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最後に背中を押したのは?

 ビッグジョンの経営が新体制に移行したわけだが、それを最終的に後押しした要因の一つに「ディッキーズ」ブランドが2011年末で無くなったことがあると思う。
2011年にディッキーズジャパンが設立されたことは記憶に新しい。

2002年にビッグジョンはディッキーズのサブライセンシー契約を結んだ。
カジュアルパンツ部門についての契約である。

記憶をたどると、2002年当時は今ほど「ディッキーズ」は人気ブランドではなかった。
割合に昔から流通しているブランドだったし、商品もそれほど特徴のあるデザインではなかった。
ベーシックでちょっとユニフォームチックなチノパンが多い印象だった。

ビッグジョンの前はワーキングユニフォーム大手の自重堂がカジュアルパンツ部門でサブライセンシー契約を結んでいたと記憶している。

そんなわけで2002年当時の筆者はディッキーズにそれほど注目を寄せなかった。

ところが、2000年代後半になると特にメンズで、ディッキーズ人気が加熱してきた。
2007年でジーンズブームが終わり、代わってチノパンが人気アイテムとして伸びてきたので、おそらくその兼ね合いもあったのだろう。
それなりの歴史を持ちつつ、メジャーすぎないブランドというところが受けたのかもしれない。

2010年ごろにはビッグジョンの経営を支えるようなブランドにまで成長した。
そのころのディッキーズの売上高が10数億円だったと耳にしている。

先日、山陽新聞でビッグジョンの直近の売上高(13年1月期)が25億円だと発表されていたが、ビッグジョンの幹部によるとあれは新聞側の独自の調査によるものだという。
しかし、当たらずといえども遠からずだから、その数字を引用すると、ディッキーズの売上高がそのまま残っていれば売上高は40億円内外あったことになる。

一気に10数億円の売上高が2011年末を最後に無くなったのはとてつもなく痛かったことだろう。

これが無くなったことで旧経営陣も決断を下したのだろうと思う。

しかし、「好調だ。好調だ」と耳にしていた「ディッキーズ」でさえ、売上高は10数億円にすぎなかったというのが、単品アイテムの卸売りビジネスの限界点を感じさせる。
「ディッキーズ」はファッション雑誌での露出も格段に多かったし、有力セレクトショップとのコラボレーションも多かった。それでもその程度の売上高だったということになる。

高度経済成長期やバブル期を経た卸売り主体のジーンズナショナルブランド各社が、最盛期には売上高100億円を軽々と突破していたことと比べると雲泥の差がある。

単品アイテムの卸売り型アパレルで売上高100億円を越えるようなことは今後ないだろう。
直営店展開を組み合わせるか、20億円内外の規模のブランドを複数所有するかでないと実現はできない。

以上のような状況を受け止め、ジーンズ業界は「古き良き時代の夢」から覚めなくてはならないのではないだろうか。

単品アイテムの大規模卸売り時代の終焉

 ジーンズメーカー、ビッグジョンの再建計画が発表された。
以前から耳にしていた内容よりはずいぶんとソフトな内容となっており、正直、ほっとした。

http://www.sanyo.oni.co.jp/news_s/news/d/2013040608014159

 ジーンズメーカーのビッグジョン(倉敷市児島下の町)が経営不振に陥り、地元金融機関など出資の官民ファンド「おかやま企業再生ファンド」の支援で再建を進めることが5日、分かった。ファンドが金融機関から債権を買い取ることで、約40億円の借入金を大幅に圧縮。経営陣も刷新し立て直しを図る。

 同社は1965年に国産初のジーンズを手掛けた老舗。ピークは182億円(93年1月期)を売り上げたが、低価格ジーンズに押され、2013年1月期は25億円までダウン。07年1月期から最終赤字が続いていた。

 再建策は、メーン行の中国銀行(岡山市)など2行が、担保で保全されない約30億円の債権を時価(回収可能と見込まれる額)でファンドに売却。ファンドは購入後に大半を債権放棄し、ビッグジョンの金利負担を軽減する。ファンドの出資と中国銀の新規融資で計約3億円の金融支援も実施。一般債権のカットなどは要請せず、取引先への影響はないとしている。

 国内唯一の本社工場は閉鎖し、児島地区を中心とした協力工場と中国の子会社での生産体制に移行する。希望退職による人員削減や資産処分を進めながら、持続可能な事業モデルの構築を目指す。

