衣料品の生産リードタイムが長期化し続けている理由
2026年5月29日 天候・気候 0
先日、古なじみの業界人と少し雑談する機会があったが、その人は昔「こだわりのビンテージレプリカ服を買ったことがあったが着てみたら普通だったので、それ以降そういう物をわざわざ買うのをやめた」と仰っていた。
当方も全く同感で、取材対象でもあったから、それらがいかにこだわりの素材を使って作られているかとかそういうことは理解している。でも着てみて普通だったり、逆に不便だったりすると当方はわざわざ買いたいとは思えなくなる。それなら、利便性の高い機能性素材を使われた服の方がよいのではないかと思ってしまう。
もちろん、この考えが絶対的に正しいとは思っていないし、そうではない考え方があっても当然だとは思っているが、別にこの考えが存在することも間違っているとは思っていない。それこそ価値の多様性である。
少し以前に、正絹着物をリメイクした半袖シャツを拝見させていただいたことがあった。真夏のことである。
趣があることは理解したし、店に置かれた服としては良い物だと思ったが、まず「洗濯に気を使う」ということ、次に「真夏に着ると暑さを感じやすい」ということに躊躇した。
ハンガーにかけて飾っておいてそれを眺めるのは良いが、自分が着るのはちょっと抵抗がある。特に「暑い」というのと「洗濯がめんどくさい」ということは、当方にとってはデメリットである。
そうなると、普通の素材か、何なら吸水速乾素材でできたシャツの方が当方としてはメリットがある。実需型の売れ筋が増えたのは当方と似たような価値観の人が多いからではないかと思っている。
さて、以前から書いているように、温暖化によって半袖着用期間が半年くらいに伸びた。半袖か冬物かという着用生活を続けている人も少なくない。
当方ほど暑がりではない人でも年間4カ月くらいは半袖で過ごしているだろう。そういう人は逆に冬服を着用する期間が長く、冬服を年間4カ月以上着用しておられるのではないかと思う。このタイプの方でも半袖と冬物の着用期間を合計すると8か月くらいになり、半袖か冬物かという着用生活といえる。
いずれにせよ、春物と秋物の着用期間が年々減少し、夏物と冬物というシーズンMDが定着しつつある。
《改革の実像 総合アパレルのシーズンMD①》読めぬ季節、止まらぬコスト増 制約の中で探る最適解 | 繊研新聞
昨今の気候変動を受け、総合アパレルメーカーのMD戦略が揺れている。シーズン頭に新作を一気に投入する従来型の見直しが進み、市場動向に応じた追加生産に比重が移っている。しかし、その実現には多くの課題をはらむ。
気温の高い時期が長くなったことで春と秋の存在感が薄まり、1年は夏と冬に二極化しつつある。MDの前提にあった「春夏」「秋冬」という季節区分は形骸化し、需要は一段と予測しにくくなった。長引く物価高で消費者の目はよりシビアになり、必要に駆られて購入する〝実需買い〟の傾向も強まっている。収益改善を急ぐアパレル各社にとって、消費者が求める商品を最適なタイミングで投入し、プロパーでの消化率を高めることは共通の経営課題だ。
というのが現在の衣料品業界の実情である。
そして、突然涼しくなったり暑くなったりという急激な気温変化がある。そのため、本来なら現在こそ「クイックレスポンス(QR)対応」が切実に求められる。
だが、実需に対してクイックレスポンス対応はほぼ成り立たなくなっている。提唱され始めた90年代半ばの方がQR対応は実現できていただろう。現在の生産リードタイムは長期化する傾向が年々強まっている。
その理由としては、数年前のコロナ禍や現在のイラン戦争だけではない。各工程・各段階での経営効率化が生産リードタイムを長期化させる要因になっている。
打ち手は現在も試行錯誤が続くが、百貨店向けブランドでは期中追加を強化する動きが盛んだ。売れ筋を見極めてすばやく追加発注し、時機を逃さず売り場に届ける。合理的に見える戦略だが、商社をはじめとしたサプライチェーン側のマンパワーと地道な調整によって支えられている部分は大きい。
例えば、素材調達。服地コンバーターや卸が在庫を縮小し、素材調達にかかるリードタイムは長期化している。生産でQRを望んでも、事前の仕込みがなければ難しい。計画性を欠いた場当たり的な追加発注では同じ素材の手配ができず、「似た素材を市場からかき集めて無理やり対応している」(商社)ケースが珍しくない。
アパレルや小売店が経営効率化を追及して極力過剰在庫を持たないように、素材や生地なども経営効率化を追及しえて過剰在庫を極力抱えないようになっている。素材や生地に在庫がなければ、それを作るところから始めざるを得ない。これまでは糸や生地の在庫があったから、それを選んでから製品を生産するだけで済んだが、今はその糸や生地を作ることから始めなくてはならなくなる。その分、生産リードタイムが従来よりも伸びることは当たり前の結論である。
アパレルや小売店が在庫リスクを極力なくしたいように、素材や生地の各段階企業も同様に経営効率化で在庫リスクを極力排除したいと願っていて、それを実行するのは極めて当然である。
90年代後半から2000年代半ばまでのようなQR対応は事実上不可能となっている。しかし、急激な気温変動への対応と消費者ニーズはそれを許してはくれない。それだけに、事前の気温対策MDの精度向上が今後さらに重要になる。
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