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南充浩 オフィシャルブログ

「伝統的な仕様」を守るのか「今の生活スタイル」に合わせるのかという話

2026年4月28日 ジーンズ 0

95年当時、ビンテージジーンズブームがあった。

当時の男性のほとんどがビンテージレプリカジーンズを穿いていたのではないかと思うほどの大ブームだった。

まだ25歳だった当方もビンテージレプリカを買って穿いていたが、エヴィスとかドゥニームとかは高すぎて買う気が起きず、リーバイスの復刻モデルにしようかと悩んだ挙句に当時7900円・8900円という破格値で売られていたエドウインの505z(Zはジップフライ。めんどくさいので当方はボタンフライが嫌いである)を買って穿いていた。

 

 

当時のビンテージジーンズブームで重要視されたディテールは様々あったが、「タテ落ち」はその一つだった。

穿き込んで色が落ちてくると、縦方向にスジが入ったように落ちる。これはデニム生地の凹凸感と不均一なスラブ糸を使うことでできるが、80年代以降の近代化された紡績機や織機ではスラブ糸も凹凸感の激しいデニム生地も作れなくなっていた。

その後、2000年前後にはビンテージジーンズブームは収束したので、様々なディテールはほぼ顧みられなくなったが、「タテ落ち」はその後も長いこと2010年頃まで日本国内のデニム業界を席捲していた。

 

 

そんなわけで、30年前はそれなりに当方ですら「タテ落ち」を意識していたが、スキニージーンズブームになると、そんなことはどうでもよくなっていた。実際にスキニーでタテ落ちガーと言っていた人はいない。

スキニーが廃れ、ワイド系が復活しその流れと古着人気の再燃によって、再びビンテージジーンズに注目が集まっているが、30年前のブームとは比べるべくもないほどに小さいと感じる。好きな人は好きだが、どうでもいい人にとっては死ぬほどどうでもいい。そんな立ち位置が今のビンテージジーンズブームだろう。

 

 

現在、SNS上でジーンズ議論が起きることがあるが、だいたい「タテ落ち派」と「タテ落ちどうでもいい派」では全く話が噛み合っていない。立脚している地点が全く異なるからだ。

現在の当方はハッキリ言って「タテ落ちなどどうでもいい派」である。タテ落ちしたところで快適性とか利便性とかは何一つ向上しない。それなら普通の色落ちでジーユーあたりのジーンズでコスパを楽しむか、ストレッチ混や吸水速乾などで機能性を楽しんだ方が良いと思っている。

 

 

とはいえ、スキニージーンズブームの頃、その後の80年代調色落ちが注目されていた頃に比べるとビンテージジーンズ人気の再燃はリペア屋に繁盛をもたらしているようで、繊研新聞にこんなコラムが掲載されていた。

《めてみみ》ジーンズリペアショップ店長のため息 | 繊研新聞

なじみのジーンズリペアショップがやけに忙しい。かつては穴開きの修理や裾上げ程度なら持ち込んだ当日中に仕上げてもらえたが、今は開店時間の正午前に修理依頼の客が行列を作り、仕上がりまで数週間待つことも珍しくない。

ビンテージジーンズに欠かせないチェーンステッチ用の古いミシンを器用に操るベテラン店長がいるので、マニアックなデニム好きには評判の店だ。何度目かの古着ブームに乗って、一気に客層が広がった。

 

とのことだ。

まあ、このリペア店はかなり繁忙を極めているそうなのだが、今回は「スレキ」のリペアについての嘆きである。

 

 

自宅に眠る年代物を久々に引っ張り出した大人と、古着の人気モデルの復刻品を買った若年層。その双方から注文が増えているのが、フロントポケットの内袋「スレキ」のリメイクだ。

50~70年製のジーンズはスマートフォンの登場を想定していないので、スレキが浅くて小さい。スマホの普及とともに古着のフロントポケットの容量を広げる注文が増えたわけだが、ダメージ補修や裾上げに比べてスレキを大きくするリメイクは工程が多く、手間もかかる。

さらに困るのは、持ち込みの多い復刻品やレプリカが「新品でも古着の仕様を忠実に再現するからスレキが小さい」ことだ。ポケットのリメイクの注文が増えて作業時間が延び、残業が増えたリペアショップの店長。「せめて復刻品とレプリカくらい最初から大きめのスレキにしてくれたら」とため息をつく。

 

 

要するにビンテージジーンズ、それのレプリカモデルは基本的に前ポケットの容量が小さい。

当時の人は前ポケットに入れる物がそんなになかったのだろう。あえて想像すると自宅の鍵と小銭くらいだろうか。

で、ジーンズの前ポケットには袋状の布が裏から縫い付けられていて、そこに物を入れるようになっている。この布を「スレキ」と呼ぶ。

 

 

しかし、現代生活に照らし合わせた場合、ズボンの前ポケットはスマホを収納するスペースになっていることが多い。当方は前ポケ収納派である。

スマホを収納するには当時の前ポケットのスレキは小さすぎるというわけで、それを今風の大きいスレキに付け替えるというリペアが求められるというわけである。裾上げよりもはるかに手間のかかる工程だから自ずと店は忙しくなって長時間労働になってしまう。

 

 

ここではスマホが原因と書かれているが、現在のスマホは以前よりも大型化している。初期iPhoneなら収納できたかもしれないが今の大型化したiPhoneに対応するには相当大きなスレキに付け替える必要がある。

かつてのビンテージモデルを正確にトレースすることが復刻版やレプリカモデルの評価の源泉となっていることはジーンズファンでなくともお分かりだろう。

しかし、当時の仕様は現在の生活スタイルに合わなくなった。その場合、どうするか?である。

 

 

それでも正確に当時の仕様を守るのか?現在の生活スタイルに合わせて大きなスレキを付けるのか?

である。

恐らく世間の評価は真っ二つに割れるだろう。そして「タテ落ち」論争のように平行線をたどって融和することはないだろうと思う。当方は、利便性第一の人間なので「大きいスレキを付けたらええねん」派である。スマホが収納できないような不便なズボンをわざわざ高い値段を払って買う気など毛頭ない。

 

 

このスレキ論争だが、ジーンズだけのことではない。

伝統的な事物が今の生活スタイルに合っていないということは多々ある。それをどうするのか?伝統通りに守り続けるのか?それとも今の生活スタイルに合わせるところは合わせるのか?様々な商品開発に突き付けられた永遠の課題といえる。

 

 

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