南充浩の繊維産業ブログ

ファッションブログ・・・・と言いたいところだけれどもそこまでファッションに特化していないし、能力的にもできない。そこで繊維製造業、産地、アパレルメーカー、小売店など幅広く繊維産業全般についてぼちぼちと書きます。たまにマスコミ、経済問題についても書く予定。よろしくお付き合いください。 お仕事の依頼は minami_mitsuhiro@yahoo.co.jp まで。

繊維業界新聞の記者としてジーンズ業界を、紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務した。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

百貨店

三越伊勢丹、自壊の予兆

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 三越伊勢丹HDの大西洋社長の電撃解任の背景の全容が各社の報道によってほぼ明らかになってきた。

その中でも日経ビジネス3月20日号の巻頭6ページ特集「三越伊勢丹、自壊の予兆」は経緯があますところなくまとめられており、自分の個人的見解とも重なる部分が多く、秀逸といえる。
ぜひ、ご一読をお薦めする。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/031300536/?ST=pc

各社の報道で改めて浮き彫りにされているのが、大西洋社長は現場の若手社員からはそれなりの信望を得ていたが、中間管理職や経営陣からの信望は得ていなかったということである。

大西社長はマスコミに積極的に顔を出し、マスコミでの発表を行うことで、社内を動かそうと考えていた。
実際に在職中にこれほど頻繁にテレビ、新聞、雑誌などのメディアに登場した百貨店社長はいないだろう。
これを「出たがり」「スタンドプレー」と評する人もいるが、実際に数度に渡ってインタビューしてみると「三越伊勢丹という社名の知名度をもっと高めるために、あえて積極的に出るようにしている」という答えが本人から返ってきたことがある。

それはおそらくその通りなのだろうと感じた。

一連の大西社長の独断専行は、「百貨店が今のままでは存続できない」という強い危機感からだった。
外部から来た人がその組織に対して強い危機感を抱くことは百貨店に限らず珍しいことではないが、生え抜き社長がここまでの強い危機感を持つというのは本当に珍しい。

逆に何がそこまで生え抜き社長の危機感を強めたのか不思議でならない。
ストレートにそれを質問したことがあるが、こちらの尋ね方が悪かったのか、納得のできる返事はなかった。

今回の日経ビジネスの特集でも書かれているように、大西社長の一連の行動は「百貨店事業を守るため」だったことは間違いない。
その真意が経営陣や管理職には伝わらなかったということで、伝え方が不味すぎたという部分は大西社長が反省すべき点である。
伝わらないということは、思ってもいないのも同然だからだ。

よく引き合いに出されるJフロントリテイリングと高島屋という競合他社は、百貨店事業から不動産事業や商業施設事業へと大きく舵を切っている。

強い者が生き残るのではなく、変化に対応できた者が生き残るとよく進化論が引き合いに出されるのだが、百貨店事業から他事業へと舵を切って生き残ることは正解の一つだといえる。
企業は「存続できてナンボ」みたいな部分があり、いくら理想をぶち上げても倒産してしまえばお終いだからだ。

三越との統合で生じた余剰人員を削らず、さらに百貨店事業をある程度守ろうとするなら、大西社長の取った多角化事業(個々の事業内容の正誤は別として)しか方法はなかった。

今回の一連の騒動で、週刊誌からも取材を受けたが、その中で週刊誌記者が「OBや現職に聞きまわったのですが『大西社長は優しいところがあるからリストラは避けたかったんじゃないか』という意見もありました」と話していて、それは事実なのだろうと感じる。

大西社長の一連の改革は未完のまま終わることになるが、どのような完成形を描いていたのかというは一度尋ねてみたい気もする。
日経ビジネス誌の中には、カルチュアコンビニエンスクラブとの提携が、実は「枚方Tサイト」の手法を地方店に導入する目的があったと書かれているが、これはその通りで昨年のインタビューの中でも直接聞くことができた。

解任騒動の決め手となった地方店の業態変更の具体案は「Tサイト」型店への移行をにらんでいたのではないかと推測している。

それにしても、大西社長を解任した結果、登場した新社長が「新規事業よりも構造改革を優先する」と明言したことは、中間管理職や経営陣にとっては、どう映ったのだろう。
否応なく、リストラが先行することになるのだが、大西社長を退任させたことは彼らにとって藪蛇だったのではないかと思える。

