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南充浩 オフィシャルブログ

シャッター商店街は実はそんなに困っていない

2016年10月13日 考察 0

最近はほとんど行かなくなったが天神橋筋商店街には洋服の在庫処分屋が多数出店しており、格安の洋服・靴が手に入る。
相場でいうと靴が1000円、Tシャツ類は500円か600円、くらいである。
昨今はアパレル不振なので、商売のタネになる在庫品の仕入れには困らない。
むしろ、引き取っても引き取っても在庫が次から次へと生まれてくるくらいである。

それはさておき。

そういう洋服の在庫処分屋を通常、業界ではバッタ屋と呼びならわしているが、この商店街の処分屋には2つの形態がある。
1つは常設店、もう1つは期間限定店である。

常設店はその店舗を月額いくらかで借り受け、何年間かそこで販売し続ける。
期間限定店は、日額いくらかで借り受け、1週間~2,3カ月くらいの期間限定で販売する。

天神橋筋商店街でもシャッターが下ろされて閉店しっぱなしの店もあるが、それは少数派だし、そういう店が期間限定店に場所貸しをし始めることもある。
だから、各地の商店街がシャッター通り化していても、天神橋筋商店街はそれなりに活気があってにぎやかではある。

この催事場として店舗を貸し出すという方式がにぎわいにいくらか寄与しているといえる。

一方、同じ大阪市内にも閉店した店舗ばかりがならぶシャッター通り商店街も多数あり、珍しい物ではない。

シャッター通り商店街の店舗は営業していないなら、売却するか、もしくは催事場として貸し出せば良いと思うのだが、そうしないのは理由がある。

「シャッター商店街」は本当に困っているのか
国交省の「空き家バンク」で空き家は減らない
http://toyokeizai.net/articles/-/139294

ここでその理由が説明されている。

問題の根幹は、空き家と言われる不動産の所有者たちが「別に貸さなくても当座は大して困っていない」という状況にこそあるのです。

他人に貸したり、売ったりしなければ、家計や事業が破綻するような切羽詰まった状況にあれば、必死になって営業してどうにか借り手や買い手を探します。つまり、そこまでに至らない空き家が問題の中心になっているのです。

シャッター商店街の不動産オーナーが明日の生活にも困っているかと言われれば、そんなことはない、むしろ豊かであることが多くあります。
シャッター商店街の不動産オーナーは、多くがもとから商売をやっていて、特に戦後の高度成長期、大儲けした時代がありました。その時代には小さな土地の値段もうなぎ登り。その土地を担保に銀行からおカネを引き出して小さな店をビルに変え、さらに周辺のアパート・マンション等にも投資。このようにして一財を成した人が少なくありません。

たとえ今の商売が大して儲からなくなっても、息子たちも立派に東京などで自立しているし、過去の蓄財と不動産収入などで「死ぬまで生活するカネには困らない」、といった人々が、シャッター商店街のオーナーたちだったりします。
商売が行き詰まって、不動産収入も乏しく余裕がなくなってしまった人は、土地・建物・自宅・車などなど一切合切もって行かれ、現在のシャッター商店街の所有者ではないのです。本当に困っている人は、シャッターを閉めて不動産を放置しておくことなどはできないのです。
例えば、大手の新聞の1面に「シャッター商店街」が深刻な話として描かれていても、実際にその商店街の理事長さんとお会いしたら「不動産オーナーたちも別に収入があり、組合も駐車場経営がうまくいっているから全く困っていない」と誇らしくお話頂いたりしたこともありました。

とある。

要するにシャッター通り商店街の店舗所有者はそこそこの蓄えや不労所得があるから、経済的にあまり困っていないということである。
マンションや駐車場を所有しており、そこからあがる家賃や駐車料金で十分に生活が賄えるということである。

