南充浩の繊維産業ブログ

ファッションブログ・・・・と言いたいところだけれどもそこまでファッションに特化していないし、能力的にもできない。そこで繊維製造業、産地、アパレルメーカー、小売店など幅広く繊維産業全般についてぼちぼちと書きます。たまにマスコミ、経済問題についても書く予定。よろしくお付き合いください。 お仕事の依頼は minami_mitsuhiro@yahoo.co.jp まで。

繊維業界新聞の記者としてジーンズ業界を、紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務した。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

企業研究

従来型の物作りにこだわりながらマス層へのヒットを願うのは現実性に乏しい

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 洋服もその他も含めて、物作りの姿勢は大きく2つに分かれる。

1、従来通りの商品を作り続ける
2、市場の売れ行きに合わせて作る商品・作り方を変える

である。

様々な意見があるのは承知しているが、ビジネスの観点からいえば個人的には2が正しいと考えている。
1の姿勢は否定しない。ニッチ層に向けて作って売るという自覚があるなら。

しかし、1の姿勢を取りながら、「マス層に売りたい」と考えるのはいただけない。
さらにいうと「昔ながらの良さがわからない方が悪い」「マス層に売れてしかるべき」と考えるのはもっともナンセンスである。そういう業者にはまったく共感を覚えない。

例えば、大ヒットしている「カレンブロッソ」のゴム底草履がある。
大ヒットしているといってもユニクロやGUのように百万枚とかそういう数量ではない。
しかし、生産キャパいっぱいの状態が続いている。将来的な不安もあって生産キャパを増やすことはしないそうだが、それがまた値崩れを防いでいるという側面もある。
需要が供給を上回り続ける限り、値崩れは起きない。

ヒットの要因は、コルク芯+革底で作られていた従来の草履をEVA台+ゴム底に改良したことにある。
これで格段にクッション性が高まり、足が疲れなくなった。
また従来品よりは雨でも滑りにくくなった。

要は機能性が格段に向上したということである。

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和装関係の展示会やイベントに出向いても、この草履の着用者が多い。
普段は「伝統ガー」とか言ってる人も、この草履を履いている。
言ってしまえば、人間は誰しも楽な方が良いのである。伝統か快適さかどちらかを選べと言われたら、ほとんどの人は快適さを選ぶ。もちろん筆者もそうだ。

筆者はマゾヒストではないから、苦痛を我慢する趣味は持ち合わせていない。

カレンブロッソの廣田裕亘社長とは定期的にお会いしていろいろと話を伺うことがあるが、これがヒットしたのは、ご自身でも予想外だったとのことだし、運やタイミングの良さも大いにあったが、伝統に固執せずに機能性を向上させなければ、その運もつかめなかっただろう。

それとあと、履物というところも定期的な買い替え需要を産んでいる。
洋服と違って、履物は地面と直接摩擦するので、絶対に定期的に傷む。
だから補修か買い替え需要が絶対に生じる。その買い替え需要に至るまでの期間は洋服よりも格段に短い。

後から考えればヒットする理由はそろっているのだが、そこにたどり着けたのは廣田社長の話を聞けば聞くほど「たまたまだった」としか思えなくなる。(笑)

それはさておき。

このゴム底草履がヒットすれば、当然、世の中に広まる。
もしかすると、近い将来、草履といえばすべてゴム底草履になってしまう可能性もゼロとは言えない。
そうすると「伝統」の草履作りの技術は廃れる。
不要な技術は廃れても当然じゃないかという考えもあるが、従来の技術を守りたいと考える人もいる。
その存在は否定しない。

そういう人が、従来品を作り続けて「売れなくては困る」「本物の良さがわからない人が増えた」という理屈にたどり着くと思うのだが、そこは大いに疑問である。

例えば、ゴム底草履を収入の柱としながら、そこで得た利益で細々と従来型草履の技術伝承をすれば良いのではないか。
売れる物を作って売って、その収益で伝統技術の継承をするのがもっとも理論的で効率的ではないか。


豆腐のため、ファッションショーにも通う
相模屋食料 鳥越淳司社長
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/269473/033000078/?P=1

ザク豆腐を開発した相模屋食料の社長インタビューが掲載されているが、この豆腐メーカーは通常の豆腐も生産し続けている。
その一方で話題になりやすいザク豆腐やデザート向けのナチュラル豆腐といった「変わり種」を開発している。

