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大手企業の平均年収でアパレル業界を判断してはダメ

 The FLAGが「ファッション業界マネー事情」と題して、有力企業の初任給と公表されている範囲での平均年収を一覧表にまとめている。
公表されている範囲なので公表されていない企業の平均年収は当然空欄である。

就職や転職を考える際には指標の一つにはなるだろう。

https://theflag.jp/blog/73

この一覧表を見て「意外に業界の平均年収は高いのではないか」と思った方も多いのではないか。
しかし、掲載されている企業名をよく見てほしい。
アパレル、百貨店、素材メーカー、商社が混在している。
しかもそれらは上場している、もしくは上場してもおかしくはないくらいの業界有力企業である。

これらの平均年収が良いのは当然であり、自動車関連ならトヨタの社員の平均年収を見ているようなものである。

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ちょっと煩瑣ではあるが企業名をざっと見てみよう。

アパレル系では

ステュディオス
グンゼ
ワコールHD
オンワード樫山
ストライプインター
三陽商会
ワールド
パル
ユナイテッドアローズ
AOKI
ベイクルーズ
ファーストリテイリング
などである。

そのほかは

東レ
帝人フロンティア
旭化成せんい
日清紡HD

などは素材メーカー系だし

伊藤忠ファッションシステム
三井物産インターファッション
三菱商事ファッション

などは商社系

そのほかの三越伊勢丹、高島屋、そごう・西武などは百貨店である。

専門学校生や大学生が就職先として考える「ファッション業界」の範疇には含まれない場合が多い。

そしてこれらの企業の平均年収が予想よりも高いことは、それぞれの業界・ジャンルでの大手企業だから当然であり、これらの企業の平均年収までが低いならその業界は最早終わっている。

ちなみにここで発表された平均年収よりも今年4月1日から下がる企業もある。
経営再建中の大手企業の平均年収は下がるはずである。

ファッション専門学校生や大学生が「ファッション業界を目指す」として、ここで挙がった「アパレル系」に全員が就職できるわけではない。
逆に大半以上が落ちる。
どうしても「ファッション業界で」と考えるのであれば、ここには掲載されていない「アパレル系」を探すほかない。

一般に「アパレル業界の給料が低い」と言われるのは、そういう「ここには掲載されていないアパレル系」を指しており、そしてその数はここに掲載されている「アパレル系」の何百倍にもなる。
そういう企業は、初任給から昇給するかどうか自体が不明だし、そもそも新卒採用していないことも多い。

大手に入り損ねた新卒者の業界でのキャリアアップを例示してみる。

まず、バイトやパート、契約社員、フリーランサーみたいな形でそういう小規模・零細企業に潜り込む。
当然、給料は安く、時給労働のような場合もある。
3~5年くらい働いて少し実力がついて、人脈が広がる。
ここで昇給がある場合もあるが、ない場合もある。
その場合、給料を上げようとすると他社に移籍するほか手がない。
なぜなら無い袖は振れないからだ。

そして移籍する。
ここで少し給料が上がる。
この会社が何かの拍子に、奇跡的な大成長を遂げれば、ここから毎年の昇給という恩恵にあずかれるが、アパレル不況の昨今そんな美味しい話は奇跡にも等しい。

当然、さらなる昇給を目指すならまた移籍するほかない。

そしてこれをあと何度か繰り返したころ、若者は40歳前後の中年になっており決断を迫られる。
その時点で在籍する企業に骨を埋めるか、独立企業するかである。
こうなる前に在籍した会社が倒産してしまっている可能性も極めて高い。

幸運にも移籍を繰り返して中規模アパレルに潜り込めたとして、何年か後にリストラされてしまっている可能性もある。

若者がファッション業界に夢を見ることができるかみたいな議論があるが、普通の感覚を持った若者なら夢は見られないだろう。

この若者が男女ともに生涯独身を貫くなら例示したモデルで働き続けるという選択肢はありだが、結婚して子供を育てるという「夢」があるなら、例示したモデルで働き続けることは男女ともにかなり難しいだろう。

