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ZOZOのオーダースーツがホールガーメントで作られるという完全なるミスリード

スタートトゥデイがオーダースーツを開始することが発表された。

生地が伸び縮みして多少のサイズ違いなんてどうとでもできるTシャツとは異なり、メンズのスーツ、ワイシャツというのはそれこそ「ミリ単位」は大げさでも「1センチ単位」での正確さが要求される。
首回り39センチの男が、40センチのワイシャツを着るのはひどくだらしなく見える。

それほどの精度が求められる。

自己採寸できるZOZOSUITによる計測は現在のところ、誤差が大きく、果たしてあの誤差で大丈夫なのかと思ってしまう。

とはいえ、まあ、オーダースーツに進出するのは規定路線だっただろうから、当方はそれほど興味がなく、発表も注目していなかった。

ついでに言っておくと、スタートトゥデイは「フルオーダー」と言っているが、これは間違いで、「パターンオーダー」である。
フルオーダーというのは一人ずつ型紙(パターン)が全く異なり、型紙作りから行われるオーダーであるが、そのため価格も非常に高額になる。定価として発表されている39,900円なんて低価格では絶対に実現できない。

 

パターンオーダーとは「原型」となるパターンがあり、それを基に各個人の体型に合わせて修正するオーダーであり、こちらは比較的低価格にすることが可能だ。

ゾゾの定価である39900円という値段設定は、パターンオーダーなら極めて当たり前の平均的価格である。

スーツカンパニーのオーダースーツの最低価格は39000円だし、麻布テーラーのオーダースーツの最低価格は37000円でzozoよりも安い。
グローバルスタイルなら2着48000円で、1着当たりは24000円となり、zozoよりも圧倒的に安い。

オンリーならオーダースーツが1着28000円、2着38000円で2着作ってもzozoよりも安い。

zozoのパターンオーダースーツの定価設定は同業他社よりも高いくらいに設定されているというのが事実である。

発表後、ツイッターのタイムラインには「ZOZOがオーダースーツをホールガーメントで無人製造」みたいな意味不明のツイートが多数流れてきた。

それもある程度業界知識があるはずの人まで一緒になってやっているのだから呆れ果てるほかない。

よく記事を読んでみると、スタートトゥデイの発表は大きくわけて2つの項目があった。

1、オーダースーツを開始すること
2、ホールガーメントを導入すること

である。そしてこの2つのトピックスは全くの別物で、オーダースーツとホールガーメントは何ら関係ない。ホールガーメントはあくまでもセーターなどのニット製品向けである。
それを2つを合体させてしまうからわけのわからないことになっている。

1、ラーメン屋に行った
2、そのあとでユニクロに行って服を買った

というのを「ラーメン屋でユニクロの服を買った」と合体させてしまうのと同じくらい意味不明である。

ではどうしてホールガーメンで通常のスーツが製造できないのか説明していく。

ホールガーメントとは?

 

ホールガーメントとは、島精機製作所が開発したニット編み機で、一体成型でセーターが編み上げることができる。
これが開発された理由の一つに、国内リンキング工場の激減という事情がある。

同じ編み物でありながら、セーターとカットソー(Tシャツ類)は業界では区別される。

Tシャツ類は、各パーツを縫い合わせる(縫製する)ことに対して、セーターは袖口や裾、襟のリブを縫い合わせるのではなく、編み合わせる。これを「リンキング」という。大雑把に、リンキングされている物はセーター、されていない物はカットソーと業界では分類される。

リンキングはセーター本体と比べると、極めて細い針をセーター本体の編み目に通して編み合わせる作業なので、視力が良くないとできない。
国内工場はリンキングに限らず、高齢化が進んでいるから、老齢で視力が衰えるとリンキングは満足にできなくなる。
そしてリンキング工場は儲からないし、その技術を生かして独自製品を開発することもできない。
結果的に廃業していくということになった。

リンキングなしでは「セーター」は製造できないから、その解決法の一つとして、一体成型のセーターが提案された。
これがホールガーメントである。

今回の発表でにわかに注目を集めたホールガーメントだが、開発されたのは相当前で20年くらい前の話である。
もちろん毎年改良は加えられているが、何も「最新鋭技術」というわけではない。

ホールガーメントはいわゆる頭被りのオーソドックスなセーターだけではなく、前開きのカーディガンやらニットジャケットなんかも編めるし、ニットスカート、ニットワンピースも編める。

