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既製服に「手縫い」「手作業」を求める百貨店部長の愚かしさ

洋服の価格下落を食い止める方策として、付加価値を高めるというやり方が注目されているが、難しいのは何をもって「高付加価値」をアピールするかである。
作り手側・売り手側の響くポイントと、消費者が響くポイントはあまり重なり合わない。
もう一ついうと、作り手側・売り手側の響くポイント、消費者が響くポイント、メディアが響くポイントと「事実」は往々にして異なる場合があり、当方はその場合、事実を絶対的に尊重すべきだと考えている。

最近、流行りの「高付加価値」化の一つとして、少量生産とか手作業というポイントがある。

まあ、これはこれで一つの価値だといえる。当方はほとんどそこには価値は見出さないが、それが価値だと感じる人がいることは否定しないし、それもまた価値だと思う。

その影響からか、過度に「手作業」を神聖視したり、過剰な演出を求めることが増えて、これは逆に事実を歪曲してしまい危険な行為だといえる。

先日、ある縫製業者が百貨店で自社ブランドのポップアップショップを開催した。
百貨店でもっともファッションが充実しているのは、単独店舗では伊勢丹新宿本店、次いで阪急百貨店うめだ本店だとされており、これに異論を唱える業界人はいないだろう。

余談だが、伊勢丹、阪急ともに本店のみが強く、他の地方店が弱いという構図はそっくりで、大量生産メーカーとして付き合うにはロットがまとまりにくいのでお勧めはできない。
日本全国に満遍なく大型店舗を所有していてロットがまとまるのは高島屋である。

まあ、それはおいておいて。

縫製業者は自社の工場風景を動画にして、店頭のディスプレイで流した。
ところが、そのフロアの部長がやってきて、「動画を作り直してほしい」と言い出した。

なぜか。

当たり前だが縫製工場は国内といえども大量生産が前提で、少人数でも5人~10人程度でミシンでの流れ作業が当たり前となっている。
中型、大型だとその人数がもっと増えるだけであり、構図は小型でも大型でも変わらない。
中国、アジアの大型工場はその規模が格段に大きいといえる。

当然、工場風景の動画ではミシンで縫製する姿が流されている。
それを流さなければ何を流すのかということになる。

部長はそれがダメだという。
そして、「手縫い」の風景を動画で流してほしいと言ったのである。

まったくアホかバカかアボカドバナナかと。

ファッションの百貨店のフロア部長がこの程度の認識なのである。
そりゃあ、ファッションも凋落するはずである。(笑)

手縫いの量産縫製工場なんてどこの世界にあるというのか。
くだらない社内政治ばかりしている暇があれば縫製工場の1つでも見学して実情を認識すべきである。

そして百貨店の店頭でこの「嘘の動画」を流すことで、消費者をミスリードし、それを拡大再生産してしまうという危険性がある。
そのことを理解しているのだろうか?多分理解していないだろう。だからそんなアホなことが言えるのである。

小規模工場とはいえ、月産何百枚程度は最低でもこなさなければ、経営者も従業員も生活ができない。
手縫いで月産何百枚がこなせると思っているのだろうか?

もしかしたら、件の部長は「演出として」と言いたいのかもしれないが、それは演出ではなく完全なるフィクションである。
じゃあ、動画に「この動画はフィクションです」っていうテロップでも入れるべきだ。

しれっとノンフィクションみたいな顔して流してるんじゃねえよ!

衣料品業界、繊維の製造加工にはこの手の「過剰演出」「嘘の神話」がまかり通っていて、それが消費者間で拡大再生産されてしまっている。

例えば、オーガニックコットンだ。
このブログにも以前に書いたことがあるが、オーガニックコットンとは有機栽培された綿花である。
土壌汚染とか栽培している作業員の健康を守るとか、そういうことを主眼に置いた社会運動である。

はっきり言えば、オーガニックコットンには、肌に優しい成分は何一つ含まれていないし、通常の綿花と手触りが異なることもない。
科学的にはこれらは何一つとして証明されていない。
それが事実である。

稀に肌荒れに効いたとかアトピーが軽減されたという人がいるが、それはほかの要因で効いたと考えられる。
製品のペーハーが通常の製品とは異なっていたのかもしれないし、プラシーボ効果が発揮されたのかもしれない。

にもかかわらず、製造している人間がその「効果」を吹聴している場合も多いし、その製品を扱っている業者がその効果を吹聴していることも決して珍しくない。
かくして、科学的に何の証明もされていないオーガニックコットンが、肌荒れの救世主みたいにあがめる信者が誕生してしまう。
鰯の頭も信心から、とはよく言ったものだ。
まさに鰯の頭である。

オーガニックコットンも信心から、だ。

話を手縫いに戻すと、当方は手縫いの何が良いのかさっぱりわからない。
手縫いステッチを施しましたという商品もいくつか持っているが、微妙に歪んでいるため、ミシンのまっすぐなステッチの方が1億倍くらい好きだ。
これを重宝がる人の気持ちはまったく理解できない。

そして、こういう「手作業信仰」は既製服にとって何の益もない。
既製服は大量生産・大量販売を前提とした工程・機械で成り立っており、手作業の工芸品とはまったく別物だ。
この2つを混同することは、既製服にとっては有害でしかない。

手塗の漆器やら、一枚の銅板を職人が槌で叩いて鍋を作るのとは違う。
既製服は生地も付属も染色加工も縫製も大量生産の流れ作業である。

その仕組み、機械なくしては現在の既製服は生産できないし、イシキタカイ系の好きなブランドだって商品(作品ではない)を生産することはできなくなる。

そういうミスリードを増幅させ、誤った手作業信仰を百貨店のフロア部長という要職にある者が助長するのは、まったくアホの所業でしかない。
猛省を願いたい。

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技術書だけど、これでも読んでみたら?

老年向けカジュアル・ファッション衣料の市場規模は期待されるほど拡大しないのではないか

我が国は年々、老人人口が増える高齢化社会となっている。
このため、何年も前からその人口の市場規模が拡大すると考えられてきたが、こと洋服に関してはその予想は当てはまらないのではないかと思う。

これまで、老年層の衣料品需要が伸びないのは、「欲しいと思うような服がないからだ」とされてきたが果たしてそうだろうか。
異なる理由があるのではないかと思う。

今回は身の回り調査のみでの推測論となるが、議論のネタにしていただければ幸いである。

当方自身が最早50歳手前の初老となっているので、親戚や周りで当方より年上の人はみんな老人である。
個人差はあるのだが、彼らが口々にいうのは「だんだんと物欲が薄れてきた」ということである。
これが60歳くらいから薄れる人もいるし、75歳を越えてから薄れる人もいる。この辺りには個人差がある。
しかし、例外なく加齢とともに物欲は薄れるようだ。

当方自身に照らし合わせても、今と25歳ごろを比べると、今の方が物欲が薄れている。物欲だけではなく睡眠欲以外のすべての欲は薄れつつある。睡眠欲は旺盛だ。時間とカネが許せば何時間でも眠っていたい。

となると、年配の人々が口をそろえるように、もっと加齢すればもっと物欲は薄れるのではないかと感じる。

先日、あるシルバーレディース向けニットブランドの社長と話す機会があった。
2000年頃に立ち上げたブランドで、当時のターゲット層は60歳だったが、顧客はそのまま加齢して今では70代後半から80歳くらいになっているという。

このブランドはちょっと変わっていて、もともとは大手アパレルの下請け工場だったが、自立化を目的としてこのブランドを立ち上げた。
その一方で大手アパレルの下請け生産も継続している。自社ブランドの卸売りと、大手アパレルの下請け生産がこの会社の両輪という構造である。

