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産地企業や製造加工業者は決して「善良なる弱者」ではない

10月から人気ドラマ「下町ロケット」の続編が始まる。
7月に発売された3巻が原作になっている。

初回ドラマは1巻と2巻を原作にしていたから、ドラマとしては二作目でも原作は三作目になる。

ちなみに、7月に3巻「下町ロケット ゴースト」が発売されたばかりなのに、また4巻「下町ロケット ヤタガラス」の発売も決まっている。
すごいハイペースで原作小説が執筆されている。

原作は池井戸潤さんで、「半沢直樹」以来ヒット作を連発しており、ドラマ化すればほとんどが高視聴率となる。
今年の1月に放送された「陸王」も池井戸潤さんの原作である。

大概は主人公はしがない立場の小規模工場経営者だったり、大手企業のサラリーマンだったりする。
その主人公が大手企業の妨害にあい、苦労しながらも最後は大逆転をする。
近年のヒット作はほとんどがこの黄金パターンで構成されている。
ヒットドラマの多くは勧善懲悪で、ヒットする理由は、往年の水戸黄門や遠山の金さんとまったく同じだ。
ドラマの方が原作よりも性善説ベースで描かれており勧善懲悪の色が強い。

舞台が江戸時代か現代かの違いしかない。

この池井戸ドラマに代表されるように、当方も含めて、多くの日本人は、零細・小規模企業はかわいそうな立場にあると思い込んでいる場合が多い。
池井戸ドラマは零細企業・中小企業を善良なる弱者として描かれている。
大手は悪辣で冷徹。これがステレオタイプというやつだろう。実にくだらない。

この世の中に「善良なる弱者」なんてほとんど存在しない。
弱者は存在するが弱者は必ずしも善良ではない。

もう1年ほど前になるが、ある知り合いの個人デザイナーが「ブランドを立ち上げた」と報告してきた。
大々的に起業しているわけではないから、どうやって製造の資金を調達したのだろうと思っていたが、これもまた小規模な縫製工場が製造に協力しれくれることになったようだ。

そうこうするうちに徐々に雲行きが変わってきた。

もともとは製造に協力し、製造の観点からアドバイスをくれるというはずの立場だった縫製工場の社長がだんだんと、デザインにも口を出すようになり、さらには自社ブランドとして売り出そうとするようになってきた。

この辺りから、当方は、その社長とは決別すべきだとアドバイスしていたのだが、デザイナー氏は踏ん切りがつかずにズルズルやっていた。

それが先日、その縫製工場の社長が「自社ブランドを始めました」という内容でメディアに掲載されていた。
デザイナー氏は「やられた」と嘆いていたが、後の祭りである。

とはいえ、そのデザイナー氏は提携を切るだろうから、次シーズンからそのブランドのデザインは大きく変わるはずだ。
そして立ち上がったばかりの無名ブランドがいきなり次シーズンからデザインが大きく変わることはリスクでしかない。

デザイナー氏はお人よしに過ぎたし、この縫製工場の社長も目先の利益に飛びつく短絡者でしかない。
狡く立ち回ったようでいて、実は大局観のない愚か者といえる。

ここに出てくるデザイナー氏も縫製工場も新ブランドも業界ではまったく無名であることを断っておく。

しかし、この事例を見てもわかるように小規模な縫製工場社長は決して「善良なる弱者」ではない。
弱者であるかもしれないが、決して善良ではない。

デザイナー氏はどちらかというと「善良なる弱者」といえるが、善良なる弱者では世の中から搾取されて終わる。

見方を変えれば、弱小縫製工場が生き残りのためになりふり構わず必死で工夫したといえなくもないが、立ち上がり次シーズンからデザインが大きく変更になるリスクを考えると、決して上手いやり方ではない。

実は衣料品業界にはこの手のことが掃いて捨てるほどある。

例えば、某大手縫製工場の年配の社長がいるが、実はその縫製工場を何十年も前に創業者一族を追い出して乗っ取ったという噂がある。
何十年も前のことなのでネットにも記録が残っていないが周辺の人からはいまだにその話がチラホラと出てくる。