だから、ニットジャケット、ニットズボンも編めるが、いわゆる「通常のスーツ」は製造できない。
もし、ニット生地を縫製するならスーツは製造できるが、ホールガーメントの一体成型では「通常のスーツ」は製造できない。

なぜなら、一体成型ということは芯地を挟み込むことができないからだ。

「通常のスーツ」、とくにテーラードジャケットがパリっとしているのは、芯地を挟んで縫製されているからだ。
ついでにいうとワイシャツの襟と袖口が胴体よりも硬くてパリっとしているのはそこに芯地が挟み込まれているからである。
だからホールガーメントでワイシャツを製造することもできない。

高級スーツ、高級ワイシャツになればなるほど使っている生地は柔らかく薄くなる。
そんな柔らかくて薄い生地を2枚重ねて縫ったところで、多くの人が想像するようなスーツやワイシャツみたいにパリっとはしない。
その間に芯地を挟み込んで縫製するから硬くてパリっとするのである。

一体成型なのだから芯地を挟み込んで縫製なんてできるわけがない。
だから多くの人が思い描く「通常のスーツ」「通常のワイシャツ」はどうしたってホールガーメントでは製造できない。

だが、例えば、通販ニュースですらこの混同ぶりだ。

ZOZO、海外展開開始…ゾゾスーツなど10万人に無償配布

 

 

 PB商品の生産体制についても言及した。「体型データ」と「オンデマンド生産機器」を組み合わせた生産を行うとし、一例として(株)島精機製作所とコラボレーションし商品ごとに最適な製造インフラを構築すると言う。前澤社長が「3Dプリンターの洋服版」と称した「WHOLEGARMENT(ホールガーメント)」という機械などを使用し、無人のアパレル生産を行うとした。

これだと、ホールガーメントという機械wwwでどんな洋服でも製造できるように読めてしまう。
残念ながら製造できるのは編み物に限られている。
だからセーター、カットソー、トレーナー類に限定される。

ジーンズ風ニットズボンは製造できても、「通常のジーンズ」は製造できない。

織物と編み物の違い

 

生地には織物と編み物があり、それぞれ生地の構造も製造する機械の構造も異なる。
少ない本数の糸を輪っか状にして連結させる「編み物」と、合計何千本、何万本という本数の経糸と緯糸を組み合わせる「織物」はまったく別物の生地構造をしており、通常のスーツやワイシャツ、ジーンズは織物で作られている。

お分かりだろうか。

ツイッターでは、「布帛(織物)も一体成型できるようになる気がする」なんて意見もあるが、それは絶対に無理だ。
編み物は、脇に縫い目のないTシャツやセーターがあることを見てもわかるように、円形に編むことができる。しかし織物は平面の直線で織られており、円形に織ることは生地の構造上からも機械の構造上からも不可能である。

だから「織物の一体成型」は現時点では不可能で、それが開発されることはまずない。

一方、島精機製作所のウェブサイトにはインレイ編みで布帛に近いハリコシのあるホールガーメントができると書いてあることから、インレイ編みに期待を寄せた人もいるが、インレイ編みがいくら通常のニットよりもハリコシがあるとはいえ、芯地を挟み込まなければスーツにパリっと感は再現できない。

http://www.shimaseiki.co.jp/wholegarment/

インレイ技術を活用したホールガーメント製品で、驚きの軽さと快適な着心地が特長です。ジャケット、コート、スーツなど従来布帛でしかなかったようなアイテムをニットで表現できます。横方向に編成することで、横方向にストレッチ性を持たせながらも、縦方向には伸縮を抑えて形態を安定させることも可能です。

とあり、なかなかミスリードさせるような文面だが、芯地がなければ通常の布帛スーツや布帛コートのパリっと感は実現できない。
島精機も罪な書き方をしている。わざとだろうか?わざとだとすると極めて悪質だ。

インレイ編みってなんだ?インレイ編みは万能じゃない

 

じゃあ、インレイ編みってなんだろう?

最近ひそかなブームになりつつあるニットインレイ編みとは?