どちらか一方だけだと売上高200億円は達成できなかっただろう。
通常の豆腐だけの生産だと面白みもないし話題性もない。需要だってそんなに広がらない。
広報販促の手段はありきたりな「安心・安全」とか「手作り」とか「大豆の本来の味」とか打ち出しに終始してしまう。

この打ち出しは同業他社と同じであり、埋没してしまって消費者には見向きもされない。

他方、ザク豆腐やナチュラル豆腐などのおもしろ商品だけだと、売れ行きが不安定になる可能性が高い。
話題性はあるかもしれないが、大いに外す場合もある。

それを考えると従来品と飛び道具という二刀流は非常にリスクが低いといえる。

繊維やその他商品の物作りも同じではないか。
そこを理解した業者だけが生き残ることになるのは、自然な流れで当然の結末だろう。










全国展開の仕入れ型ジーンズカジュアルチェーン店の限界点

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 ライトオンの17年8月期第二四半期決算が発表された。
いわゆる中間決算というやつだ。

結果は減収大幅減益で当期赤字である。

ライトオンが3月28日に発表した2017年8月期第2四半期の業績は、売上高428億3000万円(前年同期比7.7%減)、営業利益2億3300万円(92.0%減)、経常利益2億2700万円(92.2%減)、当期損失1億6000万円(前年同期は16億8400万円の当期利益)となった。

そして、通期予想は営業赤字、経常赤字に転落し、当期赤字幅がさらに拡大する見通しだ。

通期は、売上高810億円(6.3%減)、営業損失20億円、経常損失21億円、当期損失34億円を見込んでいる。

とのことで、全国展開の仕入れ型ジーンズカジュアルチェーン店は3社とも苦戦が続いているといえる。

ライトオンは15年8月期、16年8月期と増収増益を達成していたが、15年8月期は8年ぶりの増収増益だったので、苦戦続きと評される範疇内ではないか。

ジーンズメイトは売上高100億円を割り込んでしまい、全国チェーンとは呼べない規模にまで縮小しているし、マックハウスも売上高400億円を割り込んで減収基調は止まらない。

去年の今頃のメディアの主流となっていた「ユニクロ失速、ライトオン復活」という論調は完全に事実誤認に基づくものだったといえる。

小島健輔さんが、ブログでインディテックス社(ZARAを展開)、H&M、ファーストリテイリングの3社の決算を比較して「ファーストリテイリングの脱落」と評されているが、個人的には「インディテックス社の独走、H&Mの足踏み、ファーストリテイリングが少し後退」というのが正しいのではないかと思っているが、数字面に関しての比較はまったくその通りだし、ファーストリテイリングと同等の比較対象はこの2社とあとはGAPなど数社を加えたグローバルSPAしか適当ではなく、売り上げ規模が10分の1以下のライトオンや、3分の1以下のしまむら、6分の1以下のアダストリアなどと比較するのは、規模的に無理がある。

おまけにファーストリテイリングは減益とはいえ、黒字額が巨額であり、赤字スレスレの企業の増益とは比較する土台が異なる。

昨年の今頃盛んだった「国内ではユニクロ一人負け」の論調は意味が分からなかった。

今回のライトオンの苦戦の原因は、

https://ryutsuu.biz/accounts/j032802.html

気温、気候の環境要因、その他外的要因の影響もあったが、前年からの持ち越し商品の消化が進まなかったこと、前年の売れ筋商品を踏襲した商品群が多くなったことで、売場が新鮮味に欠け、集客が大きく落ち込んだ。

と発表されており、ライトオンの売り場を見ているとこれはかなり実情を正直に語っていると考えられる。

なぜなら、前期・前々期の増収増益当時に、業界では「ライトオンはかなり売れ残り在庫を貯めこんでいる」と噂されていたからだ。
当時、2014年後半から2016年春までライトオンは珍しく、店頭での最終投げ売りがほとんどなかった。

だから2014年から2016年春先まで、筆者はライトオンで商品を買っていない。

現在の国内において、セール末期に投げ売り無しで売り切ることができる大規模チェーン店は皆無である。
個店や中小チェーン店なら投げ売りなしでの売り切りは可能だし、現実にそういう店がある。

なぜなら、顧客と密接に結びついており、顧客一人ずつの好みを把握して商品仕入れすることができるからだ。
そうすると投げ売りせずとも商品をある時期までには完売することができる。

