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南充浩 オフィシャルブログ

「色落ちしないデニム」に新たな市場を感じる

2013年5月14日 未分類 0

 昨年秋ごろには「数年来不調だったブルージーンズがそろそろ復活するのではないか?」と期待交じりにささやかれていたが、その期待はあえなく裏切られてしまった。
 今春のパンツの売れ筋は、ホワイトパンツ、カラーパンツ、花柄パンツの3つに集約されてしまい、ブルージーンズは不調と言われた数年来の中でもとくに厳しい状況に置かれている。

そんな中、3月8日にNHK岡山放送局が放映した「現場に立つ」という番組があった。
小規模ジーンズメーカー3社がパリで売り込みをかけるというドキュメンタリーである。

http://www.nhk.or.jp/okayama/program/b-det0008-naiyou.html

結果からいえば、3社は1社たりとも取り引きが成立しないまま番組は終了しているので、番組を見た限りではパリへの売り込みは失敗だったといえるだろう。

ジーンズ関係者はこの番組を見た方が良い。
なぜなら、登場する3社が指摘されていることはジーンズ業界全体に共通する宿痾でもあるからだ。
結論から言えば、この3社の取り組みとことごとく逆を行えば、その商品は売れるだろう。

番組内容についての感想と考察をすべて書くととてつもなく長くなるため、何度かにわけておいおいと紹介していきたい。

番組には児島の小規模ジーンズメーカー3社の社長が登場する。

1、インディゴ染めにこだわるI氏
2、緯糸にカラー糸を使うため、裏がカラーになるジーンズを企画製造するH氏
3、ブラックデニムとブルーデニムの切り替えブッシュパンツを企画製造するT氏

である。
今後もたびたび番組内容を紹介するので、一応記憶の片隅にとどめておいてもらいたい。

まず、印象的だったのが、パリのセレクトショップのオーナーの女性がI氏に語った一言だ。
オーナーの女性の風貌やファッションのテイストはヨーロピアントラッドである。

「色落ちしないデニムはないの?」

これに対してI氏はこう答えている。

「デニムは色落ちするのが味です。中白を止めて繊維の中心部まで染めればだいぶと色落ちしなくなるが、それはあえて開発していない」。

デニム関係者以外の方に念のために説明すると、ブルーデニムは経糸(たていと)にインディゴ染めした綿糸を、緯糸(よこいと)には染色していない綿糸を使って織る。
ジーンズの裏側が白いのは緯糸が出ているためであり、緯糸をカラーに染めれば、裏がカラーのデニムになる。
3社のうちのH氏はそういうデニム生地を使ったジーンズを企画製造している。

インディゴ染めされた経糸だが、綿糸の中心部分までは染まらない。白いままである。
綿糸の表面がブルーに染まり、中心が白いままの状態を指して中白とか芯白とかいう。
デニムの色落ちとはこの経糸の表面のブルーが摩擦によって剥がれ落ち、中心の白い部分が現れることである。

だから、経糸の中心部までブルーに染めれば色落ちのしにくいデニム生地が理論上はI氏が言うように可能なはずである。
さらに落ちやすいインディゴ染料ではなく、通常の反応染料を使えばもっと色落ちはしにくくなるだろう。
結論からいえば、反応染料を使って糸の中心部分までブルーに染めれば、色落ちのしにくいデニム生地は製造が可能である。

「デニムの色落ち感がたまらん~」。
現在、こんなことに喜悦を感じているのは、デニムの製造業者とマニアな一部の消費者だけだろう。
同じカジュアルでもトラッド、エレガンス、モードな着こなしが全盛の昨今では、色落ちしない、もしくは色落ちしにくいジーンズが求められている。
こういうジーンズだとカラーパンツの一色として認知されやすい。
事実、2~3年前にはジーンズが売れない中で濃紺のワンウォッシュは比較的に売れたではないか。

筆者は「あえて開発していない」というI氏の答えにジーンズ業界の認識のズレを感じた。
一方、知り合いの某ラメ糸メーカーの社長は同じ番組を見て「色落ちしないデニムという要望に新しい市場を感じた」と言い切っている。まさしく感覚の差である。
どちらが今後も新しい顧客を獲得して行けるかというと、間違いなくラメ糸メーカーの社長であろう。

「デニムは色落ちしてこそ」。

この考え方に縛られている限りはジーンズ業界が復活することはありえない。
別に色落ちしないデニムがあっても良い。

3年ほど前だと記憶しているが、リーバイスが色落ちしにくい「エイジレスデニム」というのを発売した。
現在は廃番になっているが、筆者は一本持っている。
生地の手触りが妙にカサついているのでコーティングに近い何らかの加工を施してあるのだと推測している。

しかし、わざわざコーディングせずとも経糸の中心部分まで反応染料で染めれば良いだけのことである。
もっといえば、過去に一世を風靡した日清紡の液体アンモニア加工をさらにバージョンアップさせれば十分に対応できるはずである。
液体アンモニア加工の特徴は色落ちしにくく、生地が滑らかに柔らかくなることなので現在の要望にはぴったりなのである。

「色落ちこそ命」みたいなビンテージブームによって廃れてしまった液体アンモニア加工であるが、そろそろ見直されても良い頃ではないかと思う。

さて、色落ち、5ポケット、生地の表面の凹凸感、セルビッジ、ムラ糸などなど、これらにこだわっている間に市場とどんどん乖離してしまったのが今のジーンズ業界なのではないか。

時代と市場の要望に適合できないのなら、当然、大きな成長は望めない。

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