記事には「うちはJフロントリテイリングのようになってほしくない」という社員の声が採り上げられているが、杉江新社長の方針を素直に読むなら、Jフロント型百貨店への移行だと読める。


日経ビジネスでは、82年に会社を私物化して解任された三越の岡田茂社長、93年に改革を独断専行して解任された伊勢丹創業家4代目の小菅国安社長の事例も引き合いに出している。
スキャンダルまみれだった三越・岡田社長の解任は当てはまらないとしても、改革を急ぎ過ぎた伊勢丹・小菅社長の解任は、今回と重なる部分がある。

個人的に見るなら、伊勢丹という百貨店の弱みは、新宿店のみが突出し過ぎており、地方店が弱すぎて極めてアンバランスだという部分にある。
小菅社長は新宿本店依存度を下げる改革をしたかったとあり、大西社長はリストラを回避したままで百貨店事業依存度を下げる改革をしたかったという部分が重なる。
そして、その改革はどちらもほぼ独断専行で進められた点は同じだ。

ただ、改革は独断専行でないと成功しないこともあるから、一概に独断専行が悪く、合議制が正しいとも言えない。独断専行ができずに潰れてしまった企業もこれまで数多くある。

記事中には「腰が低く、改革を愚直に進めようとした大西社長に『独裁者』の表現は似合わない」とあるが、それはその通りで、世の中の人が思い描く「独裁者」像とはまるでかけ離れた紳士だった。
アパレル業界にはそれこそ絵に描いたような独裁者社長は多くいる。独裁者、暴君なんて掃いて捨てるほど見てきた。

そういう人々と比べると大西社長の人間性はまったく異なっている。

さて、日経ビジネスが指摘するように、三越伊勢丹は今回の騒動によって、ブランド力は相当傷ついている。
対応を誤るとタイトルにもある通り「自壊」しかねない状況にある。

三越と伊勢丹が合併して百貨店の王者になったと目されたが、実は経営は危機に陥っていたということになる。
統合後10年が経過してその病巣が白日の下に晒されることとなったが、これを取り除くことができなければ、市場から退場することになるだろう。




誰からも信頼される 三越伊勢丹の心づかい
株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ
KADOKAWA
2017-02-24






百貨店がニトリに助けられる時代

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 家具インテリアにはほとんど興味がなく、必要に迫られて国道沿いのニトリや家電量販店の家具売り場を物色して必要最小限の商品を買うくらいだ。

だから、大型家具はもう10年以上何も買っていないし、今後もよほど不具合が出ないと買い替える予定もない。
捨てるのにもお金が必要だし。

今、新しく買いたいのは扇風機で、15年くらい使ってきた扇風機がついに昨年夏に動かなくなってしまった。
別にダイソンの羽のない扇風機なんて欲しくなくて、オーソドックスな5000円くらいまでの扇風機が欲しい。
それをまた15年くらい使うつもりだ。(家具ではなく家電だが)

まあ、そんな人間なのでニトリやイケアが人気がある理由がわからない。
売れる理由はわかるのだが、そんなに年に何度も家具店で買い物をする人が多数いる理由がわからない。

家具店でそんなに年に何度も買う物があることが信じられない。

しかし、そんな「家具音痴」の人間を後目に、ニトリの勢いはすごいと思う。(自分はほとんど利用しないけど)

ニトリ/タカシマヤタイムズスクエア出店で、商業施設の客数が増加
https://ryutsuu.biz/strategy/j031426.html

ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は3月14日、昨年12月に新宿の「タカシマヤタイムズスクエア」南館に出店した「ニトリ新宿タカシマヤタイムズスクエア店」の客数が平日で1万5000人、土日は2万5000人~3万人が来店し、想定を大きく上回っていると発表した。

ニトリのオープン当初は、タカシマヤタイムズスクエア全体の客数が前年同期比で15%増となり、現在でも約12%増の客数で推移しているという。
タカシマヤタイムズスクエアのレストラン街も盛況となり、客数増による相乗効果があったと評価している。