しかし、全国規模のチェーン店でそういう仕入れは無理だ。
顧客の数も多すぎて、誰がどんな好みなのかを把握することは現時点では不可能である。

従って大勢が好みそうな商品を仕入れたり、企画製造するほかない。

だから売れ残りは必ず発生するし、それを期末で投げ売りしてでも処分する必要がある。
ユニクロしかりジーユーしかり無印良品しかりライトオンしかりジーンズメイトしかりである。

そういう構造であるにもかかわらず、ライトオンはその時期投げ売りをしなかった。定点観測していると完売していないことはわかる。おそらく倉庫へ格納したのだろうと推測したが、そうなると翌シーズンに再投入するにしても在庫過多に陥ることは当然といえる。

2016年3月以降に通常の処分セール品がライトオンの店頭に増え始めた。
だからその投げ売り品を昨年はそこそこ買ったし、今年もまた買ってしまうと思う。

例えば、2015年秋冬にライトオンは、丸八真綿とコラボしたダウンジャケットを店頭投入した。
定価はだいたい1万4000円くらいだった。

これまでのライトオンならこのダウンジャケットは2016年の1月のバーゲンで9900円くらいになる。
2月か3月まで待てば残っている商品は7900円くらいにまで下がる。
ところが、そこまで下がらずに早々に格納されてしまった。

2016年秋冬に再投入されたが、年末には7900円くらいまで値下がりした。
もちろん7900円に下がったときに1枚買った。

「好調」といわれていた2期はこういう商品が多かった。

だから「前年からの持ち越し商品の処分が進まなかった」のであり、筆者が見てきた商品はその一部だと考えられる。

現在の店頭にも前年からの持ち越し処分品が並んでいる。

全国展開する仕入れ型のジーンズカジュアルチェーン店は現在、本当に岐路に立たされている。
仕入れ品のみで全国規模を維持し続けるのは無理で、そのことは全国展開の大手セレクトショップ各社が疑似SPA化していることが立証している。

ライトオンは今回の決算で、「SPA企業」ではなく「品揃え型ジーンズショップ」を目指すことを改めて標榜しており、これは現状のままではかなり実現は厳しいといえる。

ライトオンもマックハウスもほとんど一本足打法である。
従来型の仕入れ型ジーンズショップのままで今以上に規模を拡大するのはかなり難しい。

必然的に新業態の開発が求められるが、これまで全国型ジーンズチェーン店で成功したためしはない。

ライトオンはチャイム、フラッシュリポートを今期で完全撤退する。
代わって新業態「ノーティードッグ」を立ち上げ、今年度だけで28店舗のオープンを予定している。
これはかつて2店舗を出店してから遅々として出店が進まずついにはブランド廃止となった「ソルト&ペッパー」の失敗を繰り返していないといえる。
ただ、この業態が売れるかどうかは未知数だ。

マックハウスも新業態「スーパーストア」を打ち出しているが、こちらも売れるかどうかは未知数だ。

ジーンズチェーン店は、似たようなジーンズカジュアルショップを派生させてしまう傾向が多いが、それは本体との区別ができにくい。
マックハウスの「スーパーストア」はもっとコンテンポラリーなテイストにしているが、こちらは什器や店内の画像を見る限りにおいてはユニクロとテイストがダブるので、すぐさま大ヒットするということは考えにくい。

かといって、慣れていないテイストの店を始める場合に、ジーンズカジュアルチェーン店各社にはそれに対応できる人材がなかなか少ないから、外部からの招聘が必要となる。

ライトオンも含めた全国展開のジーンズカジュアルチェーン店3社は今後どのように舵を取るのか、注目してみたい。








リストラ時には、優秀な人から辞める・優良なブランドから売れる

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 瀧定大阪がスタニングルアーをジャパンイマジネーションに売却した。
瀧定大阪は赤字続きのブランド事業の縮小を発表したが、その中にあって、スタニングルアーは優良なブランドだった。売却額は公表されていない。

おそらくスタニングルアーなら欲しいという企業はほかにもあったのではないかと思う。
企業でリストラが行われると優秀な人から先に辞めていくが、それと同じで優良なブランドほど早く引き取り手が見つかるものである。

ジャパンイマジネ、スタニングルアー譲り受け
https://senken.co.jp/posts/STUNNING-LURE-Japan%20imagination