通常の横編み(いわゆるセーター生地)に緯糸を通すことで、ハリコシを持たせる編み方で、構造は以下の図のようになっている。

しかし、いくらハリコシが出るとはいえ、何千本・何万本もの経糸と緯糸で高密度に織られた織物には遠く及ばない。
ニットは所詮ニットなのであり、さらにそこに芯地がないとなれば、通常のニットジャケット、カットソージャケットの少し硬い程度でしかない。

スタートトゥデイはここを意図的か無意識なのか混同させるような説明の仕方をしていた。

そして、製造や生地のことの知識を持ち合わせていないメディア関係者や、知識の浅いファッション業界人はまんまとそれを鵜呑みにした。

それが今回の騒動の原因である。

スタートトゥデイは話題作りが上手いと思う。しかし、いつも優良誤認させるような手法を積極的に用い、今回もまたそういう手法を用いた。ここが好きになれない点である。

ホールガーメントは別に未来の最新テクノロジーでもないし、どんな服でも自動製造してくれる魔法の箱でもない。
ホールガーメントは20年くらい前に開発された一体成型型のセーター類専用製造機で、それ以上のものではない。

とんだ空騒ぎである。馬鹿馬鹿しい。

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「単なる手段」を「目的」だと履き違えたゾゾスーツ狂騒曲

連休の合間なので、昨日に続いてゾゾスーツについて。

ゾゾスーツ自体は計測するための道具であり手段に過ぎないが、ゾゾスーツへの支持・話題性の高さは、この「手段」が評価されたためといえる。「目的」を果たすにはゾゾスーツである必要性すらない。
とくに旧ゾゾスーツは、スーツ自体に近未来性があり、「手段」自体が高評価された。もしくは、多くの支持者が錯覚を起こした。

本来、計測したいのなら、別にあれである必要性はさらさらなく、家族に巻き尺で測ってもらったって数値が正確ならなんら問題はない。

量産化の目途もたっていないのに、旧ゾゾスーツの発注を開始したのは明らかにスタートトゥデイの勇み足でしかない。

当方はスタートトゥデイが嫌いだから、送料200円ですら支払うのが嫌で、旧ゾゾスーツも新ゾゾスーツも申し込んでいないし、これからも申し込まない。ついでにゾゾで服は買わない。同じ値段なら他のモールかそのブランドの直営ECで買う。

特に2000円を越える商品ならAmazonで買えば送料無料だし、アダストリアのドットエスティなら4000円以上で送料無料だし、ユニクロ・GUなら5000円以上で送料無料だ。ついでにいうと、店舗受け取りにするとユニクロ・GUは5000円未満でも送料無料になる。

何万円買おうが送料200円が必要なゾゾタウンでは絶対に買わない。もちろん何万円分も服を買うカネは当方は持ち合わせていないが。

それはさておき。

旧ゾゾスーツを勇み足で受注開始をし、何の断りもなく量産を撤回したからには、いくら無料(送料200円)とはいえ、注文者が不満を漏らすのは極めて当たり前といえる。

この反応に対して、Lineからスタートトゥデイに移籍した某役員がツイッターで、

「ゾゾスーツは計測する道具に過ぎず、メジャーや定規と同じ。定規やメジャーのデザインにそんなにこだわる必要があるのか?」



というような意味のことをツイートしていたが、部外者が言うならまだしも、スタートトゥデイの中の人間がこれを言ってしまうのはどうかと思う。
スタートトゥデイと旧ゾゾスーツが支持されたのは、「単なる道具」が「目的」だと優良誤認された結果だからだ。
その優良誤認の恩恵を最大限に被った会社の人間が何を言っているのかとあきれるほかない。

決して「計測した結果」が評価されたのではなく、「計測する手段」が過剰評価されたに過ぎないといえる。本来なら、自動巻き尺でもエキナカ計測システムでもなんでもよかったのである。

今回は消費者を巻き込んでの大優良誤認大会になってしまったが、アパレル界隈・繊維業界界隈ではこういう「手段」と「目的」の履き違えはよくある。
今だと差し詰め、猫も杓子もネット通販・EC比率向上だろうか。
20年前だとクイックレスポンス対応(QR対応)だったし、52週MDだったし、SPA化だったし、10年前ならライフスタイル提案型ショップだった。
そのいずれもが、本来は「物を売るための道具にすぎない」にもかかわらず、そこに対応することが業界全体の「目的」だと誤認された。

物さえ売れれば別にQR対応も52週MDもSPA化もライフスタイル提案型ショップもネット通販も必要ない。

 

