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南充浩 オフィシャルブログ

ブランドのファンではなく、無料商品のファン

2013年6月25日 未分類 0

 先日、こんなイベントがあった。

原宿にビキニの長蛇の列、無料服プレゼントイベント
http://www.afpbb.com/article/economy/2952062/10955096

スペインのカジュアルファッションブランド「デスイグアル(Desigual)」原宿店で22日、アジア初となる「セミ・ネイキッド・パーティー」が開催された。

このイベントは、水着を着て来店した先着100人に店内の商品2点を無料でプレゼントするもの。

店の前には約350人の列ができ、中には前夜から並んだ人も。開店を待つ間、集まった人たちは水着の上に店から提供されたバスローブをはおり、朝食として配られたチュロスや飲み物を楽しんだ。

という内容だ。

このイベントは、

同イベントはバルセロナやニューヨーク、パリなど世界各国のセール初日に開催され、今まで4,000人以上が参加。ショップの前に半裸の客が列を成すことで毎回話題になっている。

だそうだが、無料で服を配るという販促のメリットとデメリットについて考えてみたい。

まず、メリットであるが、こんなふうにニュースになるのだからそれなりに知名度を高める効果がある。
とくにデシグアルは日本に上陸して間もないため、ブランドの知名度を高めるためにはどのような形でも良いから媒体に掲載される必要がある。
このイベントもほぼ所定の目的を果たしたと思われる。

一方、デメリットの方だが、今後「ファン」になってくれるであろう以外の層を多く呼びこんでしまう点である。
無料配布に並ぶ人々は「そのブランドのファン」ではなく「無料配布のファン」である場合が多い。要は無料配布してくれるならブランドは何でも良い。

デシグアルはグラフィックに特徴のあるブランドで、無難な無地アイテムはほとんどない。
すべてのアイテムに独自のグラフィックがプリントないしは刺繍されている。使い勝手の良いアイテムとは言い難い。おそらく好き嫌いははっきりと別れる。

値段は驚くほど超高価格でもないが低価格では決してない。
だいたい、メンズのジーンズは1万数千円、メンズの半袖Tシャツが6000円以上、メンズ半袖シャツが1万円前後という定価設定になっている。

無料で配布された人が「着用してみて良かったから来月は定価で買うぞ」とはなかなか思えない価格帯である。
例えば、ユニクロやジーユー、しまむらあたりの低価格品であれば、多くの人々が「着用してみて良かったから来週にもう1枚買おう」と思える。
1枚990円とか1990円程度だからだ。
しかし、デシグアルの商品をそう気軽に買える人は少ないだろう。ましてや若い層には厳しい。

さて、2009年にフランスの宝飾ブランド「モーブッサン」が銀座店オープン時に5000円のダイヤモンド(石のみ。台座などは無し)を無料配布したところ大行列ができたというニュースが流れた。

これについて、販促コンサルタントの藤村正宏さんはメールマガジンでこう指摘しておられた。

ブランドの認知度を高め、
新たな顧客を増やすのが狙い

だそうですが・・・・

暴挙!です!

無料ダイヤで集客して

それに5000人以上が並んだんですけど
1日に300名くらいしか渡せなかった。

どうしてかと言うと、

ブランドのコンセプトを説明したり
住所氏名を聞いたりするため。

結局整理券を渡し、めちゃめちゃクレームが出た。

無料のダイヤが欲しい人がその店の「顧客」になるか?

そういうことです。

別に「モーブッサン」にブランド価値を見出している人わけではなく

「無料のダイヤ」が欲しい人たちです。

とのことである。

追記すると、「モーブッサン」はダイヤモンドの石のみを配っており、これをネックレスや指輪に取りつけてもらうためには何万円かの加工費が必要になるとのことで、この日、並んで手に入れた人々はその後ちゃんと加工してもらったのか気になるところである。
結局、ブランドのアクセサリーは完全無料では手に入らないということになる。

4年前にこの騒ぎをテレビで見ていると、行列に並んでいる何人かがインタビューされていたのだが、

「仕事を休んで並びました」

くらいは序の口で

「義母(嫁の母親)にプレゼントするために並んでいます」とか
「関西から来ました」とか

答える人々がいて驚かされたものだった。

関西、仮に大阪とすると、東京までの新幹線往復代金は2万8000円ほどだ。
夜行バスかもしれないし、飛行機かもしれない。飛行機なら早割とか得割かもしれない。
それでも往復に2万円弱はかかっていることだろう。
2万円あれば普通の店でノーブランドの貴金属アクセサリーが買えると思うのだが、わざわざ銀座くんだりまで出かけて無料のダイヤモンドをもらう意味がわからない。

わざわざ往復2000円の電車賃をかけて出かけて行って、500円のランチを食べて「安かったわ~、得したわ~」と悦に入っている近所のオバちゃんにも似た非効率さがある。
それなら歩いて行ける近所の店で800円のランチを食べる方がずっとお得である。

義母は銀座で無料で配布されていたダイヤモンド、しかも石のみをもらってうれしいと感じるのだろうか?

いろいろと疑問は尽きない。

閑話休題

デシグアルの無料配布イベントは4年前のモーブッサンと同じように「顧客作り」という点に関してはほとんど意味が無いだろう。

無料配布といえば同じく2009年に新店オープンの際、EドウインとLーバイスのジーンズを無料配布したジーンズカジュアルチェーン店があった。タイミングから見ておそらく「モーブッサン」の報道に触発されたのだろうと思う。
で、このジーンズカジュアルチェーン店は顧客作りに成功したのかといえば、そんなことはなく、あえなく閉店撤退している。

オープン当時に無料配布されたお客は固定客にはならなかったようだ。
固定客化していれば2,3年後に閉店するようなことにはならなかっただろう。

このジーンズカジュアルチェーン店の手法は、モーブッサンよりもさらに拙劣である。
どこが拙劣かというと、自社企画商品ならまだしも、配布しているのはナショナルブランドから仕入れた商品なのである。もし、無料配布されたお客が「ファン」化してもそれは店舗のファンではなく、ナショナルブランドのファンになるだけである。
そして、ナショナルブランドはこのジーンズカジュアルチェーン店だけではなく、ライトオンにもマックハウスにも他の地域密着型チェーン店でも販売されているので、わざわざ2本目をこの店で買う理由がない。近所のライトオンで買うことになるだろう。

飲食物や化粧品などの試供品無料配布は、消耗品であるため、味や使い心地が良ければリピーターになってくれやすい。しかし、衣料品やアクセサリー類はある程度の耐久性があるのと、飲食物・化粧品などに比べて単価が高い。このため、すぐにリピーター化することはよほどの場合でないと考えにくい。

衣料品やアクセサリーブランドが「無料配布=固定客作りに直結、リピーター獲得」と考えているなら、それは絵に描いた餅に終わる可能性が高いのではないか。

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