セシルマクビーなどを展開するジャパンイマジネーションならスタニングルアーとのシナジー効果はあると考えられるから、スタニングルアーにとっては瀧定大阪傘下でいるよりも良かったのではないかと思う。

ここ数年瀧定大阪は経営の多角化を目指して、ブランド事業を積極的に買収したが赤字が続いていた。

瀧定大阪がブランド事業を大幅縮小、17年1月期に特損300億円を計上
https://www.wwdjapan.com/338457

オリーブ・デ・オリーブを中心にした消費ブランド事業の2017年1月期の事業見通しは、売上高が前期比15.1%減の87億円、営業損失が22億円(前期は18億円の赤字)、経常損失が22億円(前期は20億円の赤字)、税引前純損失が51億2500万円(前期は21億3500万円の赤字)と、赤字が拡大する見通し。

220億円のデリバティブ取引の大型損失と構造改革費用100億円の計上に伴い、瀧定大阪(単体)の純資産は521億円から221億円に減少、自己資本比率は74.4%から50.6%になる見通し。

という状況にあり、ブランド事業そのものは減収赤字が続いており、その額は増える一方だった。

瀧定大阪はスタニングルアー以外に、オリーブ・デ・オリーブ、ミリオンカラッツ、シアタープロダクツ、ライオンハートなどのブランドがあるが、

この数年積極的にM&Aを進めてきたブランド事業は大幅に縮小。売上高の9割を占め、子会社のスタイレムが展開するテキスタイルとOEM事業に経営資源を集中する。

とのことなので、各ブランドは売却先を見つけるか、独立するか、しなければ縮小や廃止になることは間違いない。現在の規模のままで活動が継続できる可能性は極めて低い。個人的にはその可能性はゼロだと見ている。

だが、関係者の多くはブランドの売却先を探すことはかなり難しいという意見を述べる。
なぜなら、先ほどの記事にもあるように事業自体が赤字だったからである。
赤字だということは経営状態が悪いということになり、現在の厳しい衣料品業界において、わざわざ不振ブランドを引き取ろうという会社は極めて少ない。

「売るんじゃなくて、逆にカネを付けるくらいでないと難しいのではないか」とまで言い切る業界人もいるほどだ。

個人的にはこれらのブランド群は、顧客ターゲット層も商品価格帯も商品テイストもすべて異なっており、シナジー効果を発揮するのが難しい組み合わせだと感じていた。
相互補完にも相互競合にもなりえないので、単に存在するだけということになってしまいがちになる。

本来は本業である生地販売との連動が目的ではなかったかと思うのだが、業界で尋ねまわると、それが積極的に行われた形跡もほとんどない。

そうなると何のための多ブランド買収だったのかと外野のオッサンからすると首を傾げたくなる。

本業との連動も、ブランド間の連動もないとなると、ブランド事業そのものを瀧定大阪がやる意味すらないといえる。

おまけにブランド事業全体で赤字拡大しているということは、商品政策か販売政策、広報販促政策のどれか、もしくはそのすべてが間違っていたということになる。

200億円以上にも上る巨額デリバティブ損失が今回のブランド事業縮小の引き金になったとはいえ、仮にデリバティブ損失がなかったとしても減収赤字続きの実績を見ると、早晩、縮小という結末が待っていたことは変わりなかっただろう。今回の巨額デリバティブ損失によって縮小開始時期が少し早まっただけだろう。

瀧定大阪が抱える残りのブランドはどのような結末を迎えるのだろうか。















三越伊勢丹、自壊の予兆

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 三越伊勢丹HDの大西洋社長の電撃解任の背景の全容が各社の報道によってほぼ明らかになってきた。

その中でも日経ビジネス3月20日号の巻頭6ページ特集「三越伊勢丹、自壊の予兆」は経緯があますところなくまとめられており、自分の個人的見解とも重なる部分が多く、秀逸といえる。
ぜひ、ご一読をお薦めする。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/031300536/?ST=pc

各社の報道で改めて浮き彫りにされているのが、大西洋社長は現場の若手社員からはそれなりの信望を得ていたが、中間管理職や経営陣からの信望は得ていなかったということである。

大西社長はマスコミに積極的に顔を出し、マスコミでの発表を行うことで、社内を動かそうと考えていた。
実際に在職中にこれほど頻繁にテレビ、新聞、雑誌などのメディアに登場した百貨店社長はいないだろう。
これを「出たがり」「スタンドプレー」と評する人もいるが、実際に数度に渡ってインタビューしてみると「三越伊勢丹という社名の知名度をもっと高めるために、あえて積極的に出るようにしている」という答えが本人から返ってきたことがある。

