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従来型の物作りにこだわりながらマス層へのヒットを願うのは現実性に乏しい

 洋服もその他も含めて、物作りの姿勢は大きく2つに分かれる。

1、従来通りの商品を作り続ける
2、市場の売れ行きに合わせて作る商品・作り方を変える

である。

様々な意見があるのは承知しているが、ビジネスの観点からいえば個人的には2が正しいと考えている。
1の姿勢は否定しない。ニッチ層に向けて作って売るという自覚があるなら。

しかし、1の姿勢を取りながら、「マス層に売りたい」と考えるのはいただけない。
さらにいうと「昔ながらの良さがわからない方が悪い」「マス層に売れてしかるべき」と考えるのはもっともナンセンスである。そういう業者にはまったく共感を覚えない。

例えば、大ヒットしている「カレンブロッソ」のゴム底草履がある。
大ヒットしているといってもユニクロやGUのように百万枚とかそういう数量ではない。
しかし、生産キャパいっぱいの状態が続いている。将来的な不安もあって生産キャパを増やすことはしないそうだが、それがまた値崩れを防いでいるという側面もある。
需要が供給を上回り続ける限り、値崩れは起きない。

ヒットの要因は、コルク芯+革底で作られていた従来の草履をEVA台+ゴム底に改良したことにある。
これで格段にクッション性が高まり、足が疲れなくなった。
また従来品よりは雨でも滑りにくくなった。

要は機能性が格段に向上したということである。

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和装関係の展示会やイベントに出向いても、この草履の着用者が多い。
普段は「伝統ガー」とか言ってる人も、この草履を履いている。
言ってしまえば、人間は誰しも楽な方が良いのである。伝統か快適さかどちらかを選べと言われたら、ほとんどの人は快適さを選ぶ。もちろん筆者もそうだ。

筆者はマゾヒストではないから、苦痛を我慢する趣味は持ち合わせていない。

カレンブロッソの廣田裕亘社長とは定期的にお会いしていろいろと話を伺うことがあるが、これがヒットしたのは、ご自身でも予想外だったとのことだし、運やタイミングの良さも大いにあったが、伝統に固執せずに機能性を向上させなければ、その運もつかめなかっただろう。

それとあと、履物というところも定期的な買い替え需要を産んでいる。
洋服と違って、履物は地面と直接摩擦するので、絶対に定期的に傷む。
だから補修か買い替え需要が絶対に生じる。その買い替え需要に至るまでの期間は洋服よりも格段に短い。

後から考えればヒットする理由はそろっているのだが、そこにたどり着けたのは廣田社長の話を聞けば聞くほど「たまたまだった」としか思えなくなる。(笑)

それはさておき。

このゴム底草履がヒットすれば、当然、世の中に広まる。
もしかすると、近い将来、草履といえばすべてゴム底草履になってしまう可能性もゼロとは言えない。
そうすると「伝統」の草履作りの技術は廃れる。
不要な技術は廃れても当然じゃないかという考えもあるが、従来の技術を守りたいと考える人もいる。
その存在は否定しない。

そういう人が、従来品を作り続けて「売れなくては困る」「本物の良さがわからない人が増えた」という理屈にたどり着くと思うのだが、そこは大いに疑問である。

例えば、ゴム底草履を収入の柱としながら、そこで得た利益で細々と従来型草履の技術伝承をすれば良いのではないか。
売れる物を作って売って、その収益で伝統技術の継承をするのがもっとも理論的で効率的ではないか。

豆腐のため、ファッションショーにも通う
相模屋食料 鳥越淳司社長
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/269473/033000078/?P=1

ザク豆腐を開発した相模屋食料の社長インタビューが掲載されているが、この豆腐メーカーは通常の豆腐も生産し続けている。
その一方で話題になりやすいザク豆腐やデザート向けのナチュラル豆腐といった「変わり種」を開発している。

