メンズスーツ大手各社の決算が踏みとどまれている4つの理由
2026年6月12日 企業研究 0
普段接するのが繊維・アパレル業界人かメディア関連が多いので、世間一般的ではないが、それでも15年前と比べるとそんな業界でもより一層カジュアル化が進んでいると感じる。
元来服装規定のゆるい業界ではあるが、2010年以降、さらに緩くなっている。
逆に従来型のスーツを着ている人はよほどの信念があるか、服装規定が固い会社なのだろうと思う。
そんな状況下で、スーツ大手各社の決算が先ごろ発表されたがよく頑張っている方だと思う。
当方のような還暦間近で大した仕事も無い人間は冠婚葬祭(主に葬式、この年齢になると葬式以外のセレモニーが無い)以外にスーツを着る機会はほとんどない。
以前ならスーツで出席していたような式典でさえ、最近の風潮ならジャケスラ(ジャケットとパンツが別の生地)とか、アクティブワークスーツのような合繊セットアップで通用してしまう。
そういう背景があって、帝国データバンクから先日、こんな業界レポートが発表された。
「主要スーツ・紳士服7社」動向調査(2025年度決算)|株式会社 帝国データバンク[TDB]
2025年度の主要紳士服7社のスーツ事業売上高は3386億円と、2年連続で前年度から減少した。店舗数は2025年度末時点で2284店舗、営業利益は130億円となった。他方で、重要な商談やプロポーズ、結婚式など「勝負スーツ」需要の高まりや、手ごろな価格の「パターンオーダー」等の普及も背景に、オーダースーツが新たな成長エンジンとなっている。
スーツなどの販売を行う主な紳士服7社の決算が概ね出揃った。2025年度(2025年4月~26年3月期)における主要7社の「スーツ事業」セグメント売上高合計は3386億円(前年度比5.2%減)と、2年連続で前年度から減少した。リモートワークの定着など働き方が多様化したことで、従来の既成ビジネススーツやドレスシャツの売れ行きが鈍く、市場全体は伸び悩みが続く。他方で、重要なプレゼンや結婚式などのフォーマルな場面で着用する「勝負スーツ」向けのオーダースーツが堅調で、「量から質」への転換がさらに進んだ1年となった。
とまとめられている。
ここでいう7社とは
主要な紳士服7社(青山商事(株)、(株)AOKIホールディングス、(株)コナカ、(株)はるやまホールディングス、(株)銀座山形屋、(株)タカキュー、グローバルスタイル(株))の「スーツ・フォーマルウェア」セグメント売上高合計
とのことである。
さて、まとめられている内容はその通りだが、個人的には「手頃な価格のオーダースーツが牽引した」というのは正解そのものではないと考えている。もちろん一助にはなっているだろうが、市場全体を支えたほどではないだろう。
その点では、以前WWDに掲載された
紳士服業界で首位交代 AOKIHDが青山商事を抜く – WWDJAPAN
の記事で述べられている
オーダースーツ人気によって平均販売単価は2万7484円から3万4917円へと上昇しているが、販売着数の減少をカバーするには至らない。
という結論に賛同する。
客単価上昇と書かれているものの、事業部全体の売上高は青山商事(前期比6・6%減)、AOKI(前期比0・3%減)ともに減少しているわけだから、客単価上昇以上に販売枚数は落ち込んでいると考えられる。
ではスーツ業界の落ち込みを意外なほど食い止められた他の要因は何だろうかと考えると、個人的には、合繊セットアップではないかと思う。
AOKIのパジャマスーツは有名だし、今でも販売し続けているロングセラー商品である。
青山商事は「みんなのスーツ」を発売しており、出だしは好調に推移している。いずれの商品も上下セットで1万円台前半と比較的に手頃な価格で、現在のユニクロの感動ジャケット+感動パンツとほぼ同等の価格帯で、価格競争力がある。
それに加えて合繊100%なので家庭洗濯が可能というイージーメンテナンス性の高さに加えて、インナーをTシャツにしてもサマになるカジュアル性の高さがある。
通常の既製スーツ、オーダースーツの場合、フォーマルな仕立て上がりになるため、カジュアルに着崩すと上手くやらないと単にやさぐれ感と胡散臭さだけが顕現してしまう。
しかし、合繊セットアップはカジュアル感があるので、着崩しやすい。そうするとオンタイムだけでなくオフタイムにも活用できる。1万円台前半でオンオフ両用ということになればそれこそコスパが高い。
メディアや調査会社は、2010年頃から盛んに「低価格オーダースーツ」が需要減を止める切り札という報道を繰り返し続けているが、当方には納得ができない。むしろポジショントークを続けることで世論誘導を図り続けているのではないかという疑いさえ持って眺めている。
それとこのレポートの主要7社のまとめ方もかなり疑問が残る。
なぜなら、大手4社(青山、AOKI、コナカ、はるやま)とその他3社では売上高に大きな差があるからだ。例えば低価格オーダースーツという特定分野では最大手と目されるグローバルスタイルだが、売上高は120億円しかない。一方、青山商事のアパレル事業の売上高は1242億円ある。10倍もの差があるわけで、これを同列に論じるのは客数・客層ともに全く異なるため、無理があるだろう。すき屋のカレーと専門店のカレーを比較しているようなものである。
比較するのであれば、大手4社で比較するのが最も適正ではないだろうか。
スーツ大手が何とか持ちこたえられている理由は、正確には
1、低価格オーダースーツが一助になった
2、青山、AOKIの両大手は飲食などの異業種が支えている
3、パジャマスーツに代表される合繊セットアップの好調
4、カジュアルアイテム、ビジカジアイテムの販売による補完
この4点といえる。
低価格オーダースーツだけを賞賛し続けるのは、業界をミスリードさせる危険性が高いのではないか。
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