月々の額面給与が仮に40万円で留まったとする。それ以上昇給しないという事態はアパレル業界なら十分に考えられる。40万円まで昇給できるかどうかすらあやしい。

独身なら十分だが、子供を育てるとなるとちょっと心もとない。
保険やら年金やらを天引きされて、手取りは35万円弱だろう。

独身なら大国町あたりの月額家賃4万円のワンルーム住まいでも良いが、結婚してさらに子供まで生まれたそんなわけにはいかない。
10万円前後は家賃として毎月消えてなくなる。
毎日、スーパー万代や西友、スーパー玉出などの安い食材を買うとして、月の食費は夫婦二人で5万円くらいだろうか。子供が生まれたら食費は劇的に増える。
電気代は2万円くらいか。携帯電話代は夫婦二人で2万円、これですでに20万円弱が消える。
そこに水道代・ガス代・自宅のプロバイダー料金などがかかる。
ざっと25万円くらいは消える。
残り10万円で子育てということになるが、実際は食費やらミルク代やらおむつ代やらがかかるのでその10万円もほとんどなくなる。

生命保険やらなんやらも必要だし、学資保険をかける場合もあるだろう。

自動車を持っているなら駐車場代・保険料も含めた維持費がかかる。
おそらくこれで残り10万円もほぼ使い切るのではないか。

子供が生まれて大きくなると教育費がかかる。
大学まで進学したら、私立大学だと文系で年間授業料は80万~100万円円くらい、国公立文系で50万円くらい必要になる。

こういうことを考えて、結婚や出産と同時にアパレル業界を離れる若い人も少なくない。
女性なら産休・育休などの諸制度が整っていない小規模・零細企業では長期間働くことは難しい。
そしてアパレル業界は大手よりも小規模・零細が圧倒的多数を占めている。

個人的には、こういう業界に対して「夢を持て」というのはおかしな話だし、「夢」を煽り立てて若者をより多く獲得しようとするのもおかしな話だと思う。

本当に情熱のある人だけが入ってくれば良いという意見もあるが、むしろその方が、参入者の数が減ってアパレルブランドの供給過剰問題の一端が解消されるのではないかとも思う。

いわゆるテレビドラマで登場するような「平均的で平穏なサラリーマン人生」を送ることはアパレル業界では多くの場合無理だろう。
どうしても入りたいという若者はそれを覚悟すべきだし、専門学校は若者にそれを覚悟させるべきだろう。



ユニクロ対ZARA
齊藤 孝浩
日本経済新聞出版社
2014-11-20


若者がファッション業界を目指さないのは業界に入るメリットがないから

 The FLAGのイシューを久しぶりに。

「なぜ若者がファッション業界を目指さなくなったのか?」に対するカウンター連載が行われているが、
そもそも「なぜ若者はファッション業界を目指す必要があるのか?」である。

魅力がないと映るなら別に目指さねばならない理由はこれっぽっちもない。

「なぜ若者がファッション業界を目指さなくなったのか?」という理由を考えてみよう。
はっきり言って目指す魅力がないからである。

ファッション業界、繊維業界の企業数は多いが、一部の大手企業、上場企業を除いて労働環境は劣悪である。
賃金が他業界に比べて低く福利厚生が薄い。
そんな業界を目指す若者が多いはずがない。

もし筆者の息子たちがファッション業界、繊維業界を目指したいと言ったなら全力で阻止する。

そんな劣悪な環境の企業で働く必要性はまるでないからだ。

この問題はここ2,3年で急にクローズアップされているが、その萌芽はすでに10年前からあった。
2005年ごろ、あるインポートアパレルの部長がこんなことをおっしゃった。
「インポート業界には最近、若手が就職しなくなりました。大学生はまずインポート業界を目指しません」と。
その理由を考えてみると、