生産を請け負う大手アパレル各社のブランドもやはり同様にシルバーレディース向けだそうだ。

最近の商況を伺うと苦戦傾向にあるという。

まず、大手アパレルの下請け生産だが、こちらが大幅に落ち込んでいるらしい。
理由は、大手アパレル各社の卸売りがさっぱり受注量がまとまらないからだ。

この層だけではなく、テイストとターゲットに関係なく、卸売り型アパレルはほぼ全社、売り上げ枚数が激減している。
理由は、専門店・百貨店の発注枚数が激減しているからだ。

ある商品が1型で3色展開し、3サイズあったとしよう。
ワンピースが紺、グレー、赤の3色でそれぞれSMLの3サイズがあったとする。
全部1枚ずつ小売店が発注すれば9枚の発注がある。

紺のSML各1枚ずつ、グレーのサイズ各1枚ずつ、赤各サイズ1枚ずつ、だから全部で9枚となる。

しかし、店頭の売れ行き不振、店舗の販売力低減によって売れ行きが鈍っているため、各店ともに発注量を極小化しているのが現状である。
紺のMサイズ1枚、グレーのMサイズ1枚、赤のMサイズ1枚の合計3枚発注という具合だ。

もっとひどい場合なら、紺のMサイズ1枚だけ、とか、グレーのMサイズ1枚だけというのも珍しくない。

その結果、店側からの発注枚数の総合計が恐ろしく激減してしまうというわけだ。

だから大手アパレル側も売上高を減らし、その生産を請け負う工場も売上高が減るという構図になり、今回話を伺った工場では年間5000万円分くらいの請負生産額が減少しているという。
年間5000万円も売上高が減少すれば国内工場としては死活問題だ。

それを自社ブランドの売上高で補填しているが、そちらも伸びなくなっている。

理由は、同じく専門店からの受注量が激減していることと、もう一つの理由は顧客層が80歳前になってきて、物欲が薄れて服を買わなくなっているからだ。

身の周りで見ていても60代までは結構洋服を買う人も、70歳とか75歳を越えるとあまり買わなくなる。
80歳にもなるともっと買わなくなる。彼らに尋ねてみると「欲しいとは思わなくなる」と口をそろえる。
服だけでなく、食べ物に関してもそうだ。高くて珍しい食べ物や高くておいしい食べ物を食べたいとはそんなに思わなくなるらしい。

当方は元々食べ物に関してほとんど興味がないからその気持ちはよくわかる。
別にスーパー万代の半額に値引きされた弁当(198円)を毎食食べたってなんら苦痛ではない。
毎日昼飯が松屋の牛めし(290円で味噌汁が付いていてお得)でもまったく苦痛ではない。

それ故、この工場としては新販路向けの新商材開発や新たな売り方を、生き残るために模索したいとのことだが、現状のままで何ら手を打たないとたしかに早晩倒れてしまうのは間違いない。

このような例と身の周りの話を合わせて考えると、今後、老人人口はさらに増えるが、市場規模はそれほど大きくならないのではないかと思う。特に衣料品や食品は。
もちろん、介護用品やらそういう物の市場規模は増えるだろう。必要不可欠だからだ。

しかし、衣料品、とくにカジュアル、ファッション衣料はいくらその世代の人口が増えようと、それほど市場規模は拡大しないと考えた方が企業戦略を誤らないだろう。
特に75歳以上のターゲット層、80歳以上の層の需要は人口の増加に比してほとんど増えないだろう。

かつて10年くらい前、団塊世代のリタイアに向けて、団塊世代向けファッションブランドを強化するというアパレルが何社もあったが、結局どこも成功していない。

ポイント(現アダストリア)はアンダーカレントという団塊向けブランドを開始したが、見込みがなくて早々に廃止している。

その原因については、「その層が欲しがるような商品が提案できていないからだ」とされることが多いが、最近、それは違うのではないかと思い始めている。団塊世代といえども、現在はそこまでカジュアルやファッション衣料には興味がないのではないかと思う。
少なくとも30代、40代の頃よりもそういう物への欲求が薄れているのではないかと思う。

団塊世代よりも上の層はさらにそういう物への欲求が薄れているだろう。

こう考えると、老年向けカジュアル・ファッション衣料というのは今後も大きく需要は伸びないのではないかと思う。
当方だって後20年もすれば70歳手前だが、その時まで生きていられたとして、カジュアル・ファッション衣料への物欲があるかと問われれば疑問だ。もう今でもそういうものがだいぶと薄れている。

さらにいえば、75歳になったとして、あと何年生きていられるかわからないと思えば、高額な衣料品をわざわざ買おうとは思わない。
5年で使い捨てて惜しくない程度の低価格品で十分だと考えるだろうと思う。

そうではないという老年層もおられるとは思うが、それは少数派だと考えられるため、もし、老年向けブランドを強化しようと考えるアパレル企業があるなら、その売り上げ目標は低めに設定しておくのが賢明だろう。

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日本の繊維関連工場の技術は高いのか低いのか?総悲観論も楽観論もナンセンス

現在の、日本の製造加工場の技術が高いのか低いのかという議論があるが、一概に高いとも低いとも言えないのが実情だと考えている。
とくに繊維関連では、その傾向が強い。

繊維分野においては、技術の高い低いとは何かという部分の見極めが難しい側面がある。
上質とされる生地、糸は「風合い」が良く、希少性の高さを評価されることが多いと感じるが、その一方で耐久性はまるでないことも珍しくない。
一方で、合繊メーカーが主導で開発するような機能性繊維・機能性生地は、機能性の高さが高品質だとされる。

ここが繊維分野のめんどくさくてややこしいところで、二つの評価軸が入り乱れている。

近年の風潮では、中国やアジアの工場の技術水準が上がり「日本ではできないが中国でならできる」という生地も多く見られるようになった。
例えば、手編みセーターを量産することは最早日本では難しくなっていて、数年前までは中国がその量産基地だった。

また、ハイキックストレッチデニムは日本の工場ではなく、トルコのISKOが最初に開発したもので、ユニクロのウルトラストレッチデニムも初期はほとんどがISKO製ハイキックストレッチデニム生地を使用していた。
またISKOは変型版二重織りストレッチデニムの特許を獲得していて、一見、裏毛(編み物)に見えるデニム生地(織物)はISKOが独占的に製造できるようになっており、そういう技術面からいえば、ある意味で日本よりも技術水準が高いともいえる。

じゃあ、日本の工場の技術が低いかというとそうでもない。
以前に取材した松原市のスポーツ靴下製造工場コーマは、旧型の編み機を使って3D編みを実現している。
足裏の部分部分によって編みの厚さを変えるという技法で、これを旧型の編み機を使ってやれる工場は数少ない。
工場というより工員が少ないと言った方が適切だろうか。
中国やアジアの最新鋭の編み機でもできないともいわれている。

このように一概には、高い低いが言えないのが繊維分野の技術であり、これは他の分野でも同様なのではないかと思う。

中国やアジアに追いつかれたことで危機感を募らせて、日本衰退論を唱える自虐的な人が多いが、中国が経済発展し始めて25年くらいが経過している。
赤ちゃんだって25年も経てば結婚するくらいにまで成長するのだから、中国やアジアの工場の技術が進歩するのは当然といえる。
逆に25年間進歩しないのなら、よほどのアホがそろった国だとしか言いようがない。

一方、繊維分野に限っていえば、国内工場は設備投資がほとんどされず人員も補充されなかったから、できないことが増えるのは当然で、それでもかつての水準を全分野において維持せよというのは、タケヤリでB29を落とせと言っていた旧日本軍と同様のアホな精神論でしかない。

それぞれの分野ごとで是々非々で比較対象し、努力するほかない。
極端な楽観主義も意味がないが、総悲観主義も意味がない。

日本よりも前に繊維製造大国だったのはアメリカだが、アメリカには現在ほとんど繊維の製造加工業は残っていない。
製造基地の海外移転によって、なくなってしまった。
日本は繊維関連工場がアメリカに比べれば残っている方だといえる。