それはおそらくその通りなのだろうと感じた。

一連の大西社長の独断専行は、「百貨店が今のままでは存続できない」という強い危機感からだった。
外部から来た人がその組織に対して強い危機感を抱くことは百貨店に限らず珍しいことではないが、生え抜き社長がここまでの強い危機感を持つというのは本当に珍しい。

逆に何がそこまで生え抜き社長の危機感を強めたのか不思議でならない。
ストレートにそれを質問したことがあるが、こちらの尋ね方が悪かったのか、納得のできる返事はなかった。

今回の日経ビジネスの特集でも書かれているように、大西社長の一連の行動は「百貨店事業を守るため」だったことは間違いない。
その真意が経営陣や管理職には伝わらなかったということで、伝え方が不味すぎたという部分は大西社長が反省すべき点である。
伝わらないということは、思ってもいないのも同然だからだ。

よく引き合いに出されるJフロントリテイリングと高島屋という競合他社は、百貨店事業から不動産事業や商業施設事業へと大きく舵を切っている。

強い者が生き残るのではなく、変化に対応できた者が生き残るとよく進化論が引き合いに出されるのだが、百貨店事業から他事業へと舵を切って生き残ることは正解の一つだといえる。
企業は「存続できてナンボ」みたいな部分があり、いくら理想をぶち上げても倒産してしまえばお終いだからだ。

三越との統合で生じた余剰人員を削らず、さらに百貨店事業をある程度守ろうとするなら、大西社長の取った多角化事業(個々の事業内容の正誤は別として)しか方法はなかった。

今回の一連の騒動で、週刊誌からも取材を受けたが、その中で週刊誌記者が「OBや現職に聞きまわったのですが『大西社長は優しいところがあるからリストラは避けたかったんじゃないか』という意見もありました」と話していて、それは事実なのだろうと感じる。

大西社長の一連の改革は未完のまま終わることになるが、どのような完成形を描いていたのかというは一度尋ねてみたい気もする。
日経ビジネス誌の中には、カルチュアコンビニエンスクラブとの提携が、実は「枚方Tサイト」の手法を地方店に導入する目的があったと書かれているが、これはその通りで昨年のインタビューの中でも直接聞くことができた。

解任騒動の決め手となった地方店の業態変更の具体案は「Tサイト」型店への移行をにらんでいたのではないかと推測している。

それにしても、大西社長を解任した結果、登場した新社長が「新規事業よりも構造改革を優先する」と明言したことは、中間管理職や経営陣にとっては、どう映ったのだろう。
否応なく、リストラが先行することになるのだが、大西社長を退任させたことは彼らにとって藪蛇だったのではないかと思える。

記事には「うちはJフロントリテイリングのようになってほしくない」という社員の声が採り上げられているが、杉江新社長の方針を素直に読むなら、Jフロント型百貨店への移行だと読める。


日経ビジネスでは、82年に会社を私物化して解任された三越の岡田茂社長、93年に改革を独断専行して解任された伊勢丹創業家4代目の小菅国安社長の事例も引き合いに出している。
スキャンダルまみれだった三越・岡田社長の解任は当てはまらないとしても、改革を急ぎ過ぎた伊勢丹・小菅社長の解任は、今回と重なる部分がある。

個人的に見るなら、伊勢丹という百貨店の弱みは、新宿店のみが突出し過ぎており、地方店が弱すぎて極めてアンバランスだという部分にある。
小菅社長は新宿本店依存度を下げる改革をしたかったとあり、大西社長はリストラを回避したままで百貨店事業依存度を下げる改革をしたかったという部分が重なる。
そして、その改革はどちらもほぼ独断専行で進められた点は同じだ。

ただ、改革は独断専行でないと成功しないこともあるから、一概に独断専行が悪く、合議制が正しいとも言えない。独断専行ができずに潰れてしまった企業もこれまで数多くある。

記事中には「腰が低く、改革を愚直に進めようとした大西社長に『独裁者』の表現は似合わない」とあるが、それはその通りで、世の中の人が思い描く「独裁者」像とはまるでかけ離れた紳士だった。
アパレル業界にはそれこそ絵に描いたような独裁者社長は多くいる。独裁者、暴君なんて掃いて捨てるほど見てきた。

