南充浩の繊維産業ブログ

ファッションブログ・・・・と言いたいところだけれどもそこまでファッションに特化していないし、能力的にもできない。そこで繊維製造業、産地、アパレルメーカー、小売店など幅広く繊維産業全般についてぼちぼちと書きます。たまにマスコミ、経済問題についても書く予定。よろしくお付き合いください。 お仕事の依頼は minami_mitsuhiro@yahoo.co.jp まで。

繊維業界新聞の記者としてジーンズ業界を、紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務した。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

企業研究

リストラ時には、優秀な人から辞める・優良なブランドから売れる

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 瀧定大阪がスタニングルアーをジャパンイマジネーションに売却した。
瀧定大阪は赤字続きのブランド事業の縮小を発表したが、その中にあって、スタニングルアーは優良なブランドだった。売却額は公表されていない。

おそらくスタニングルアーなら欲しいという企業はほかにもあったのではないかと思う。
企業でリストラが行われると優秀な人から先に辞めていくが、それと同じで優良なブランドほど早く引き取り手が見つかるものである。

ジャパンイマジネ、スタニングルアー譲り受け
https://senken.co.jp/posts/STUNNING-LURE-Japan%20imagination

セシルマクビーなどを展開するジャパンイマジネーションならスタニングルアーとのシナジー効果はあると考えられるから、スタニングルアーにとっては瀧定大阪傘下でいるよりも良かったのではないかと思う。

ここ数年瀧定大阪は経営の多角化を目指して、ブランド事業を積極的に買収したが赤字が続いていた。

瀧定大阪がブランド事業を大幅縮小、17年1月期に特損300億円を計上
https://www.wwdjapan.com/338457

オリーブ・デ・オリーブを中心にした消費ブランド事業の2017年1月期の事業見通しは、売上高が前期比15.1%減の87億円、営業損失が22億円(前期は18億円の赤字)、経常損失が22億円(前期は20億円の赤字)、税引前純損失が51億2500万円(前期は21億3500万円の赤字)と、赤字が拡大する見通し。

220億円のデリバティブ取引の大型損失と構造改革費用100億円の計上に伴い、瀧定大阪(単体)の純資産は521億円から221億円に減少、自己資本比率は74.4%から50.6%になる見通し。

という状況にあり、ブランド事業そのものは減収赤字が続いており、その額は増える一方だった。

瀧定大阪はスタニングルアー以外に、オリーブ・デ・オリーブ、ミリオンカラッツ、シアタープロダクツ、ライオンハートなどのブランドがあるが、

この数年積極的にM&Aを進めてきたブランド事業は大幅に縮小。売上高の9割を占め、子会社のスタイレムが展開するテキスタイルとOEM事業に経営資源を集中する。

とのことなので、各ブランドは売却先を見つけるか、独立するか、しなければ縮小や廃止になることは間違いない。現在の規模のままで活動が継続できる可能性は極めて低い。個人的にはその可能性はゼロだと見ている。

だが、関係者の多くはブランドの売却先を探すことはかなり難しいという意見を述べる。
なぜなら、先ほどの記事にもあるように事業自体が赤字だったからである。
赤字だということは経営状態が悪いということになり、現在の厳しい衣料品業界において、わざわざ不振ブランドを引き取ろうという会社は極めて少ない。

「売るんじゃなくて、逆にカネを付けるくらいでないと難しいのではないか」とまで言い切る業界人もいるほどだ。

個人的にはこれらのブランド群は、顧客ターゲット層も商品価格帯も商品テイストもすべて異なっており、シナジー効果を発揮するのが難しい組み合わせだと感じていた。
相互補完にも相互競合にもなりえないので、単に存在するだけということになってしまいがちになる。

本来は本業である生地販売との連動が目的ではなかったかと思うのだが、業界で尋ねまわると、それが積極的に行われた形跡もほとんどない。

そうなると何のための多ブランド買収だったのかと外野のオッサンからすると首を傾げたくなる。

本業との連動も、ブランド間の連動もないとなると、ブランド事業そのものを瀧定大阪がやる意味すらないといえる。

おまけにブランド事業全体で赤字拡大しているということは、商品政策か販売政策、広報販促政策のどれか、もしくはそのすべてが間違っていたということになる。

200億円以上にも上る巨額デリバティブ損失が今回のブランド事業縮小の引き金になったとはいえ、仮にデリバティブ損失がなかったとしても減収赤字続きの実績を見ると、早晩、縮小という結末が待っていたことは変わりなかっただろう。今回の巨額デリバティブ損失によって縮小開始時期が少し早まっただけだろう。

