MENU

南充浩 オフィシャルブログ

月次売上速報の読み取り方 ~単年度の売上高増減率だけでは本質を見誤る~

2019年6月6日 企業研究 0

そういえば、昔、このブログを書き始めたころ、何年間かは新聞みたいにアパレル各社の月次報告をまとめていた。
1つにはネタがなかったこともある。(笑)
それが意外に好評で、何年か前から書かなくなると、「月次報告のまとめしないんですか?あれ便利だったんですよ」なんて言われてしまって驚いた記憶がある。
 
アパレル各社の月次報告は、たしかにその企業の業績のバロメーターになりやすい。「なりやすい」であって「なる」ではない。
なぜなら、金額も客数も客単価も公表されていない。公表されているのは、それぞれの増減率のみだ。
単年度の増減率のみで論じると却って本質が見えにくくなる。
例えば、2015年度・2016年度の2年間は「ユニクロ不調、ライトオン復活」という論調がマスコミや評論家の間で支配的だった。なぜなら、ユニクロは既存店売上高が減少基調で、ライトオンは既存店売上高が増加基調だったからだ。しまむらも同様に「好調」と持ち上げられた。理由は同じだ。
2019年の現在、この見方が正しかったかどうかはお分かりだろう。
しまむらもライトオンも2017年以降は不振続きで苦しんでいて、その病巣は根深いので、即効性のある治療法はちょっと提示できないレベルになっている。
ユニクロは国内では売り上げ増が鈍化しつつあるが、それでもまだ伸び続けており、国内業界では「絶対王者」に近い存在となっている。
どうして、あのときはああいう見方がまかり通ったのかというと、それはマスコミも評論家も単年度の月次報告の増減率しか見ていないからだ。
今年売上高が増えているということは去年が一昨年に比べて極端に悪かったからかもしれない。お分かりだろうか?
一昨年に1億円あった売上高が、昨年は7000万円に減ったとして、それが今年9000万円まで回復したとする。
今年の売上高増減率は、対前年比28・6%増となる。
これを持って「絶好調」とか「完全復活」とかいえるだろうか?一昨年から比べるとまだ10%減のレベルに過ぎない。
2015年・2016年度のしまむらとライトオンは、この「9000万円まで回復した」レベルだったといえる。それをメディアもコンサルもまったく見ていなかった結果が、「しまむら・ライトオン絶賛」という今からすると失笑物の論調となった。
 
さて、今年の月次報告に戻ると、4月・5月とユニクロの既存店売上高の前年割れが報じられている。まあ、それは事実なのだが、果たしてメディアが報じるほど危機的状況にあるのかというと実はそうでもない。
余談だが、繊研新聞やWWDなどの業界紙は月次報告記事でユニクロ、ユナイテッドアローズ、アダストリア、しまむらなどをまとめて報じるが、ユナイテッドアローズを含めるのは個人的には異質だと思っている。なぜなら、ユニクロやアダストリア、しまむらなどとは取扱い商品の価格帯がまったく違うし、客層も異なるからだ。コーエンくらいしか重ならない。
本来ならユナイテッドアローズはビームスやエディフィス、ジャーナルスタンダードあたりとまとめられるべきだが、「大手セレクトショップ」の中で上場しているのがユナイテッドアローズだけなので、まとめることができない。そういう事情があって、業界紙はユニクロなどとまとめるのだろうが、ただ読者にはミスリードを引き起こしやすい。
 
さて、5月の月次速報にもどろう。
 
ユニクロの既存店は、
売上高1.8%減
客数1.3%増
客単価3.1%減
となっている。
 
横並びの価格帯でしまむら、アダストリアも見てみよう。
 
しまむらの既存店は、
売上高5・1%減
客数(全店ベースしか出ていない)3・6%減
客単価(これも全店ベースのみ)0・2%減
となっている。
 
アダストリアの既存店は、
売上高10・7%増
客数9・3%増
客単価1・3%増
 
となっている。
この3社の中でもっとも深刻なのがしまむらである。
なぜなら、売上高・客数・客単価ともに減少しているからだ。さらにいえば、客数は全店ベースなのに減少している。全店ベースということは新店も含まれており、通常ならプラスに転じやすいにもかかわらず減少しているのだから、既存店ベースだとどれほどの客数が減少しているのかということになる。
 
アダストリアは好調に見えるが、昨年春まで不振が続いていたことを考えると、増収ではなく、回復基調と見なした方が適切である。
客単価は少し上がっているが、それよりも客数が大幅に伸びることで売上高が回復しているのだから、昨年春夏まで離れていた顧客が戻ってきていると見ることができる。
ブランドのリニューアル失敗で離れた客が戻ってきているというのは、今後に期待ができるといえる。
 
最後にユニクロだが、「絶対王者」であるがゆえに、少しでも減収すればマスコミや評論家、某コンサルタントなんかは書き立てるのだが、5月の既存店減収はそれほど悪い内容ではないと個人的には考える。
なぜなら、客数は1・3%増と伸びているからだ。減収は客単価の減少によるものであるということがわかる。客数が伸びているということは、消費者から支持されていると考えられる。
一番悪いのは客数が大幅に減っている場合である。これは多くのまともなコンサルタントも共通した見方である。
客数が減っているということは消費者から支持されなくなっているということで、これは業界に伝わる伝説みたいなものだが、ユナイテッドアローズ創業者の重松理さんも客数の増減には常に気を配っていたといわれている。通常、各店舗の入り口には、ユニマットとかダスキンからレンタルした足拭きマットが置かれている。定期的に業者が取り換えに来るわけだが、重松さんは、この業者に親しく声をかけて、どこのテナントのマットが一番早く傷むかを常に尋ねていたといわれている。
どうしてマットの傷み具合を尋ねるのかというと、入店数が多い店はマットの傷む時期が早いからである。そのため、マットの傷み具合の早いテナントはそれだけ集客力の高いテナントというわけで、自社の強力なライバルだということになる。
まあ、人づてに聞いた話なので都市伝説みたいなものかもしれないが、いかに「客数」を重視していたかというエピソードではないかと思う。
 
そんなわけで、月次報告の売上高増減率のみで好不調を論じるのはほとんど意味がない。売上高増減率で論じるなら複数年を比べるべきだし、単年度で論じるなら客数や客単価も関連付けて論じないと意味がない。その視点でいうと、メディアや某コンサルのいう「ユニクロ苦戦」というのはほとんど当てにならない場合が多い。
 
 
 
 
そんなしまむらの商品を使ったコーディネイト本をどうぞ~

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