そういう根本的な原則を各社・各ブランドは見誤って、そういうシステム構築を目的化した結果が今のアパレル不振である。

コンサルタントの河合拓さんが、今回のゾゾスーツ騒動について触れておられる。

https://comemo.io/entries/7255

騒いでいる人の騒いでいる理由が不明。となりで火事が起きるとかけだしわっせと騒ぐ騒ぎ屋さん達。実は、SNSなどで大騒ぎしている人は、ZOZOで買うのはスーツで無く服だということを忘れているのではと思います。服を見たこともない、着たこともないのに、未来的なボディースーツのデザインだけをみて、ユニクロもこれで打撃を受ける。ZOZOは世界制覇をする、など、テクノロジーに騒いでいるのです。
巷で言われる、目的と手段の逆転ですね。おそらく、売られているのが、デニムとTシャツだということさえ知らないのではないでしょうか。PBを売るためにこのスーツを開発したのに、騒いでいる人はスーツについて騒いでいる。全く理解できない話しです。

とのことで、これは本当にゾゾスーツに限らず、日本の消費者・アパレル業界が常にこれまでおかし続けてきた「手段の目的化」と同じであり、スタートトゥデイへの消費者の支持も優良誤認の賜物であると当方は見ている。

さらにいうなら、旧ゾゾスーツ発表時に掲げた「ミリ単位の精度」も優良誤認を意図的に招くキャッチフレーズだったといえる。

一口に衣料品といっても、ミリ単位の精度を必要とされる商品と、まったく必要とされない商品がある。

生地の話でいうと、編み物(ニット、ジャージ)やストレッチ素材が入った織物は何センチ単位で伸縮するので、ミリ単位の精度なんて全く不要だ。
例えば、セーターやTシャツは普通に3センチくらいは伸縮性がある。だからサイズが少し小さくても着られるし、引っ張って伸ばし続ければ、伸びた状態にもなる。
自社企画ブランド「ゾゾ」でTシャツを販売しておきながら、「ミリ単位の精度」なんて言ってる時点で意味がおかしい。

ストレッチ素材が入った織物(布帛)も同じで3センチくらいは伸び縮みするから「ミリ単位の精度」なんて不要である。

身幅よりも着丈の長短には気を使う部分もあるが、あえて短めに着る・あえて長めに着るという着方もあるため、センチ単位の精度は必要になってもミリ単位の精度なんてものはまったく必要ではない。

以前にこのブログでも書いたが、縫製段階ですでに1~5ミリ程度の誤差は常に生じているのである。

もちろん、ミリ単位は大げさに過ぎても、1センチ単位での精度を求められる服もある。
例えば、メンズのワイシャツ、ビジネススーツ、メンズ・レディースの靴などである。

メンズのワイシャツの首回り・袖丈は1センチの違いで着こなしが大きく変わる。
首回り39センチではピチピチだが、40・5センチならジャストサイズ、41センチだと不格好ということは普通にある。
袖丈も同じで、あまりに長すぎるとおかしいし、短すぎてもおかしい。手首のラインの上下1~2センチくらいが誤差の範囲内だ。それを越えると不格好になる。

靴はもっとも精度が求められる。
表示サイズで5ミリ小さければ、足を入れることさえできない。

ゾゾスーツであってもなくても、これらの商品をECで売るためには計測システムが必要になるが、Tシャツやセーター、トレーナー類ではまったく必要ではない。

最後になるが、河合さんが提言しておられるが、「サイズ」にこだわりすぎる今の風潮も服にとってはおかしな状況であるといえる。

しかし、世の中はサイズの話題ばかりがフィーチャーされている。また、カスタム・オーダーの話しをすると、必ず暗黙的に論点が(なぜか)サイズの話になっている。

スタートトゥデイは「サイズを計測してカッコイイ着こなし感のサイズの黄金比を算出する」とぶち上げているが、その「黄金比」とやらはだれが決めるのか?

例えば、オーダースーツ屋は各部位のサイズを計測するが、その各部位のサイズを単純につなぎ合わせるというようなことはしない。
それを直線で結ぶのか、それとも曲線で結ぶのかを職人が決める。
大手アパレルならデザイナーやパタンナーが決める。
そこには数学的な数値だけではなく、それこそ美的センスも必要になる。(この言葉は嫌いだが)

かつてのエディ・スリマンのディオールオムはピチピチがカッコいいとされ、現在のヴェトモンはダボダボがカッコいいとされている。そのシルエットを提案したのはデザイナーのセンスであり、デザイナーの独断と偏見による決定である。
そして世間はそのどちらもを「カッコイイ」と見ており、画一的な基準は存在しない。

じゃあ、スタートトゥデイは誰が、「そのシルエットがカッコいい」と決めるのだろうか?

