昨年3月にオープンした近鉄百貨店あべのハルカス本店の苦戦はいよいよ本格的である。

あべのハルカス近鉄本店、開業1年で大幅改装 売り上げ不振で待ったなし
http://www.wwdjapan.com/business/2015/03/25/00015879.html


今春から順次改装、テナント入れ替えを図ることを発表したが、この記事中にもあるようにオープン1年で改装、テナントの大幅入れ替えは通常では考えられない。
それほどに苦戦しているといえる。

近鉄百貨店は、旗艦店「あべのハルカス近鉄本店」を今春から順次、改装する。昨年3月に全面開業したばかりの店舗の改装は異例だが、当初予想を大幅に下回る売り上げ不振でテコ入れが待ったなしになっていた。ウイング館にある専門店街のソラハ(2階、3階、3.5階、4階)の4階部分を百貨店の売り場に改装し、ギフトサロンや商品券売り場、催事場を移設・新設する。

とある。

また

ソラハ全体でもティーン向けの店舗を縮小し、20代以降のヤングやOL向けの専門店街として再整備するほか、集客力の高い大型テナントの導入も検討する。

ともある。

このブログや他の記事でも何度か書いたことがあるが、専門店街「ソラハ」がティーンズ(10代)女性を異様に重視していることに対して、オープン当初から不安視していた。
やはり危惧した通りの結果になったといえる。

なぜ、現在の業界でもっとも危険視されている10代市場を重視したのか理解に苦しむ。
百貨店の上層部や親会社の近鉄上層部は何を考えていたのだろうか。

今の10代は、洋服に金を使わない。可処分所得が少ないから使えないともいえる。
10代が愛用するブランドは、ユニクロ、ジーユー、H&M、しまむら、アベイル、ウィゴー、ハニーズなどの低価格ブランドばかりである。
実際に繊研新聞のアンケートでもファッション専門学校生の好きなブランドの上位はこれらの低価格ブランドばかりだった。

概して、ファッション好きが多いファッション専門学校生ですら、低価格ブランドを愛用しているのだから、それ以外の10代はどういう消費行動をとるのかは少し考えればわかることではないか。

「10代=ファッション」と考えるのは失礼ながら時代に取り残されたオッサンの認識でしかない。

売上高が稼ぎたいのなら客単価の低い10代向け売り場は極力少なくすべきである。
閉館したかつてのJR大阪三越伊勢丹だってそうだ。
それほど広くもない売り場に10代女性向けの「イセタンガール」が必要だったのか。
今の10代で百貨店で買い物をする層は少数派である。10代が買うのはファッションビルか郊外ショッピングセンターである。

今の10代を啓蒙したいというのなら話は別だ。
20年後の消費者育成を考えると、今のうちから若い層に良い物、そこそこマシな物を見せておく必要があるのではないかと思う。
ただ、それはだれがやるのか。
やるには少なからず費用がかかるし、売り場を続けていく上でのランニングコストもかかる。

各百貨店、各ファッションビル、各ブランドも慈善事業ではないのだから、リターンの少ない市場にコストを投下する行動はとれないだろう。
筆者だって嫌だし、それ以前にそんな金はない。


ちなみに近鉄百貨店あべのハルカス本店の売り上げ状況は以下の通りだ。

1450億円を掲げていた初年度(15月3月期)売上高目標を、昨年8月に1170億円に下方修正。だが、この目標にも届かない見通し

とある。

ここからは個人的な感想なのだが、苦戦はソラハだけが原因ではないのではないか。

かつての近鉄百貨店阿倍野本店(旧名)は、筆者も含めた利用者の中では「格安品が常に販売されている百貨店」という認識だった。
陸橋とつながった2階入り口部分の正面には、いつも3000円とか5000円均一のレディースバッグやレディースシューズのワゴンが設置されていた。
現に筆者の家族もこれを目当てに何度も買い物に出かけた。
電車賃を入れても他の百貨店で買うよりも安かった。

改装後にはこれがなくなった。
低価格利用者がなくなった分、高価格利用者が増えたかというと、ターミナルとはいえ、ローカルな天王寺にそういうお客が新規で多数増える要素は少ない。

また、某大手アパレルのベテラン営業マンは先日こんな指摘をしていた。
参考程度にご紹介したい。

近鉄百貨店阿倍野本店は毎月、木曜日に全館を閉鎖し、限られた入口のみから来場できる「お得意様ご招待デイ」というのがあった。
筆者の自宅にも招待状が送られてきた。
お得意様に限りとあるが、実際に招待された客数は相当なもので、いつも、入り口には長蛇の列が作られていた。

この時に買うと、各テナントで10%~20%くらいの値引きがされたと記憶している。

洋服でいうと新規入荷商品を10%~20%オフくらいで購入できる。
新作は欲しいけど定価で買うのはちょっと・・・・という大衆の心理をくすぐる販促キャンペーンだったといえる。

ベテラン営業マンは「改装後、このキャンペーンをしていないでしょ?ほぼ年中無休で営業してるでしょ?だから苦戦しているんですよ」と指摘した。

そういわれれば確かにそうだ。

毎日のように天王寺で電車の乗り換えをしているが、この1年、あの光景は見たことがない。

通常営業日だと物を買わない来場者も多い。
これは近鉄百貨店に限らずどこの百貨店でもそうだ。
しかし、「顧客招待デイ」に来た来場者は「買い物」目的だから、少なくとも何か1品は買う。
そうでなければ「わざわざ来た意味」がない。
来場者数は通常営業日よりも少なくなるが、買い上げ比率は高くなる。
もしかしたら全館売上高も通常営業日より高かったかもしれない。

結局、あべのハルカス本店への苦戦は、ピントのズレた10代重視政策に加えて、見た目ばかりを重視してこれまでの強みを捨てたということの相乗効果といえる。

業界関係者は「もっとファッショナブルに」なんて軽々しく指摘するが、そんな「ファッショナブル」な消費者なんて全国にどれだけ存在するのか。
そういう消費者は東京なら伊勢丹新宿店、大阪なら阪急うめだ本店で吸収できる程度しか存在しないのではないのか。

そういうニッチな消費者を新規獲得するよりも、従来顧客をさらに重視する施策を採るのが正しいビジネスだろう。
これは近鉄百貨店に限らず、どの分野でも言えることだ。

携帯電話なんてまさにそうだろう。
新規顧客獲得ばかりに血道をあげており、長年使ったユーザーはほったらかしである。

あるアパレルの営業マンがこう言った。
「2年ごとに携帯電話会社を変えるのが一番得ですわ。だからこの間変えました。2年後にはまた変えます」と。
今なら電話番号はそのままだからこの手法が一番経済的である。
それにどちらにしろ2年ごとに携帯機種を変える。ならそのときに携帯電話会社を変えれば手間はそれほどかからない。

別にドコモにもauにもソフトバンクにもそれほど熱烈なファンはいない。

ある程度料金が安くて、通話や通信に支障がなければ携帯電話会社なんてどこだって構わないのである。
そしてそういう風に考える消費者を増やしたのは携帯電話会社自身である。