1、インポートファッションというジャンルがそれほど憧れられなくなった
2、ファッション業界の待遇が他業界に比べて良くない

ことが挙げられる。

そして、この理由は今のインポートではないアパレル業界にもそのまま当てはまる。

こんな状況で「若者はファッション業界を目指すべきだ」と主張できる人の認識を疑う。

そもそも、ファッション専門学校に通う生徒数は減少の一途を辿っている。
現在、日本全国でファッション専門学校に通う総生徒数は13000人程度だといわれている。
これは某ファッション専門学校の理事長が挙げた数字なので極めて正確性が高いと思われる。

少子化が理由に挙げられるが、それだけではないだろう。
例えば今年の大学受験では競争率が4倍以上の学校があった。
かたや競争率4倍の大学があるのだから、ファッション専門学校の生徒数の減少は少子化だけが理由ではないということは自明である。
ファッション業界に魅力を感じている生徒、生徒の保護者がきわめて少ないということである。

少子化とは言いながら各年代の総人口は最低でも100万~120万人である。
ということは、毎年18歳人口はそれくらいあるということである。
ファッション専門学校は3年制が多いから、18歳~20歳人口で考える。
18歳~20歳人口は300万~360万人である。
そのうちの13000人がファッション専門学校に通っているということになる。
たった0・3%ほどの割合である。

これがファッション業界に対する生徒、生徒の保護者の評価ということができるだろう。

先日、ストライプインターナショナル(旧クロスカンパニー)が初任給の引き上げを発表した。
何もしないよりは少しはマシだが、これとても若者を取り込むには不十分な施策である。

若者がファッション業界を目指さないのは初任給が低いからではない。
そのあとの昇給がきわめて望み薄だからだ。

初任給に25万円をもらったとしても10年後も15年後もあまり給与が変わらないのなら、そんな企業は何ら魅力的ではない。
逆に初任給が少々低くても10年後、20年後に年収500万円、600万円が約束されていれば、そちらの方が魅力的な企業といえる。

ストライプが真に若者を取り込みたいなら初任給アップよりも昇給を確実にさせる方が効果的だろう。

一部の大手企業、上場企業を除いて極めて昇給が望み薄だし、昇給システムがはっきりしない会社が多い。
これもアパレル業界が忌避される原因の一つだろう。

どのような成果を挙げればどれだけ昇給されるのか良くわからない。
もちろん就業規則にもそんなことは書いていない。
そもそも昇給があるのかどうかも怪しい会社も多い。

これでは、人生設計は立てにくいから若者とその保護者が「アパレルはやめておこう」と考えるのは極めて当然である。

有給休暇、退職金、年金、これらの福利厚生も同様である。
一部を除いては極めて薄い。
給料が低くても休みやすいとか、退職金や年金が厚いならまだ魅力はある。
これも薄いならわざわざそんな過酷な業界、会社に入ろうと思う人の方が稀である。
そんなマゾヒストの人口は少なくて当然だろう。

このあたりを改善しないとアパレル業界を目指す若者なんて増えるはずもない。
そもそも業界の多くの年配層が若者を多く獲得したいのかどうかも怪しい。

まあ、そんな状況は今後もほとんど変わらないだろうから、そのまま緩やかに業界はしぼんで行くのではないかと考えられる。


 



ECの速さ競争にそんなに意味があるの?

 アパレルブランドにおけるEC化というのは消費者の利便性を考える上では不可欠なものといえる。
例えば全国の大都市圏に20店舗しかないブランドだとすると、それ以外の地域の人が買えるための手段としてEC化は必要である。
しかし、EC化比率を闇雲に高めることが優れた経営指針ではないことは昨日も書いた。

個人的にはどんなにEC比率が高まったとしても50%以上にはならないのではないかと考えている。

試着はできないし、生地の風合いを触ってみることもできない。
一度は実物を見てから決めたいと思う人も少なくはないだろう。

返品・交換は何度でもできるとはいえ、そのたびに荷造りして配送業者を読んだり、持ち込んだりするのは相当面倒だ。少なくとも筆者はそういう作業がめんどくさい。
何度もしなくちゃならないならそんな通販は利用しない。