じゃあ、日本の次の繊維製造大国になった中国はどうか。
すでに中国でも繊維関係の工場の工員が集まらないといわれている。
目先の利益に敏い(悪く言えば強欲な)中国人だから、今後経済成長が続けばさらに繊維関連の工場は工員が集まらなくなり、いずれはアメリカのようになるのかもしれない。日本ほどは工場が残らないだろうと思う。

日本の工場の現在の弱点は、ディレクションやプロデュースする人がいない、もしくはそれに対して頑強に抵抗するという工場側のマインドが一つ挙げられるのではないかと思う。

先日、このブログで書いたように、デニム製造関連の人々は、「色落ちしないデニム」や「合繊混デニム」をことのほか嫌う。
幾人も接したことがあるが、40代以上の人々の多くからは「できればやりたくない」という雰囲気を感じるし、あからさまにそう言われたこともある。

バブル期のファッションが見直されて、その当時の主流だったモヤっと色落ちする空紡糸デニムの需要が高まっているのに、国内メーカーは長らく腰をあげなかった。
彼らからするとデニムとは、リング糸で織られて、タテ落ち感があってヒゲ状に色落ちするビンテージタイプのデニム生地が正当で、80年代の空紡糸デニムは邪道だという感覚があるからだ。

しかし、ビンテージ風デニム生地を全廃する必要もなく、需要がある80年代調デニム生地を織りながら、ビンテージ風デニム生地も作り続ければ良いだけのことだが、なぜかそういう割り切りを嫌う人が多く、その心理は理解しがたい。

以前、こんなこともあった。

某産地で、若手デザイナー(当時)が生地提案をした。これはそういう業務と内容だったからだ。
全部で3色だったと記憶している。
黄色×パープル、ミントグリーン×紫、あとグレー×黒だったという記憶だ。

このうち、生地工場はミントグリーンを作ることを拒否した。
あからさまな拒否ではなく、最初のサンプルは色のトーンをグレーベースのくすんだものに変えたのである。
デザイナーの指示した色番号ではない。

理由は「明るすぎて売れないと思ったから勝手に変えた」である。
日本の工場にはこういう癖がある。これが良いように出れば、工場のアレンジによって売れたということにもなるが、悪い方に出れば工場が指示を守らなかったから売れなかったということにもなる。
そして、両方が繊維分野に限らず多々ある。

これが日本の工場の強さでもあり弱さでもある。

それをまあ、無理やり当初通りに修正させて展示会に出展させたところ、非常に評判が良かった。
そうするとその工場の社長は手のひらを返したように「ワシは最初から売れると思っていた」と言い始めた。
繊維工場あるあるである。

売れると思っていたならどうして最初から指示を守らなかったのか。
アホらしすぎて突っ込むことさえやめた。

こんなことは繊維関連の工場では日常茶飯事だ。何も珍しいことではない。
頑強に合繊を打ち込むことを拒否していたが、無理やりに打ち込まさせるとその生地は非常に評判が良かった。
そうすると、工場の社長は「ワシは最初から合繊混がイケると思っていた」と言い始める。
笑い話ではなく、これが業界標準である。

しかし、この工場メンタリティがある限り、日本の繊維関連工場が世界に先んじることは難しいだろうと思う。
繊維に限らず、日本の工場がもっとも真価を発揮するのは、詳細が明確でないモヤっとした指示を、工場が独自にアレンジしたときであり、それでは計画的な開発を続けるメーカーやブランドには太刀打ちできないのも事実である。

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80年代調のデニムアイテムはこんな感じ

低価格商品に最高峰品質は必要ない 

先日、神戸のレディース靴工場、ロンタムの神農社長と遅めの新年会をした。
実は、1月中に5人くらいで新年会をするはずだったのだが、前日にぎっくり腰を発症されて、欠席になってしまったので、今回はその挽回戦となったわけである。

当方も含めたオッサンの身体は漏れなく傷んでいる。(笑)

神農社長と知り合ったのは、2015年に当方がブログセミナーを開催した際、出席してくださったことがきっかけだった。

それから神農社長はずっとブログを書き続けておられる。

http://blog.livedoor.jp/masamichirontam/

ブログの効果としては、ブログを読んだと言って受注があることがチラホラ出てきたことだという。
何事も継続は力なりである。

とは言っても、工場の現実は厳しく、神農社長によると長田にあるケミカルシューズ工場は全般的に厳しい状況にあるという。

そうそう、ケミカルシューズという言葉だが、当方にはあまり違和感がないが、まれにその言葉を聞いたことがないという人もおられるそうだから、簡単に説明しておくと、本革の靴ではなく、合皮やビニールというような化学的な素材を使って作る靴のことである。
だから、元々は低価格向けとして作られていた。
低価格ということは大量生産・大量販売が前提である。

しかし、中国やアセアンなどでさらなる低価格ケミカルシューズが作られて、日本に輸入されるようになると苦境に転じた。

低価格ではアジア製には勝てない、かといって品質や機能性では高額靴メーカーには勝てない、というサンドイッチ状態に陥ってしまっている。

また、靴業界そのものも苦戦傾向にあるらしく、いわゆる品ぞろえ型「靴専門店」がかなり厳しいそうだ。
神農社長に言われてみると、パッと思いつくのは「ABCマート」やチヨダくらいで、「ダイアナ」「マリング」などの靴専門店は店舗数を減らしているし、店としての明確なイメージが思い浮かばない。
ABCマートだと「スニーカー」というイメージが思い浮かぶが、ダイアナ、マリングあたりになると一応、レディースのパンプスとかハイヒールが思い浮かぶが店舗に行くと、スニーカーはあるしワークブーツもあるし、で何が得意な店なのかがわかりにくい。

それ以外だと、ブランドの直営店やオンリーショップばかりが思い浮かぶ。
例えば、オッサン的発想なら「リーガル」だ。

そうなると、新規取引先の開拓といっても限られるので、必然的にロンタムはアパレルや大手セレクトショップの別注品やOEM生産が増えているという。
これは他の靴工場も同じなのではないだろうか。

そんな状況を打破すべく神農社長は奮戦しておられるが、上記のような理由で、いわゆる新規卸先を開拓するのはかなり難しい状態になっている。

神農社長にヒントを求められたのだが、そんなものを提示できるなら当方はとっくに金持ちになって、スーパー万代で定価で食材を買っている。
具体的なヒントは差し上げたくても差し上げられないからひどく原則的なことをお答えした。

オリジナル製品を作って拡販を図るとして、

1、品質、機能性以外の価値を提供できること
2、工場の背景や歴史をストーリー化すること
3、消費者に「欲しい」「買ってみようかな」と思わせる「価値」を作ること

を挙げた。
あくまでも原則論なので、これをもとにどう組み立てるかは、大手アパレル並みに相手に丸投げしておいた。

神農社長は「真面目」な性質で、「オリジナル製品を作るにしても僕らの商品はまだまだ品質的には最高峰には程遠く・・・」と常に言われ、その職人としての求道精神には本当に敬服しているが、それではなかなか進まない。

こういう職人の求道精神は大切にしたいと思いつつも、ビジネスを進める上ではどこかで割り切る必要があるとも思う。

最高峰の品質を実現した暁には、その商品の販売価格はいくらにするのだろうか?
最高峰の品質だから10万円では、よほどのブランド力やステイタス性がないと誰も買わない。
ましてや新参ブランドでは絶対に買わない。

また、神農社長ご自身でも、婦人のパンプス類の店頭販売価格は13000円くらいが限界だとおっしゃっている。
普通に考えても安いパンプスなら2000円くらいで売られているご時世で、よほどの何かがないと2万円を越えるパンプスは買わない。