 創業家の尾崎博章会長と尾崎篤社長は経営責任を取って退任し、新社長に市原修・東京支社東日本エリアマネージャーが4日付で内部昇格した。ファンドも管理部門に人材を派遣してバックアップする。

とのことである。

この山陽新聞の報道が一番内容が詳しい。

ただ、不満もある。
紋切り型に「低価格ジーンズに押された」としている点だ。

ボブソンの倒産時にも同じ分析がなされていたが、この2社にはこれは当てはまらない。

以前に日経ビジネスオンラインにこんな記事を書いたことがある。

「低価格競争に敗れた」が本当か考えてみよう
ジーンズメーカー、ボブソンの再生断念から何を学ぶか
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120502/231651/?P=1

それにしても、一度倒産したボブソン、今回のビッグジョン、再建問題に揺れるエドウインと国内大手ジーンズメーカーはそろって経営難に直面している。
大手だけではない。一般紙や経済誌が報道しないだけで経営難が原因で、社内再編をした中規模メーカーもけっこうある。
そういう意味ではジーンズ専業アパレルというジャンル自体の存続が難しくなっているのかもしれない。

90年代半ばのビンテージジーンズブームの印象が強すぎたのか、一般紙などではいまだにジーンズ=ビンテージという図式を描いている場合があるが、ビンテージの現在の市場は極めて小さく、経営コンサルタント会社によると最大手のエヴィスですら50億円未満の売上高だと推測されている。
その他ブランドの年商は2億~10億円内外である。
この市場を否定するつもりはないが、市場規模からすると好事家・伝統工芸品の世界と見て差支えないだろう。

広く大衆に支持されるマス商品としてジーンズ単品が成り立つかというと、それが難しい時代になっている。
同じような状況で衰退したのが、シャツ専門アパレルだろう。
こちらはジーンズほどのマス商品ではなかったが、10年ほど前まではメンズのワイシャツを専門に企画製造販売している大手が数社以上あった。
今、残っているのはフレックスジャパンと山喜とSPA化した東京シャツ、中堅のスキャッティオーク、日清紡に子会社化されたCHOYAくらいだろうか。

ジーンズもワイシャツも単品アイテムの卸売りが隆盛を極めるという時代が長く続いたが、その時代はもう終わった。

新生ビッグジョンには心機一転がんばってもらいたいが、今回の再建計画発表は、ジーンズ単品の大規模卸売り時代の終焉を象徴しているように感じられる。

洋服の価格はユニクロが基準に

 先日、老舗ジーンズメーカー・ビッグジョンの取材をした。
その席上でビッグジョン側から「消費者にとってベーシックなブルージーンズの価格は、ユニクロ基準になっています」との発言があった。
これに対しては賛否両論あるだろうが、個人的には「ジーンズ」というアイテムの現状を客観的に正しく見ていると評価したい。

ユニクロのジーンズは3990円である。
これを定価で買う人間はあまりいないと思う。
急いで定価で買わなくても数量はたっぷり揃えてあるし、何週間かに一度必ず土日値引きの対象商品となる。
だいたいの場合2990円だが、ごくまれに1990円に値下がりするときもある。
おそらく大概の消費者は2990円で購入していると思われる。

さて、ビッグジョン側の分析であるが、
「定価3990円のユニクロのジーンズを大半の人間が2990円で買っている。われわれジーンズ専門メーカーが同じクオリティの商品を同じ価格で製造できるかと言われれば、まず不可能である。どうしても5990円くらいになってしまう」という。(ユニクロの生産数量がケタ外れに多いので、1枚当たりの生産コストはビッグジョンよりも安くなる)
さらに「だとすると消費者は、我々のジーンズを5990円で買わない。ユニクロのジーンズを、しかも土日値引きの2990円で買うだろう。我々のジーンズは、ユニクロよりも圧倒的に素材感やシルエット、デザインなどのクオリティを高めて8000円以上や10000円以上の商品にするしか方法がない」と続けた。

そして「だから我々は4990円とか5990円という中間価格帯を止め、8000円以上・10000円以上の高額商品を強化するという施策を採ります」と結論付けた。

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なぜ、こんな話をするかというと、「ユニクロ価格が基準」というのは、何もジーンズに限ったことではないと考えているからである。
例えばTシャツ、ラムウールセーターなども「ユニクロ価格が基準」だろうし、それ以外の多くのカジュアルアイテムの価格も「ユニクロ基準」であると思う。