瀧定大阪が抱える残りのブランドはどのような結末を迎えるのだろうか。















三越伊勢丹、自壊の予兆

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 三越伊勢丹HDの大西洋社長の電撃解任の背景の全容が各社の報道によってほぼ明らかになってきた。

その中でも日経ビジネス3月20日号の巻頭6ページ特集「三越伊勢丹、自壊の予兆」は経緯があますところなくまとめられており、自分の個人的見解とも重なる部分が多く、秀逸といえる。
ぜひ、ご一読をお薦めする。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/031300536/?ST=pc

各社の報道で改めて浮き彫りにされているのが、大西洋社長は現場の若手社員からはそれなりの信望を得ていたが、中間管理職や経営陣からの信望は得ていなかったということである。

大西社長はマスコミに積極的に顔を出し、マスコミでの発表を行うことで、社内を動かそうと考えていた。
実際に在職中にこれほど頻繁にテレビ、新聞、雑誌などのメディアに登場した百貨店社長はいないだろう。
これを「出たがり」「スタンドプレー」と評する人もいるが、実際に数度に渡ってインタビューしてみると「三越伊勢丹という社名の知名度をもっと高めるために、あえて積極的に出るようにしている」という答えが本人から返ってきたことがある。

それはおそらくその通りなのだろうと感じた。

一連の大西社長の独断専行は、「百貨店が今のままでは存続できない」という強い危機感からだった。
外部から来た人がその組織に対して強い危機感を抱くことは百貨店に限らず珍しいことではないが、生え抜き社長がここまでの強い危機感を持つというのは本当に珍しい。

逆に何がそこまで生え抜き社長の危機感を強めたのか不思議でならない。
ストレートにそれを質問したことがあるが、こちらの尋ね方が悪かったのか、納得のできる返事はなかった。

今回の日経ビジネスの特集でも書かれているように、大西社長の一連の行動は「百貨店事業を守るため」だったことは間違いない。
その真意が経営陣や管理職には伝わらなかったということで、伝え方が不味すぎたという部分は大西社長が反省すべき点である。
伝わらないということは、思ってもいないのも同然だからだ。

よく引き合いに出されるJフロントリテイリングと高島屋という競合他社は、百貨店事業から不動産事業や商業施設事業へと大きく舵を切っている。

強い者が生き残るのではなく、変化に対応できた者が生き残るとよく進化論が引き合いに出されるのだが、百貨店事業から他事業へと舵を切って生き残ることは正解の一つだといえる。
企業は「存続できてナンボ」みたいな部分があり、いくら理想をぶち上げても倒産してしまえばお終いだからだ。

三越との統合で生じた余剰人員を削らず、さらに百貨店事業をある程度守ろうとするなら、大西社長の取った多角化事業(個々の事業内容の正誤は別として)しか方法はなかった。

今回の一連の騒動で、週刊誌からも取材を受けたが、その中で週刊誌記者が「OBや現職に聞きまわったのですが『大西社長は優しいところがあるからリストラは避けたかったんじゃないか』という意見もありました」と話していて、それは事実なのだろうと感じる。

大西社長の一連の改革は未完のまま終わることになるが、どのような完成形を描いていたのかというは一度尋ねてみたい気もする。
日経ビジネス誌の中には、カルチュアコンビニエンスクラブとの提携が、実は「枚方Tサイト」の手法を地方店に導入する目的があったと書かれているが、これはその通りで昨年のインタビューの中でも直接聞くことができた。

解任騒動の決め手となった地方店の業態変更の具体案は「Tサイト」型店への移行をにらんでいたのではないかと推測している。

それにしても、大西社長を解任した結果、登場した新社長が「新規事業よりも構造改革を優先する」と明言したことは、中間管理職や経営陣にとっては、どう映ったのだろう。
否応なく、リストラが先行することになるのだが、大西社長を退任させたことは彼らにとって藪蛇だったのではないかと思える。

