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南充浩 オフィシャルブログ

製造の多層構造こそが問題

2014年7月25日 未分類 0

 例年なら夏のバーゲンを8月末まで断続的に各商業施設をくまなく見て歩くのだが、今年は欲しい物がそれほどないことと、大手通販の在庫を格安販売している店舗の販売応援で忙しいのと相まって、7月上旬に一回りしたほかはほとんど売り場を見ていない。
だから売り場の雰囲気をつかめてはいないのだが、7月上旬に見て歩いた限りでは、毎年のことながら夏のバーゲンは盛り上がっていないと感じる。

正直なところ、日常セール(週末値引きやタイムセール)の延長線上にしか感じられない。

さて、筆者にとっては夏のセールとはその程度のものだが、畏友の釼英雄さんによると福岡・天神の「セオリー」はたった30%オフの割引率しかないにもかかわらず、バーゲンが大盛況なのだそうだ。

30%オフ程度だと日常セールとほとんど変わらない。
バーゲンだと50%オフは当たり前、70%オフも珍しくないご時世である。

30%OFFがお客を惹き付ける理由
http://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/74558a7b4d43d281a94108fab76a546a

さて、釼さんは、キャリア女性の心理やライフスタイルを事細かに書かれているが、女性心理や女性のライフスタイルに興味がない上に、理解する気もさっぱりない筆者にとっては、それが事実なのかどうなのかもわからない。
おそらくそうなのだろうということで話を進めさせていただく。

セオリーの商品定価は決して安くない。
ジャケットは4万円代、ボトムは2万円代、ドレスが2万円~7万円代である。
これが30%オフされたところで、昨今の低価格品を買い慣れている人間からすれば驚くほどの高値といえる。

それでも売れるのは、
1つには「セオリー」がブランドステイタスを確立できたことにあるだろう。
いくら「物」が良くてもそれが消費者に認知されていなければ、単なるマスターベーションの物作りである。
長年かけた広報・販促活動によって、消費者にブランドステイタスを浸透させることができたと見るべきだろう。
70%オフにしても売れないということは、それができていないブランドが世にいかに多いかということである。

もう一つの理由として釼さんは「セオリー」の商品の品質の高さを挙げておられる。
その上で、

ただ、「原価率を上げて、価格はブリッジラインを保つ」。そんな難しい課題を克服できるか。そのためにはもう一つのキーワード。「コストダウン」がカギになる。売価を押し上げている様々な中間コストにメスを入れなければならないということだ。

と提案されている。

一般的に「中間コスト」というと、問屋に代表される流通の多段階構造を指す場合が多い。
たしかに問屋だけならまだしも一次卸、二次卸、仲間卸など流通はこれまで多層構造で成り立っていた。
しかし、SPAブランド「ユニクロ」の隆盛によって、すべてとはいわないまでも、流通はある程度までシンプル化されている。問屋は絶滅させて良い業種ではない。在庫を抱えられない小規模小売店にとって問屋は必要不可欠な業態でもある。

現在、繊維・アパレル業界がメスを入れなくてはならないのは製造の多層構造である。

OEM/ODM企業が大小・零細を合わせて無数に国内には存在する。
それゆえ、資金さえ用意すればド素人だってオリジナル商品を作ることができる。
ODM企業に任せればデザイン画を書く必要すらない。自分の好みの商品の写真を見せて「こんな風にしてください」と伝えれば済む。

通常だと、OEM/ODM企業はそれぞれ単独で自社のスタッフないしは協力者によって、企画製造を進めると思われているがこれがそうではない。
ODM企業からOEM企業へ製造受注をする場合もある。
ODMのOEMとか、OEMのOEMのOEMなんていうマトリョーシカみたいな受注も実は珍しくない。

さらに言うなら、生地メーカーに代わって営業を行う生地ブローカーが存在するが、その生地ブローカーの営業をさらに代行する業者とか、工場とブローカーを結びつけるアドバイザーとかコーディネイターなんていう業者も存在する。

そして当然のことながら、それぞれにマージンが発生し、製品の原価率を上昇させる一因となっている。
ブランド側が原価率の上昇を飲まない場合は、その分、製造工場が工賃を値切られているということである。

釼さんの提示するように、原価率を多少上げつつ、商品のクオリティを格段に向上させるためには製造の多層構造をある程度までシンプル化する必要がある。
OEM/ODMがまったく必要ないとも、ブローカー、コーディネイター、アドバイザーをすべて排除すべきだとも思わないが、今よりは整理する必要はあるだろう。

果たして業界の抜本的改革が可能なのかどうか。
筆者は至難の業だと見ているが、これをやらねば製造工場は工賃をいつまで経っても上げることができないままだろう。

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