そうなると、紳士靴ならまだしも婦人靴で2万円を越える高価格を付けることはちょっと現実的ではない。

どこかの部分で値段相応に品質を割り切る姿勢が必要だろう。
1万円だからこの品質、最高峰品質だから5万円という具合に。

これは以前に、初著書「小さな企業が生き残る」(日経BP)を紹介したセメントプロデュースデザインの金谷勉社長も同じ主張である。
金谷社長の場合は伝統工芸に対して、

最高峰のハイエンドモデルだけではなく、一般人でも手に取りやすい価格の入門編を作るべきだ。その入門編は簡略化した技法で作れば良い

と提言しておられ、まさにそれが必要ではないか。

例えば、オール手塗の漆器があったとして、それが10万円くらいするなら買う人・買いたい人は限られる。
しかし、漆塗りの技法を簡略化して5000円くらいにして発売したらどうだろうか。プロモーションの手法や商品デザインにもよるが、多くの人が買いたい、買ってみても良いとなる。

ロンタムのオリジナル靴もこの割り切り方が必要ではないかと思う。

さらにいえば、機能性や品質とは別の価値提供という部分では、スタートトゥデイのプライベートブランド「ZOZO」を参考にすべきだろう。あのTシャツとジーンズの品質や機能性は値段相応に過ぎないのに、多くの人がそこに「価値」を見出している。
正確に言えば、価値を見出したと錯覚しているだけなのかもしれないが、そう思わせる手法はブランド運営には必要になる。

神農社長の悩みを聞きながら、アパレルブランドも同じ部分で悩んでいるのではないかと思った。

もうすでに、服という単品での品質と機能性、デザイン性では差別化できない状況になっている。
もちろん、そういう部分にフォーカスするマニア客は存在するがそこの人数は多くない。
仲間と数億円程度の売上高が稼げて利益率が確保できれば良いなら、そのマニア層を狙っても良いが、何十億円・何百億円の売上高を目指すならマス層に向けて売るしかない。

しかし、マス層に「品質ガー」「機能性ガー」「デザインガー」ばかり唱えていても仕方がない。
デザインはさておき、もうすでにユニクロや無印良品の商品に品質も機能性も負けているアパレルブランドが多数あるから、その土俵で戦ってもさらに負けるだけのことである。
だったら違う価値を提示するしかない。
その価値を作れたブランドだけが生き残れるだろう。

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プライベートブランド「ZOZO」の生産システムは、現時点では「完全オーダーメイド」ではない
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繊維の製造加工業の基本は大量生産・大量販売

クラウドファンディングの大成功で一躍知名度を上げたオールユアーズのスーパー企画マン、原康人さんに久しぶりにお会いした。
会って何をしたかというと業界の裏話をネタに雑談しただけである。

その中で、原さんの企画で、某国内生地産地が大手ブランド(ユニクロじゃないよ)からの受注が決まり、2019年春夏物として、4万メートルの生地を生産することになり、非常に産地の士気が高くなっているという話が出た。
その商品が上手く売れれば、さらに受注量が増え、翌年は40万メートルくらいの生産が見込めるらしい。

ちょっとでも衣料品の生産に携わったことがある人ならだれでも知っているが、生地1反の長さは何メートルでしょうか?

答えは50メートルである。

国内の繊維・アパレル業界は製造加工と商品デザインと販売とで分断されており、包括的な知識を得ることが難しいと以前にも書いたが、生地1反の長さが50メートルということを知らないデザインや販売関係の人は多い。

50メートルというと、けっこう長いと感じるが、服の用尺は平均で2メートルなので、そう考えると25着分しかない。
服と言っても様々ある。半袖のTシャツだと用尺は1メートル未満で、だいたい70~80センチが標準であり、ジーンズやワイシャツなら2メートルくらいである。
またロングコートやロングドレスは3メートルや4メートルは必要になる。

で、4万メートルというと、800反ということになり、これくらいの分量があると産地企業は俄然やる気を出す。
40万メートルはそれの10倍なので8000反となり、これで産地全体が幾分か好況になる。

国内の産地企業はこの20年間くらいで減り続けてきた。

今は激減はないが、毎年パラパラと倒産・廃業がある。

こういう状況なので、危機感を持った人たちが「産地を守ろう」とか「産地を支援」とか「産地復興」みたいな取り組みを掲げることが増えている。
個人的にはその意図するところは賛同する部分が多いのだが、最近では幾分、疑問も感じるようになってきた。

産地を守ろうと声を挙げている人は、小資本、零細、個人事業主みたいなのが多い。
当然、その取り組みは啓蒙活動を含めたソフト部分に重点が置かれてしまう。
まれに「独立系デザイナー」などが産地の生地を使うコラボ商品を発表したり、そういう小規模ブランドとのマッチングに成功したりする。

それらの取り組みは、まったく無意味ではないが、産地企業の業績はそれによって大きくは左右されない。
産地側がそういう「ソフト」を積極的に取り入れ、意識改革してくれるのが最も望ましい結果だが、残念ながら現実はそうではない。
産地側の意識改革はあまり進まない。

これは自身が産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」の主催事務局に身を置いてから、さらに痛感するようになった。

中には少数ではあるが、産地企業の中でもすでに自立化に成功しているところもあるし、それに独自で乗り出し始めているところもあるが、残存する大多数の産地企業の腰は相変わらず重い。

産地企業の重い腰を動かせるのは、啓蒙活動ではなく、ある程度まとまった数量の受注なのである。

だから原さんは「産地を動かそうと思ったら4万メートルくらいの仕事とマッチングさせるしかない」との意見で、これには深く賛同する。
繊維の製造加工業の根本は、大量生産・大量販売なのである。

いくら、イシキタカイ系が「10年使える服ヲー(ユニクロや無印良品の服は10年使えるけど)」とか「大量生産は悪だ」とか、そういうことをブチあげたところで、生産システムは基本的には大量生産なのである。
生地を1メートルだけ織ってもそれは、非効率的作業で赤字を積み上げるだけにしかならない。
1枚だけTシャツを染めたところでそんなものは赤字が増えるだけである。

採算ベースに乗せようと思うなら、種類によっても違うが、生地は最低でも5反以上織る必要があり、もっといえば10反以上が望ましい。
とくに、織物の場合は経糸をセットするのに時間と労力がかかるため、経糸を50メートルごとに取り換えていたら大きなロスになってしまう。経糸は長ければ長いほど効率的だから、1反よりは5反、5反よりは10反、10反よりは100反が採算が良くなる。反対に緯糸は10メートルおきに変えてもさほどの手間にはならない。

だから、この考え方を元にして、小規模ブランドをいくつか集めて、共通の経糸で、緯糸をそれぞれのブランドごとに20メートルから50メートルおきに変えて、生地を作るという「経糸バンク」という企画を構想した会社があったが、結局構想倒れになっており、実現すれば面白かったのではないかと今も思っている。

それはさておき。

染色加工場でもリサイクルを掲げて、古着の染め直し事業を考えたところもあったし、現に今やっているところもある。
しかし、染め直された商品はひどく高く、値段だけで考えるなら、新品を買いなおしたほうがよほど安いのが実態である。

ところが、無印良品は自社の古着を無料で回収して、紺色に染め直して「ReMUJI」として販売している。
価格は2900円で、まあ、古着の平均相場価格だから、気に入れば買いやすい。

 

どうしてこういう価格設定ができるかというと、無印良品という大規模ブランドだから、回収する古着の枚数も多い。
何千枚も集めることができ、これは無料回収だから仕入れ代金はタダということになる。
そして、それを一気に染めるので、染め工賃を枚数で割った1枚当たりのコストは安く抑えられる。
しかも、色は紺色のみだから、染料代も安く抑えることができ、結果的に店頭販売価格2900円にできるというわけで、無印良品というマスブランドならではの組み立てだといえる。

そこら辺の零細ブランドがチマチマと1枚や2枚を染め直すと、最低でもこれの3倍や5倍くらいの販売価格になってしまって、割が合わない。
よほどのストーリー性やデザイン性がない限り、ReMUJIには対抗できない。
当方なら安さと品質の安定で間違いなくReMUJIを買う。

