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南充浩 オフィシャルブログ

演じたり、大げさに伝えたり

2014年3月24日 未分類 0

 筆者は最近、「物語商法」にいささかうんざりしている。
「物のスペック」のみでは売れない時代だから、その「物」の背景にある物語を伝えなくてはならない。
これはその通りであり、この手法でなくては物は売れないだろう。
この手法を取らなくても売れる方法があるとすると、超破格値で提供することである。

物やサービスについて取材すると、年間に何回かは「これはすごい。どうして今ままで知られていなかったんだ」と純粋に驚かされることがある。
こういう対象物だと「物語」を他者に伝えることになんら苦痛は感じない。
ただし、こういう事例は年に何回かしか出くわさない。

しかし、多くの事例はこんな感じである。
「この会社の取り組み姿勢は良いと思うけど、商品の見た目や性能がイマイチだよな」とか「この商品はまあまあだけど、会社の姿勢はちょっとアレだよな」という感じである。

こういう場合は「物語」を伝えることに一抹の苦痛がある。
「全面的に賛成ではないけど、内容の8割くらいは賛成しているから仕方が無い」
まあ、そんな感じで伝えている。

「佐村河内氏・小保方さん問題」があぶり出した 
ストーリー消費社会の現実
http://diamond.jp/articles/-/50521

この記事の中に次のような一節がある。

<僕らはみんな、いつも何かを売り込んでいる。(中略)自分が売り込む商品に100%の自信があればいいが、たいていは演じたり、大げさに伝えたり、真実を隠さなければならなかったりする。売り込み、説得し、奉仕する能力は、自分のアイデンティティーと切っても切り離せないものなのだ>

後半の「売り込み、説得し、奉仕する能力は、自分のアイデンティティーと切っても切り離せないものなのだ」という一節は筆者が長年感じてきた苦痛の原因である。
まあ、多くの方もここに苦痛を感じておられるのではないかと勝手に推測する。

賛同するのはその前段である。

「僕らはみんな、いつも何かを売り込んでいる。(中略)自分が売り込む商品に100%の自信があればいいが、たいていは演じたり、大げさに伝えたり、真実を隠さなければならなかったりする」

普段携わっている繊維業界においてもこういう事例は多い。
というか、こういう事例がほとんどではないだろうか。
筆者は記事を書くことで他人が演じることに協力することがある。
それでも「ちょっとアレ」だと感じている商品やサービスについて過剰に持ち上げることにはかなり抵抗がある。

それが仕事なんだからつべこべ言わずにやれよ

とお叱りを受けそうだが、気持ちが乗らないものは仕方がない。
嫌なものは嫌だ。

 先日、東京の某マーケティング会社の方と雑談させていただいた。
最近は各メディアでも国内繊維製造加工業の話題が増えたように感じていたが、認知はまだまだ高まっていないということを改めて感じさせられた。

お断りしておくが、マーケティング会社の方が無知なわけでは決してない。
繊維製造加工業者の発信がまだまだ足りないということである。

雑談の中で、ジーンズの洗い加工におけるレーザー加工というのが話題になった。
話題になったというより筆者が話題に上らせたという方が正しい。
ジーンズにヒゲやアタリ感をつける洗い加工の技法にはいくつもあるのだが、通常のブリーチ加工や手で擦る以外にレーザー加工という技法がある。

フォトショップで画像データとして取り込んだ図柄を、レーザー光線を照射してジーンズ上に再現するという技法だ。

加工中の製品2

(レーザー光線照射中のジーンズ。レーザーで焼くので煙が出ている。ただしレーザー光線そのものは見えない)

ヒゲやアタリ感を画像データとして取り込んでそれをレーザー光線でジーンズの表面を焼いて忠実に再現する。
実際に児島で作業風景を見せてもらったこともある。

実はこの技法は、ヒゲやアタリ感という中古加工に用いるよりも細密画のような細かな図柄や複雑な幾何学柄を施す方が効力を発揮する。

レーザー加工サンプル2

(新聞の一面を画像データとして取り込み、デニム生地の表面にレーザー光線で再現したサンプル。こういう細かい図柄にこそレーザー加工は最大限に効果を発揮する)

さて、先のマーケティング会社の方はレーザー加工という技法があることも、レーザー加工機の存在もご存知なかった。これまで業界紙の記事にも何度か登場したにもかかわらずである。

「知られていないものは存在しないのと同じ」というのがマーケティングの原則なので、多くの人々にとってはレーザー加工は存在しないのも同じということなのだろう

そのマーケティング会社の方は「いやー、そんな技法があるのは知らなかったなあ。そういう背景をもっと語ったり、店頭で画像として見せたら訴求力があるのに」と仰った。
これも「物語商法」であり、それを訴求するのは正しい商法であると感じる。
国内の繊維製造加工業はまだまだ自らの価値を正しく発信していない。だから、まだまだ「物語」は眠っており、発掘される必要がある。

頭ではわかっているが、あまり気持ちは奮い立たない。
もっと能力がある方にお任せする方が良いだろう。
筆者は大した仕事もしていないくせに疲れているようだ。

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