そういう人々と比べると大西社長の人間性はまったく異なっている。

さて、日経ビジネスが指摘するように、三越伊勢丹は今回の騒動によって、ブランド力は相当傷ついている。
対応を誤るとタイトルにもある通り「自壊」しかねない状況にある。

三越と伊勢丹が合併して百貨店の王者になったと目されたが、実は経営は危機に陥っていたということになる。
統合後10年が経過してその病巣が白日の下に晒されることとなったが、これを取り除くことができなければ、市場から退場することになるだろう。




誰からも信頼される 三越伊勢丹の心づかい
株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ
KADOKAWA
2017-02-24






リストラで広報を全員辞めさせた不振アパレルに驚愕した話

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先日、某カジュアルアパレルの知り合いからこんな話を聞いた。

ちょっとした案件があってそれに協力してもらえるかどうかを尋ねていたのだが、「実は先ごろ、大規模なリストラが行われて広報・プレス担当者が全員辞めてしまったため対応できにくい」という驚愕の事実を伝えられた。

何が驚愕かというと、案件に対応できないことではもちろんない。
このご時世において「リストラによって広報・プレス担当者が全員辞めた(実際は辞めさせた?)」という事態に対して驚愕したのである。

たしかにこのアパレルもその関連アパレルも非常な不振に陥っていると以前から耳にしていた。

退職者が相次いでおり、面識のあった人が何人も退職している。

今回のリストラはそれによるものであることは時系列的な状況から明白ではあるが、それにしても「広報・プレス担当者全員」を辞めさせるというのは正気の沙汰とは思えない。

なぜなら、広報・プレスをおろそかにして売れているブランドは現在、ほとんど存在しないからである。
いわゆる広告宣伝を行わずに業績を国内で伸長させているのはZARAくらいしかない。

逆に、雨後の筍のように毎年誕生する産地ファクトリー系ブランドや、大手アパレルからの独立組による新規アパレル企業は、「どのようにして広報活動を行って知名度を高めるか」ということをかなり熱心に考えているからだ。

このアパレルは本当に21世紀に存在する企業なのかと疑ってしまう。

ZARAほどの世界的規模を持ち、知名度があるブランドならなるほどそれもけっこうだが、そうではないなら、広報活動は必須である。(広告は必要ないかもしれないが)

知られていないのは存在しないのも同然なのだから、不振に陥っているブランドこそ、如何に多くの人に知ってもらうか、注目してもらうかがカギである。
これができないと、残念ながら不振ブランドが業績を回復することはありえない。

繊維・アパレル業界で「物作り系」と分類される人たちの中にはいまだに「良い物を作っていれば必ず売れる・認められる」と頑なに信じている人がいるが、その存在を知られないことには売れもしないし、認められもしない。

なぜなら、多くの人はそういう商品・ブランドがあることすら知らないから。

良い物を作っているならそれをいかに多くの人に知ってもらうかがポイントとなる。

このアパレルは製造加工場と密接な関係があり、「物作り系」に広い意味では属する。
それだけに、「良い物を作っていれば必ず~」というタイプと近しい人が多数いると考えられる。

それにしても恐ろしいばかりの時代錯誤な認識である。

今後どのようにして業績を回復させるつもりなのだろうか。
製造した商品を大手に多数納品することを考えているのだろうか。

そんな大口の取引先なんて現在の国内では数えるほどしかない。
これまでの好調時でもそういう先が開拓できなかったのに、不振に陥っている状態で開拓できる可能性はほとんどゼロに近い。

不振ブランドをわざわざ仕入れたいと思うような小売店は存在しない。

製造加工業に近しい経営者は「広報・宣伝・販促は単なる金食い虫にすぎない」と考える傾向が強い。
たしかに近視眼的に見るなら、広報や販促は金を使うだけの部署であるといえる。

しかし、それによって、商品が売れるようになるのだから、本来はその考えは間違っているのである。
広報・プレス活動は方法を吟味精査する必要はあるが、決して不要な部署ではない。

元々そういう部署がなかった状態を続けるならまだしも、そういう部署があったのに全員をリストラしてしまうというのは21世紀のアパレル企業とは思えない施策だといえる。

残念ながら、今後ますますこのアパレルの知名度は低くなり、結局は消費者に「存在しない物」として扱われるようになってしまうだろう。




戦略思考の広報マネジメント
企業広報戦略研究所
日経BPコンサルティング
2016-10-20




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