これも染色加工の基本は「大量生産・大量販売」ということの実例である。

産地にある程度の活況をもたらしたいのであれば、そういう大規模な受注に結び付くような先とマッチングさせないと意味がない。
精神論や啓蒙活動だけでは産地の重い腰は動かないし、やる気も出ない。

だから、大手ブランドと結びつけられるような企画マンやプランナーこそが産地に幾分かの活況をもたらすことができる。
もう、花畑満載の精神論や啓蒙活動は食傷気味だから、個人的にはオールユアーズの原さんに続くような人が登場してもらいたいと願ってやまない。

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プライベートブランド「ゾゾ」に関する報道は矛盾が多くてさっぱり理解できない

スタートトゥデイによるプライベートブランド「ゾゾ」の概要は様々な記事を読んでもさっぱりつかめない。
どうしてつかめないかというと、価格帯と納品までのリードタイムと製造の仕組みがそれぞれバラバラで矛盾しているからだ。

一般紙の記事はもちろんのこと、業界紙の記事も同様でサッパリわからない。
業界紙の場合は、製造などについて一般紙よりも詳しいはずなのだが、そのところへの言及はなく、発表時の文言のみで報道しているとしか思えない。

WWDを例に出す。

https://www.wwdjapan.com/515448

この記事によると、

“ぴったりな”サイズを注文できる受注生産体制をとる。しかも、袖丈や着丈などのサイズ感は自分で調整でき、注文後は即日〜2週間で商品が届く。

とある。

これはいわゆる、パターンオーダーの考え方でその都度の受注生産だと考えられるが、通常、この生産方法だとフルオーダー(フルオーダーとパターンオーダーは生産構造自体がまったくの別物)ほどの高価格にはならないが、ユニクロに並ぶ低価格には抑えられない。
さらに注文後は「即日~2週間で納品」とあるが、ここも良くわからない。

衣料品業界は製造と商品企画と売り場がそれぞれ分断されていて、包括的に知識を持つことが難しい業界であり、それこそ誰でも知っているような著名なデザイナーや企画マンですら製造のことはあまり知らない。
大手セレクトショップの社長なんて製造のことを知っているはずもない。

だから、この「即日~2週間」という文言を見たとき、消費者はもとより、業界の製造に携わらない人たちだってまったく何がおかしいのかわからない。
現に、普段から当方と頻繁に行き来しているスタイルピックスの深地雅也社長だって、ピンとこなかった。

ここでの疑問点は、「生地はどうしているのか?」という点である。
当たり前だが生地が無くては服は作れない。

当然のことながら、生地を用意する必要があるが、即日~2週間という短期間で納品するためには、生地をその都度作るのでは到底間に合わない。

おわかりだろうか?
生地をそんな短期間で製造することは不可能なのである。

この場合、ゾゾは2つの方策で生地を手配すると考えられる。

1、商社・生地問屋または工場が備蓄する、またはゾゾが備蓄する
2、業界に常に流れている定番生地を使う

この2つである。
即日納品なんて看板を掲げているので、その都度注文が入ってから生地を作ることは絶対にできない。

これ以外に短納期で洋服を作ることは不可能で、もしかすると、一般メディアやイシキタカイ系経済関係者は「ゾゾが画期的なシステムを構築したかもしれないだろ」と反論しそうだが、ゾゾが生地の背景まで買収やら業務提携したという話は聞かないし、いまだに発表もされていない。

縫製段階までは何らかの手を打って投資したと発表しているが、生地製造に関しては何の発表もない。

90年代後半にワールドがクイックレスポンス体制(QR体制)を構築し、市場を席捲したが、これは「売れ行きが良かった商品をクイックに(2週間~3週間)で追加生産して店頭に並べる」ということが目的だった。
しかし、同じ生地がない場合も多く、その場合、どうしていたかというと、「似たような生地」もしくは「まったく別の生地」を用意して同じデザインの商品に仕上げて対応していた。

それほどに生地を一から作るのは時間がかかる。追加発注から3週間で店頭に並べるのに、一から生地を製造している時間はないのである。

一概に生地を製造と言っても、さまざまな段階がある。大きく分けて

1、綿(わた)から配合して生地を作る
2、糸を交撚や加工する段階から生地を作る
3、完成した糸は備蓄してあり、生地を織る(編む)

の3つがあるが、まったく完成までの時間が異なる。
もちろん、1がもっとも時間がかかる。

糸の成分組成や生地の組成のレシピが残っている場合よりも、そういうものが残っていない方が時間がかかる。
試織・試編みを繰り返さなければならないからだ。

もっと細かく言えば、染色堅牢度や引き裂き強度も試さなくてはならない。

こうした作業で普通に完成まで何か月かかかる。
一から生地を作った場合、最低でも3か月くらいは生地の製造が完成するまでかかり、場合によってはもっとかかる。

東レという合繊メーカーと提携しているユニクロがどうして1年前とか1年半前から商品企画にとりかかるのかというと、生地の開発・製造の時間を考慮している部分もある。

どこぞの商社経由で在りものの生地をどこかから仕入れてくるという体制ではないからだ。
逆にユニクロ以外のアパレルブランドはそういうケースが多い。
とくに中小・零細アパレルは生地開発までやっている時間も体力もない。

生地問屋で買ってくるか、商社経由で手配してもらっているかのどちらかで、生地工場と直接開発しているブランドなんて業界全体から見たらホンの一握りしかない。

こういう背景を知っていると、ゾゾは生地をどうやって手配するのだろうと疑問しか感じない。
スタートトゥデイのこれまでの記事を読んでいると、前澤友作社長自身も生地にはあまり思い入れや思い込みがなく、話題にも上らない。

当方は別に生地にこだわれとは思っていないし、産地ガーなんてこれっぽっちも思っていないが、生地が変わると同じデザインでも商品としての見え方が変わるのも事実である。
ワールドがQR体制を構築したものの、経営不振に陥った原因の一つには、生地を変えて同じデザインを並べても、それは初回生産分ほど売れ
なかったということも挙げられる。
いくら形が同じでも生地が変わると消費者は「別の商品」と見なすから、改めて追加補充分を買おうとは思わなくなる。

生地にこだわりすぎるのも危険だが、こだわらなさすぎるのもまた危険でもある。

安易に「生地変え」しての対応なんてしても往年のワールドよろしく、不良在庫の山を築くことにもなりかねない。
それにしても読めば読むほど、プライベートブランド「ゾゾ」の詳細は分からなくなる。
これを手放しで「スゴイ」なんて褒めちぎれる人はよほど純粋かおめでたいか、のどちらかだろう。

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数量ベースで国産衣料品の生産比率を大幅に上昇させることは不可能

以前も書いたことがあるが、巷間に流布する「国内衣料の生産比率は3%」というのは一面で正しいが、一面では正しくない。
なぜならその「3%」は数量ベースだからだ。

金額ベースだとまだ26%くらいある。

ファクトリエやらトウキョウベースに代表される「国産派?」はこの「3%」に乗っかって、それを販促の旗印にしている。
さらにはカネなしのエシカル活動家もそれに乗っかっており「3%」が蔓延している。

3%というのはいわゆる縫製工程に関する数量ベースであり、生地作りやら染色加工などは含まれていない。

「3%しかないから保護しましょう」くらいまではまだ主張としてわからないではないが、3%という数字が独り歩きするのはあまり意味がないと当方は考えている。

「3%という数字をもっと増やそう」というような主張を見ると、これは不可能だといえる。
本当に国産縫製品を増やしたいのであれば、「金額ベースの26%をもっと高めましょう」と主張するべきである。

なぜ3%をさらに増やすことが不可能なのか。
順を追って見てみよう。

現在、国内に流通する衣料品は40億点弱といわれている。
正確には38億点ほどである。

衣料品の流通点数は20年間で2倍に増えたといわれていて、3%というのはこれに対しての3%なのである。
商品点数が増えた理由は、ユニクロやジーユーなどに代表される低価格SPAブランドの成長、ZARAやH&MなどのグローバルSPAの進出などが挙げられる。

