MENU

南充浩 オフィシャルブログ

ワコールの自動車業界への参入はあまり意外ではないという話

2026年7月9日 企業研究 0

先日、ワコールが自動車用の資材へ進出するという報道があった。

個人的には悪くない判断だと評価している。ただ、確実に大成功するとは保証できないし、世の中に「絶対」ということは存在しない。

当方はあまり「意外」という感想はなかった。むしろ、繊維業界では自動車向け資材というのは、主要販路の一つだったからだ。

だが、世間一般的には「意外」という受け止めかたが主流なのではないかと思う。

それを象徴するのが、この記事といえる。

 

女性用下着のワコールが、なぜ「自動車業界」へ? “綿菓子のように立体を作る技術”が車内に:アセットの「再定義」(1/4 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン

 

 

まあ、結構な長文記事である。

しかし、この「意外」という感想こそが世間一般のマス層の反応だろうということは当方ですら理解はできる。

内容はまあまあ詳細にまとめられている。

ワコールが参入するのはアームレストなどの立体成型にかかわる部分だという。ブラジャーの立体的なカップを成型する技術の応用だそうで、これはなるほど理にかなっている。

もう一つ、ワコール独自の強みがある。それはワコールには人間科学研究所という施設があり、そこでこれまで数多くの人体測定のデータを蓄積してきている点である。この人体測定データを活かせるのは大きい。

ただ、その蓄積されたデータは女性の比率が極端に高く、男性の比率は少ないと考えられるため、その部分での調整や新たな活動は必要となるのではないかと推測される。

 

 

 

世間一般的にはかなり意外に受け取られたというのはその通りだろうと思う。

しかし、先述したように自動車向けの資材というのは、これまでから繊維業界にとっては主要販路の一つだった。世間にはこれがあまり知られていない。

まあ、積極的に発信する内容でもないから仕方がない。

少なくとも、当方が駆け出しの業界紙記者である20数年前から、生地メーカーや生地産地では主要な販路の一つが自動車業界だった。ついでにいうと、機械メーカーというのも主要販路の一つである。

20数年前の時点で、衣料品製造、平たく言うと縫製はかなりの比率が海外へ移転してしまっていた。当時は中国への移転が圧倒的である。

また、この頃になると衣料品そのものの売れ行きも概して鈍り始めてきた。

そうすると、国内の生地メーカーや国内の生地産地からすると、衣料品向けの生地需要が細り、事業を支えられなくなる。

そのため、衣料品向けの生地出荷の落ち込みを補填する形で、自動車向け・機械向けの産業資材として生地を出荷するようになる。

 

 

 

産業資材向け生地の売価は概して衣料品よりも安い。しかし、その一方で大量生産が期待できる。一度採用が決まってしまえば、よほどの事態が起きない限り複数年の契約が見込める。

自社工場内の生産スペースを埋めるためにも、機械設備を動かし続けるためにも自動車向け資材・機械向け資材というのはありがたい販路になったわけである。

自動車のシートの表面に貼られている生地、シートベルト用の生地そういうのが主な使用先である。機械向けだと、コピー機の排紙口付近の謎のピラピラなどが使用先となっている。

以前も書いたが、スマホ組み立て工場向けに研磨用の起毛素材を販売していた生地工場もあった。今もその販路で販売しているのかどうかはわからないが、15年前はその生地工場の主要販路の一つだった。バスや電車、新幹線、飛行機のシート生地を製造販売している生地工場もある。

 

 

 

そのように見てくると、販売する物は異なるが、ワコールが自動車向けの資材に進出するというのは、繊維業界としては昔からある政策で何の意外性も無い。むしろ、やっとそこに目を向けたかという感想すら抱いてしまう。

ワコールの本業たる女性向け肌着、特に立体成型を活かしたブラジャーは現在の市場では需要が増えにくい。またユニクロを筆頭とする新興勢力がシェアを大きく奪ってしまっていて、かつてほどの占有率を高めることは事実上難しくなっている。

CWXでスポーツ分野に進出したが、長期間かかっている割には売り上げ規模は伸びていない。スポーツウェアにはナイキ、アディダス、アシックス、ミズノ、デサント、アンダーアーマーなど強力な大手競合が犇めいているからシェアを伸ばすことはそう簡単ではない。

そのように考えてみると、自動車業界への進出というのは正しい選択の一つだったといえる。さらに、先述したように繊維業界にとって自動車産業というのは以前から主要販路の一つだったから、なおさら当然の選択だといえる。

 

 

始まったばかりの現時点では上手く行く可能性は決して低くないと考えられる。

自動車向け資材がワコールの新たな収益の柱になることを願わずにはいられない。

 

 

・お知らせや仕事の依頼がありましたら、Gメールまでお願いします。
minamimitsuhiro0423@gmail.com

 

 

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