とのことで、ニトリに百貨店が助けられる時代が来るとは、10年前に誰が想像しただろうか。
百貨店マンはこの事実を直視すべきで、少しばかりの新規事業を立ち上げた経営者を「労働強化」を理由に引きずり降ろしている余裕など百貨店という斜陽産業には本来ない。

似鳥会長は、「現在、百貨店から出店してほしいという要望が多数出ているが同じ場所には、出店できないので、交渉をすすめている最中だ」と語る。

という一文があるが、今後、都心百貨店の多くにニトリが出店することになると考えられる。

新宿高島屋タイムズスクエアにはユニクロも入っており、もう百貨店が従来型の品ぞろえやブランドラインナップだけでは集客できなくなっていることは、大丸梅田へのユニクロの出店を見てもわかる通り、公然の事実といえる。

また、百貨店が「小売りの王様」ではなくなって久しいが、ついにドラッグストアにまで売り上げ規模を抜かれてしまった。

ドラッグ店市場規模 百貨店超え 6.4兆円、16年度5.9%増
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ15I8C_V10C17A3TI1000/


百貨店売上高が6兆円を下回る状況の一方で、ドラッグストアは6兆4千億円となり、売り上げ規模だけでいえば百貨店を追い越してしまった。
もっとも、これには中国人観光客による爆買い効果も含まれているため、どこまでがドラッグストア本来の実力かというのは、見解の別れるところではある。

百貨店の苦戦の理由は、以前にも書いたと思うが、高級婦人服への過度な特化があると思う。
これは、松岡真宏さんの持論で、

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100507/214292/?P=1

に述べられている。

どうして高級衣料の消費が低迷しているかというと、

1、可処分所得の伸び悩みあるいは低下
2、高級衣料と低額衣料の見た目にほとんど差がなくなったこと

を理由として何度も挙げているが、それ以外に、一般大衆の意識変化があるのではないかと思う。

90年代半ばごろまでは、「ボロ家に住んで50円のパンを食べていても洋服だけに特化して凝る」というオシャレさんが多数いた。
それが2000年代から、「洋服もインテリアもアクセもサプリも雑貨も食事も自動車も全てトータルで垢抜けていること」が、「オシャレ」だという感覚に変化したと見ている。

でなければ、定期的にニトリやイケアに足を運ぶ人が多数現れる理由がわからない。
家具や食器なんてなんでもいい、と筆者のように考えると10年に一度くらいしかそんな店に足を運ばない。

ただし、身の回りすべての物に気を使ってそろえると、各商品が高額品では破産してしまう。
そんなことができるのは本当の金持ちだけだ。

中間層以下がすべての物に気を使ってそろえようとすると、収入や貯蓄の範囲で賄うなら、ある程度の低価格品・お値打ち価格が求められることになる。

感度は最先端でなくても構わないが、そこそこのセンスが必要とされる。

これを「高感度低価格」とまとめれば良いのか、「中感度低価格」とまとめれば良いのか悩むところではあるが、「最高感度高価格」が対象外となることだけは間違いない。

そういう「そこそこの感度でそこそこ安い」という商品が服ならユニクロやジーユーだろうし、家具インテリアならニトリということになる。

収入が伴わないのに、洋服に限らず借金してまで「最高感度高価格」商品を買い集めることが「下品」「分不相応」「愚か」という風に多くの人が判断するようになった。

業界人からすると「感性の退化」ということになるのかもしれないが、甲斐性無しの貧乏人たる筆者からすれば、随分と健全で成熟した考え方だと感じられる。

この風潮が今後一転して「最高感度高価格品」を求めるようになるとは考えられない。

だから衣料品業界としては、これに対してどう取り組むかが課題となる。
やり方は様々あるだろう。

企業規模やブランド規模に応じて、高価格に特化して数少ない顧客に寄り添うというのも正解の一つである。
ただし、大幅な売り上げ増は見込めない。

一方、高感度低価格をさらに進めるというのも正解の一つである。
ただし、こちらはどの分野にしろスケールメリットが求められる。

これまでの意識やこれまでの仕組み・やり方をまるで変えることなく、中途半端なままで、高額商品に取り組んだり、逆に低価格商品に取り組んだりすることがもっとも危険で、何一つ効果が得られない。
それで疲弊しきっているのが、一部を除いた現在のアパレル業界といえる。