その代わりに国内の衣料品小売市場は9兆円台にまで縮小しているので、低価格ブランドが成長したため、単価が下がって枚数が増えたということがわかる。

この状況で国産衣料品の点数を大幅に増やすことは不可能である。

なぜなら、工賃問題は置いておいて、単純に生産キャパだけを見ても、国内の縫製工場は最新鋭のアセアン工場やインド工場、中国工場に比べて著しく小さい。
その小さい工場群でユニクロやジーユーなどビッグブランドの商品生産をどれだけ請け負えるのか。
ユニクロやジーユーなどが縫製工場を海外に移したのは何も工賃だけの問題ではない。(もちろん工賃問題は大きかったが)
生産キャパが格段に国内工場は小さく、それがいくら寄り集まったところで、ユニクロの年間何十万枚という生産は請け負えない。
逆にユニクロを請け負えたとすると、他のブランドの生産を請け負えなくなる。

そして、数量ベースでの比率を上げるということは、ユニクロ的な大ロットブランドの生産を国内工場が請け負う必要があるということである。

90年代や2000年ごろの状況でも請け負えなくなっていたのに、そこから時が流れて、倒産・廃業が相次いで縫製工場の数はさらに減っているのに、ユニクロやジーユーの生産を請け負えるキャパが国内に残っているはずがない。
お分かりだろうか?

数量ベースで数字を上昇させようとすると、国内の縫製工場数自体を増やして、ビッグブランドの生産を請け負えるようにする必要があるということである。
そして、今から新たに縫製工場を多数国内に建設しようというような企業がどこにあるのだろうか。
多額の費用がかかることは言うまでもない。

工賃問題を置いておいたとしてもこういう難問がある。

カネなしエシカル活動家にこれを解決するすべがあるとは全く思わない。
そんなに資金力があるんだったら、彼らはもっと裕福な暮らしをしているはずだ。

また工賃問題を置いておいても、多くのブランドが国内縫製工場を使わずに最新鋭の海外大型工場を使うにはそれなりの理由がある。
海外工場の方が便利なことが多いからだ。

その中の1つを例示する。

例えばシャツの縫製工場があったとして、シャツ本体を縫製する工程とボタンホールを開けて周りをかがる工程はまったく別である。
国内工場だと多くの場合、縫製工場は本体の縫製をするのみで、ボタンホールはボタンホール専用工場を使わねばならない。

多くの国内工場の場合は、この2つはまったく別の経営者(早い話が他人)なので、ブランド側としては両方を手配し、両方に指示を飛ばす必要がある。さらにいえば、縫製終了後ボタンホール工場に送付することまでブランド側がやらねばならない。

一方、中国などの大規模工場だと同じ敷地内に工場が併設されている。もちろん経営者も同じだ。
そして工場には商社やOEM屋的役割を果たしてくれる窓口担当者がいて、この担当者に指示をしておけば、ボタンホールまで工場側が一貫で請け負ってくれる。

さて、あなたがブランド運営者だとしてどちらの工場を使いたいだろうか?

くどいようだが工賃の問題を置いておいてもこれほどの機能性の違いがある。

国内の工場は縫製に限らず、小規模工場による分業体制で、アジアの最新鋭大規模工場は縫製に限らず一貫体制なので、使い勝手としてはアジアの最新鋭工場の方が便利ということになる。

生地だって織布と染色加工と整理加工とサイジングはすべて国内は分業しているが、アジア工場は一貫である場合が多い。

生産キャパの小ささという問題に加えて、分業体制をまとめるという問題がある。

国内生産比率を伸ばせというなら、それは実現不可能な数量ベースの3%を基準にするのではなく、金額ベースの26%を増やすことを考えた方がまだ現実的といえる。
金額ベースなら、やみくもに価格を引き上げることはナンセンスとしても、ある程度高めの価格帯の商品に注力し、それの売れ行きが増えれば自動的に増える。金額ベースが増えればそれは「儲かっている」ということに直結しやすいから、国内縫製工場は増えないまでも減少にはブレーキをかけることが可能ではないか。

3%という数字はセンセーショナルで販促のネタとしては使いやすいが、実際の解決方法を模索した場合、実現不可能な論点だと言わざるを得ない。そういう言葉遊びや宗教的なスローガンをぶち上げたところで、百害あって一利なしだろう。

金額ベースを高めることを模索する活動に切り替えるのが、本当に国内縫製工場を「保護」することになるのではないか。

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ファッション業界にはびこる「過剰なフィクション」と「嘘の神話」

衣料品をわかりにくくしている原因の一つに、業界の内外にはびこる「過剰なフィクション」がある。

モノ余り状態の現在において、商品を売るには「ストーリー作り」「物語性」が必要であることは言うまでもないが、あまりにも過剰にフィクション性が取り入れられた場合、かえって消費者を惑わせてしまう。

衣料品に関してはこれは今に始まったことではなく、かなり昔から連綿と続いているのだが。

80歳縫製士が最後の挑戦、クラウドファンディングで”究極のシャツ”発売
https://www.fashionsnap.com/article/2018-01-12/teruko-original-shirt/

奈良の縫製工場がシャツでクラウドファンディングに挑戦しており、これはこれでがんばってもらいたいのだが、業界人から一斉に突っ込みが入ったのは、動画で「一生着られるシャツ」という発言の部分にだった。

もちろん、動画の編集工程でカットされた言葉があるのかもしれないが、この動画ではシャツというアイテムの性質自体をミスリードさせる。

断言すると、一生着られるシャツなんていうのは存在しない。
リペア(補修、修理)を加えれば着られるシャツはある。しかし、リペアなしで一生着続けられるシャツなんていうものはこの世には存在しない。今のところ。

まず、長年着続ければ袖口と襟が擦り切れる。
以前にお会いしたことのある積水ハウスのベテラン営業マン(推定40代)はシャツの袖口が擦り切れていた。
それが気になって仕方がなく、何を話したか覚えていないが、袖口が擦り切れたシャツだけは鮮明に覚えている。

またこのシャツのように白シャツは着用を繰り返せば、皮脂がこびりついて必ず黄ばむ。
また襟の内側には「汚れの首輪」が確実に刻み込まれる。
どんなにウタマロ石鹸で丹念にこすっていても、何十年かの間には確実に汚れの首輪は刻み込まれる。

これらを解決しないかぎりは一生着られるシャツなんていう商品にはなり得ない。

衣服の傷みは着用回数と洗濯の回数に反比例するから、年に1度くらいしか着用しないというならもしかしたら一生着られるかもしれないが、デイリーユースで月に何回か着用するのであれば、確実に20年は持たない。

おまけにいえば、「縫製士」なる職業も実在するのかどうかすら怪しい。
40年前とか50年前には存在していたのかもしれないが、少なくとも20年前からこの称号を持つ人には会ったことはないし、見聞きしたこともない。もし、「縫製士」に関してご存知の方が居られたらご教授いただきたい。

この過剰に盛られたストーリー性と「縫製士」なる実在未確認職業がなんとも気色悪い。

最近は「10年持つ服」だとか「100年持つ服」なんていうキャッチフレーズが横行しているが、はっきりいえば、ユニクロの商品は10年持つ。10年持つ服が欲しければユニクロで買えば解決する。

当方のタンスには10年前に買ったユニクロの服が何枚もある。
いずれ画像付きで紹介しよう。

先ほども書いたように、衣服の耐久性は、着用回数と洗濯回数に反比例するから、デイリーユースでも10年持つユニクロの服を極限まで着用回数と洗濯回数を減らせば30年くらいは優に持つだろう。
それだけのことで、そこに過剰なフィクションを差し込むことが気色悪くてならない。

