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水沢ダウンの販売枚数を推測してみた

 衣料品不況下で高額にもかかわらず、好調に売れているとして注目を集めているのがデサントの「水沢ダウン」である。

販売価格は8万~12万円とあるから、プロパー(定価)での平均販売価格は10万円くらいではないかと考えられる。

各媒体で「好調」とか「〇〇%増」とか書かれているが、具体的枚数は書かれていない。
果たしてどれくらいの販売枚数なのか。
インターネットでいろいろと調べていると、デサントの2012年11月29日のプレスリリースを発見した。

https://www.descente.co.jp/company/press_releases/2026.html

ここにはこう書かれてある。

「水沢ダウン」各種は、全国のスポーツ専門店、百貨店、セレクトショップなどで11月末より発売いたします。各店舗、また海外の展開を併せ約4,000点の販売を目指します。

とのことである。

2012年11月時点での2012年秋冬用モデルの販売枚数だから、2011年秋冬実績は4000点以下だったと考えられる。
目標数値として「4000点」を挙げているということは、前年実績はそれ未満だったと考えるのが普通である。
しかもこのころはまだ開発したばかりの新規商材だから、当然、2011年秋冬実績は4000枚を下回っていただろう。

ここから終わったばかりの2015年秋冬実績をかなり大雑把に推測してみたい。

2013年、2014年と前年比50%増ずつの枚数で伸びたと仮定する。

2013年だと6000枚、2014年だと9000枚である。
2015年実績も前年比50%増だとすると13500枚ということになる。

いくら多くても15000枚は越えないだろう。
と個人的には推測する。

たしかに10万円前後の高額商品にしては売れたといえる。
しかし、「バカ売れ」とか「絶好調」という最大級の形容詞を付けるほどだろうかとも感じる。
記事にする場合は見出しにインパクトを持たせるのは常套手段ではあるがちょっと盛りすぎではないか。

しかもこの中には海外での販売枚数も含まれている。
「国内市場でバカ売れ」と報道するのは贔屓の引き倒しではないかと感じられる。

水沢ダウンの特徴は内蔵する羽毛のフィルパワー数値が高いことと、縫い目のない「シームレス」であることとされている。
縫い目をなくすことで降雨や降雪での浸水を防ぐともに、羽毛の飛び出しも防ぐ。

ちなみにこのシームレスという技法を早速、2015年秋冬商材でユニクロも使用している。
内蔵する羽毛のフィルパワー数値はもちろんユニクロの方が低いが、見方によっては、水沢ダウンの廉価な代替品とも見ることもできる。

店頭やオンライン通販を見ていると、7990円に値下げしてほぼ在庫を売り切ったようだ。

ダウンジャケットというジャンルにおいては、シームレスは久しぶりの新しい技法なので、ユニクロは2016秋冬商品でも再度改良版を販売するのではないかと見ている。

それにしても販売枚数はそれほど大したことないが、水沢ダウンの成功はデサント社員の士気を高めたのではないか。
毎年徐々に増えるという形で、10万円前後という高額ダウンが売れて、それがさらに「名品」として認められ始めたのだからモチベーションが高まる。
デサントの新しい「顔」ともなりつつある。

高額ダウンジャケットブランドはなぜか海外勢が圧倒的である。
人によっては、モンクレールもデュベティカも価格程のクオリティはないという意見もある。
誰もが認める高品質・高価格ブランドが国産から生まれつつあるのは非常に喜ばしいことである。

筆者は冬場に山にもスキーにも行かない。
バイクにも乗らない。せいぜいママチャリに乗るくらいである。
しかもかなりの暑がりで、先日買ったジーンズメイトのダウンジャケットですらときどき暑すぎると感じることがある。

そんなわけで個人的には、2016秋冬に発売されるであろうユニクロのシームレスダウンを7990円くらいに下がった時点で買ってみようと思う。
関西の平地で暮らす暑がりのオッサンにとってはこれくらいで十分である。




「高くても売れる商品」はあるが「高いから売れる」わけではない

 一昨年から、バーバリーなきあとの三陽商会は持ちこたえられるのかという話題で持ちきりだが、ビッグブランドをなくした後、復活できた象徴としてデサントが参考事例に挙げられる。
ビッグブランドをなくした後そのまま消えた事例としてカネボウが挙げられる。

デサントはアディダス、カネボウはディオールである。

どちらも売上高の4割~半数を占めていたビッグブランドである。

アディダスなきデサント、16年越しの復活劇
旗艦ブランドの穴をどうやって埋めたのか
http://toyokeizai.net/articles/-/98852

新年早々に掲載された記事で、16年ぶりに売上高が1000億を越えたことが紹介されている。
アディダスを失ってから16年でその当時の売上高にまで回復した。

この記事はその要因を海外販売の成長に求めている。
これはこれで正しい。それ以外の要因ももちろんあり、もっとも重要なのは伊藤忠の手厚い支援があったことだろう。
しかし、掲載できる字数には限りがあるから、全要因を詳細に掲載することはできない。
今回は海外販売に的を絞ったと考えられる。