さて、昨日に続いて、The FlagのECについてのお題を取り上げてみる。

【 ECにおいて”速さ”より重要な事とは? 】

というものだが、すごく漠然とした問いで受け取り方によってはいかようにも受け取れる。
そもそも速さがそれほど重要かということにもなる。

何日で手元に届くのが「速い」という範疇なのか人それぞれだと思うが、3日~5日くらいは当たり前ではないかと思っている。

このお題の主旨とはいささかズレるが、今後は「速さ」はますます実現しにくくなるのではないかと思う。
ECが伸びれば伸びるほど配送業者に負担がかかる。
早い話が配送業者がパンクしかねない。もうすでにその兆しは出ているのではないか。

個人的な経験談でいうと、筆者はネット通販をほとんど利用しない。
年に10回にも満たない。

昨年11月にユニクロのネット通販を利用した。
その前に利用したのは何か月か前である。

11月の中旬ごろに「ユニクロ×ルメール」のニットジャケットがネット限定割引で4990円にまで値下がりしていた。
これを買おうと実店舗に行ったのだが売り切れていた。
そこで久しぶりにネット通販で買った。

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(4990円に値下がりしたときに買ったニットジャケット)

その前に買ったときは注文してから2,3日以内に到着した。
すごい速さだと感心した。

昨年の夏にアマゾンで、HGリヴァイブ「フリーダムガンダム」のガンプラを買ったのだが、1日半後くらいに到着してこの速さにも感心した。
ちなみにこれが初めてのアマゾンの利用である。

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(HGフリーダムガンダム)

で、11月のユニクロは到着までに5日かかった。
めずらしいなと思って、サイトを見ると「混雑している際は5日くらいかかることがあります」という注意書きがあったが、よほど混雑しているのだと思った。

ユニクロの物流倉庫でバイトをしている知人がいるのだが、その人によると、「昨年秋のネット通販の混雑ぶりはすさまじかった」という。かなりの注文が殺到していたようだ。

年末に、アマゾンでリアルグレードZガンダムのガンプラを買った。
41%引き価格でどこの家電量販店よりも安かったからだ。

今回は2日間が過ぎても届かない。

11月のユニクロの例もあるから「かなり混雑しているのだろう」と予測して、何日でも待つつもりでいた。
一分一秒を争ってリアルグレードZガンダムを組み立てなくてはならないという理由がない。

あるとき、不在票が投函されているのを見つけた。

配送業者に電話してみると、「すみません。まだ午前中の配送が終わっていないので今日何時に届けられるかわかりません」という。
こちらも別に急いではいないので「まあ、年内に届けていただければ大丈夫ですよ」と電話を切ったのだが、その2時間後くらいに届いた。

このやりとりをしたときも相当に荷物が込み合っていたようだ。

こういうことがすでに起き始めている。
今後、各社がEC比率を高めれば高めるほどこういうことは頻繁に起きる。

「EC比率を3割まで高める」とか簡単に言うが、配送業者の問題はどう考えているのだろうか。
このままだと配送業者はいずれパンクしてしまう。

そうなれば「速さ」も何もない。

速さ以上に重要なことは配送業者をどうパンクさせないかということではないかと思う。
これが最重要課題ではないか。

それ以外に、各ブランドが取り組む「速さ」以外の需要なことは、例えばサイトを見やすくする、問い合わせをしやすくする、コーディネイト提案を強化する、など数え上げるとキリがない。

あ、そうそう、モデルに服を着せて背中をピンや洗濯バサミで摘まんでシルエットを修正するなんていうことはご法度だろう。
それは嘘の着用感を提示していることになり、それを買ったお客はリピーターにはならない。
一度は買うかもしれないが、二度目はない。

逆にいうと、各社はECに対する価値作りを「速さ」しかないと考えているのだろうか。
そういうブランドは十中八九失敗するだろう。

ユニクロブーム以降各社が一斉に「安さ」を最大の価値だと考えたことと似ているのではないか。

かつて「安さ競争」で疲弊した業界が、今度は「速さ競争」でさらに疲弊しようというのだろうか。
いつも通りの画一的思考で、ちょっと笑えてくる。
ファッションは自由だとかいう業界のくせに、いつも画一的に横並び競争をしたがる。
この業界は相変わらずである。




