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南充浩 オフィシャルブログ

現状保護は着物業界をさらに衰退させるだけ

2014年11月13日 未分類 1

 着物を無形文化遺産に 関連団体が宣言採択
http://www.kyoto-np.co.jp/economy/article/20141111000023

という記事が先日掲載された。
同じような趣旨の発信は今年の初めごろからされている。

和装は着用したことがない筆者だが、なぜか和装関係者とは数多く交流させていただいており、それはSNSの効果なのだろう。

ところで、この趣旨に関して意外なことに筆者と交流のある和装関係者はほとんど否定的である。

着物のユネスコ無形文化遺産登録を目指すという内容なのだが、彼らはこれが登録されてしまうと、現状盛り上がりつつあるファッション着物や、カジュアル着物、プレタ着物、ニューウェーブ着物などはすべて外され、戦後ににわか作りされた着物のみが既得権益として温存されるという危惧を抱いているようだ。
そう、いわゆる呉服売り場で販売されているン十万円するような振袖セットとかン百万円する着物だとかそういう物のみが今後変革する必要なしというお墨付きをもらってしまうのではないかという危惧である。

現在、和装市場規模が3000億円で底打ちし、微増に転じた理由は、従来型の呉服売り場で販売されていたような物が動き始めたからではない。
1万円台~数万円程度の安価で気軽に着用できるカジュアル着物やファッション着物が伸び、洋服や洋雑貨・洋アクセサリーと融合したコーディネイトが若い層に受け入れられたからである。

そしてそういう商材は、この声明を発表したような「オエライ方々」が扱っていない商材である。

万が一、文化遺産登録されればそういう新しい芽を摘んでしまう可能性が高いと和装業界の人々も感じているといえる。

従来型の最低でもン十万円する着物、堅苦しい着付けを温存したままで着物市場規模が4000億円とか5000億円にまで回復することは永遠にありえないと個人的には考えている。

このところ、急速に和装業界に対して注目度を高めておられる小島健輔さんも自身のブログの中で、

高価格戦略と押し付け販売ですっかり萎縮してしまったきもの消費が復活するのか否か、期待は盛り上がりつつあるが、多数の紐や補正パーツをややこしく組み込んで窮屈に身体を締め付ける今日の着付けスタイルが変らない限り、きものはパーティーの華かコスプレアイテムを出るのは難しいと思う。

と指摘しておられ、この指摘はまったく正しい。

先ほどの記事の中には

「東京五輪の開催に向けて着物を着る習慣を定着させ、世界へ発信しよう」(村上圭子・京都市産業観光局長)などと提起した。

という一文があり、これなどは失笑するほかない。

着物が廃れた理由、とくに従来型の着物が廃れた最大の理由として、日常生活を過ごすのに不便だからということが挙げられる。
着物自体の企画の自由化、着付けの自由化を行わない限り、現代の日常生活において着物で普通に過ごすことは不可能である。

例えば、自転車に乗れない。
また、ン十万円の着物を身にまとい、窮屈で動きにくい着付けをしたままで、掃除や炊事、洗濯などができるだろうか。

さらに仕事場でも着用するとして、デスクワーク以外の作業が従来型の着物でできるだろうか。

そうは言っても、江戸末期に洋装が輸入されるまでは日本人全員が着物で日常生活を過ごしていたわけだから、できないことはない。
野良仕事をする際には、野良着という物を着用していたし、半纏なんていう物もあった。
現在の「着物」の定義からはこれらは外されており、おそらく文化遺産にも登録はおろかノミネートすらされないだろう。

こういう物も着物として認めないと着物の日常着用なんて夢のまた夢である。

着物の着方を正装用の着付けで統一してしまったのは、販売側の都合だったと説明してくださった和装業界の方がいた。
着付け法を統一することで着物に興味のないオジサンでも販売することが簡単になった。
いわゆる販売側の都合によるマニュアル化でしかない。

映画や芝居を見ると、明治時代や大正時代は着物で日常生活を送る人が多かったから、着こなしも着付けも今より自由である。
袴にショートブーツ、着物の中にドレスシャツ、なんていうコーディネイトは当たり前である。

また着物の素材自体も手入れが大変な正絹ではなく、洗いやすい木綿の素材も多かったように見える。
現代なら吸水速乾とかスーパーストレッチ、保温蓄熱などの機能素材を使うことも良いのではないか。

従来型の着物を文化遺産として登録することは、着付けや企画を固定化してしまうだけであり、そこからの発展は望めなくなるのではないかと感じる。
そしてそれは着物業界のオエライさん方の既得権益を保護するだけであろう。

従来型の着物のままで日常生活で着用しようなんていう発言は、供給側のエゴを押し通すだけであり、メリットがあるのは供給側、それも一部のオエライさんにだけである。

着物業界を活性化させるのは、商品企画と着付けの自由化・商品価格の引き下げが最高の手段であり、現状の保護はさらに業界を衰退させるだけになるだろう。

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 comment
  • 海江田陽子 より: 2019/08/06(火) 9:04 PM

    気楽に着れる着物って良いですよね。いっそ部屋着としての着物とかどうでしょう?家から出ないなら着方がおかしいなんて言われないから自由に好きな柄や記事を楽しめそうです。

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