衣料品だけでなく、原料や製造工程にもわけのわからない過剰なフィクションがあふれている。

例えば、

https://ameblo.jp/takukawai/entry-12344165904.html



彼らは「イタリアの素材と日本の素材の大きな違いはエージングにある。イタリアは生産した生地を数年寝かし風合いをだして出荷するが、日本は生産したら直ぐに出荷する。だから、ワインと一緒で滑らかさが違うのだ」という説明でした。

実は、これは大嘘で、日本に二次情報や推測で、このような「嘘」や「神話」がまかり通っています。

とのことで、この「生地のエージング」は素材メーカーや商社、生地問屋などで当方も何度か耳にした。
完全なる嘘っぱちである。

また、ユニクロと契約したことで一挙に注目を集めた完全無縫製のニット製造機、ホールガーメントも過剰なフィクションで彩られている。

一体成型でセーターが編めることが特徴のホールガーメントだが、これの最大の利点は

1、プログラミングが正しくでき、機械の操作を正しくできれば、驚くほどの少人数でセーターが量産できること
2、リンキングが不要であること
3、ホールガーメントでしか実現できないデザインがあること

この3点である。

にもかかわらず「一体成型でフィット感が良い」とか「着心地に優れる」などと言ったまやかしの言説が売り場にもメーカーにもあふれている。

以前、ジーンズメイトで1000円に値下がりしたホールガーメントセーターを購入して何年間か着続けた経験でいえば、そんなものは一切ないと断言できる。
着心地も普通のセーターと変わらないし、そもそもセーターは編み方にもよるが、3センチ~5センチは伸び縮みするので、そこまで厳密な採寸は必要ない。
さらにいえばどうして一体成型だからフィット感が高まるという理屈になるのかも理解できない。それなら丸編みのTシャツのボディはフィット感が良いのだろうか。

セーターは首とか袖や裾部分のリブとかそういうところを本体に取り付ける。
布帛だと普通に「縫製」するのだが、セーターの場合はリンキングという処理を行う。
パーツと本体を目立たないようにつなぐのである。
そしてリンキングにはリンキング専門の工場がある。

リンキング工場はリンキングしかできないため、セーター工場と異なりオリジナル商品は作りにくい。
そのため自立化もできず倒産廃業が相次いでいる。

ホールガーメントはそのリンキングが不要になる技術であり、だからこそ、ホールガーメントが注目を集めているともいえる。
着心地云々ではなく製造側のメリットがあってのことである。

じゃあ、なぜそれを説明しないのかと書いたところ、老年のパタンナーから「そんな後ろ向きのことが言えるか!」と反発を受けたが、だからといって、まったく別のしかも間違ったメリットをでっち上げて良いとはこれっぽっちも思わない。
一体、この人は何を言っているのだろうか。

だったら、人員の削減やら生産効率の上昇やらそこを強調すべきであり、ありもしない着心地やらフィット感をでっち上げることは消費者にとっても業界にとっても何のメリットもない。むしろ害悪だ。

そしてこういう間違った評判が定着し、それゆえに衣料品はわかりにくくなる。
今までからそれを繰り返してきた。
衣料品業界はこういう「過剰なフィクション」にいつまで頼るつもりだろうか。そして過去の「過剰なフィクション」が衣料品をわかりにくいものにし、それが衣料品不振の原因の一つになっているにもかかわらずだ。

ナントカは死ななきゃ治らないといわれるが、まさに衣料品業界は一度完全にクラッシュしてみないとわからないのだろう。

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製造加工業者に蔓延する「とりあえず作る病」と「下請け気質丸出し病」

昨年末にセメントプロデュースデザインの金谷勉社長から、ご自身の初著書を献本いただいた。

日経BP社から12月半ばに発売された「小さな会社が生き残る」(金谷勉著)である。

セメントプロデュースデザインは、もとはグラフィックやらポスターやらウェブなどのデザインを手掛けていたが、それと並行して各地の製造加工業者の新規商品開発も手掛けていた。

今回の本に掲載されているのは、瀬戸焼や熱海の建具業者、京都の竹細工師、鯖江の眼鏡フレーム素材の輸入業者などである。
実は金谷勉社長とは2008年ごろに知り合い、今年でちょうど10年目となる。
スイートテンダイヤモンド

年に数回お目にかかるくらいで、逐一手掛けている製造加工業者のことをお聞きしていたが、この本に書かれている事例の実に8割くらいは存じ上げていた。(笑)
それでもお聞きしていなかった細かい部分や、後日譚、それから金谷社長が各クライアントに抱いている疑問や懸念などが明らかになっていたので興味深かった。

個々の事例はさておき、各地の製造加工業者が苦しんでいる実態とその原因について金谷社長なりの見方が示されている。
このブログの読者は、繊維・衣料品関係の人が多いが、瀬戸焼やヒノキの建具業者の苦境はまったく無関係ではなく、苦境の原因は共通する部分が多く、読めば得るところがあるだろうと感じた。

文字は大きいが239ページもの分量があるので、1回では内容をすべて紹介しきれないので、思いついた部分から順不同で紹介したい。

例えば、

「とりあえず物を作るな」

という部分。

この本では漆器業者の例が出されていたが、これは繊維業者でも同じだ。
とくに繊維の製造加工業者もまるっきり同じメンタリティをしている。

ある漆器業者が「とりあえず作った」新作を持って、金谷社長のところに相談に来た。
市場調査もせずに作った商品である。

「〇〇さん(漆器業者)、この商品はどこで売りたいんですか?」
「銀座です」

理由は銀座には富裕層が多く来るという業者の思い込みでそう答えている。
ちなみにこの話を実際に金谷社長から伺ったのは5年くらい前なので、今の銀座とは少し客の流れが違っている。

「銀座のどこですか?」
「三越とか」
「三越の何階で売りたいですか?」
「行ったことがないからわかりません」

こういう会話が掲載されている。

実は、繊維の製造加工業者も似たようなことがよくある。
国内の製造加工業者もこれまでの下請け業では食っていけないから、生き残りたい業者はオリジナル製品の開発を行っている。
成功するのは1割か2割で、あとは学芸会の発表レベルで終わっている。

2009年ごろからいくつかの産地ブランドや産地イベントの仕事に絡んだことがあるが、当時は中国バブルがすごくて、中国への製品輸出に活路を見出そうとする業者が多かった。

とりあえず作った製品を「富裕層が多い」中国へ高値で売りたいという案件がいくつかあった。
しかし、市場調査をしたわけでもなく、デザインは自分たちの自己流といったものも多く、価格設定も「高い方が売れる(だろう)」というあやふやなものだった。

漆器業者と考え方が同じである。

で、この漆器業者との問答は続く。

実際に売り場を視察して

「売り場を見てきたらうちのとよく似た商品がたくさんありました」
「あなたの商品は売れそうですか?」
「いえ、難しいと思います。でももう100個も作ってしまっていて」

というオチである。

これが「とりあえず」作ってしまうという現象である。
もちろん、試行錯誤するためにサンプル製品を作ることは構わないが、どうしていきなり100個も作ってしまうのかということになる。

しかし、この本には書かれていないが、この逆も製造加工業者には掃いて捨てるほどある。

自社オリジナル製品を展開するとなると、あらかじめ少なくとも展示会用サンプル数枚は作っておくことが必要になる。
しかし、下請けに慣れ切った業者は、このサンプル品すら自腹で作ることを嫌がる。
下請け業なら、ブランドから指示された通りの枚数を作ってその製造加工費がもらえる。
サンプル数枚でも数枚分のカネがもらえるのである。

だから下請けとして仕事をするときはそういう姿勢で良いが、自社ブランドを展開するとなると、そういう姿勢ではやっていけない。

自社ブランドを展開するにはある程度自腹を切らないとやっていけない。

この両方を勘違いする製造加工業者が業種を問わずに多い。
これも製造加工業者の課題の一つといえる。

この本で紹介されている建具屋もとりあえず木工細工品を作って苦戦していたし、瀬戸焼でもパスタ皿を勝手に作って苦戦していた。

一方、逆のケースだと、先日、某アパレル企画マンが顔見知りの縫製工場に声をかけて、企画マンのオリジナルブランドを展開することになった。企画マンがメインで、その製造背景が縫製工場という分担である。
工場の社長も乗り気で「共同展開したい」とまでいうほどの熱意だった。