もちろん、「中感度中価格」という方針も正解の一つだが、それとても、従来の百貨店向け・専門店向けアパレルの意識のままでは到底消費者には支持されない。
ワールド、オンワード樫山、三陽商会、イトキン、ファイブフォックス、TSIホールディングスをはじめとする百貨店・専門店向けアパレル各社(中小も含めて)の衰退と没落を見ればそれは明らかである。

ニトリに助けられる百貨店の報道を見ながら、つらつらとそんなことを考えた。

ニトリ 成功の5原則
似鳥昭雄
朝日新聞出版
2016-08-19










三越伊勢丹の社長解任劇で感じた百貨店従業員の認識の甘さ

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 三越伊勢丹ホールディングスが杉江俊彦・次期社長の会見を行った。
出席していないので、それについて書かれた記事を読んだ感想をまとめてみたい。

ちなみに三越伊勢丹ホールディングスの次期社長は決まったが、百貨店事業を手掛ける三越伊勢丹の次期社長はまだ決まっていない。

各報道とも言葉遣いや書き方には違いがあるが(書いている人が違うため当たり前)、論調はほとんど同じだ。

三越伊勢丹、トップ交代で明示された「進路」
杉江次期社長「私は構造改革を優先する」
http://toyokeizai.net/articles/-/162603

社長辞任の三越伊勢丹、新トップは「大丸流」 数値・利益重視の経営目指し、不動産事業にも意欲
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/031300619/?rt=nocnt

東洋経済オンラインと日経ビジネスオンラインの記事だが、論調はほぼ同じだ。

主要な骨子となる要素を箇条書きで挙げてみる。

1、杉江次期社長は、大西社長を支えてきた人物で大西路線を「基本的には」踏襲する
2、始まっている新規事業は当面継続するが、着手していない新規事業は再考する
3、構造改革、人件費削減を優先して進める
4、マネージメント層、管理職、役員との対話を優先する
5、おそらく百貨店事業は大西時代より重視されない

ということになる。

賛否はあったが、大西社長が新規事業を積極的に立ち上げたのは、各識者が指摘しておられるように、大規模なリストラを回避する目的があったと見られている。

百貨店という事業に人一倍の愛着を持っていた大西社長は百貨店事業を存続させるために、新規事業を多数立ち上げて事業の多角化を実現し、愛着のある百貨店事業を守ろうとしていた。
よく引き合いにだされるJフロントリテイリングは、「脱百貨店」を掲げており、各店舗内の百貨店従業員をかなり削減し、ユニクロやアダストリアなど従来百貨店には適さないとされていた低価格ブランドをテナントとして入店させている。

つい先ごろは栄の松坂屋にもヨドバシカメラをテナント入店させた。

大西社長はそのような「脱百貨店」はしたくないということを再三、過去のインタビューでも答えていたし、筆者が昨年行ったインタビューでも繰り返していた。

今回の電撃解任の理由は、労働組合とそれに同調した役員、管理職などによるものだとされていて、彼らの反発の原因は

1、相次ぐ新規事業の立ち上げによる労働強化
2、機関決定されていない地方店の縮小や業態転換などに言及した
3、地方店の縮小や業態転換への発言をリストラ解雇が始まると理解してしまった。(実際は誤解)

とされている。
個人的には、これら以外にも大西社長の持論である「スピード感重視」「危機感の強制」ということへの情緒的反発もあったのではないかと想像している。

大西社長のいう「スピード感」というのは、なんでも「早くやれ」「すぐに結果を出せ」ということではなく、即断即決、意思決定の速さ、行動に移るスピードアップということが主眼だったが、そこも誤解された部分もあるのではないか。
また、「危機感の強制」というのは、大西社長の百貨店事業への危機感というのは相当強く、筆者は「生え抜きでここまでの危機感を持つのは珍しい」と感じたほどである。

