クラウドファンディングの大成功で一躍知名度を上げたオールユアーズのスーパー企画マン、原康人さんに久しぶりにお会いした。
会って何をしたかというと業界の裏話をネタに雑談しただけである。

その中で、原さんの企画で、某国内生地産地が大手ブランド(ユニクロじゃないよ)からの受注が決まり、2019年春夏物として、4万メートルの生地を生産することになり、非常に産地の士気が高くなっているという話が出た。
その商品が上手く売れれば、さらに受注量が増え、翌年は40万メートルくらいの生産が見込めるらしい。

ちょっとでも衣料品の生産に携わったことがある人ならだれでも知っているが、生地1反の長さは何メートルでしょうか?

答えは50メートルである。

国内の繊維・アパレル業界は製造加工と商品デザインと販売とで分断されており、包括的な知識を得ることが難しいと以前にも書いたが、生地1反の長さが50メートルということを知らないデザインや販売関係の人は多い。

50メートルというと、けっこう長いと感じるが、服の用尺は平均で2メートルなので、そう考えると25着分しかない。
服と言っても様々ある。半袖のTシャツだと用尺は1メートル未満で、だいたい70~80センチが標準であり、ジーンズやワイシャツなら2メートルくらいである。
またロングコートやロングドレスは3メートルや4メートルは必要になる。

で、4万メートルというと、800反ということになり、これくらいの分量があると産地企業は俄然やる気を出す。
40万メートルはそれの10倍なので8000反となり、これで産地全体が幾分か好況になる。

国内の産地企業はこの20年間くらいで減り続けてきた。

今は激減はないが、毎年パラパラと倒産・廃業がある。

こういう状況なので、危機感を持った人たちが「産地を守ろう」とか「産地を支援」とか「産地復興」みたいな取り組みを掲げることが増えている。
個人的にはその意図するところは賛同する部分が多いのだが、最近では幾分、疑問も感じるようになってきた。

産地を守ろうと声を挙げている人は、小資本、零細、個人事業主みたいなのが多い。
当然、その取り組みは啓蒙活動を含めたソフト部分に重点が置かれてしまう。
まれに「独立系デザイナー」などが産地の生地を使うコラボ商品を発表したり、そういう小規模ブランドとのマッチングに成功したりする。

それらの取り組みは、まったく無意味ではないが、産地企業の業績はそれによって大きくは左右されない。
産地側がそういう「ソフト」を積極的に取り入れ、意識改革してくれるのが最も望ましい結果だが、残念ながら現実はそうではない。
産地側の意識改革はあまり進まない。

これは自身が産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」の主催事務局に身を置いてから、さらに痛感するようになった。

中には少数ではあるが、産地企業の中でもすでに自立化に成功しているところもあるし、それに独自で乗り出し始めているところもあるが、残存する大多数の産地企業の腰は相変わらず重い。

産地企業の重い腰を動かせるのは、啓蒙活動ではなく、ある程度まとまった数量の受注なのである。

だから原さんは「産地を動かそうと思ったら4万メートルくらいの仕事とマッチングさせるしかない」との意見で、これには深く賛同する。
繊維の製造加工業の根本は、大量生産・大量販売なのである。

いくら、イシキタカイ系が「10年使える服ヲー(ユニクロや無印良品の服は10年使えるけど)」とか「大量生産は悪だ」とか、そういうことをブチあげたところで、生産システムは基本的には大量生産なのである。
生地を1メートルだけ織ってもそれは、非効率的作業で赤字を積み上げるだけにしかならない。
1枚だけTシャツを染めたところでそんなものは赤字が増えるだけである。

採算ベースに乗せようと思うなら、種類によっても違うが、生地は最低でも5反以上織る必要があり、もっといえば10反以上が望ましい。
とくに、織物の場合は経糸をセットするのに時間と労力がかかるため、経糸を50メートルごとに取り換えていたら大きなロスになってしまう。経糸は長ければ長いほど効率的だから、1反よりは5反、5反よりは10反、10反よりは100反が採算が良くなる。反対に緯糸は10メートルおきに変えてもさほどの手間にはならない。

だから、この考え方を元にして、小規模ブランドをいくつか集めて、共通の経糸で、緯糸をそれぞれのブランドごとに20メートルから50メートルおきに変えて、生地を作るという「経糸バンク」という企画を構想した会社があったが、結局構想倒れになっており、実現すれば面白かったのではないかと今も思っている。

それはさておき。

染色加工場でもリサイクルを掲げて、古着の染め直し事業を考えたところもあったし、現に今やっているところもある。
しかし、染め直された商品はひどく高く、値段だけで考えるなら、新品を買いなおしたほうがよほど安いのが実態である。

ところが、無印良品は自社の古着を無料で回収して、紺色に染め直して「ReMUJI」として販売している。
価格は2900円で、まあ、古着の平均相場価格だから、気に入れば買いやすい。

 

どうしてこういう価格設定ができるかというと、無印良品という大規模ブランドだから、回収する古着の枚数も多い。
何千枚も集めることができ、これは無料回収だから仕入れ代金はタダということになる。
そして、それを一気に染めるので、染め工賃を枚数で割った1枚当たりのコストは安く抑えられる。
しかも、色は紺色のみだから、染料代も安く抑えることができ、結果的に店頭販売価格2900円にできるというわけで、無印良品というマスブランドならではの組み立てだといえる。

そこら辺の零細ブランドがチマチマと1枚や2枚を染め直すと、最低でもこれの3倍や5倍くらいの販売価格になってしまって、割が合わない。
よほどのストーリー性やデザイン性がない限り、ReMUJIには対抗できない。
当方なら安さと品質の安定で間違いなくReMUJIを買う。

これも染色加工の基本は「大量生産・大量販売」ということの実例である。

産地にある程度の活況をもたらしたいのであれば、そういう大規模な受注に結び付くような先とマッチングさせないと意味がない。
精神論や啓蒙活動だけでは産地の重い腰は動かないし、やる気も出ない。

だから、大手ブランドと結びつけられるような企画マンやプランナーこそが産地に幾分かの活況をもたらすことができる。
もう、花畑満載の精神論や啓蒙活動は食傷気味だから、個人的にはオールユアーズの原さんに続くような人が登場してもらいたいと願ってやまない。

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大手広告代理店を使って残念な結果を甘受する残念な国内アパレル 企業
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