記事には「うちはJフロントリテイリングのようになってほしくない」という社員の声が採り上げられているが、杉江新社長の方針を素直に読むなら、Jフロント型百貨店への移行だと読める。


日経ビジネスでは、82年に会社を私物化して解任された三越の岡田茂社長、93年に改革を独断専行して解任された伊勢丹創業家4代目の小菅国安社長の事例も引き合いに出している。
スキャンダルまみれだった三越・岡田社長の解任は当てはまらないとしても、改革を急ぎ過ぎた伊勢丹・小菅社長の解任は、今回と重なる部分がある。

個人的に見るなら、伊勢丹という百貨店の弱みは、新宿店のみが突出し過ぎており、地方店が弱すぎて極めてアンバランスだという部分にある。
小菅社長は新宿本店依存度を下げる改革をしたかったとあり、大西社長はリストラを回避したままで百貨店事業依存度を下げる改革をしたかったという部分が重なる。
そして、その改革はどちらもほぼ独断専行で進められた点は同じだ。

ただ、改革は独断専行でないと成功しないこともあるから、一概に独断専行が悪く、合議制が正しいとも言えない。独断専行ができずに潰れてしまった企業もこれまで数多くある。

記事中には「腰が低く、改革を愚直に進めようとした大西社長に『独裁者』の表現は似合わない」とあるが、それはその通りで、世の中の人が思い描く「独裁者」像とはまるでかけ離れた紳士だった。
アパレル業界にはそれこそ絵に描いたような独裁者社長は多くいる。独裁者、暴君なんて掃いて捨てるほど見てきた。

そういう人々と比べると大西社長の人間性はまったく異なっている。

さて、日経ビジネスが指摘するように、三越伊勢丹は今回の騒動によって、ブランド力は相当傷ついている。
対応を誤るとタイトルにもある通り「自壊」しかねない状況にある。

三越と伊勢丹が合併して百貨店の王者になったと目されたが、実は経営は危機に陥っていたということになる。
統合後10年が経過してその病巣が白日の下に晒されることとなったが、これを取り除くことができなければ、市場から退場することになるだろう。




誰からも信頼される 三越伊勢丹の心づかい
株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ
KADOKAWA
2017-02-24






リストラで広報を全員辞めさせた不振アパレルに驚愕した話

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先日、某カジュアルアパレルの知り合いからこんな話を聞いた。

ちょっとした案件があってそれに協力してもらえるかどうかを尋ねていたのだが、「実は先ごろ、大規模なリストラが行われて広報・プレス担当者が全員辞めてしまったため対応できにくい」という驚愕の事実を伝えられた。

何が驚愕かというと、案件に対応できないことではもちろんない。
このご時世において「リストラによって広報・プレス担当者が全員辞めた(実際は辞めさせた?)」という事態に対して驚愕したのである。

たしかにこのアパレルもその関連アパレルも非常な不振に陥っていると以前から耳にしていた。

退職者が相次いでおり、面識のあった人が何人も退職している。

今回のリストラはそれによるものであることは時系列的な状況から明白ではあるが、それにしても「広報・プレス担当者全員」を辞めさせるというのは正気の沙汰とは思えない。

なぜなら、広報・プレスをおろそかにして売れているブランドは現在、ほとんど存在しないからである。
いわゆる広告宣伝を行わずに業績を国内で伸長させているのはZARAくらいしかない。

逆に、雨後の筍のように毎年誕生する産地ファクトリー系ブランドや、大手アパレルからの独立組による新規アパレル企業は、「どのようにして広報活動を行って知名度を高めるか」ということをかなり熱心に考えているからだ。

このアパレルは本当に21世紀に存在する企業なのかと疑ってしまう。

ZARAほどの世界的規模を持ち、知名度があるブランドならなるほどそれもけっこうだが、そうではないなら、広報活動は必須である。(広告は必要ないかもしれないが)

知られていないのは存在しないのも同然なのだから、不振に陥っているブランドこそ、如何に多くの人に知ってもらうか、注目してもらうかがカギである。
これができないと、残念ながら不振ブランドが業績を回復することはありえない。

