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南充浩 オフィシャルブログ

百貨店の来場者は本当にPOPを読まないの?

2013年7月25日 未分類 0

 原則的に百貨店はPOPが禁止である。
POPというのは正式にはPoint of purchase と呼ばれる。

このブログにもたびたび引用させていただいているシナジープランニングの坂口昌章さんによると、「昔(おそらく30年以上前)は百貨店も盛んにPOPを使っていたが、あまりに売り場が汚くなったので禁止になった」という。

30年以上前の百貨店の売り場を43歳の筆者は覚えているはずもなく、ましてやPOPがあったかどうかも定かではない。

しかし、百貨店以外の販路では近年POPはかなり重視され、書店や食料品店、ドラッグストアではPOPの書き方一つで商品の売れ行きが変わると言われていることも事実である。

さて、先日、百貨店で期間限定販売を経験した産地企業にお邪魔した。
百貨店で販売会を行うぐらいなので、自社の生地を活かした商品開発を行っているが、そちらの出来栄えは今後さらなるブラッシュアップが求められる。

この産地企業によると百貨店側は「POPは必要ないです。なぜなら誰も読みませんから」とかなり強硬に指導されたという。この企業は東京、関西、中部と百貨店をラウンドしたのだが、東京の百貨店では「見ているお客様に声をかけても逆効果です。お客様が質問されてから説明を開始した方が、喜ばれますし、効果的です」とも指導されたという。

果たしてこの百貨店側の認識は正しいのだろうか?

「見ているお客に声をかけても効果がなく、尋ねてきたお客には全力で説明する」というスタイルを東京の消費者は喜ぶのかもしれない。筆者は東京の百貨店で販売をしたことがないのでこのあたりの呼吸はわからない。
ちなみに関西の消費者は、見ているときに一声かけられるのを喜ぶ傾向が強いように感じる。
これは販売を経験した阪急百貨店うめだ本店でも同じだった。

筆者が疑問を感じるのは「POPなんて誰も読まないので必要ないです」という姿勢である。
書店や食料品店、ドラッグストアでPOPが効果を発揮しているのは、公然たる事実である。
そのような事例をまとめた本も何冊も出版されている。
雑貨関係の販売店や飲食店でも効果を発揮している。

そのような店舗を利用する消費者と百貨店に足を運ぶ消費者は完全にちがう層なのだろうか。
欧米諸国のように社会的階層がはっきりと別れており、上流階級と下層階級で利用する店舗が異なるということが現代の日本であるのだろうか。

筆者はそうは思わない。
百貨店に足を運ぶ消費者の大部分は、POP一つで売れ行きが伸びる書店や食料品店、ドラッグストアを利用する層とも重なる。
それこそ、マーケティングのセミナーでも良く言われたように「ルイ・ヴィトンを買いながら、ユニクロも愛用する」のが日本の消費者だ。
その消費者がどうして、百貨店に来た時だけPOPを読まなくなるのだろうか?
まったく理解できない発想である。

「POPなんてうちの顧客様は読みませんよ~」と決めつけるのは百貨店側の錯覚ないし思い上がりではないのか。

産地企業が作る商品の多くは生地や糸に大きな特徴があるが、一見しただけではそれはわからない。
POPが無い状態で、(自称)プロが生地をつまんで擦り合わせてみたところで、実際に生地の特性が分かる人はごく一部だろう。シナジープランニングの坂口さんのお言葉を借りれば「わかったような顔をして指を擦り合わせているだけ」ということになる。

さて、一年ほど前、POPの書き方の面白さに定評のある某レディースニットブランドが、大阪の某百貨店で期間限定販売を行ったことがある。
結果的にいうと、ほとんど売れなかった。

原因の一つとしては閑散としていることで有名な某百貨店なので入場客数自体が少なく、階層が上の催事場にまでたどり着くお客はさらに少なかったということは挙げられる。
しかし、POPを禁止されたのも惨敗の理由の一つではないか。

なぜなら、このブランドの商品自体は見た目が極めて普通である。
POPの面白さがなければ、魅力は半減してしまう。
値段はそれほど安くない。1万数千円以上はするだろう。
ブランドの知名度はそれほど高くない。どちらかというと新興ブランドに近い。

1万数千円以上の価格で、見た目が極めて普通で、ブランド知名度が高くないニットが黙っていて売れるだろうか。
筆者は絶対に売れないと思う。

見た目が極めて普通のニットならユニクロや無印良品で十分だ。
そちらの方がお安いし、品質も粗悪ではない。値段の割には上質である。

で、このブランドが人気を博しつつあるのはPOPの面白さである。
その一番の「売り」を禁止してしまえば、百貨店自体の閑散度合いも手伝って、売り上げが惨敗するのは当然の結果といえる。

百貨店はそろそろ固定概念を捨てる必要があるのではないか。
居酒屋のようなあまり美しくない手書きPOPは控えるべきかもしれないが、もっと美しく見えるPOPもあるはずである。
もちろん文言は読ませるようなものが必要だ。
「シルクブラウス 29,000円」のように品名と値段と生地名しか書いていないPOPは論外である。

この辺りを工夫しないと百貨店の売れ行きはいつまで経っても景気頼みであり、毎回決算発表のたびに「デフレ不況によって消費が伸びませんでした」というお決まりのコメントを繰り返すことになる。

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