EC比率の高低だけを論じるのは意味がない

 アパレル業界というのは「小手先の目新しさ」に飛びつくという悪癖を持った業界である。
アイテムのトレンドに対して飛びつくのは元々がミーハーでなければ務まらない業界なので、それはそれで良いと思うが、経営方針や新規開発事業も同じ傾向なのでいささかどうなのかと思う。

もっとも、ミーハーだった現場担当者が年を取って、経営陣になるわけだから「三つ子の魂百まで」というようにミーハー具合は変わらないということだろう。

少し前だと「闇雲な低価格化」だろうか。
その前は「QR(クイックレスポンス)化」。
2008年だと「ファストファッション化」。
2011年以降は「メイドインジャパン化」か。

最近だと業界と業界紙でホットな話題は、EC化比率だろうか。

「EC比率を3割にまで高めたい」というワールドよろしく、EC化比率を高める競争みたいになっている部分があるが、果たしてEC比率を高めることが良い施策と言えるのだろうか。
もちろん、元々そういう狙いの上に立脚していたという企業や、端から実店舗を持たずにECのみで販売していたという企業を批判するつもりはない。
それは中長期的視点に立って、自社の強みを最大限に生かした施策の一つだと評価する。

問題は、実店舗が売れないからECという安易な企業である。

実店舗で売れない物がECで売れると思っているのだろうか。
もちろん、工夫次第では売れる。
しかし、そんな工夫ができているなら実店舗でだって売れているだろう。
実店舗で工夫できない企業がECになると途端に工夫できるようになるはずがない。

The Flagは最近、熱心にEC化についての議題を設定している。
各社のEC化比率をまとめた資料もある。

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この表を見ると、金額はおそらく百万円単位だと思われる。
ファーストリテイリングだと255億円強ということになる。

業界紙や経済誌も最近はナントカの一つ覚えよろしく、決算会見などで「貴社のEC比率は何%ですか?」とか「EC比率を何割まで高めたいですか?」なんて画一的な質問をする。
しかし、一部を除いてECなんてほとんど理解していないような老経営者も多い。

会見での質問が引き金になって、老経営者自身もよく理解していないEC化に突如として必死に取り組んでしまうことだってあるだろう。

気のせいかもしれないが、最近の業界紙・経済誌はEC化比率の高いことが良い施策で、低いことが遅れた施策という論調が強すぎるように感じる。

例えばファーストリテイリングだが、EC化比率は低い。4%である。
これを指して「10%に高めることが望まれる」とか書かれることもある。
まるっきり間違った批評だとは思わないが、売上高は255億円強である。
実は、アパレル業界でECでの売上高が最も高いのはファーストリテイリングなのである。

なぜEC比率が低いかというとファーストリテイリングそのものの売上高が他社に比べてケタ違いに多いからで、そのトップ企業に対して「EC比率を高めることが課題」という指摘は、筆者にはどこかピントがズレていると感じられる。

国内実店舗で8000億円前後売れるならそれで問題ないのではないか。
ECに全然取り組んでいないというなら問題だが、すでに255億円強も売り上げているのだから、ファーストリテイリングの場合は、EC比率を何%にするのかは、それこそファーストリテイリングのペースに任せるべきではないかと思う。

この表でいうなら、それよりも、EC化比率1%で4億7500万円しか売っていないレナウン、16%と割合に比率が高いのに5億9300万円しか売れていないシップスあたりを心配してやった方が良いのではないか。

レナウンの場合は、EC化比率もEC売上高も低すぎるだろうし、シップスの場合はEC化比率は驚くほど低くはないが、EC売上高が低い。比率が高い割に売上高が低いということは、実店舗も合わせたシップスそのものの売上高の低さが気になる。

WEGOは7%で7億円ほどだが、もう少し売上比率を高めることは可能だろう。
鎌倉シャツはECともっとも親和性が高いように思う。
なぜなら、メイン商材のシャツは、シルエットが二つか三つほどしかなく、あとは色柄、襟の形を変えただけである。1枚か2枚所有していれば、それを基に試着せずに追加購入することができる。
EC化比率も23%と高い。今後はますます高くなることが予想される。