どちらか一方だけだと売上高200億円は達成できなかっただろう。
通常の豆腐だけの生産だと面白みもないし話題性もない。需要だってそんなに広がらない。
広報販促の手段はありきたりな「安心・安全」とか「手作り」とか「大豆の本来の味」とか打ち出しに終始してしまう。

この打ち出しは同業他社と同じであり、埋没してしまって消費者には見向きもされない。

他方、ザク豆腐やナチュラル豆腐などのおもしろ商品だけだと、売れ行きが不安定になる可能性が高い。
話題性はあるかもしれないが、大いに外す場合もある。

それを考えると従来品と飛び道具という二刀流は非常にリスクが低いといえる。

繊維やその他商品の物作りも同じではないか。
そこを理解した業者だけが生き残ることになるのは、自然な流れで当然の結末だろう。




現状形態を維持させたままでは、着物の着用者人口は絶対に増えない

 フリーランスになってから、和装関係の知り合いが増えた。
とはいっても、そこからの仕事にはつながっていないので、単に知り合いが増えたというだけである。

そういうこともあり、和装の取り組みなんかもけっこう耳に入ってくる。

以前にも書いたが、呉服小売市場規模は底打ちから微増に転じている。
矢野経済研究所によると、2013年の呉服小売市場規模は前年比1.7%増の3,010億円となっている。

最近は、冠婚葬祭以外でも着物を着用している女性をチラホラと見かけるので、今後もこの市場規模は現状維持か微増が続くことになるのではないかと考えている。ここからさらに激減することが直近で起きることは考えにくい。
ただし、今後も大幅な伸びはないとも個人的には考えている。
3000億円台でうろうろし続けるだろう。

和装関係者はそのことをよく理解していて、和装の着用者人口を増やす取り組みに注力している。

しかし、個人的には現状のままの「着物」を維持していては今後も着用者人口はそれほど増えないのではないか。
着用者人口を増やすためには「これまで着物を着たことがなかった」という洋服愛用者を取り込まねばならない。

けれども「現状の着物」は洋服に比べると機能性、価格面で大きく後れを取る。
筆者も着物を着たことがない消費者だが、よほどのメリットが無い限りは着物をわざわざ着ることは今後もない。

1、日常生活をすごす上で動きづらい形態(着付け法も含めて)
2、洗濯などの手入れが面倒
3、洋服に比べて高価格
4、細かな約束事や決まりが多すぎる

ざっとこの4点が「現状の着物」の難点だろう。

まず、1だが、何かの行事なら少々動きづらくても良いが、着用者人口を増やすということは、日常生活での着用機会を増やさねばならない。
今の着物で仕事や外出を洋服と同じようにこなせるだろうか。
着慣れた人はこなせるというが、そこに到達するまでにどれくらいの時間が必要だろうか。
そこまで我慢してまで着用しなくてはならないものだろうか。
筆者は御免こうむる。

垂れ下がった袖下が邪魔だし、足首まで隠れる丈も邪魔である。
筒袖の短衣が圧倒的に動きやすい。
また現在の着付け法では、自分一人で着られない人の方が多い。
一人で着られないような不便な物を日常的に着用したいと思う人は少数派だろう。

2、は言わずもがなである。
洗濯機にぶち込んで丸洗いができない。
できるのはごく一部の商品に限られる。

3、の価格面では着物は圧倒的に高い。
製造工程や製造ロットが洋服と異なることは承知しているが、洋服しか着たことがない人からするとやはり圧倒的な高価格である。
昨今は古着やリサイクル着物が登場して、低価格になったといわれるがそれでも洋服愛用者からすると高いと感じる。

着物業界からすると10万円程度は安物、数万円の着物(古着、リサイクル含む)なんて超安物という感覚だが、洋服しか知らない消費者からすると10万円、数万円というのは超高価格だ。
10万円もあれば三陽商会がライセンス生産していた「バーバリー」のコートが買える。三陽商会とのライセンス契約がなくなった今秋冬からはバーバリーのコートはもっと高価格になるが。
10万円のコートといえば、洋服では高額品に属する。
今なら数万円のスーツだって中価格だろう。スーツなんてGMSへ行けば1万円以下で売っている。