ちょうど10歳年下の東哲平というデザイナーがいる。
大阪拠点で「RBT」という自分のブランドを展開している。
10歳年下の割にはなかなかしっかりしており、こちらがたしなめられることも多い。

彼もベーシックなグラフィックプリントTシャツは値段が通らないということでほとんど製造していない。
目には見えないが、「ユニクロなら1500円という基準」が存在しており、ベーシックグラフィックTシャツを5000円くらいで製造してもほとんど売れないのだという。
思い切って切り替えを多用したり、デコラティブなデザインにして10000円前後の値段を付けた方が売れるのだそうだ。

Tシャツに絞って考えるなら、「ビームスやユナイテッドアローズのPBはどうなんだ?」という疑問も湧く。
現在の店頭を見るとビームスのPBのグラフィックプリントTシャツの中心価格は2000円台~3000円台が中心であり、ユナイテッドアローズもほとんど同レベルだろう。
ユニクロのTシャツとの価格差は500円~1500円というところだろうか。

これくらいならの価格差ならビームスやユナイテッドアローズのブランド力があれば、かろうじて対抗できる。
蛇足ながら付け加えると、いくらビームスやユナイテッドアローズのブランド力でもPBのベーシックなグラフィックプリントTシャツが5000円を越えればそうそうは売れない。
5000円以上の価格で売れるのは、PBでも圧倒的に変わったデザイン・色柄・グラフィックの商品か、他社から仕入れた圧倒的に強いブランド力のある商品かのどちらかである。

しかしRBTのような小規模で知名度もそれほどないブランドの場合、5000円のTシャツでは到底ユニクロに太刀打ちできない。
だから「ベーシックではない」デザインで10000円以上のTシャツにするのである。
明らかに差別化できるから。

ついでに言えば、無地のラムウールセーターなら「ユニクロの1990円」が間違いなく一つの基準となる。

結局、他のアイテムや他のブランドでも同じであるが、ベーシックな商材では「ユニクロ基準価格」には勝てない。
ユニクロ基準価格を乗り越えるためには、明らかに素材感・デザイン・色柄・シルエットなどで勝っている必要がある。そして価格も明らかにユニクロよりも高く設定しなくてはいけない。

ターゲットは絶対に中~高所得者層である。

今ふと思い付いたのだが、各ブランドのターゲット顧客は、年齢やテイストではなく、所得の多寡を第一優先にすべきではないか。

所得>テイスト>年齢

というのが優先順位ではないだろうか。

中~高所得者層に向けて、明らかにユニクロとは差別化できた外観を持つ高額商品を販売する。
これがユニクロ以下の規模しか持たないアパレルが採るべき方向性ではないかと思う。

ジーンズの国内販売市場規模は?

 ジーンズ売り上げが低迷(反対にチノパン、ワークパンツ類は伸びている)ということを良く書いてきたのだが、ジーンズの年間国内販売数量というのは、だいたいどれくらいかと言うと、はっきりした統計はないのだが、一般的に「9000万本~8000万本」と言われている。

売り上げが好調な場合は9000万本、場合によっては9000万本を越えるが、1億本には届かない。一方、不調なら8000万本。過去7000万本台にまで落ちたことはないと言われているが、もしかしたら2011年は7000数百万本に低下するかもしれない。

大雑把に分けて好調不調で約1000万本の販売数量の差がある。

1000万本というと大きな数字だが、全体数量が3割減になったり、半減したりしないところが、ある意味で「ジーンズの底堅さ」があるともいえる。

このうち、ユニクロのジーンズ年間販売数量が1000万~1200万本と言われており、国内市場の7分の1を占めているから驚く。

一口に「1万本」などと、自分も簡単に口にしてしまうのだが、実際には莫大な数量である。
エドウィン、リーバイス、ビッグジョン、旧ボブソンなどの大手ジーンズ専業メーカーのヒット商品と言われる基準は、品番やメーカーによっても異なるが、だいたい「2万~5万本」ではないだろうか。とくに2000年に入ってから「1型で10万本売りました」などという話しは聞かず、ここ数年なら1型1万本でも十分にヒット商品と言えるのではないか。

で、ここから売上高を計算してみたいのだが、
1本の店頭販売価格がだいたい9800円~13000円くらいまでの商品が多いので、仮に1万円だとしておく。
その1万円の商品が大ヒットして2万本生産した。