闇雲なEC化競争よりも自社の商材やスタイルがECに適しているかどうかの方が重要ではないか。
サイズがほぼ決まっている鎌倉シャツならECは増やしやすいし、トレンドやアイテムごとにサイズ感が変わるブランドならいくら「EC化強化」と叫んだところで、消費者側としては試着してからでないと怖くて買えないということになる。

消費者の利便性を考えると各社ともEC化には取り組まねばならないが、比率の高低だけで善し悪しを論じるのはまったく意味がないだろう。





ゼロにはならないが今後も国産工場は減り続ける

 昨日に続いて連続でFLAGのお題を考えてみる。

ファクトリーブランドは国産比率を高めることができる?
http://goo.gl/P4zy5E

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「日本製が盛り上がっている」と言われながら、その実、日本製衣料は3%しかないというのが事実。
これは繊研新聞でも書かれていたからググれば元記事はすぐに発見できる。

数年前は4%と言われていたから、その当時よりも25%も減っていることになる。
「クールジャパンw」とか「日本製人気」とか言われながら、実情は大幅に減っていたということである。

今回のお題の設定意図が少しわからないが、まあ、文字通りに考えてみると、ファクトリーブランドを増やすことで日本製衣料を増やすことは可能だろうと思う。

しかし、問題点としてはその「ファクトリーブランド」なるものが生産比率を変えるほどは増えていないし、今後も増える見込みはないというところである。

ファクトリーブランドとは何ぞやというと、大雑把にいうと、工場が作った自社ブランドのことである。
とくに縫製工場が立ち上げたブランドというイメージが強いのではないか。

生地工場や染色加工場が立ち上げたブランドを含めたとしてもその数はそれほど多くない。

近年、自立化事業が盛んであるから、ブランド数だけは増えているかもしれないが、生産数量比まで左右するほどの売れ行きを見せているブランドはほとんど見当たらない。

それでも生地工場や染色加工場が立ち上げた自社ブランドというのは、いくつか耳にすることが増えたが、縫製工場が立ち上げたブランドというのはほとんど聞いたことがない。
そして今後も増えることはないのではないかと考えている。

生地工場・染色加工場も含めてファクトリーブランドが今のままのやり方で、大きく成長するということはちょっと考えにくい。

たしかに製造に関してはプロだが、商品デザイン、商品MD、販売、広報、販促についてはド素人である。
しかし「ブランド」を成功させるためにはそこのノウハウを蓄積するほかない。
そしてそのノウハウを蓄積するためにはそれなりの支出が求められる。

工場にデザイナーはいないから、デザイナーを雇用するか、契約するかという措置が必要となる。
当然、費用は発生する。

年間の商品展開を考えねばならないからMD(マーチャンダイザー)も必要だし、直営店なり催事をする際には販売員も必要になる。
販売促進も広報も必要になる。

すべてを外注するという手もあるが、当然のことながら費用は必要だ。
費用はピンキリだが、あまりにケチると結果は伴わない。
ノウハウのない人と契約してしまうか、ノウハウはあるが契約料が安すぎて出し惜しみされるかのどちらかになる。

そして、これまで付き合ってきた工場の体質からして、自社の現状の活動以外のこうしたことに費用を裂くことにひどく抵抗感を見せることが多い。
ひどい工場になるとそれらはタダだと思っている。

長年培ってきたメンタリティというのは一朝一夕に変わるものではない。
工場のそういうメンタリティは今後もあまり変わらないだろう。
もし、変わるとすれば経営者が代替わりしたときで、外部企業で修業してきた息子さんや娘さんが後をついだときに変わるだろう。
ただし、その時には手遅れになっている可能性も高い。