一時期はシャツアパレル最大手といわれ、その後民事再生法を申請したトミヤアパレルだって、古い業界関係者は「パインシャツが名門のトミヤアパレルを乗っ取った」と話すことがある。
これは「華麗なる一族」よろしく、「小が大を飲み込んだ」合併だったようだ。

まあこんなことは氷山の一角である。

池井戸潤さんの小説やドラマのように、ついつい人は小規模工場や小規模企業を「善良なる弱者」を見てしまいがちである。
メディアも所詮人が報道するのだからそういう価値観に引きずられる。

昨今の産地企業や製造加工業に関する報道なんてそういう基調のものが多い。

しかし、実態は弱者といえどもそれなりの爪や牙を備えているし、生き残るためなら、自分よりも弱者を養分にすることだっていとわない。
まさに自然界の弱肉強食の摂理そのままである。

大型肉食獣に捕食されることもある小型肉食獣は、自分よりも小型の生物を捕食して生き延びるのである。

まあ、そんなわけで、産地企業も製造加工業も決して「善良なる弱者」ではないので、提携する個人デザイナーや個人業者、小規模業者はくれぐれも注意が必要である。
世の中に必要なのは性善説ではなく、性悪説であると改めて思う。

久しぶりに有料NOTEを更新しました~♪
ジーンズメーカーとジーンズショップの変遷と苦戦低迷する理由
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/ne3e4f29b4276

 

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そんなわけで「現代風時代劇」の「下町ロケット ゴースト」をどうぞ~

機械部品とアパレル製品を同列にして「物作り」を論じることはできない

 昨日、大人気ドラマ「下町ロケット」が最終回となった。
最終回の視聴率は22・3%と高く、今年の連続ドラマの中では最高となった。

下町の機械部品工場の奮闘を描くストーリーで、如何に高品質な物作りをするかに情熱を傾ける主人公の姿が胸を打った。

機械や機械部品の場合、物作りへの評価はしやすい。
性能が高ければそれが評価に直結する。
それでメンテナンスが簡単で、価格が割安(激安ではない)ならばさらに評価は高まる。

最終回の少し前にこんな記事が掲載された。
下町ロケットをアパレル業界に当てはめた記事だ。

また1つ、大阪発のブランドが消える-「下町ロケット」とは真逆の構図、モノづくり精神は…
http://www.sankei.com/west/news/151217/wst1512170003-n1.html

先ごろ会社清算が発表された遊心クリエイションと、今年2月に会社解散したフィットに関してである。
大手アパレルが本社や本社機能を次々と東京へ移転させる中で、大阪を拠点にし続けた2社が相次いで消えたことに対する哀惜の念が込められている。

関西在住の筆者も気持ちはわからないではないが、仕方がないことだろう。
フィットはさほど悪い決算ではなかったが、取り立てて良いということでもなかった。
当時のTSIホールディングスとすれば、存続させることに対して価値を見出していなかったということだろう。

遊心クリエイションについては先日も書いた通りだが、大先輩の指摘を付け加えるなら「親会社の日鉄住金物産の投資が中途半端だった」ということもあるだろう。
低価格ブランド「イーブス」の採算を好転させるためには、店舗数を早い時期に拡大しなくてはならない。
そのためには資金が必要だが、日鉄住金の投資はそこまでではなかったということだろう。現に40店舗強で出店は止まって、逆に店舗数を減らしている。

もしくはまったく資金を投入しないかだ。
遊心クリエイションは困ったかもしれないが、日鉄住金の財務は傷まなかった。

ただ、店舗数を拡大して生産枚数を増やせば今度は売れ残りの在庫も増える。

また、イーブスはいくつかフランチャイズ店も抱えていたが、これを直営にすべて切り替えたことも反対に採算を悪化させた原因ではないかとも思う。

まあそれはさておき。

この記事の筆者の気持ちはわかるが、機械部品とアパレル製品を同列に並べて物作りを語るのはちょっと無理があるのではないかと思う。

機械部品の評価点は、先ほども書いたように「性能」である。
性能はだれが評価しても一目瞭然だ。
なぜならすべては数値で表せられるからである。
作動効率が何%上昇、摩耗耐久性が何%上昇、などという数値で誰が見てもわかりやすい。
嗜好品ではないからそれで良いのである。