前澤友作社長がそこまでのセンスを発揮して独断と偏見でシルエットの基準を決めるのだろうか?個人的には彼が決めたのなら、その基準はちょっと受け入れがたい。一体、どれくらいの人が彼が決めた基準を甘受するのだろうか。当方はそれほど多くないと見ているがどうだろうか。

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スタートトゥデイの「中期経営計画」と「新ゾゾスーツ」に対する疑問

4月28日からゴールデンウィークの連休が始まった。
連休に入る直前の27日夕方、株式市場が終わった直後くらいに、スタートトゥデイから「ゾゾスーツの失敗と新ゾゾスーツ」「中期経営計画」の2つが発表されたが、個人的にはどちらも疑問しか感じない内容だった。

まず、ゾゾスーツの失敗と新ゾゾスーツだが、生産に至ることができずに新方式でのゾゾスーツを発表した。

スタートトゥデイ、“ZOZOSUIT”生産失敗で約40億円の損失を計上
https://www.wwdjapan.com/607378

体型を採寸できるスーツとして注目を浴びたゾゾスーツだったが結局は量産化できずに終わった。
旧ゾゾスーツは、着用してスマホと連動させることで一瞬で体型が採寸できるという触れ込みで、ここに未来性を感じた人が多く、その人々から高く評価された。
昨年10月末に発表されたものの、年が明けてもほんの一部の人間にしか配布されておらず、いわば掛け声だけの「幻」の状態が4月まで続いていた。

どうなっているのかという声も多数上がっていたが、2月にはスタートトゥデイは別のアイデアを3億円で買ったという報道があった。

「ゾゾスーツ」超えるアイデア 3億円で買い取り
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26992020W8A210C1000000/

この時点で複数の業界人からは「これは先に発表されて動きがないゾゾスーツを諦めて、こちらに乗り換えるつもりだろう」という指摘が出ていたが、まさしくその通りの展開になった。

旧ゾゾスーツを申し込んだ人はもれなく、新ゾゾスーツに替えて送付されるとのことだが、この対応は個人的には疑問だ。
まず、旧ゾゾスーツの量産失敗、もしくは量産断念を先にアナウンスすべきではないのか。
それを4月末まで隠しておいて、いきなり「新ゾゾスーツに替えて送付します」というのはちょっといただけない。

今回は、販促戦略もあって無料送付だったから、各人に金銭的被害は発生していないが、通常買い物をした場合なら、その商品がなければ先にそれを説明する。そのうえで、代替品を用意すると説明する。
いきなり、代替品のアナウンスと同時に量産断念をアナウンスするのはどうかと思う。

生産コストは1着1000円で、費用は広告宣伝費に計上するという。発表会ではデモンストレーションを実施したが、音声にしたがって全身の撮影をするため、旧型に比べると計測にかなりの時間がかかるようだ。

着ただけで採寸できるのではなく、着てそれを音声に従ってカメラで撮影して採寸するという新ゾゾスーツがすごく性能が良いという擁護記事がさっそく書かれているようだが、フェイスブックの書き込みでは「使いにくい」「採寸が正しいのかどうかわからない」という書き込みもあり、一概に擁護派のいうようなメリットばかりではないと考えられる。

また、中期経営計画だが、ちょっと実現は困難なのではないかと思う。
株価対策のために盛ったのだろうか。

ゾゾ初の中期計画、2年後に商品取扱高5000億円突破、PBは3年で2000億円へ
https://www.wwdjapan.com/605521

19年3月期決算では商品取扱高が前期比33.1%増の3600億円、売上高が同49.3%増の1470億円、営業利益が同22.4%増の400億円、純利益が同38.9%増の280億円を見込む。PB事業の売り上げ目標は200億円。2年後の20年3月期には商品取扱高5080億円、21年3月期には7150億円、営業利益900億円を目指す。

今期のPB売上高は135億〜225億円を見込む。6月にはカジュアルシャツやデニムなど3型を追加する予定で、今後フルオーダーのビジネススーツ、ドレスシャツ、ワンピースを計画する。7月以降は世界72カ国でも販売を開始し、2年目にはグローバルで売上高800億円、3年目には2000億円を目指す。

とあり、取扱高5000億円の目標はともかくとして、自社企画ブランド「ゾゾ」の初年度売上高200億円、3年目2000億円という数字と、新ゾゾスーツの今期は600万〜1000万個の発送予定はちょっと盛りすぎた数字で実現性に乏しいと感じる。

これを端的に深地雅也さんがまとめている。

https://note.mu/fukaji/n/n9ff1ca89028d

 