逆に、売れもしない販売店を営業するよりも不動産収入だけで生活している方が利益率が高いかもしれない。

店舗を営業しようとすれば、商品を仕入れるないし製造しなくてはならない。
商品を仕入れる場合は、今は誰も守らなくなったとはいえ、業界平均は値入率は60%とされている。
今は50%とか45%が横行している。

製造する場合なら、衣料品の原価率は平均で30%だ。

仮に毎月200万円の売上高を店舗で稼ごうとするなら、仕入れている場合は少なくとも月額120万円の仕入れ金額が必要となる。
製造した場合は、60万円が必要だ。

これで、もし売れゆきが悪ければ、儲けは減るし、下手をすると赤字になる。

一方、不動産収入だけで生活をするなら、毎月30万円か40万円かもしれないが、それはまるまる収入になる。

じゃあ、店舗を閉めたままで、不動産収入のみで生活したほうがリスクが少ないということになる。

ちなみに天神橋筋商店街の店舗を借りる場合は、知っている範囲でいうなら、催事用の賃貸料は1日3万円くらいである。違う料金設定の店もあるかもしれないが。

これだと30日借りると90万円ということになるが、その場合はおそらく何万円か割り引いての契約になるのではないかと考えられる。
年単位で契約するならさらに割引があるのではないかとも考えられる。

もし、催事場として貸したとしても収入としてはけっこう大きい。
年単位・月単位契約では割引があったとしても十分に一家が食えるくらいの収入にはなる。
しかも物販をやっていたころのような仕入れ値や製造料などのコストはゼロである。

現在、催事場としてレンタルしている店舗は所有者がもともとのままなのか、それとも売却された後で、所有者が変わっているのかはわからない。もしかしたら両方の場合があるかもしれない。

さて、これと同じことが地方の産地企業にもいえる。

地方の産地企業の中には近隣に土地を所有しており、マンションや駐車場経営をしているところは珍しくない。中にはショッピングセンターやチェーン店に店舗用として土地を貸し出して、年間何千万円もの収入を得ているところもある。
資金繰りに窮した産地企業は倒産しているが、そうでない産地企業はそれなりに余裕があると見ることもできる。

それはさておき。

商店街のことを論ずると「地域社会に商店街は不可欠だ」という論拠不明な情緒間丸出しの意見が出てくることもあるが、不可欠ならなぜ衰退するのか?
少々価格が高いとか品ぞろえが少ないとかそういうデメリットの要素があっても、不可欠なら衰退はしないだろう。
大型食品スーパーに比べて食料品の割引がなくてもコンビニは衰退していないではないか。
コンビニは決して安くもなく、小型店であるため品ぞろえが豊富なわけでもない。それでも衰退していないではないか。
またシャッター通り商店街の中で一人気を吐く店もある。こういう店はガッチリと固定客をつかんでおり、不可欠な存在といえる。

コンビニや一人気を吐く店は不可欠な存在といえる。
不可欠ならば少々値段が高かろうが、品ぞろえが少なかろうが、周りが閉店していようが支持され続ける。しかし、早々に営業停止に追い込まれる店というのは不可欠な存在ではない。不可欠ではないから営業を中止せざるを得ない状態に追い込まれてしまうのである。そういう不可欠ではない店の集合体が現在のシャッター通り商店街であり、シャッター通り商店街は地域にとっては不要の存在ということである。

何の根拠もない情緒論丸出しの商店街擁護論こそ聞くに値しない。

商店街だろうが百貨店だろうがアパレルだろうが伝統工芸だろうが、消費者ニーズがなくなれば衰退して滅ぶのが当たり前である。
ビデオデッキの生産だって需要が極小化したから生産を終了している。
今どきポケベルなんて生産しているメーカーはない。

そういうものである。

商店街再生に取り組むのはかまわないが、それは根拠なき情緒的擁護論を下敷きにするのではなく、科学的・効率的・現実的立場に立脚して進めるべきで、そうでなければ補助金・助成金・組合費の類をドブに捨てるのと同じ結果に終わる。

地方創生大全
木下 斉
東洋経済新報社
2016-10-07




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