三陽商会がデサントになるのか、カネボウになるのかはまだわからない。

5年後や10年後にその答えは出るだろう。

さて、同じ東洋経済の、同じ記者がもう一つデサントの記事を掲載している。

新年早々にデサントの記事が2連発である。

8万円超の「水沢ダウン」がバカ売れする理由
カナダグース相手に気を吐く国産ジャケット
http://toyokeizai.net/articles/-/98997

デサントの復活に、この国産高級ダウン「水沢ダウン」が心理的に寄与した側面はあるのではないかと思う。

まったくのオリジナル開発商品で、それが市場に受け入れられ、高額であるにもかかわらずそれなりに売れたのだから、デサントの社員・スタッフに心理的に良い影響を及ぼしたのではないかと推察される。

ただ、売上金額や販売枚数はそこまで寄与していないのではないか。

見出しは少し持ち上げすぎで、業界をミスリードするのではないかと危惧を覚える。

スポーツメーカーのデサントが作る「水沢ダウン」が今、ファッション業界で注目を集めている。価格はいちばん安いモデルで8万円強、最も高いモデルだと12万円台と、スポーツ系のアウターとしては高価な部類だ。

にもかかわらず、販売店舗は増える一方。セレクトショップでの取扱量は2014年比で3倍になった。

直営店でも反響は大きい。原宿駅前の「デサント ショップ 東京」での10~12月期の売り上げは、2013年から2014年が2倍弱、2014年から2015年が1.5倍と年々拡大。「売上金額の半分を水沢ダウンが占める」(小俣寛人店長)という。

とある。

好調さを示す根拠となる数字はわかった。
しかし、3倍、2倍、1・5倍という伸び率はわかるものの具体的な販売枚数や売上金額はわからない。

極端な話、1枚だった販売枚数が2枚に増えるだけで、「販売枚数は2倍」である。
経済誌や業界でよく登場する「何%増」というのも同じであり、伸び率は理解できるが、販売枚数や売上金額はわからない。
筆者はこれを「数字のマジック」と認識している。

原宿店の3か月間の売上高の半分を「水沢ダウン」が占めているとのことだが、原宿店の具体的な売上高もわからない。

例えば、原宿店の年間売上高が1億2千万円だったと仮定しよう。
1か月の平均売上高は1000万円である。
3か月間だと3000万円。その半分だから1500万円となる。

3か月間で1500万円だから1か月に500万円分の水沢ダウンが売れたと考えられる。

水沢ダウンの平均販売価格は10万円だから、1か月に50枚販売したことになる。
3か月で150枚。

たしかに好調アイテムといえるが、「バカ売れ」という表現はどうだろうか。

水沢ダウンが不調だと言いたいのではない。
「8万円の商品がバカ売れ」というセンセーショナルな見出しに違和感を覚えるのである。

アパレル業界の人はあまり深く考えない人も多いから、それこそ「今は8万円のダウンがバカ売れらしいな。ならうちも10万円のダウンを拡充強化しよう」なんて真面目に言いだす人が少なくない。
過去に何度も同じことがあった。

水沢ダウンの事例は「条件さえ整えば、高額商品でも売れる」ということであり、「高額商品は売れる、高額商品だから売れる」ということではない。

この手の記事を読むと「高額商品だから売れる」と勘違いする業界人は驚くほど多い。
なんと身勝手なと呆れるがこれが人間の性質である。

ところで水沢ダウンの成功の理由はなんだろうか。

まず、一朝一夕に売れたのではなく、5年間かけてじっくりと販売したことだろう。
2010年のオリンピック時に開発したと記事にも書かれてある。

次に、機能性の高さが評価されやすかったダウンジャケットという商材が適していたということもある。

保温性抜群で水分にも強い、その分、国産工場で手をかけて縫製しているから価格も高い。

これがダウンジャケットという商材なら説得材料になる。
単なるジャケットとかジーンズとか機能性があまり追求されない商材なら説得材料にはなりにくい。

「国産の最高級生地を使って、熟練の職人が縫製したからこのジーンズは1本5万円になります」と言われてそれがすぐに市場に受け入れられるとは考えにくい。
エドウインの1万円の国産ジーンズとどう違うのかを説明するのは非常に労力がかかるし、勢い、わかりにくい「ブランドステイタス」とか「ファッション性」の話にならざるを得ない。

まちがっても「8万円の水沢ダウンが売れたのだから、他のアイテムでも超高級品は売れる」なんて安易に考えるのは避けた方が賢明だろう。

心理的象徴としての「水沢ダウン」の開発に成功し、アディダスショックを乗り越えたデサントはやはり賞賛されるべきであることは変わりない。






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