実際に、従来通りの百貨店事業を存続させようとすると、かなり難しい状況にあるし、生半可なことでは存続させることは難しい。今後は、大手百貨店も淘汰されることは目に見えており、例えば、そごう西武の決算はかなり追い込まれている。

すべてを捨てて「脱百貨店」をする必要はないが、百貨店事業を存続させるためには「何か」は変革しなくてはならなかった。

大西社長の立ち上げた新規事業や施策がすべて正しいとは思わないが、これまで通りのやり方では活路がなかったのは間違いない。

今回の電撃解任、次期社長の会見を見て感じることは、百貨店従業員の認識は恐ろしく甘いということである。
また、大西社長を引きずり降ろしたがために逆に構造改革・リストラが始まることになってしまっており、従業員側からすれば、なんというバカげた結果になっているのだろうと呆れてしまう。

ぬるま湯で保守的な体質な百貨店従業員は、急激な変化に反発を感じ、その元凶だと感じた大西社長を引きずり降ろしたが、それがかえってリストラを始めるきっかけになってしまうという結果になった。
今頃、彼らはどういう思いで次期社長の会見や一連の報道を眺めているのだろうか。

リストラを回避させるために行った解任劇がリストラ開始の引き金になっているという構図は、外野から見れば喜劇以外何物でもない。

先ほど挙げた日経ビジネスオンラインの記事にはこんな一節がある。

社内からは「経営者のタイプが変わったとしても、事業構造としてJフロントのような企業にはなるべきではなく、百貨店らしさを追求するべきだ」という声も聞こえる。

もうアホらしくて失笑を禁じ得ない。

百貨店らしさを追求したいのであれば大西社長を引きずり降ろすべきではなかったのである。
大西社長は「百貨店らしい百貨店」の存続を目指していた。計数に強い新経営者になれば、採算性の低い業態の在り方を変えられるのは当然だろう。

その程度の判断もできず、目先の現象のみに反発していた百貨店従業員というのは、本当にぬるま湯体質で危機感が欠如している。今回の一連の騒動でそれが明確に浮かび上がったといえる。

たしかに大西社長には対話や根回しが欠けていたかもしれないが、大規模リストラを回避し続けてきた。一方、次期社長は対話を重視する(と言っている)が、構造改革やリストラを先行させるのである。

従業員的立場に立つなら、どちらが自分たちにとって有利だったのか明らかではないか。

次期社長がいつごろから、どれくらいの規模で構造改革やリストラを行うのかは示されていないが、その時になって労働組合や従業員が「雇用を守れ」なんていう声を挙げてもナンセンスすぎて、外部からの支持は集まらないだろう。自分たちが望んで引き起こした結果である。

強いリーダーシップによるトップダウン方式の経営に激しい拒絶を見せた今回の電撃解任劇は、三越伊勢丹の「終わりの始まり」になるのではないかと、個人的には見ている。

















改革路線が潰されて大規模リストラが始まる可能性も

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 三越伊勢丹HDの大西洋社長が電撃解任される直接的な働きかけは労働組合からだった。

これを見るにつけ、一連の大西改革は現場社員にとっては苦痛だったのだろうと察せられる。
日経新聞の記事によると、少ない人員に対して次々と新しい仕事を積み上げられて現場は疲弊していたとされているが、まあ、それはその通りだったのだろう。

2012年から始まった大西改革の眼目は、

1、新規ビジネスを作り出すこと
2、従業員の意識改革

にあった。その次の段階もあったのではないかと思われるが、もうそれが形になることはない。

まず、1についてだが、外食やブライダルなどとの合弁会社設立、エステや旅行会社のM&A(企業買収)などを実行した。

EC強化やファッションヘッドラインという自社ウェブメディアの立ち上げもあった。

個々の事例を見ると、その意図がよく分からないものもあるし、効果があったとは言い難いものもある。

三越伊勢丹HDの百貨店依存比率は92%に及ぶ。
文字通り、「百貨店のみの一本足打法」である。
その一方で、百貨店事業の利益率は1%強しかなく、Jフロントリテイリングや高島屋に比べて格段に低い。

