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南充浩 オフィシャルブログ

またとない良質な番組

2013年5月21日 未分類 0

 小規模な児島のジーンズメーカー3社がパリに売り込みに行くも無残に玉砕した(ように見える)NHK岡山支局が放送した番組「現場に立つ」について、続きを書いてみたい。

http://www.nhk.or.jp/okayama/program/b-det0008-naiyou.html

パリに出向いたのは以下の3社

1、インディゴ染めにこだわるI氏
2、緯糸にカラー糸を使うため、裏がカラーになるジーンズを企画製造するH氏
3、ブラックデニムとブルーデニムの切り替えブッシュパンツを企画製造するT氏

のチームである。

さて、今回のプロジェクトでもっとも気になる点を書きたい。

それは何故、フランスのパリなのかということである。

日本貿易振興機構岡山貿易情報センターの女性がインタビューに応えているから、おそらくここの立案であろう。
「ファッションはパリ。世界の一流ブランドが集まるパリで有名になれば中国人にも売れる」。
番組中で語られる動機はこれだが、一見すると適正な方策にも見えるがじっくり考えてみるとかなりおかしい。

まず、パリで中国人が押し寄せているのはブランド直営店であり、セレクトショップではない。
だからパリのセレクトショップに仕入れられても中国人に売れることはあまり見込みがない。

日本貿易振興機構がモデルにしたのは広島県の「熊野筆」だという。熊野筆はパリで絶賛されて有名になった。
けれども熊野筆は化粧用の筆として日用品たる側面を持っている。
高価だが使いやすく品質の良い日用品という性質である。
で、今回パリに飛んだ日本のジーンズ3ブランドにはそういう性質はあっただろうか?
熊野筆のように、他社の化粧筆と使い比べてみて一目瞭然で効果がわかるような部分があるだろうか?

製造工程の困難さをアピールすれば、高価なジーンズが売れると思っている節があるが、それは考え違いだろう。
消費者は困難な製造工程を買うのではない。

熊野筆のように使い比べてみて圧倒的に機能が優れているような分かりやすさが児島のジーンズにあるだろうか。筆者はないと思う。
圧倒的な機能なら、エドウインの防風ジーンズやユニクロのウルトラストレッチデニムの方がよほどわかりやすい。

ジーンズはファッションアイテムの1つであり嗜好品なので、製造工程の困難さもさることながら、着用すればどれくらいカッコ良く見えるか、どれほどスタイルが良く見えるか、どういうコーディネイトをすれば素敵に見えるか、この辺りをアピールする必要がある。

前回も書いたが、ジーンズ業界の人は、ジーンズという単品をどれだけクオリティアップするかということだけに注力しすぎる傾向が強い。
それではあまりにも単品志向が強すぎるため、却って売れなくなる。

個人的にはパリで3社のみで合同展をすること自体が戦略ミスだったのではないかと感じる。
200ドルジーンズが毎年それなりに動き続けているアメリカの西海岸に持って行くべきだったのではないだろうか。

どうもお役人さんが「ファッション=パリ」という単純な図式に乗っかっただけのような気がしてならない。

これに付随して今回のパリ合同展示会のオプションとしてパリのデザイナーとのコラボジーンズの展示という企画もあった。
「パリのデザイナー」というからどんな世界的に著名なデザイナーなのかと思ったら、舞台衣装のデザイナーだった。

え?Σ(‘◇’*)エェッ!? 舞台衣装ですか?なぜ?why?

普通「パリのデザイナーとコラボ」と言われば「サンローラン」や「ルイ・ヴィトン」「ディオール」のような著名ブランドのデザイナーとのコラボかと想像するが、舞台衣装デザイナーでは残念ながらファッション業界に強いインパクトを与えることは不可能である。
児島ジーンズをパリの演劇界に売り込みたいのならそれも良いのだが・・・・・・・・・・・・。
これもお役人さんの企画ミスではないのかと突っ込みたくなる。

それと3ブランドでの合同展示会なのだが、番組を見る限り来場者は少なかったようだ。
しびれを切らせた3人は飛び込み営業を行ったということになっている。
もし番組通りに来場者が少なかったのだとしたら、果たして彼らはフランスで展示会開催の告知をどれだけ行ったのだろうか?ほとんど行っていないのではないだろうか?

もし、告知がほとんどなかったのだとしたら、甘すぎるといわねばならない。
例えば、東京でフィリピンの3ブランドが合同展示会を開催したとする。
告知がない状態でどれほどの日本人バイヤーが会場に行くだろうか。ほとんどゼロではないだろうか。
外国から来た無名の3ブランドが展示会を開催したからといって、バイヤーが多数来場するはずもない。
それと同じことである。

さらに根本的な疑問をいえば、無名の3ブランドが合同展示会をする意味があるのだろうか。
ブランドが有名になれば自分たちだけで展示会をやれば良い。バイヤーもそれなりに来場するだろう。
しかし、海外で無名な状態(日本でだって有名とは言い難い)で、いきなり自分たちだけで展示会をやるのはあまりにも効果が期待できないだろう。
筆者なら大型合同展示会への出展を勧める。その方が、来場客は確実に見込めるからだ。

これは別に海外でなくとも国内でも同じだろう。
新しいブランドが手っ取り早く大勢のバイヤーの目に触れたいと思うのなら、IFFや東京ギフトショー、ルームスなどの大型展示会に出展した方がずっと効率的だ。

なぜ、フランスやアメリカでの大型展示会に出展することではなく、無名に近い状態の3ブランドのみでの合同展示会を企画したのか理解に苦しむ。

そんなわけで、延々と何回かにわけてこの番組の感想を書いてきた。
この番組で紹介された手法とすべて真逆を行えば日本のジーンズブランドは海外でも売れるのではないかと思う。
そういう意味では、ジーンズ業界関係者にとってはまたとない良質な番組だったと感じている。

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