繊維・アパレル業界で「物作り系」と分類される人たちの中にはいまだに「良い物を作っていれば必ず売れる・認められる」と頑なに信じている人がいるが、その存在を知られないことには売れもしないし、認められもしない。

なぜなら、多くの人はそういう商品・ブランドがあることすら知らないから。

良い物を作っているならそれをいかに多くの人に知ってもらうかがポイントとなる。

このアパレルは製造加工場と密接な関係があり、「物作り系」に広い意味では属する。
それだけに、「良い物を作っていれば必ず~」というタイプと近しい人が多数いると考えられる。

それにしても恐ろしいばかりの時代錯誤な認識である。

今後どのようにして業績を回復させるつもりなのだろうか。
製造した商品を大手に多数納品することを考えているのだろうか。

そんな大口の取引先なんて現在の国内では数えるほどしかない。
これまでの好調時でもそういう先が開拓できなかったのに、不振に陥っている状態で開拓できる可能性はほとんどゼロに近い。

不振ブランドをわざわざ仕入れたいと思うような小売店は存在しない。

製造加工業に近しい経営者は「広報・宣伝・販促は単なる金食い虫にすぎない」と考える傾向が強い。
たしかに近視眼的に見るなら、広報や販促は金を使うだけの部署であるといえる。

しかし、それによって、商品が売れるようになるのだから、本来はその考えは間違っているのである。
広報・プレス活動は方法を吟味精査する必要はあるが、決して不要な部署ではない。

元々そういう部署がなかった状態を続けるならまだしも、そういう部署があったのに全員をリストラしてしまうというのは21世紀のアパレル企業とは思えない施策だといえる。

残念ながら、今後ますますこのアパレルの知名度は低くなり、結局は消費者に「存在しない物」として扱われるようになってしまうだろう。




戦略思考の広報マネジメント
企業広報戦略研究所
日経BPコンサルティング
2016-10-20




三越伊勢丹の社長解任劇で感じた百貨店従業員の認識の甘さ

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 三越伊勢丹ホールディングスが杉江俊彦・次期社長の会見を行った。
出席していないので、それについて書かれた記事を読んだ感想をまとめてみたい。

ちなみに三越伊勢丹ホールディングスの次期社長は決まったが、百貨店事業を手掛ける三越伊勢丹の次期社長はまだ決まっていない。

各報道とも言葉遣いや書き方には違いがあるが(書いている人が違うため当たり前)、論調はほとんど同じだ。

三越伊勢丹、トップ交代で明示された「進路」
杉江次期社長「私は構造改革を優先する」
http://toyokeizai.net/articles/-/162603

社長辞任の三越伊勢丹、新トップは「大丸流」 数値・利益重視の経営目指し、不動産事業にも意欲
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/031300619/?rt=nocnt

東洋経済オンラインと日経ビジネスオンラインの記事だが、論調はほぼ同じだ。

主要な骨子となる要素を箇条書きで挙げてみる。

1、杉江次期社長は、大西社長を支えてきた人物で大西路線を「基本的には」踏襲する
2、始まっている新規事業は当面継続するが、着手していない新規事業は再考する
3、構造改革、人件費削減を優先して進める
4、マネージメント層、管理職、役員との対話を優先する
5、おそらく百貨店事業は大西時代より重視されない

ということになる。

賛否はあったが、大西社長が新規事業を積極的に立ち上げたのは、各識者が指摘しておられるように、大規模なリストラを回避する目的があったと見られている。

百貨店という事業に人一倍の愛着を持っていた大西社長は百貨店事業を存続させるために、新規事業を多数立ち上げて事業の多角化を実現し、愛着のある百貨店事業を守ろうとしていた。
よく引き合いにだされるJフロントリテイリングは、「脱百貨店」を掲げており、各店舗内の百貨店従業員をかなり削減し、ユニクロやアダストリアなど従来百貨店には適さないとされていた低価格ブランドをテナントとして入店させている。

つい先ごろは栄の松坂屋にもヨドバシカメラをテナント入店させた。

大西社長はそのような「脱百貨店」はしたくないということを再三、過去のインタビューでも答えていたし、筆者が昨年行ったインタビューでも繰り返していた。

今回の電撃解任の理由は、労働組合とそれに同調した役員、管理職などによるものだとされていて、彼らの反発の原因は

1、相次ぐ新規事業の立ち上げによる労働強化
2、機関決定されていない地方店の縮小や業態転換などに言及した
3、地方店の縮小や業態転換への発言をリストラ解雇が始まると理解してしまった。(実際は誤解)