 

(ゾゾの)昨年度のアクティブ会員が5,112,861人。ゲスト会員が2,110,366人。トータルで年間購入者数が7,223,227人。アクティブ会員の定義は年間1回以上購入なので僕はアクティブ会員に属していますから、少なくとも既に主要な会員500万人にリーチしている情報で100万件の発注数。SUIT発表のタイミングで新規登録した人もいるかとは思っていましたが、昨年度からトータルで17450人しか購入者数が増えていませんし、むしろゲスト購入者数は減少しています。ZOZOSUIT購入者はカウントしていないのかもしれませんが特に記載はありません。

とのことで、ゾゾスーツ購入者はカウントしていないのかもしれないが、アクティブ会員とゲスト購入者を合わせたトータル利用者数は1年間で1万7450人しか増えていない。
個人的な考えでいえば、ゾゾの会員数はほぼ極大値に近づいていると思う。ファッションやファッションテックに興味のある人はとっくに会員になるかゲスト購入者になっているだろう。当方のようにゾゾが嫌いな人はいくらもてはやされてもこれからも利用しないだろう。
ましてやファッションやファッションテックに興味のある人はマスの中では少数派である。逆に興味のないマス層が今後、服しか売っていないゾゾで積極的に買い物をするとは考えられない。
服に興味のないマス層は、服以外の商材が豊富なAmazonやYahoo!ショッピング、楽天あたりで買い物をする。
みんながみんな服に興味があると思ったら大間違いだ。当方だってこの仕事をしていなかったら服なんか買わずにもっとガンプラを買っている。

だからゾゾの会員数とゲスト購入者はここから大きくは伸びにくいと考えられる。

そんな状況で新ゾゾスーツ600万枚配布はちょっと難しいといわねばならない。

仮に今の発注数である100万件が6月中に届いたとして、残りの500万件はどのタイミングでお届けするのでしょうか。

という疑問がすべてを物語っている。

また自社企画ブランド「ゾゾ」の売上高も同様にかなり難しい数字を出していると見ている。

ユニクロのTシャツ・ジーンズ売上の何%売れば、どのくらいの売上になるかの指標が書かれています。ユニクロのヒートテックですら初年度150万枚。1枚1200円のZOZOのTシャツが仮に150万枚売れても18億円です。ユニクロのジーンズは毎年1000万枚以上販売しているようですが、仮にその10%販売出来ても100万枚×3800円なので38億円です。


とある。ゾゾはこれからジーンズとTシャツ以外にも商品の種類を増やすと発表しているが、それを入れても初年度200億円というのは難しい。5月1日現在、まだ売り物は1200円のTシャツと3800円のジーンズしかない。ゾゾがいうようにフルオーダーのスーツ、ドレスシャツ、ワンピースなどの新商品を投入したって、あと10か月でどれほどの売上高が見込めるのだろうか。
そしてあと10か月となった5月1日現在もまだ新商品の具体的な発表はなされていないし、もちろん投入もされていない。

一般的に考えて、1200円のTシャツが150万枚も売れることはないし、3800円のジーンズが100万本売れることはない。

また、この自社企画ブランドが3年後2000億円というのも眉唾物だ。個人的には「言うだけはタダ」ではないかと見ている。

年間売上高2000億円というと現在のジーユーと同等ということになる。
またアダストリアホールディングス全体の売上高と同等ということになる。

マス層にそこまで知られていないゾゾタウン、さらに自社企画ブランド「ゾゾ」がマス層にも知られているジーユー、アダストリアに匹敵する売上高をたった3年で作るのは至難の業である。
ファーストリテイリングという強力な後ろ盾があったジーユーだって方向転換してから年商2000億円に達するまで7年間もかかっている。

「ゾゾは世界に向けて売るから達成できる」という人もいるだろうが、世界こそそんなに簡単ではないのではないか。
中国にはすでにアリババやタオバオなどの巨大ECがあるし、高級ゾーンでは欧米のネッタポルテがある。
ここにウィゴーやらジーンズメイトやらタカキューなんかの低価格ブランドが増加したゾゾが新規参入してそこまで世界から支持を受けるとは当方は到底考えられない。

一気に生産枚数や配送数を増やしたり、一気に流入者を増やしたりできるような「魔法」はこの世には存在しない。
そしてゾゾはそんな「魔法」を持ち合わせてはいないと当方は見ている。
「魔法」に期待している人はさぞかし天真爛漫・純粋無垢なのだろうと思う。