きらびやかな伊勢丹新宿本店のイメージや大西改革による話題性であまり注目されてこなかったが、足元はすでに崩れ始めていたといえる。

経営者ならここで選択が迫られる。

1、大規模な解雇を含めたリストラを行う
2、大規模解雇を回避するならほかの成長エンジンを作る

である。

実際に6回ほどインタビューをした個人的感想をいえば、大西社長は百貨店が大好きだった。
Jフロントリテイリングのような「脱百貨店」を唱えるつもりは毛頭なかった。

そうなると、大好きな百貨店を守り、雇用を守ろうとすると「百貨店自体を成長させる」か「百貨店事業以外の新規事業を立ち上げ、ホールディングス全体の収益をかさ上げする」という方針にならざるを得ない。

そして、大西社長は後者を選んだ。

小島健輔さんが、「大規模なリストラを先延ばしして受け皿としての新規事業作りを行っていた」と指摘されるのは、言い方は別として、そういう側面も十分にあったと考えられる。

「百貨店自体を成長させる」という構想は不可能だったのだろうかという疑問を抱く人もいるかもしれないが、これはかなり難しいのではないかと思う。
それほど簡単にできるなら、とっくの昔にどこぞの百貨店が実践しているだろう。


状況から大西社長の思考をたどると、

百貨店を守るために新規事業で収益をかさ上げする

そのためには従業員の意識改革が必要だ

という結論が導き出されたのだろうと思う。

いくつかの百貨店で催事販売をしたり、取材した感想でいうと、百貨店の従業員や管理職者は保守的でスピード感がなくて、危機感のない人が多い。(全員がそうだとは言わない)

大西社長はその体質に危機感を持ったのだろう。

自身の過去の著書でも、昨年のインタビューでも盛んに「スピードが遅い」「危機感がなさすぎる」を連発されている。

他業種の成長企業のスピード感を取り入れることを最重要課題としていた。
それが従業員にとっては苦痛だったのだろうと想像できる。

百貨店業界の危機を煽られるのも苦痛だったのかもしれない。

それでも状況を眺めると、百貨店業界は危機に瀕しているといえる。
売上高が6兆円を割り込み、地方店の閉店や撤退、倒産、営業譲渡が相次いでいる。

だからこそ、スピードを上げて新規事業や百貨店改革を成し遂げたかったのだろう。
もう百貨店にはのんびりゆっくり改革している時間はない、という思いだったのだろう。

今回の電撃解任は労働組合と現場従業員によるものなので、後任社長は当然、現場に対する配慮を強いられ、大規模で急激な改革はできにくくなる。
なぜなら、また労働組合と現場によって電撃解任される恐れがあるからだ。

自然と、改革のスピードは遅くなるし、改革自体がなくなる可能性もある。

違法なブラック経営者に従業員がNOを突き付けることは当然の権利だし、そうすべきである。

しかし、今回の場合はそれに相当するのかどうか。
むしろ、従業員の収入源である会社そのものが業績低迷をすると、大規模解雇をせざるを得なくなる。
百貨店という旧態依然とした企業が、従来通りのやり方では生き残れないというのは衆目の一致するところである。

大西改革をつぶしたことで却って大規模解雇を招きかねず、従業員は自分たちを窮地に追い込んだのかもしれない。

仮に、今後、三越伊勢丹が従来路線に戻るとするなら、その業績は必ず今以上に低迷する。
そうなった際には問答無用の大規模解雇が始まるだろう。
その時に労働組合が「雇用を守れ」と言い出してもそれは、後の祭りでしかない。












三越伊勢丹の従業員は「変わらないこと」を選んだように見える

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 三越伊勢丹ホールディングスの今回の社長解任劇は、本当に興味深い。
大西社長を追い落としたのは誰だったのかというところに注目が集まっていたが、日経新聞の報道によるとそれは労働組合だったとのことである。

なんという強大な労組なのだろうか。

三越伊勢丹、大西改革に労組反旗 石塚会長が辞任迫る
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ07I3B_X00C17A3EA2000/?dg=1&nf=1