しかし、下請け気質丸出しの縫製工場は、展示会のためのサンプルを作ったら、それ以上の先行製造をためらった。
先行製造といっても何百枚も作るのではなく、各売り場に持ち込むための数枚とか10枚程度である。
それすら作らないとなると、そのあとの営業は厳しい。

その後、どうなったのか結果は聞いていないが、おそらくこの取り組みは失敗するだろう。
この縫製工場が下請け気質を変えられない限りは。

この本では、「とりあえず作る病」に対して、

僕らからすれば、目的のはっきりしない皿や木工細工を(大量に)つくるほうがよほど「悪」なわけです。

と書かれてあり、「とりあえず作る病」に罹患している製造加工業者はよく味わってもらいたい。

しかし、製造加工業者には先ほどの縫製工場のように下請け気質が抜けない「必要な数量でも自腹では作らない病」も蔓延しており、このあたりが国内の製造加工業者が不振に陥る原因の一つだといえる。

これを治癒することはなかなか難しい。克服できた一握りの業者だけが生き延びれば良いのではないかと思う。

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ウィゴーの筆頭株主が4か月で変更に
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「原価率明示ビジネス」の薄っぺらさ

不振を極める国内アパレル業界では、今、2つの手法が持て囃されているが両方ともに甚だ疑問を感じる。

1つは「原価率明示」、もう1つが「EC礼賛」である。

販路の1つとしてEC、ネット通販を整備することは必要だが、EC比率が高ければ高いほど優秀だという評価はまるで意味がない。
これはメディアにも責任があり、そういう表層的な指標でしか、判断ができないからだ。

もう1つの「原価率」だが、原価率明示ブランドが持て囃されているが、メディアに掲載される「原価率」なる言葉はひどく不完全である。
おそらくは「製造原価率」を指していると思われるのだが、単に「原価率」とだけ表記されている場合は、誤解を招くことにもなる。

なぜなら、単に「原価」「原価率」と表記された場合はそれは「仕入れ原価」「仕入れ原価率」のことも含むからだ。

計数管理の授業の初歩だが、「売上高=原価+粗利益高」と分解することができる。
これはビジネスを行う人ならだれでも知っているだろう。

そして、小売店の場合、「原価」とは「仕入れ原価」を指す。

だから単に原価率とだけ表記されている場合は、仕入れ原価率を指しても間違いではない。むしろ、小売業者なら原価率とは仕入れ原価率の方が適切だということになる。

計数管理の授業では、小売店の仕入れ値は店頭販売価格の6割が標準だと教えられる。
10000円の商品なら仕入れ値の標準は6000円になるということになり、業界では「6掛け」という用語で表される。
もっとも、この標準は現在ではほとんど消滅しており、仕入れ値は店頭販売価格の40~55%くらいに低下している。

しかし、商品によっては6掛けを維持できているものもあるし、買い取りではなく委託販売なら6掛けよりも大きい掛け率の場合もある。

教科書では標準とされる6掛けで仕入れていた場合、この店の原価率は60%となり、「原価率50%」と表記されるTOKYOBASEやファクトリエなどの商品よりも原価率は高くなる。
「原価率50%だから高品質」というのなら、この店の「原価率60%」商品はもっと高品質だということになる。
お分かりだろうか?

言葉というのは中途半端に使用するとこれほどに意味が異なってしまう。

まあ、これは言葉遊びの範疇ともいえるが、正確な用語を使用しないと、まるで違う意味にも受け取れるようになる。
だからメディアは気を引き締めてもらいたいと思う。

さて、言葉遊び以外でも「製造原価率」の高さは、決して高品質にはならない。
もちろん粗悪品ではないが、メディアや世間が絶賛するような高品質ではない。

アパレル商品の原価率が高いことは品質の良さとは無関係
https://ameblo.jp/takukawai/entry-12337459154.html

業界には著名なコンサルタントが幾人かいるが、この河合拓氏はもっとも理論的で、賛同できる主張が多い。
短いブログだが、主要な部分を抜粋する。

サンマやキュウリと違って、アパレル商品は「生地」や「ボタン」などの付属で構成され、さらに、複雑な商品となると「プリント」や「刺繍」など後加工も入ります。これらの部材をアセンブリして商品が完成する、しかも、それらの部材は世界中の産地で生産され、アセンブリ工場に供給されるのです。加えて、繊維製品は95%が輸入品で、日本に輸入する際は輸入関税が10-15%程度かかります。この関税を避けるため、生産時期をずらしたり途上国の部材をつかって特恵関税という減税枠をつかって税率を下げる技術もある。加えて言うなら、生産国から日本に輸入する際、船便とAIRで単品あたり100-200円も輸送費が変わるのです。

また、国によって人件費が違い、産地によっても同じ商品でも労働工賃(CMTといいます)は変わる。では、人件費の安いところにいけばよいのかといえば、そうでなく、バングラデッシュやミャンマーなどは、生産ロットが莫大に多く、日本のアパレルが生産委託をすれば、産地の工場固定費によって単品コストは逆にあがるのです。日本と人件費が変わらないといわれる中国沿岸部で生産したほうが、供給スピードが速くなり的中率があがって、相対原価が下がるということもある。スーパーの仕入とは全く違うのです。

とある。そしてここからが「肝」の部分だが、

アメリカのアパレルが、日本の商社を使う理由が理解できないので、昨年販売した商品と同じ商品をつくってみろといって商社に渡しました。なんと、その商社は、そのアメリカのアパレルが調達している1/3の値段で製品をつくってみせたのです。よく調べてみると、そのアメリカのアパレルはアジアにバイイングオフィスという調達機能をつかってはいますが、香港に拠点をもっていて、香港から多段階に階層化されたミドルマンによる流通の高コスト化によって、例えばイタリアの生地をチャイナの問屋経由で買ったり、という具合に「下手な」調達をしていたわけです。

とある。

要するに、素材・副資材の調達、生産工場の選択によって、日本の商社は同じ商品をアメリカのアパレルの3分の1の値段で製造することができたという話である。
商品はまったく同じでも生産の組み立て方では値段が3倍になるということになる。
昨今流行りの「原価率明示ビジネス」の原則でいうなら、アメリカのアパレルの方が高品質ということになってしまうが、その判断基準は間違っているということの証明だといえる。

なぜなら、同じ商品を日本の商社は3分の1の値段で作れるが、商品の質には差がない。

ちなみにここで言われている「多段階に階層化された流通の高コスト」というのは、実はラグジュアリーブランドにも当てはまる部分があり、某ラグジュアリーブランドが使っているデニム生地は、日本の工場で1メートル700円くらいで生産されている定番デニム生地なのだが、これが「多段階の階層化された流通」によって、このラグジュアリーブランドは1メートル7000円くらいの価格で買っているといわれている。

仮に、全てのアパレルが商社に発注して、完成品だけの仕入と販売をしたらどうなるか。確かに、このケースにおいては、調達の技術はイコールですから、「原価率の高さ」は「品質の良さ」を表すでしょう。しかし、商社は効率を重視しますから、結局商品間の差別性はなくなり、消費者から見た購買の決定要因は価格のみ、ということになり価格競争に陥ります。

こうした事実から、プロから見て、ものづくりのノウハウがないアパレル企業の「原価率の高さ」は、「品質の良さ」でなく「調達の下手さ」と同義語です。アセンブリ商品であるアパレル商品を「原価率」だけで語るのは無意味であるということです。

この結論が昨今流行りの「原価率明示ビジネス」の薄っぺらさを表している。

 

 

 

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