とされている。
個人的には、これら以外にも大西社長の持論である「スピード感重視」「危機感の強制」ということへの情緒的反発もあったのではないかと想像している。

大西社長のいう「スピード感」というのは、なんでも「早くやれ」「すぐに結果を出せ」ということではなく、即断即決、意思決定の速さ、行動に移るスピードアップということが主眼だったが、そこも誤解された部分もあるのではないか。
また、「危機感の強制」というのは、大西社長の百貨店事業への危機感というのは相当強く、筆者は「生え抜きでここまでの危機感を持つのは珍しい」と感じたほどである。

実際に、従来通りの百貨店事業を存続させようとすると、かなり難しい状況にあるし、生半可なことでは存続させることは難しい。今後は、大手百貨店も淘汰されることは目に見えており、例えば、そごう西武の決算はかなり追い込まれている。

すべてを捨てて「脱百貨店」をする必要はないが、百貨店事業を存続させるためには「何か」は変革しなくてはならなかった。

大西社長の立ち上げた新規事業や施策がすべて正しいとは思わないが、これまで通りのやり方では活路がなかったのは間違いない。

今回の電撃解任、次期社長の会見を見て感じることは、百貨店従業員の認識は恐ろしく甘いということである。
また、大西社長を引きずり降ろしたがために逆に構造改革・リストラが始まることになってしまっており、従業員側からすれば、なんというバカげた結果になっているのだろうと呆れてしまう。

ぬるま湯で保守的な体質な百貨店従業員は、急激な変化に反発を感じ、その元凶だと感じた大西社長を引きずり降ろしたが、それがかえってリストラを始めるきっかけになってしまうという結果になった。
今頃、彼らはどういう思いで次期社長の会見や一連の報道を眺めているのだろうか。

リストラを回避させるために行った解任劇がリストラ開始の引き金になっているという構図は、外野から見れば喜劇以外何物でもない。

先ほど挙げた日経ビジネスオンラインの記事にはこんな一節がある。

社内からは「経営者のタイプが変わったとしても、事業構造としてJフロントのような企業にはなるべきではなく、百貨店らしさを追求するべきだ」という声も聞こえる。

もうアホらしくて失笑を禁じ得ない。

百貨店らしさを追求したいのであれば大西社長を引きずり降ろすべきではなかったのである。
大西社長は「百貨店らしい百貨店」の存続を目指していた。計数に強い新経営者になれば、採算性の低い業態の在り方を変えられるのは当然だろう。

その程度の判断もできず、目先の現象のみに反発していた百貨店従業員というのは、本当にぬるま湯体質で危機感が欠如している。今回の一連の騒動でそれが明確に浮かび上がったといえる。

たしかに大西社長には対話や根回しが欠けていたかもしれないが、大規模リストラを回避し続けてきた。一方、次期社長は対話を重視する(と言っている)が、構造改革やリストラを先行させるのである。

従業員的立場に立つなら、どちらが自分たちにとって有利だったのか明らかではないか。

次期社長がいつごろから、どれくらいの規模で構造改革やリストラを行うのかは示されていないが、その時になって労働組合や従業員が「雇用を守れ」なんていう声を挙げてもナンセンスすぎて、外部からの支持は集まらないだろう。自分たちが望んで引き起こした結果である。

強いリーダーシップによるトップダウン方式の経営に激しい拒絶を見せた今回の電撃解任劇は、三越伊勢丹の「終わりの始まり」になるのではないかと、個人的には見ている。

















改革路線が潰されて大規模リストラが始まる可能性も

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 三越伊勢丹HDの大西洋社長が電撃解任される直接的な働きかけは労働組合からだった。

これを見るにつけ、一連の大西改革は現場社員にとっては苦痛だったのだろうと察せられる。
日経新聞の記事によると、少ない人員に対して次々と新しい仕事を積み上げられて現場は疲弊していたとされているが、まあ、それはその通りだったのだろう。

