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南充浩 オフィシャルブログ

供給過多でダブついている

2013年8月27日 未分類 0

 先日の雨の影響で全国的に猛暑のピークが過ぎたようだ。
一旦涼しくなると消費者心理は、秋物を着てみようかなということになる。
例年の傾向だが、今後、気温が30度を越える日が続いたとしても、消費者は夏物の投げ売り品を購入して気分転換するという発想にはならない。

しかし、売り場には夏物の残りがダブついている。

某カジュアルチェーン店で夏物(一部に昨年冬物も混じっている)が1枚990円に値引きされて販売されている。
1枚990円だが、2枚買うともれなくもう1枚がタダでプレゼントされる。
要するに1980円で3枚買えることになる。
このチェーン店は、タダでも良いから持って行ってもらいたいほどに在庫がダブついているといえる。

夏物がダブついているのはこのチェーン店ばかりではない。
他のチェーン店だって70%オフのさらに5%オフとか、さらに20%オフなんて投げ売りを行っているし、業界の雄といわれているユニクロだって半袖Tシャツは390円とか500円にまで値引きされて販売されている。
夏物の半袖Tシャツを定価で買うのはまことにアホらしい。

さて、少し前だが日経ビジネスオンラインにこういう記事が掲載された。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130626/250261/?ST=print

私はしばらく前に、日本の衣料品における総消費量と総生産量の割合を調べたことがある。結果は30%の過剰生産だった。日本の服は、30%は捨てられる前提で生産されているということだ。街を歩いてみれば、百貨店、ファッションビル、チェーンストア、インターネットには「服」が溢れている。

加えて、日本の女性は、特に若い世代ほど服に「ブランド」間の違いを意識していない。例えば、買い物をしていて欲しいものがなければ、違うフロアで似たような服を探し、値段が高ければ、FOREVER 21やH&Mで探す。最近では、スマホやネットで探して購入する。今のアパレルビジネスは「安いモノ勝ち」である。

とのことである。
ここで挙げられている買い方は女性ばかりではない。男性だってそうだろう。
男性は女性に比べてややブランドにこだわる部分もあるが、似たような物を安く買うという作業に慣れている男性も増えている。そうでなければファストファッションブランドにメンズというジャンルは存在しないのが常道になっているはずである。

とにかく、基本的には洋服は供給過多でダブついており、安くしたからといって2枚、3枚と買うことはあり得ない。
ユニクロの390円に値下げされたMTVのTシャツはいくら安くても欲しい色と柄を1枚買うだけであり、さして自分の好みでないものをもう1枚買うという発想は消費者にはない。

このコラムの筆者の河合拓さんは、それ故に

こういう状況の中で新しい服のブランドを立ち上げることがどれほど厳しいか。水であふれかえっているコップに、さらに水をいれるようなものだ。今の日本で服など売っても儲からない。ゆえに、冒頭の相談を受けた時も、「これ以上服を作るのですか?」と問い返した。

と主張される。

個人的な体感でいうなら、売上高数億円程度の小規模ブランドなら新規を立ち上げても到達できる可能性が高いが、100億円を越えるような大型ブランドに育てるには莫大な資金が必要となる。
そして在庫がダブついている現状で、新規ブランドが100億円の売上高を稼ぐためには相当に競合他社の売上高を削る必要がある。衣料品市場はこれ以上大きくならないのだから、同業他社の売上高を奪うしかない。

コラムから引用すると

衣料品の市場規模は7兆円だとか8兆円だとか言われているが、それは市場規模という所与のものがあったのでなく、衣料品を販売している会社の売り上げを積み上げた合計が7兆円だったという話にすぎない。

わけであり、この規模は大きくなるどころかバブル崩壊後は縮小傾向にあるわけだから、なおさら同業他社の売上高を削るほかない。

さて、このコラムはアパレルが同業他社をM&Aすることの愚、アパレルが減少した売上高をカバーするために新規でファッション衣料ブランドを立ち上げる愚を説いておられるのだが、まことにその通りである。

端的にまとめると

私はアパレルブランドの経営者に対して、「もう衣料品のブランドを立ち上げても成功確率は低い。例えば、同一ブランドで女性下着、化粧品、場合によってはカフェ事業のようなサービス事業はどうか」と提案をするのだが、必ずと言って良いほど「我々は服屋だから、服しか扱えない。違う業態を組織の中にいれると経営資源が分散して失敗する」と言われてしまう。

ということになる。

まあ、個人的に長年見てきた業界状況もほぼ同じである。
そこで、

世界に目を向ければ、ヨーロッパの世界的企業であるLVMHやリシュモングループなどのブランド企業は、宝石、カバン、ジュエリー、衣料品、ワインといった異なる事業を複合的にブランディングし、足りないピースはM&Aで求め、多角化に成功している。

と主張されているわけだが、現状の国内アパレル企業ではユニクロも含めてこの形態を成功させることはできないだろうというのが個人的な意見である。
SPAブランドだけがかろうじて残ったが本社は倒産してしまった某社だって、経営破綻の要因の一つには外食産業への進出が挙げられている。

そういえば、アパレル企業やショップチェーンを買い足している商社もあるが、同業他社ばかり買い集めてどうするのだろうかと疑問に感じる。
例えば年商100億円規模の会社を5つ買って、アパレル事業部として500億円の年商規模にするというなら理屈はわからないではないが、100億円規模のも、30億円内外のも、数億円レベルのも買いそろえるというのでは、目的が良く分からない。
おそらくブランド間での相乗効果というのはあまり見込めないだろう。

「1枚990円の投げ売り品を2枚買うと自動的にもう1枚プレゼント」というキャンペーンを見て、改めて衣料品のダブつきを痛感した次第だ。

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