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南充浩 オフィシャルブログ

根本処置をするほか手立てがない

2014年4月17日 未分類 0

 若手クリエイターの支援とはよく耳にするお題目で、主に東京コレクション出展ブランドを指すことが多いが、単に資金援助をするだけで支援になるのかどうかは甚だ疑問である。

まず、東京コレクション出展若手ブランドの年商規模は著しく小さい。
トップクラスの知名度を誇るブランドですら年商5億円強である。
中堅だと2~3億円程度。意外に知名度が高いブランドでも1億円未満というところはザラにある。
年商数千万円のブランドなんて山ほどある。

そういう年商1億円未満のところに生地メーカーや生地問屋、染色工場などが「支援」を行うわけだが、この場合の「支援」は資金援助ではなく、生産系での支援という場合が多い。

そういうブランドに生地を割安で提供する。小ロットでも製造加工を請け負う。などである。

しかし、そういう支援は何年間も続けることができないのが現状だ。
なぜなら生産加工現場が疲弊してしまうからだ。

製造加工の側の言い分からすると、製品1型あたりの生産枚数は恐ろしいほど少ない。
1型10枚とか15枚である。
アイテムによってミニマムロットは違う。カットソーや合繊布帛アウターなんていうのはちょっとミニマムロットが大きめだし、ジーンズだと1型サイズ込みで100本である。
ジーンズに落とし込んで話すと、S、M、Lの3サイズで100本ということは1サイズあたり30本強ということになる。

仮に卸先が10軒あれば、単純計算すると各店にS、M、Lの1セットずつを納品すればさばけることになる。

ミニマムロットに達すれば縫製工賃は劇的に安くなるが、10本程度だと1本あたりの縫製工賃は最低でも数千円はする。だいたい1万円内外を見ておくと間違いはない。

となると、若手クリエイターの商品というのは、縫製工賃だけですでに1枚あたり1万円のコストがかかっているということになる。

そこに生地代、付属代、副資材代、ジーンズなら洗い加工代などがかかるわけだから、製品1枚当たりのコストがすでに2万円近くにもなる。

小売店に卸すと店頭販売価格は6万~8万円ということになる。

こんな価格では多数を販売することは難しい。
この値段なら「ポール・スミス」や「バーバリー」のスーツが買えてしまう。
多くの人は同じ値段ならブランド知名度の高い「ポール・スミス」や「バーバリー」を買う。残酷なようだがこれが現実である。

かくして売れないのでクリエイターは生産ロットを増やすことができず、製造コストは高止まりしたままとなる。
以下無限ループである。

某大手生地問屋はこの状況を指して「悪循環スパイラルですね」と言い切ったがその通りである。

支援する生地関係企業もこれでは疲弊する。

多くのアイテムの用尺はだいたい2メートルである。
ということでここで2メートルと仮定すると、1反50メートルの生地から25着の洋服を作ることができる。
ところが、10~15枚という生産ロットだと1反未満しか必要ないということになる。
生地製造業者からするとこれでは大きな原価割れということになる。

生地製造の背景を知らないクリエイター側からすればこの程度の「どこが支援なのか?」と思うかもしれないが、1反未満の生地を何年にも渡って提供してくれるというのは、経営状況が厳しい生地製造業者からすると、大きな支援である。余った生地はよそに転売もできず、産廃業者に有料で引き取ってもらうことが多い。

だから生地製造側は何年も支援を続けると疲弊してしまい、嫌気がさす。

その上、製造関係者から言わせると、多くの若手クリエイターは商品生産のリードタイムをまったく考慮しない。考慮しないというよりも商品生産にリードタイムが必要なことを理解していないのだろう。

簡単に「別注生地作ってください」というクリエイター連中は多いが、生産ロットがあることはさておき、1反作るにしても今日発注して来週上がってくるというようなものではない。
そこから縫製工場へ投入するわけだから、今から別注生地を発注して2週間で製品にして納入するなんてことは不可能である。

もしできるというところがあるなら、それは中国の広州市場か韓国の東大門市場で並んでいる商品や生地をそのまま買い付けて来たというのが真相だろう。

某生地メーカーは「あの人には何年も前からそういう短期生産は無理だと言っているからわかっているはずなんですけど、いまだにそういう発注をしてきますね。日本語を理解していないのでしょうか?」という。

こういう話を聞くと、若手クリエイターへの「支援」とは資金的・生産加工的な支援よりも、ビジネスモデル構築を「支援」すべきではないかと思えてくる。

資金援助はだいたい何年間かの期限付きであり、期限が来れば終わる。
生産加工での支援は何年間かすれば現場が疲弊してしまい、関係は終わる。

どちらにしても何年間か限定での支援にしかならなくて、小手先での支援にすぎないという印象が強い。
ビジネスモデル構築という根本処置をするほか、有効な手立てがない。

支援側も若手クリエイター側もこのあたりを認識しないと投入した資金と労力は「ドブに金を捨てている」のと同じということになってしまうだろう。

そんなわけで筆者は、業界関係者がいうほど若手クリエイターの支援が簡単なものでも美しい行為でもないと思えて仕方がない。

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