さらにメンテナンスが簡易化され、製造コストが維持ないし、微減していればさらに言うことはない。

一方、アパレルも生地も「性能」「機能」では評価されないし、それを表す数値もない。
ものすごくダサい色柄の生地があって「ストレッチ性が30%増」であっても、それを使って服を作ろうと思うブランドはないだろうし、その生地を使って作った洋服が不恰好ならそれは消費者には売れない。

洋服には嗜好品という要素が強いからだ。

「性能」「機能」が高くなくても「ブランド」として評価されている服も数多くある。
1日着用したら2,3日は休ませないと擦り切れたり膝が出たりするような高級スーツもある。
貧乏な筆者はこんなめんどくさい服は宝くじが当たっても絶対に買わないが、これを好んで買う富裕層もいる。
彼らは「性能」「機能」では評価していないということである。

先ほどの記事にこんな一節がある。

知人の大阪在住のデザイナーが手がけるブランドは逆だった。数年前に大企業から離れ、小さな会社を立ち上げた。「これで、気兼ねなく好きな生地を買い、私のこだわりを詰め込んだ服が作れる。
デザイナーとして、モノを作る人間としてこんな幸せなことはない」と話している。
企業の中のデザイナーであったときはコストや売れ筋を常に気にしなければならなかったという。
今は生産数は極少数のため大きくもうけることはできないが、まずまず順調な経営状態とのこと。これぞモノづくりの神髄かと思った。

これはこれで一つの真実であり、事実だが、下町ロケットのドラマをちゃんと見ていれば彼らが異様に「製造コスト」や「採算性」にこだわっていたことも理解しているはずである。
当たり前である。工場がコストや採算性を度外視した物を製造するはずがない。
彼らは家内制手工業をやっているのではなく、大量生産を基本とした工業製品を作っているのである。

反対に、独立系の個人ブランドのデザイナーでも採算性、コストは重視している。
重視していなければそんなブランドは短命で潰れる。
もちろん、1シーズンの展開型数の中に、採算度外視のアイテムがいくつか含まれていることはある。
しかしそれ以外のアイテムはコストや採算性を考慮して作られている。

高品質な生地は1メートル何千円、何万円という価格になる。
これを満足いくまでふんだんに使って服を作ったら、服の販売価格は軽く10万円前後になる。
10万円の服が売れるようなブランド力があれば別だが、ラグジュアリー系ブランド以外にそんな力はない。

そういう服を作っている若手デザイナーブランドもあるが、そういうブランドは決まって採算性が悪い。採算性が悪いというより売上高そのものが低い。

それで「満足だ」という物作りの姿勢もそれはそれでありだ。

しかし、そういうブランドばかりがいくら増えても、生地の供給元である生地工場、縫製工場は潤わない。
生地工場、縫製工場がなくなればそういうブランドは「物作り」はできなくなる。

長年付き合いのある独立系のデザイナーは「青天井に値段の高い良い生地を使いたいと思うことがあるが、採算性やコストを考えてそういう生地は選ばないようにしている」と話している。
これが実際のブランドの「物作り」だろう。
逆に記事中に出てくるブランドの経営は大丈夫なのかと心配になる。