そうすると1万円×2万本(10,000×20,000)で2億円の売上高になる。
これは店頭売り上げが2億円であり、通常、メーカーはお店に卸売りするので、当たり前の話しだが卸売り価格はもっと安い。
昔は「6掛けで卸す(店頭の60%の価格が卸売り価格)」と言われたが、今はそんなことはない。55%とか50%とか45%になっており、場合によってはもっと低い掛け率で卸している。
1万円の商品なら6掛けだと卸売り価格は6000円ということになる。

ここでは卸売り価格を50%として計算すると、先ほどの商品は店頭売り上げは2億円だが、メーカーは1億円で卸していることになる。

こう考えると、大手ジーンズ専業メーカーは2万本のヒット商品があっても、その売上高は1億円にしかならない(我々庶民には1億円は莫大な金額だが)。しかも、大手ジーンズメーカーの中では、エドウィンとリーバイスが年間売上高100億円を越えている。
単純化すると、この店頭価格2億円分の商品が、あと99種類ないと年間売上高100億円にならない。

こう考えると、年間100億円以上の売上高があるジーンズ専業メーカーのすごさが改めてわかる。

ジーンズ専業メーカーは、売上高を作るために過去はとにかく品番を増やした。10年くらい前のリーバイスで言えば501があり502があり、503、504、505があり、511、512、515、517がある。さらに646とか702とかその他デザインパンツ類があった。
正直、品番とシルエットの違いを覚えるだけでも一苦労だったのだが、品番数を増やさないと売上高100億円以上を維持することは不可能だったのだろう。

それから、これは年始の繊研新聞でも言及されていたのだが、ジーンズ専業メーカーは売上高と売り場シェアを高めるために、ジーンズチェーン店に積極的に納品していた。それは構わないのだが、ほとんどの場合、それは店の買い取りではなく、売れた分だけメーカーに支払って売れ残った商品は返品するという委託販売だったため、期末の返品受け取りによる利益ロスも大きかった。
通常、期末に返品された商品は、値引きされて再出荷されたりするので、そこでもまた利益は低下するという図式となる。

常々、ジーンズ専業メーカーは売上高100億円を維持しようとせずに、30億円くらいの売上高を維持しながらブランド力を高める方が良いと考えているのだが、上記のような図式のままで無理やり売上高を拡大するよりも、思い切ってダウンサイジングした方が利益も高くなる。ただしその場合は、余剰人員の首切りが必要となるため、軽々しくは動けないという事情もあるのだが。

ジーンズがアパレル全体に広まった理由

 昨日紹介した週刊プレイボーイのユニクロ9990円ジーンズの記事内で、エドウインやリーバイスなどのジーンズ専門ブランド以外が広くジーンズという商品を生産できるようになった背景について「ジーンズ専門ブランドを退職して、ユニクロはじめとする各アパレルに就職する人が増えた」という説明がある。

これはまったくその通りで、ビッグジョンの尾崎篤社長も「ジーンズ業界のOBがアパレル各社に散らばったからジーンズがアパレル業界全体に広まった」とおっしゃっている。

ただ、記事内では「金銭による引き抜き」を理由として挙げているが、退職するのは金銭理由ばかりではないのが現状だ。
リーバイ・ストラウス・ジャパン社を除くジーンズ専門アパレルは、一族経営であり、創業から30~40年以上を経過している企業も多い。しかも企業規模はそれほど大きくなく数十億円内外がほとんどで、現在、売上高100億円を越えているのはエドウインとリーバイスだけである。

企業規模が大きくなく、一族経営、そして企業歴が古い。となると、多くの場合、「企業体質の古さ」「○○家の家業」につながりやすい。
極論を言えば、お父ちゃんが社長で、息子が専務、お母ちゃんが経理、従業員は何だかよくわからないが○○家の使用人。みたいな図式に陥りやすい。
こういう体質に合わなくて辞めていく若い人、そこでのコップの中の権力闘争に敗れて会社を去る人が数多くいる。しかし、彼らとて某かの収入は必要だから、自分の持っているスキルを次の仕事先で生かす。
それがたまたまユニクロであり、ジーンズ専門アパレル以外のアパレル各社だったということになる。

ジーンズ専門ブランドがジーンズ生産のノウハウを囲い込もうとすると、今よりも厳格な終身雇用制度を敷かない限り人材の流出は止められない。しかも業界自体の歴史が長いため、流出した人材も多数に上るということになり、ジーンズの業界全体への広まりは自然な流れといえる。誰が悪いわけでもない。

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