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南充浩 オフィシャルブログ

生地のクオリティが下がったのは原材料費の高騰が原因

2020年1月16日 考察 3

洋服の販売員さん「昔の服は捨てないほうが良い」その理由にわかりみの声多数「古着に真の価値がついてきた…」

https://togetter.com/li/1453823

 

というツイッターのまとめを先日見かけた。

 

この販売員さんが言っていることは事実で、洋服の製造に携わっている知人ははっきりと「2005年以前と比べるとそれ以降で洋服、特に生地のクオリティは下がった」と話している。

これに対するリプライもどれもある程度は事実だが、最も重要な視点が欠けている。

 

それは、天然素材の原材料費が2005年以降高騰を続けているため、店頭販売価格を抑えるためには、原材料費を抑えなくてはならないという事実である。

元から高くて大衆にはあまり普及していない絹は除いて、綿、ウール、ダウン、カシミヤ、レザーは軒並み値上がりしている。植物である綿はまだしも、動物由来であるウール、ダウン、カシミヤ、レザーは原材料費の高騰が今も続いている。

綿花も一度、2011年にはアメリカ南北戦争以来という史上最高値を記録したことがあり、動物に比べて植物は増産しやすいとはいえ、需給バランスが崩れたり、大規模な天候不順が起きると、やはり価格は維持されにくくなる。

最も価格が安定しているのは石油由来の合成繊維だろうが、最近喧しい「サスティナブルガー」とか「エシカルガー」に過剰にコダワリすぎると生産することも難しくなるだろう。

 

ではどうして、動物由来の天然素材が高騰を続けているかというと、2005年以降、中国やアセアン諸国を始めとする発展途上国が飛躍的な経済成長を続けてきた。平均収入が上がり、ファッション衣料への需要が増大したため、原材料費の価格が上がらざるを得なかった。

しかも動物は植物に比べて、そんなに劇的に繁殖させ、増産できるものではない。

需要が増えれば値崩れせずに価格が上がるというのは、市場原理そのままである。ウール、ダウン、カシミヤ、レザーなどの価格が上がることは何の不思議もない。

 

また海外の縫製工場も徐々に人件費が上がっており、とりわけ中国なんかが顕著だが、そうすると縫製工賃も上がらざるを得ないから、販売価格を維持するためにはそこのクオリティも下げざるを得ないということになる。

 

別に過剰に経済合理性を追求したわけでもないし、手を抜いて製造しているわけでもない。

 

2019秋冬の店頭を見ると、例えばウールのセーターやダウンジャケット類は減っている。正確にいうとセーターそのものやダウンジャケットっぽいアウターの展開量はそんなに変わっていないが、ウールを使用しているセーターやダウンを詰めているアウターは減ったということになる。

理由はさまざまあり、暖冬対策という側面もあるだろうが、最早、低価格どころか中級価格帯ですら、ウールやダウンという高騰し続ける原材料を使用することが難しくなってきたからである。

すでに2019年初頭、ちょうど1年前の時点で、いくつかのブランドメーカーは「今年の秋にダウンジャケットやウールセーターを値段据え置きで販売するのは難しい」と憂いていた。

 

ユニクロが2019秋から新製品「ハイブリッドダウン」を発売した。身頃にはダウンを詰め、袖はダウンではない合繊中綿を詰めているという商品だ。

オーソドックスなダウンジャケットのようなステッチが表面に走っていない分、モコモコ感がなく、着ぶくれせずに見えるという利点があり、それを狙ったデザイン商品という分析があり、それはその通りではないかと思うが、その一方で、ダウンの使用量を減らした施策ではないかとも考えられる。

両袖分のダウンを減らせば、ユニクロの生産量ならかなりのダウン使用料を減らせる。

しかし、圧倒的な資本で世界的に原材料を抑えているユニクロでさえ、この政策が必要なら、他の小資本ブランドがダウンやウールを使うのがどれほど難しいかが透けて見えるのではないかと思う。

 

また、原材料に関していえば、合成繊維は価格が上下動しにくい上に、製造技術は格段に進歩を続けているから、現在の方が10年前よりもコスパの高いものが多いといえる。

 

 

さらに、先ほどのツイッターまとめで誤解が多いと感じるのは、「高い服は長持ちする」という点で、いまだにこんなことを言っている人が多数いるのかと驚かされる。

正確にいうなら「高い服には長持ちするものある」である。

なぜなら、極細番手のウールを使ったスーツやドレスなんかは耐久性は例え昔の物であっても著しく低いからである。そもそも耐久性を求めて作られていない。

逆に太番手の糸を使った作業服やアウトドアウェアなんかは耐久性がある。それはもともと耐久性を求めて作られているからだ。

 

服にはそれぞれ用途やターゲットがあり、極細番手のウールを使った繊細な生地で作ったスーツやドレスは耐久性などを求めない超金持ちに向けて作られており、それらをいくつも所有して着まわすのが彼らの生活スタイルである。高かったからといってそれ1着を週に何度も着用するような貧乏人の生活スタイルは想定されていない。

また、昔の古着が耐久性が高いというのは、逆に見れば、耐久性の高い物だけが今に残っているからとも考えられる。耐久性の低い物はとっくの昔に使用不可能なほどに傷んで廃棄されているだろう。

 

あと、昔の服、特に百貨店ブランドと呼ばれる数万円クラスの服は、値段の割に使用素材や縫製仕様の質が高いが、服のデザイン自体は古臭くて、よほどの上級者でなければコーディネイトに取り入れるのは難しいだろうと思う。丈を詰める程度のお直しならやるべきだと思うが、シルエットやデザインを変更するお直しは丁半博打みたいなところがあるのでお勧めはしにくい。

まあ、生地の風合を楽しむために残すというマニアックな用途ならありかもしれない。

 

今を否定しすぎても、昔を礼賛しすぎても何の益もないと当方は思うのだが。

 

 

アンティークつながりでこんな漫画をどうぞ~

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 comment
  • masatoshi suzuki より: 2020/01/16(木) 1:07 PM

    昔の映画のほうがおもしろい、という人がたまにいますが、同じことですねw

  • kde より: 2020/01/17(金) 12:20 PM

    super100系=高品質(もれなく高耐久性、高堅牢度も着いてくると解釈)というイメージに踊らされてる人達を見ると、同じような感覚になります。

  • 読者 より: 2020/02/25(火) 1:38 PM

    このリプには流石に呆れました…何十年も擦り切れない服って(笑)
    「母が40年前に買った服、私が着るようになってからも既に20年近くたち、結構な頻度で着て洗濯機で洗ってるけど、ボタン1つ取れない、どこもほつれない、袖口も襟も擦り切れ無縁でまだまだ着れそう。この服何なの?て思うレベル。笑」

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