そんなわけで国産比率を高めるという目的からファクトリーブランドにはあまり大きな期待をかけすぎない方が良いのではないかと思う。

どうして国産比率を高める必要があるのかわからないが、まあ、お題に沿って考えるなら、国産工場を使用する大ブランドを育成する方が手っ取り早いし効果的だろう。

例えばエドウインや鎌倉シャツのようなブランドである。

たくさん売れる国産ブランドを育てるためには、たくさんの人々が買いやすい値段帯で提供するほかない。


伝統工芸品を気取ったようなバカ高い価格設定の商品なんて、いくら国産だろうがそんなに売れるものではない。なぜならそれを買える能力を持った人が少ないからだ。
もっと直接的に言えば、それだけの高収入を得ている人が少ないからだ。

低所得でもマニアみたいな人は買うだろうが、それは少数派である。
すべての支出を切り詰めてそれを年に1つか2つ買って満足できるような人が多数派であろうはずがない。
なら、そういう需要は大勢を左右しない。

国産比率を高めたいならエドウインや鎌倉シャツのような中価格帯の国産ブランドを多数育成することが急務である。

しかし、根本的な疑問としてどうして国産を増やす必要があるのかとも思う。
例えば製造加工場、縫製工場は年々減っている。
経営難ということもあるし、経営難でなくても後継者不足ということもある。

じゃあどうして若者が就職しないかというと、まず第一に求人があることを知らないという場合もある。
次に給料が安いからである。
就職した当初給料が安くても良いが、後々は昇給が期待できればまだ人は集まる。
昇給も期待できないような職場に多くの人は入りたいとは思えない。

そもそも、工場だけではなく、アパレル企業も若者が集まりにくくなっている。
洋服輸入会社も若者が集まりにくくなっている。
店頭販売員も集まらなくなっている。
それは給料の低さも含めた待遇面が悪いからだ。
それでもやりたいという人はいるから、そういう人を大事に育てれば良いのではないかと思う。

逆に「どうして若者はファッション業界を目指さないのか?」という視点はナンセンスである。
どうして若者はファッション業界を目指さねばならないのか?

結局、他業種へ若者が就職するということは、給料・待遇・将来性ともに他業界の方があると感じられているからである。
これは多くの親世代が共通してそう考えているだろう。
筆者の息子がもし「アパレルに入りたい」なんて言い出したら全力で阻止して説得する。

もっと言えば、金融や自動車、IT、商社などの産業間競争に繊維・アパレルは敗北したからである。
人材の確保という意味ではそういう企業と競争しなくてはならないわけで、そういう企業の方が若者にとって将来的な計算も含めると魅力的だと映っているからである。
「どうして若者はファッション業界を目指さないのか?」と言っている人々はその事実を直視すべきである。

お題の結論からいうと、今の工場のメンタリティではファクトリーブランドが大きく成長することは難しいから、国産比率を増やしたければ、中価格帯の国産ブランドの育成に努めることが即効性があり効果的だと思う。
ただし、後継者不足は今後も続いていくので、国内工場はゼロにはならないが減り続けるだろう。減り続けたどこかの時点で残っている工場が残存者メリットを享受することになる。

筆者が描けるのはそんな未来像である。


 



アレンジすら禁止すればアパレル・繊維産業が消滅する

 たまにはThe FLAGからのお題について考えてみる。

『本物と偽物がある中で、購入の際に、本物を買うメリットを感じていますか?』
http://theflag.jp/blog/36

original

基本的にはファッションはパクリ合いみたいな側面がある。
これは絶対になくならない。

例えば、ある時期から一斉にメンズウェアのシルエットがタイトになった。
この傾向はいまも根底で続いている。
2005年ごろからのはずである。

これはエディ・スリマンが発表した「ディオール・オム」のタイトなシルエットに業界各社が追随した結果である。

http://www.neqwsnet-japan.info/?p=5880

ここにも詳しく語られている。

数年前「ディオールオム」のスキニーデニムが大流行した時がありました。肌にすいつくような細身のデニムですが、アイコニックな「バックポケットの端にステッチ(タック)が一本入った」デザインがありました。

その当時はもうどのブランドもこのディティールを真似しました。どこへ行ってもバックポケットにステッチを入れる始末。こうなるともうトレンドというよりコピーです。デザインに意味ないですから。