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プライベートブランド「ゾゾ」のすごさは商品ではなく、そのプロモーション手法にある

プライベートブランド「ゾゾ」が発表され、各報道を見ると、矛盾した言説・受け答えが溢れており、読めば読むほど整合性がなくなる。
長らく交流している方から、ゾゾ商品のサイトが完成していると教えていただき、直接自分の目で確認することにした。

http://zozo.jp/pb/

基本的に、ゾゾという商品はフルオーダーではなく、パターンオーダーだということがわかる。
ゾゾスーツでの採寸によって、サイズを合わせるという「仕掛け」によって、「一からその人に合うサイズの服を作る」と思っている人が多いように感じる。
とくに、衣料品業界外のイシキタカイ系ジャーナリストや経済紙関係者にはその嫌いが多い。

採寸によって、一から型紙を起こすというのは、「フルオーダー」でこれは何十万円もする。
何せ、ゼロから形を作り上げるのである。

一方、近年、3万円前後で「オーダースーツ」が売られるようになっているが、これはフルオーダーではなく、パターンオーダーないしイージーオーダーと呼ばれる手法で、厳密にいうとパターンオーダーとイージーオーダーは別らしいが、ここではほぼ同じとして取り扱わせてもらう。

あらかじめ決まったパターン(型紙)があり、採寸したデータをもとにそれを微修正するのがパターンオーダーである。

A6サイズのスーツがあったとして、採寸したデータをもとに、袖を短くしたりウエストを広げたりと微修正する。
襟の形やボタンの種類を選べるようなオプションを付けることができるが、それもゼロから作り上げるわけではない。

これによって、製造期間は短縮できるし、製造コストも抑えることができる。
だから3万円前後でオーダースーツが作れるというわけだ。

受注して即日~2週間で納品できると謳っているゾゾは取りも直さずパターンオーダー商品だといえる。
また「即日納品」が可能だということは、あらかじめ標準商品を何枚か作りおいていて、その標準商品に適応した体格の人から受注があれば、それを即座に送り出すということになり、これなどはパターンオーダーですらなく、単なる既製服販売と同じということになる。
既製Tシャツ1200円というのは、果たして「破格値の安さ」といえるだろうか?

標準商品で満足できない人には、採寸データをもとにした「微修正」が加えられる。
裾丈の長さ、袖の長さ、袖幅などなどを微修正する。

これはジーンズでも同じである。

型紙の微修正なんていうのは、現在ではパソコンのCADCAMを使って行う。
袖丈や袖幅を変更した際に最適なように全体を自動的に微修正してくれる。

ジーンズで限りなく、ウエストのデカい人(150センチくらい)がいて、それ用にウエストを広げた場合、グレーディングと呼ばれる各部の比率変更が必要となる。これを今ではパソコンソフトでできる。
ウエスト150センチに広げた場合、それに比例して各部を広げると、ジーンズの裾幅なんてめちゃくちゃに広くなって袴みたいなジーンズになってしまう。
それではさすがにおかしいので、裾幅はあまり広げずにウエストだけを広げる。
これがグレーディングという作業で、標準とされるS~Lサイズだって同じグレーディングが行われている。

例えば、アダストリアのレイジブルーの商品で見てみよう。

http://www.dot-st.com/rageblue/disp/CSfGoodsPage_001.jsp?ITEM_CD=780048

このズボンのサイズは

Sサイズ ウエスト74センチ・もも周り62センチ・裾幅31センチ

となっている。また、

Lサイズ ウエスト89センチ・もも周り64センチ・裾幅34センチ

となっている。

見比べてみてどうだろうか?
ウエストは15センチ拡大しているのに、もも周りは2センチしか違わない。
裾幅も3センチしか大きくなっていない。

これはウエストに比例して各部を広げていないという証明で、このサイズ比率の変更がグレーディングであり、これは既製服でも普通に用いられている。

ゾゾのオーダーとはパターンオーダーと採寸によるグレーディングを合わせた手法で、「完全オーダーメイド」ではなく、イシキタカイ系が夢想するような「フルオーダー」でもないということである。

商品そのものについてはどうだろうか。
Tシャツとジーンズの画像と説明文を見た限りでは、はっきり言って「普通」である。
恐ろしくかっこいいわけでもないし、恐ろしくダサいわけでもない。
あくまでも「普通」であり、それ以上でもそれ以下でもない。

