毎月、1回か2回、ファッション専門学校で講義をさせてもらっている。

ひとくちに専門学校生と言ってもいろんなタイプの生徒さんがいる。
以前に別の学校で夜間の授業を担当したことがあるが、夜間に集まる生徒さんは、ダブルスクールだったり働きながら来ていたりするので、学習意欲が高かったように感じた。

高校を卒業してすぐに専門学校に進まれる生徒さんは、当たり前だが若い。
1年生は18歳とか19歳くらいで、筆者の長男よりも年下である。

そんな若い人たちだから比較的のんびりした人も多い。
当たり前である。筆者なんて22歳で大学を卒業するときでもやりたいことなんて何にもなかった。
18歳や19歳から就職について実感がわかない人がいても当然ではないかと思う。

ファッション専門学校に進んでくる生徒さんの多くは「ファッションが好き」「衣料品が好き」という人が多い。これも当たり前で、何の興味もない人がいきなり専門学校には進まない。
これはファッション以外でも同じではないか。
写真に興味のない人は写真の専門学校にわざわざ進まないし、アニメに興味のない人がアニメーターの専門学校には進まない。

「好きこそ物の上手」とよく言われるが、ファッション専門学校を卒業した後、繊維・ファッション業界に進んだら「好き」だけでは企業内でも独立起業後もやっていくことは難しいのが現実である。
業界に進んだら、「好き」な服や製品だけを扱えるわけではない。
全然興味のない製品も扱わなくてはならない。売るにしろ、作るにしろ。

そして、この「ファッションが好き」ということの最大の問題点は、「消費者として好き」ということと「ビジネスとして好きになれる」ということは、どうやら別物であるということである。
もちろんこの二つが重なってリンクしている場合もある。
そういう人は、繊維・ファッション業界で活動できている。
そうでない人は、趣味としてのファッションにとどめておく方が無難ではないかと感じる。

そんなことを手を変え品を変え話すのだが、すぐさまピンとくる生徒さんと、最後までピンとこない生徒さんに分かれる。

これまで18年くらい断続的にファッション専門学校を見てきたが、古い教員はデザイン、パターンなど「作る」ことを重視するように感じる。
ビジネス的な理論や理屈は、社会人になってからでも様々な本やセミナーを受ければ身に着くが、デザインやパターン作り、ミシンの扱いなんかは、社会人になってから身に着けるのは難しいのではないかと、普通大学出身の筆者は感じる。まあ、隣の芝生が青いだけなのかもしれないが。

だから「作ること」を重視するのは、構わないと思う。
また高品質な物を作るということを教えるのも当然だと思う。

しかし、卒業後は企業に入ろうと、独立起業しようと「高品質な物を作る」だけではだめである。
卸にしろ、直接販売にしろ「売る」という作業が絶対に必要になる。

そういう意味で「売る」ということへの意識づけが学生時代に必要だと思うが、一部を除いて、これまでの専門学校はそちらがおろそかになっていたと感じる。
とくに古い教員はそういう人が多い。
もちろん、生徒さんたちが若いから教えても実感が伴わなかったという部分もあるだろう。

高品質な物を作るということを教える反面、専門学校ではまず、「良い物が必ず売れるとは限らない」ということも教えるべきではないかと思う。
個人的には「作る」ことを重点的に教えるデザイナー・パタンナーコースこそこれを徹底的に教えるべきではないかと考えている。


これは衣料品だけではなく、機械などでも同じだろう。


最高品質の物が必ず売れるとは限っていない。
価格と品質のバランスやらマーケティングやら販促・広報活動やら企業自体のパワーバランスやらで大きく左右される。
かつてテレビ番組を録画するビデオデッキがあったが、VHSとベータがあった。
筆者はそこそこの画質で録画ができればそれで良かったから割安感のあるビデオデッキならどこのメーカーのでも構わなかった。

しかし、こだわる友達は「ベータの方が品質が高い」なんてことを言って、ベータを所有していたが、結局、ベータは普及せずにVHSに統一されてしまった。
どこまで品質が高かったのか実感はないが、仮に本当に良い物だったとしたら、良い物が売れなかったということではないか。

衣料品だって同じである。
「うちの商品は品質が良いのだけど」「あそこのブランドは品質は良いのだが」という声をしょっちゅう耳にする。
でも売れてない。
一方、H&Mやフォーエバー21やウィゴー、アースミュージック&エコロジーなどは品質はさほど高くないが、それなりに大きな売上高を稼いでいる。

価格が安くて見た目のデザイン性がそれなりにあるからである。
あとは広報・販促宣伝活動が上手いということもある。

かつて「品質はピカイチ」と業界紙記者が太鼓判を押していたジーンズの国内ナショナルブランドがあったが、
縮小に縮小を重ねて、ついに虎の子の自家工場まで手放してしまった。
ブランドは存続しているが最早品質を誇ることはできない。

これなども「良い物が必ず売れるとは限らない」ことを証明している。

「良い物が売れない世の中は間違っている」なんてことを言う人がいるが、そんなことは今に始まったことではない。
良い物を作っているなら、それを売るための努力も作ることと同じぐらい必要なのである。

ファッション専門学校に通っている生徒さんで、独立起業したいという人はどれくらいいるのだろうか?
以前よりも少ないのではないかと思うが、ゼロではないだろう。

独立起業したいなら特に「売る」ことは重要になる。
自分の生活に直結するからだ。
欧米だと営業担当の人間とデザイン担当の人間がタッグを組んでブランドを育てるというケースが多い。
しかし、日本ではあまりそういう事例がない。
営業志向の人間がファッション業界に魅力を感じていないということもあるだろうか。
ファッション業界は飛び込みたいような「美味しい」業界ではないと知れ渡っている。
わざわざそんな業界に飛び込みたいビジネスマンはあまりいないだろう。嗅覚の鋭いビジネスマンなら、もっと成長が見込める業界に飛び込みたいと思うのが当たり前だろう。

だから、日本の場合は、デザイナー自身が営業・販売までできなくては独立ブランドは維持できない。

そうなるとますます「売ること」は重要課題になるし、「良い物が必ず売れるとは限らない」ことを根底に活動をする必要がある。
真に良い物を作っていると自負するなら、自身の手でそれを「売る」ことも求められる。
自分以外に誰も商品を売ってはくれない。

理不尽なようだが、そういう業界であり、そこで生きていくなら自衛するほかない。
できないなら他業界でそれなりの規模の会社に就職するしかない。

そんなことを、手を変え品を変え、今後も話していきたいと思う。
全員に興味を持って聴いてもらえるように話し方や資料の作り方を工夫してこちらも研鑚しなくてはならない。