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南充浩 オフィシャルブログ

低価格オーダースーツの需要がそれほど大きくないと考えられる理由

2026年6月16日 企業研究 0

しつこくて申し訳ないが、メンズスーツ業界における「低価格オーダースーツ」という1分野について、注目され始めてからかれこれ10年くらいが経過しようとしている。

記憶では2010年代に新規参入が相次ぎ、メディアが過剰に注目した。その過剰さは今も継続されていると感じるのだが、10年前後が経過したのだから、持ち上げた各メディアは総括する必要があるのではないだろうか。

何度も書いているように、最大人口の団塊世代が完全リタイアし、次ぐ最大人口の団塊ジュニア世代のリタイアも10年後から始まる。仕事着・フォーマル着としての着用率が高いメンズスーツは、総需要人口が大きく減ることは確定している。

その穴埋め策として、大手から中小企業は様々な施策を模索した。その一つが低価格オーダースーツだった。

だが、低価格オーダースーツは補完施策の一つであることは間違いないが、決定的最適解ではないといえる。

 

 

決定的最適解ではないと考えられる理由の1つとして、業界最大手であるAOKIが低価格オーダースーツにほとんど力を入れていないからである。

それほどに有効であるなら、小賢しく目端の利くAOKIなら必ず大々的に取り組んでいただろう。しかし、AOKIは低価格オーダースーツにはほとんど対応せず、

1、オリヒカを中心としたカジュアルアイテム、ビジカジアイテムの強化

2、大手4社ともに取り組んだレディースビジネススタイルの再強化

3、パジャマスーツ、アクティブワークスーツのいち早い導入

という具合である。飲食やエンタメなどの異業種事業の大幅拡充については今回は省略させていただく。これらのほか、一般医療機器のリカバリーウェアの導入も早期だったものの、現在ではあまり言及されていないことから、AOKIとしては期待外れが続いているのではないかと推測される。

 

 

AOKIの2026年3月期連結決算は

売上高 1945億3200万円(対前期比1・0%増)

営業利益 169億4700万円(同8・3%増)

経常利益 163億7000万円 (同10・7%増)

当期利益 94億6100万円 (同1・2%減)

と当期利益の減益を除くと好決算だった。

売上高のうち、約半分くらいが異業種事業が稼いでおり、アパレル事業の売上高は1028億94百万円(前年同期比0.3%増)、営業利益は85億8百万円(前年同期比2.1%減)となっている。

 

メンズもレディースもすべて合わせた売上高で項目ごとの詳細は不明だが、低価格オーダースーツがほぼ無い状態で前期比0・3%減にとどまっているというところにはもっと注目すべきではないだろうか。

低価格オーダースーツは補完施策の一つとしては有効だと考えられるが、必要不可欠な施策ではないという証拠である。低価格オーダースーツが無くても他の施策で前期比微減に押しとどめることは不可能ではないということになる。

 

 

 

 

一方、大手4社(青山、AOKI、コナカ、はるやま)の中で低価格オーダースーツに最も早期に熱心に取り組んだのがコナカである。

オーダー店「ディファレンス」の出店は早期に開始されたし、店舗数も年々増やしてきた。

直近の25年9月期連結決算は

売上高 554億8700万円(対前期比12・1%減)

営業損失 7億6600万円

経常損失 3億4500万円

当期利益 4億7800万円

と減収赤字である。

ちなみに2024年9月期も赤字決算で、赤字額は25年9月期よりも大きい。このうち、主力であるファッション事業の売上高は523億10百万円(前年同期比13.1%減)と発表されている。残り30億円ほどが異業種である。

 

 

コナカの主力事業は

・従来店「コナカ」「フタタ」

・元ツープライス店「スーツセレクト」

・低価格オーダー店「ディファレンス」

・レディースバッグ・アパレル「サマンサタバサ」事業

と大きく4つがある。

各項目の詳細は不明だから、推測するほかないが、ディファレンスの積極拡大にもかかわらず、アパレル事業そのものは13・1%減と大幅減収に陥っており、低価格オーダースーツ拡大の効果は見えない。

もっとも、項目ごとの詳細は非公開なので、ディファレンスだけが好調ないし順調で、残り3つが壊滅的に悪いという可能性も考え得る。

ただ、低価格オーダースーツという業態は、コナカの550億円という売り上げ規模を丸ごと支えられるほどの大きな需要があるとはいえないことだけは確実だろう。

 

 

一方、近年成長が著しいとメディアから評価されている中小規模の低価格オーダースーツ企業だが、大手4社とは比べ物にならないほど売上高は小さい。

近年注目度が高まっているSADAだが、24年7月期に過去最高の売上高42億6000万円を記録している。

オーダースーツSADA、コロナ禍乗り越え過去最高売上 なぜ危機に強い?:日経クロストレンド

2025年7月期の報道が無いので、伸びているのか減っているのかはわからないが、伸びていたとしても50億円内外だろう。

最大で見積もってもコナカのアパレル事業の10分の1の売上高、AOKIアパレル事業の20分の1の売上高しかない。

 

 

また、低価格オーダースーツ店では最大手と目されているグローバルスタイルだが、

2025年7月期非連結決算では

売上高 114億6000万円(対前期比2・6%増)

営業利益 8億100万円(同27・3%増)

経常利益 8億2100万円(同25・0%増)

当期利益 5億300万円(13・4%増)

と増収大幅増益ではあるものの、120億円にも届いていない。

2026年7月期では125億8800万円の売上高を計画しているが、第3四半期までの推移を見ていると、ほぼ達成可能だろうと思われ、ようやく120億円の壁を突破できそうである。

好調であることは異論はないが、それでも120億円規模でしかない。

 

他にもエフワン、銀座山形屋などが企業名としては挙げられるが、いずれも10億~40億円程度の売上高しかないと推測されるし、一時期は持て囃されたファブリックトーキョーは決算公告すら発表されなくなっている。カシヤマが店舗数を拡大し続けているがこちらも売上高の発表が無いが、恐らく最大でも100億円台前半ではないかと推測している。

 

 

 

 

このように見てみると、低価格オーダースーツというのは、どちらかというと中小零細企業に向いた業態であり、大手4社には不向きな業態だといえるだろう。

その理由としてはこれまで何度も書いているように、マス層にとってオーダースーツへのあこがれはあるものの、日々の仕事やプライベートで着用しやすいかというとそうではない。それよりマス層にとっては、AOKIのパジャマスーツ、アクティブワークスーツ、青山商事の「みんなのスーツ」に代表される低価格カジュアルセットアップ・低価格高機能合繊セットアップの方が利便性と実用性が高い商材だと評価されているのではないだろうか。

このまま、個人の可処分所得が伸びず、オフィスのカジュアル化が進み続ければ、マス層の低価格カジュアルセットアップ比率はますます高まるだろうと思われる。

一方、マス層では大勢を占められないからこそ、低価格オーダースーツは中小零細企業に向いた商材にますますなって行くと考えられる。

 

今後のメンズスーツ市場はマス層が支持する低価格カジュアルセットアップが柱となって、中小零細企業が展開する低価格オーダースーツはニッチ層に支持される商材として存続するのではないかと考えている。

 

 

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