素材も普通だが、ちょっと奇妙なこともある。

メンズのTシャツの使用素材は40番手双糸なのに対して、レディースのTシャツは20番手単糸なのである。(ウェブサイトにそう書いてある)

ちょっとでも生地や糸の知識がある人にはその可笑しさが伝わると思うのだが、そうではない人のために蛇足ながら説明をする。

この二つの生地は一見するとほぼ同じに見えるだろう。
生地の厚さも同じだ。

しかし、どちらが高品質な素材かというとメンズである。

20番、40番とは糸の太さを表す「番手」であり、数字が大きい方が糸は細くなる。
40番より20番の方が糸が太い。

ところが、糸というのは1本だけで生地を織ったり編んだりせずに、2本を撚り合わせて使うこともある。
1本の糸で織ったり編んだりすると「単糸使い」といい、2本撚り合わせた糸で生地を構築すると「双糸使い」となる。
当然、糸を2本使っているので、材料費は「双糸使い」の方が高くなる。

じゃあどうしてそんなめんどくさい「双糸使い」なんていう生地があるのかというと、単糸使いの生地は総じて、洗濯をすると斜行しやすくなるからだ。とくにTシャツやカットソーの単糸生地は斜行しやすい。これを防ぐために「双糸使い」という生地がある。

そういう意味でメンズTシャツ素材の方が圧倒的にレディースよりも高品質である。

またなぜ生地の厚さが同じかというと、細い40番手の糸も2本撚り合わせると、太さは倍になる。当たり前だ。
40番手2本で、20番手単糸と同じ太さの糸になるため、それぞれを使って編んだ生地は厚さは同じになる。

だから、見た目はメンズもレディースも同じ生地に見えるが、中身は別物だ。

通常、レディースの方の生地クオリティをメンズより落とすことは考えにくく、これは恐らく、同じ生地が手配できなかったための代替措置ではないかと思う。
それでも当方なら20番単糸生地をメンズに使うが、あえてそれをレディースに持ってきたスタートトゥデイは本当に生地に興味がないんだと思う。

プライベートブランド「ゾゾ」の商品自体は限りなく「普通」で、レディースのTシャツ生地のクオリティはあまり高くない。
ジーンズも普通だし、デニム生地も綿99%・ポリウレタン1%の12・75オンスデニム生地なので、ありふれている。

ゾゾの「物」自体は大したことがない。現段階では。

ゾゾのすごいところはその「仕掛け」「販促の手法」にある。
アパレル業界が見習うべきはこの部分である。

まず、採寸できるゾゾスーツの開発に投資するという「仕掛け」。

そして、そのスーツを無料配布するという手法。
それで期待感を煽り、商品の発表ということになるが、期待感で煽られている人が多数いるため(特に経済系インフルエンサーやメディアなど)、メディアに大量に記事掲載される。

従来からあるパターンオーダーと場合によっては既製服販売に過ぎないものが、最新鋭テクノロジーで作られた服かのように報道される。

商品自体はあくまでも「普通」だし、その供給システムも従来型パターンオーダーの域を何一つ出ていないのに、最新テクノロジー服という「イメージ」だけが醸成され続けていく。

この「イメージ戦略」は正直なところ、海外ラグジュアリーブランドにも匹敵するといえる。
単なる塩化ビニールの鞄をさも「良い物」というイメージを与えているルイ・ヴィトンと同じ手法といえる。

そういう意味では、この「仕掛け」「販促手法」「見せ方」は見事だというほかない。

そもそも、今の衣料品でだれもが驚くような画期的な商品なんてものは出現しない。
もしかしたら、未来においては1ミリ秒で蒸着できるようなコンバットスーツが開発されるかもしれないが、そういうものでない限りは、驚くほど画期的な服なんてものは出現しない。

そういうものが現れるとしたら、ハイテクノロジーを詰め込んだウェアラブルだったり、ハイテク機能を満載した機能素材で作られた服くらいしかない。

洋服という商品においては「物自体」での差別化や革新は生まれにくくなっており、「普通の物」と「従来型パターンオーダー」という手垢にまみれた供給システムを再編集して見せなおしたというスタートトゥデイの手腕はすさまじいものがある。
国内のアパレル業界に足りないのはこの部分であり、そこは大いに見習うべきである。

ただし、個人的にはこの商品を買おうとは思わない。
ユニクロで1990円に値下がりしたジーンズを無料で裾上げしてもらった方がコスパが高い。

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大手広告代理店を使って残念な結果を甘受する残念な国内アパレル 企業
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