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とのことである。バックポケットにそっくりのステッチを入れることは製品作りにおいて何の意味もない。
ここで指摘されているように単なるパクリでありコピーである。

今回FLAGではスナイデルとそのコピー問題で逮捕されたGRLについてこの課題を設定したと考えられるのだが、ステッチを除いて「ディオール・オム」をコピーした程度のことはどのアパレルブランドでも日常茶飯事である。スナイデルだってそれくらいのことは常にやっている。
逆にそういうことを一度もしたことがないブランドの方が希少性が高いだろう。

コピーを完全に禁止してしまえば、トレンドによるマス市場形成ができなくなる。

タイトシルエットは「ディオール・オム」に限定される。
というような状況になったらタイトシルエットは世に広まらない。


かつてバブル期にアルマーニがダボダボのソフトスーツを発表して、話題となり、それこそ田舎の量販店の平場までもがそれと近しいシルエットの商品で埋め尽くしたことがあったが、そういう現象は出現することはなくなる。

となると、購買層も各ブランド店を巡って買うということはなくなる。

タイトシルエットが欲しい人はディオール・オムでしか買わない。
なぜならそういうシルエットは他ブランドで発表されていないからだ。

ディオール・オムに合わせやすい他ブランドというのも存在しなくなるから、トータルアイテムをディオール・オムでそろえるしかなくなる。
金持ちならばそれも可能だろうが、一般消費者の多くはそこまでの購買能力がない。
所得が低い。

おそらく、それにつれてアパレル各社の売上高も販売枚数も激減するだろう。
そうなると、今度は生産数量が激減することになるから、生地工場も加工場も縫製工場も経営難に陥り、廃業・倒産が相次ぐだろう。

結果的に産業としては疲弊して限りなく消滅に近づくのではないか。

やみくもに些細なコピーまでを禁止することは却って業界の首を絞めかねない。

じゃあ、「本物」を買うメリットは?と問われると、それは買った人の満足感でしかない。
「超人気で、価格がバカ高いディオール・オムを私は買った」という満足感である。
それを買えるだけの収入があったということで自分の心が満たされる。
所有できたという喜びであり、それがすなわちブランドのステイタス性というものである。

ユニクロにはそういうステイタス性はない。
まあ、誰でも買える値段帯である。
「安い割に品質が良い」とか「トレンドのアレがこんなに安く買えた。しかも品質も悪くない」という満足感である。

これを全部一緒にして、比較するのはナンセンスな話である。
それこそマクドナルドとシャックシェイクを比較してワーワー言いあうような不毛な行為である。

FLAGでは、

最近の若い子の中には模倣品でも安ければいいっていう考えがあったり、ブランド名さえ異なれば、偽物を持っているという罪悪感を感じないということもあるそうです。

という警戒感を表しているが、これって何の問題があるのかと思う。

先ほども書いたようにバックポケットのステッチまでコピーした商品は、絶対にアウトである。
しかし、ステッチのないタイトシルエットのズボンなら問題はない。もしそこまで禁止してしまえば、アパレル・繊維産業自体が消滅する。

ケーブル編みのセーターがある。
ユニクロにもあるし、ラルフローレンにもある。
マックレガーにもあるし、シーズンによっては無印良品にもある。

もし、どこかがこの「ケーブル編みセーターの起源はうちだ」とウリジナル、いやオリジナルを主張したらどうなるのだろう。

そのブランド以外ではケーブル編みセーターが買えないということになる。
ガウチョパンツしかり、バルーンスカートしかり、だ。

スナイデルと全く同じ色柄、シルエット、ディティールの製品を作るのはコピーである。
しかし、一部を変えた商品までを取り締まることはできないし、するべきではない。
それすら禁止してしまえば産業自体が消滅する。

でも、「コピーされたコピーされた」と五月蠅く騒ぐブランドだって、元ネタがあってそのどこかの部分を自社ブランド用にアレンジしているわけだから、何を言っているのかと呆れる。

繰り返しになるが、完全コピーは問題外だが、アレンジすら禁止することは却って産業自体を弱める結果になる。



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