫を管理することを始めたのだが、その担当者が定年退職を迎えて去ってからは、システムがまったく更新されないままにもう2~3年が経過しているという。

ECガーとか、SNSガーとか、ネットリテラシーガーとか、言う前に多くの老舗アパレルというのはこれに近しい体質をいまだに温存しているというのが実態である。

 

そして、今回のユナイテッドアローズの報道で明らかになったのは、ネット通販はいくら好調でも実店舗販売を補完する規模でしかないということではないかと思う。

もちろん、ネット通販がなければユナイテッドアローズの業績はもっと悲惨なことになっていたが、現時点においては、ネット通販が大幅に売上高増になったとしても実店舗の不調まではカバーできないということである。

ネット通販が23%以上伸びても店頭とECを含めた売上は、前年同月比74.7%と減少していることを見れば理解できるだろう。

 

もちろん、ECが今後さらにシェアを伸ばす可能性は高いが、現時点においては、実店舗の不調を跳ね返せるほどの切り札ではないということは認識しておく必要があるといえる。

 

それを理解して、ネット通販に取り組める経営者が増えることを強く願っている。

 

 

そんなユナイテッドアローズの本をどうぞ~

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 comment
  • BOCONON より: 2020/04/03(金) 1:51 PM

    UAに限らず「セレオリはダサい」「コスパ悪い」というのがネット上でも定評になりつつあるようでありますね。「セレクトショップ ダサい」で検索するとわんさか出て来る有様で。
    ECに限らず「どうやらセレクトショップ自体が曲がり角に来ているのに,それに追随しようなんて考える事自体がもうね・・・(苦笑)」であります。

  • 小売り屋のオヤジ より: 2020/04/04(土) 6:16 PM

    小売り屋のオヤジです。
    ネット販売と関係のない話で恐縮ですが…3月は当方でも月単位として、過去(超)最悪の売上でしたが、実力を誰もが認められているアローズさんの実店舗が、3月売上6掛けには驚きました。だとしたら3月の百貨店の衣料品売上はとてつもない落ち込みが予想できますね…。
    4月になって、同業から「改善されたなんて話は全く聞きませんしね。このまま秋までズルズル落ち込んで行くなんて思っているのは私だけでしょうか?
    いずれ百貨店から服売り場が消えていくのではと心配しています。

  • BOCONON より: 2020/04/07(火) 8:13 PM

    “小売り屋のオヤジ” さんのコメントを見て感想を一言。

    今さらですが,最近世の中はやるものは広い意味での「貧困ビジネス」だけ,みたいな塩梅ですね。スマホのゲームとかネットカフェとか(牛丼屋とかも昔は女が入るようなものじゃなかった)。洋服も新しく始めて成功しそうなのは,南さんも言及しているワークマンくらい。あとは一般客は皆ユニクロ,GUレヴェルの店でしか買わない/買えない,と云った風で。
    既に7,8年前池袋西武の某ショップの中年販売員氏が「もう百貨店で買い物する人はごく限られてきてますから…」ともらしていたのがますます加速しているようであります。で,その後池袋西武はリニューアルして明らかに高級店化した=もう金持ちしか相手にしないって方向に舵を切った。少なくとも見た目はそう見えます。新宿高島屋などもそんな感じですね。
    これが成功すれば,百貨店はみんな追随するでしょうが・・・正直僕は「金持ちでも,ハイブランドの眼鏡やバッグ,腕時計を百貨店で買いやすまい」と思う。デパート好きとしてはどうもいやな感じがしています。

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