百貨店最大手、三越伊勢丹ホールディングス(HD)の経営トップが代わる。7日、大西洋社長(61)が辞任し、杉江俊彦取締役専務執行役員(56)が4月1日付で昇格すると発表した。大西氏は収益の柱を増やそうと、多くの新規事業を進めてきた。これに現場が反発して、労働組合が辞任を要求。経営から距離を置きつつあった石塚邦雄会長(67)が辞任を迫る異常事態だった。


とのことである。

記事自体は途中までしか読めないが、この報道を元にまとめられたこのブログでおおよその顛末はわかる。

[三越伊勢丹社長降ろしのドラマが深い] 三越伊勢丹HDの労組が大西改革に反旗。辞任というより降ろされたに等しい。次期社長の杉江氏は融和派だが、また百貨店一本足経営に戻るつもりなのか、今後どうするのか。
http://www.okatai.com/blog/2017/03/07/mitsukoshi-isetan-rouso-onishi-sugie/

新しい試みに現場社員の負荷は増え続けていたが、インバウンド(訪日外国人)や富裕層による消費が拡大している局面はよかった

その効果がはがれ落ちると「『新規事業で収益を上げろ』と厳命されても対応できない」(関係者)と、隠れていたひずみが表面化

本業の立て直しに追われている中、最終的には労働組合の関係者が石塚氏に泣きつき、改善を強く要求する事態となった

事態が動き出したのは4日午後

「現場がもうもたない。構造改革による混乱の責任をとりやめてもらいたい」
三越伊勢丹HD本社の一室で石塚氏は大西氏にこう切り出し辞表を差し出した
 
なんと労働組合関係者が会長に直訴。で、会長が大西氏に、辞めてくれという事態。完全に社長降ろしの現場。


とのことである。

当初は、三越派による巻き返しかと考えられていたが、労組と現場が反発していたということで、もちろん、それに同調した上層部もいたことだろう。

三越伊勢丹に限らず、複数の百貨店で催事販売をした経験からいうと、百貨店の社員は基本的に保守的で新たな試みを嫌う人が多いと感じる。

矢継ぎ早にさまざまな改革が行われれば、当然それに対する現場からの反発はあっただろうと推察される。
また、大西社長自身もそれを知っていたので、なかなか現場が変わらないという発言もあった。

大西支持者の社員もいたが、結局は少数派だったということだろう。

著書でも買いているように、大西社長はとにかくスピードを上げることを重視した。
個人的な経験で言っても、百貨店はなかなか物事が決まりにくい。

そういう多くの社員はスピード化に反発を覚えたのだろう。

それでも実際のところは、社員が反発するほどのスピード化でもなく、三越伊勢丹との合弁相手の会社に取材をしたこともあるが、やっぱり百貨店の意思決定は遅いという感想を相手が抱いていた。

一例でいえば、出張でもそちらは即決するが、三越伊勢丹はなかなかその稟議が通らない。

現場からするとスピード化を強制されて苦痛だったのかもしれないが、異業種と比べるとまだまだ遅いのが実情である。

各報道で指摘されているように、三越伊勢丹の業績悪化に対する大西社長の経営責任はある。
4年以上も社長に就いていたのだから、責任追及されることは仕方がないだろう。

それでも百貨店事業比率が高すぎ、その百貨店事業そのものが苦戦に転じた状況下で、多角化という方針は完全なる間違いとは言えないのではないかと個人的には思う。

逆に新社長に就任する杉江俊彦専務が、「本業回帰」というメッセージを発しておられるが、大丈夫だろうかと疑問を感じる。
大西社長も多角化とは言いながら、本質的には百貨店重視の姿勢であり、その結果が現在の業績悪化なのである。これ以上さらに百貨店を重視するという姿勢で効果が出るのだろうか。

また、今回の解任劇で三越伊勢丹のイメージは悪化した。
この悪イメージを逆転させるのは簡単なことではない。

単なる本業回帰だけではまったく効果がないだろう。

これから中期的には三越伊勢丹にかなり厳しい状況が続くだろうと見ているが、果たしてどうなることやら。







大西洋漂流76日間 (ハヤカワ文庫NF)
スティーヴン キャラハン
早川書房
1999-05






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