百戦危うからず
2014年9月24日 未分類 0
現代でも読み継がれる兵法書「孫子」に「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という一節がある。
しかし、これを実行するのは難しい。
どこが難しいのかというと「己を知る」ことが相手を知ることよりも難しい。
相手の実力を知ることはそう難しくない。
しかし、自分の実力を客観的に分析することはかなり難しい。
過小評価したり過大評価したりしてしまう。
それどころか自分の長所と短所すら正確に判断できないことが多い。
昨今、衣料品業界では機能性素材が注目を集めている。
吸水速乾、ストレッチ、保温、蓄熱、消臭、防汚などなどだ。
これらの素材を開発できるのは大手紡績か合繊メーカーに限られている。
何しろ莫大な開発費用が必要だ。
いわゆる小規模・零細の生地メーカーにその費用を捻出することは不可能である。
また人材も足りない。
某卸売りアパレルが大手流通に機能性素材を使った商品を提案したところコンペとなった。
この機能性素材を開発した大手素材メーカーを甲社だと仮に名づける。
ところが、甲社にも昨今のご多分に漏れず、製品化部門が存在する。
いわゆるOEM部門である。
自社の素材を使用してくれた先に対して製造も請け負うということである。
コンペ相手はこともあろうにこの甲社の製品化部門だった。
結果はアパレルが勝って、製品化部門は負けた。
なぜだかお分かりだろうか?
製造コストだけを考えたならおそらくは製品化部門の方が安かっただろう。
しかし、アパレルにはこれまで培った型紙の製造技術や適切な色柄を選ぶ能力がある。
これは独自のノウハウである。
一方、製品化部門はいわば下請け製造的な性質が色濃いため、そこまでの独自のノウハウはない。
言われたままに製造するという感じである。
けれども残念なことにそのアパレルはなぜ自社が選ばれたのかを正確に理解していない。
製造原価を下げたことやその素材をピックアップしたことが勝因だと思っている節がある。
素材を選んだことが勝因なら開発元の甲社と直接取引した方が早いし、安い。
アパレルなど不要である。
素材がすべてなら世の中に卸売りアパレルなど必要なく、大手素材メーカーが直接小売店と取引をすれば良いのである。流通コストもずっと引き下げられるだろう。
アパレルの最大のノウハウであり宝は、企画力・デザイン力である。
その某アパレルは自社の最大の長所をまったく理解していないといえる。
敵を知っているかもしれないが、この会社は己を知らない。
こうやってまとめると、いかにもバカげたことだが、これに類したことは世の中に掃いて捨てるほどある。
もしかしたら世の中はそういう誤解の上に成り立っているのかもしれない。
それにしてもつくづくと、己を知ることは難しいと感じる。
己を知ることができれば、まさしく百戦危うからずであるが、それは至難の業といえる。