2012年から始まった大西改革の眼目は、

1、新規ビジネスを作り出すこと
2、従業員の意識改革

にあった。その次の段階もあったのではないかと思われるが、もうそれが形になることはない。

まず、1についてだが、外食やブライダルなどとの合弁会社設立、エステや旅行会社のM&A(企業買収)などを実行した。

EC強化やファッションヘッドラインという自社ウェブメディアの立ち上げもあった。

個々の事例を見ると、その意図がよく分からないものもあるし、効果があったとは言い難いものもある。

三越伊勢丹HDの百貨店依存比率は92%に及ぶ。
文字通り、「百貨店のみの一本足打法」である。
その一方で、百貨店事業の利益率は1%強しかなく、Jフロントリテイリングや高島屋に比べて格段に低い。

きらびやかな伊勢丹新宿本店のイメージや大西改革による話題性であまり注目されてこなかったが、足元はすでに崩れ始めていたといえる。

経営者ならここで選択が迫られる。

1、大規模な解雇を含めたリストラを行う
2、大規模解雇を回避するならほかの成長エンジンを作る

である。

実際に6回ほどインタビューをした個人的感想をいえば、大西社長は百貨店が大好きだった。
Jフロントリテイリングのような「脱百貨店」を唱えるつもりは毛頭なかった。

そうなると、大好きな百貨店を守り、雇用を守ろうとすると「百貨店自体を成長させる」か「百貨店事業以外の新規事業を立ち上げ、ホールディングス全体の収益をかさ上げする」という方針にならざるを得ない。

そして、大西社長は後者を選んだ。

小島健輔さんが、「大規模なリストラを先延ばしして受け皿としての新規事業作りを行っていた」と指摘されるのは、言い方は別として、そういう側面も十分にあったと考えられる。

「百貨店自体を成長させる」という構想は不可能だったのだろうかという疑問を抱く人もいるかもしれないが、これはかなり難しいのではないかと思う。
それほど簡単にできるなら、とっくの昔にどこぞの百貨店が実践しているだろう。


状況から大西社長の思考をたどると、

百貨店を守るために新規事業で収益をかさ上げする

そのためには従業員の意識改革が必要だ

という結論が導き出されたのだろうと思う。

いくつかの百貨店で催事販売をしたり、取材した感想でいうと、百貨店の従業員や管理職者は保守的でスピード感がなくて、危機感のない人が多い。(全員がそうだとは言わない)

大西社長はその体質に危機感を持ったのだろう。

自身の過去の著書でも、昨年のインタビューでも盛んに「スピードが遅い」「危機感がなさすぎる」を連発されている。

他業種の成長企業のスピード感を取り入れることを最重要課題としていた。
それが従業員にとっては苦痛だったのだろうと想像できる。

百貨店業界の危機を煽られるのも苦痛だったのかもしれない。

それでも状況を眺めると、百貨店業界は危機に瀕しているといえる。
売上高が6兆円を割り込み、地方店の閉店や撤退、倒産、営業譲渡が相次いでいる。

だからこそ、スピードを上げて新規事業や百貨店改革を成し遂げたかったのだろう。
もう百貨店にはのんびりゆっくり改革している時間はない、という思いだったのだろう。

今回の電撃解任は労働組合と現場従業員によるものなので、後任社長は当然、現場に対する配慮を強いられ、大規模で急激な改革はできにくくなる。
なぜなら、また労働組合と現場によって電撃解任される恐れがあるからだ。

自然と、改革のスピードは遅くなるし、改革自体がなくなる可能性もある。

違法なブラック経営者に従業員がNOを突き付けることは当然の権利だし、そうすべきである。

しかし、今回の場合はそれに相当するのかどうか。
むしろ、従業員の収入源である会社そのものが業績低迷をすると、大規模解雇をせざるを得なくなる。
百貨店という旧態依然とした企業が、従来通りのやり方では生き残れないというのは衆目の一致するところである。

大西改革をつぶしたことで却って大規模解雇を招きかねず、従業員は自分たちを窮地に追い込んだのかもしれない。

仮に、今後、三越伊勢丹が従来路線に戻るとするなら、その業績は必ず今以上に低迷する。
そうなった際には問答無用の大規模解雇が始まるだろう。
その時に労働組合が「雇用を守れ」と言い出してもそれは、後の祭りでしかない。












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