下町ロケットのヒットによって、勘違いした「物作り系」の人々が多数湧くかと思われるが、そんな感情家は業界にとっては、百害あって一利なしだ。

下町ロケット (小学館文庫)
池井戸 潤
小学館
2013-12-21


下町ロケット2 ガウディ計画
池井戸 潤
小学館
2015-11-05


ファッション用途の高級素材はその「良さ」がわかりにくい

 連続テレビドラマ「下町ロケット」の視聴率が好調だそうだ。
筆者も毎回楽しく見ている。

佃製作所というエンジンメーカーが町工場(と言っても100人以上の社員を抱えている)として物作りに打ち込む姿を描いている。

ひたすらに高品質なエンジンとその部品作りに励んでいる姿に、胸アツになる視聴者も多いのではないかと思う。

佃製作所は大手による嫌がらせにもめげることなく、自社の製品の高性能さを突きつけることで様々な困難を突破していく。

昨今、物作りについて日本製が見直されているが、衣料品や生地、素材に関していえば、佃製作所のようにはなかなか行かない。

一口に生地と言ってもさまざまな切り口があるが、機能素材はその性能の高さを証明することは簡単である。
様々な実験データでそれを証明することができる。
あとは再現性が確保されていれば良い。

製造コストの高低はあるが、製造コストが高い機能素材なら、競技用とか専門職用などの販路へ、製造コストが低い機能素材ならこちらは量販店系へ販売できる。
また消費者にも説明しやすいし、消費者も理解しやすい。

「これはこれだけの機能があって、この値段になります」と言われると大概の消費者は納得する。
それでも値引き交渉をするかどうかは消費者個々人の性格の問題である。
前提条件は共有化されている。

一方、ファッション用素材はわかりにくいと感じる。
風合いが良いと言ったって、そんなものは主観によって差異が生じる。
すごく風合いが良いと思う人がいる反面、そうでもないと感じる人もいる。

また高額素材だからと言って耐久性や機能性に優れているわけでもない。

むしろ、劣っている場合も多い。

例えば、仕立てれば20万円とか30万円になるようなスーツ生地は耐久性が無い場合が多い。
1日着用したら何日か寝かせる必要がある。
その昔、そういうスーツを仕立てたという業界の先輩によると、2~3日、連続着用しただけで袖口が擦り切れ始めたという。
その先輩によると「こういうスーツは5着くらい所有して、毎日ローテーションで着まわさないとダメだった。勉強になった」とのことだった。

おそらく、大手総合スーパーで販売されているような7000~1万円くらいのスーツ地の方が耐久性は高いのではないかと思う。

デニム生地にしてもそうだ。
厚手でごつごつした凹凸感のあるデニム生地が高額である場合が多いが、機能性が高いとは言えない。
またその生地で作るジーンズの形にもよるが、よほどにゆったりとしたシルエット以外は、着用すると動きにくい。
ハートマーケットあたりで1900円で売られているスキニージーンズに使われているストレッチデニム生地の方がよほど機能性が高くて快適である。

高級素材とされるシルクにしてもそうだ。
シルクには様々な優れた性質もあるが取り扱いが難しい。
洗濯や保管にはとくに気を使う。

言ってみればかなり「不便」な素材だといえる。
ユニクロがシルクを大々的に打ち出したことがあったが、それほどの反響がなく、取り扱いも終了していることを見ると、ユニクロで買うような層には「不便」なシルク素材のアイテムは必要なかったのではないかと思う。

こうして見ると、一般大衆に高級なファッション素材をアピールすることはひどく難しいと感じる。
単に「高い糸を使っているから」とか「希少性の高い素材で」とか「伝統の技法で織りあげた」とかそういう文言で納得する人は少ないのではないかと思う。

そういう物を欲しいと思わせるには、きっと違うアプローチ方法が適切なのだろう。

どういうアプローチが適切なのかはまだ筆者自身が見えていないのだが、今までのように「高い糸を使ったから」とか「伝統の技法で織りあげた」とかいうような説明をいくら繰り返してもそれが購買につながる決定力にはならない。

もちろんそういう事実は説明する必要があるが、それを説明したから購買につながるというわけではないということを頭に入れてアプローチ方法を模索するべきではないか。

佃製作所が扱う工業部品のように、性能と機能性とコストだけですべてが決まればラクなのだが。


下町ロケット (小学館文庫)
池井戸 潤
小学館
2013-12-21


下町ロケット2 ガウディ計画
池井戸 潤
小学館
2015-11-05


下町ロケット
池井戸潤
小学館
2015-08-14


下町ロケット2 ガウディ計画
池井戸潤
小学館
2015-11-05



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