そういう感覚を持った消費者を着物が取り込めるとは到底思えない。

4、は色柄についても細かな約束事が多い。
知識が少ない筆者には具体例をなかなか挙げられないが、こういうときにはこういう柄を着ると事細かに決められていて、素人にはハードルが高い。

他方、むやみに着用者数を増やす必要はなく、現状のファン層を少し拡大する程度で良いのではないかという意見もある。
これには賛成である。

着物着用者人口を増やすなら、洋服との競合が避けられない。
だから着物の形態や着付け法を圧倒的に変化させる必要がある。

一方、「現状の着物」を守りたいのであれば、現状のファン層を維持する、もしくは現状のファン層を少し拡大する程度が妥当なラインである。

「現状の着物」を守りつつ、着物着用者人口を大幅に拡大させることは不可能であると筆者は見ている。
というか、これこそ「矛盾」という故事成語を地で行くものだと感じる。
最強の盾と最強の矛が両立しないのと同じである。

とはいえ、夏に浴衣を着用する若い女性は増えた。

筆者が高校生だった30年前には夏に浴衣を着用する女性はほとんどいなかった。
大学生当時もいなかったような印象がある。
もっとも、「お前は学生時代から女性とは縁がなかったじゃないか」と言われればその通りである。
もしかしたら、筆者が思うよりも当時の女性はずっと浴衣を着用していたのかもしれない。

筆者の個人的感覚では今は、夏の間に1度か2度は浴衣を着用する若い女性が増えたと感じる。

これは着用者人口が増えた例だろう。

浴衣が広まった原因の一つに着付けが楽だということもあるかもしれない。
着慣れた人から見ると、おかしな着方をしている女性も多いのだろうが、おかしいなりに一人でも着られる。
また価格も比較的安いこともあるだろう。
物の良し悪しは別として1万円未満で購入できる浴衣も多い。

あと洗濯も比較的に楽だ。
そのまま洗濯機にブチ込んでも大丈夫という浴衣も多い。

着物の難点で挙げた4点のうち2・5点までは浴衣はクリアしている。

もし、着物業界が着物着用者人口を本気で圧倒的に増やしたいと考えるなら浴衣というアイテムの成功例を参考にすべきだろう。

形状は今のままで、着付け法も今のまま、価格は高価格で、使用素材も今のまま、色柄も今のまま、約束事も今のまま、でも着用者人口は圧倒的増やしたい。
そんな都合の良い話はこの世界には存在しない。
そして、世界遺産登録だとか、国の保護キャンペーンだとかで、現状維持をしたままで着用者人口を増やそうというような試みは着物業界の傲慢ではないかとすら思う。
一言でいうなら業界エゴであろう。

カレンブロッソという和装ブランドがある。
ここは「カフェ草履」という商品を開発したことで和装業界では知名度が高い。
どういう草履かというと、ゴム底の草履である。
それ以外の部分ではナイロンやPVCなどの化学素材を使用するという工夫も凝らしているが、最大の特徴はゴム底であることだ。

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見た目はほぼ草履だが、歩行するのには楽であり、通常の草履よりは足が疲れにくい。
だから大ヒットし、ロングセラーとなっている。

科学・化学技術は年々進歩(進化とは言わない)しているので、次々に新しい機能素材が生まれている。
機能素材は利便性が高いから使用すると利用者には喜ばれるはずである。
また、「着物の伝統」なんていうが、着物の形状、使用素材だって時代とともに移り変わってきた。
なぜ、今の着物だけが移り変わろうとしないのか不思議でならない。

ゴム底が快適で楽チンなら、草履はすべてゴム底にしてしまえば良いと思う。
履き物だけではなくて、着物もそういうあるべきではないか。

着物業界が着用者人口を増やしたいと考えるなら、浴衣とカフェ草履の事例をもっと真剣に分析すべきだろう。
国を動かした保護キャンペーンで着用者人口を増やすという取り組みは絶対に成功しない。

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