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南充浩 オフィシャルブログ

ファッション業界人の無責任なアドバイス

2019年5月14日 考察 4

「このモデルさんと同じ服装をしてみたのになぜか似合わない」とか
「このモデルさんと同じ色合わせをしてみたのになぜか似合わない」とか
そんな経験がおありではないかと思う。
答えは簡単で、そのモデルさんと自分は容貌も体格も体型も脚の長さも首の長さもすべてが違うからである。
 
ファッション雑誌が売れなくなった理由の一つにはこれがあるのではないかと思う。モデルさんが着ている服をそのままそろえても自分には似合わないことが少なくない。
モデルさんの着用ではリアリティに欠け、参考にならない。
それをカバーするためにカラー診断があるし、最近だと骨格診断もある。
ファッション雑誌も盛んにそれを取り入れ始めている。
カラー診断にしろ、骨格診断にしろ、雑誌やメディアではスペースの関係上、通り一遍のことしか掲載できない。そのため、細かな点では「自分はどこに属するのか?」と悩むことがある。正確に診断されるためには、その先生に個別にお会いして診断していただくほかないのだろう。
これはカラー診断や骨格診断以外でもそうで、最終的な細かい部分は直接やり取りしないと判断できない。
 
しかし、カラー診断や骨格診断が普及したことで、洋服を選ぶことに関しては随分と助けられることが多くなったのではないかと思う。
そういえば、最近はヘアカタログをあまり読まなくなったが、ヘアカタログだって顔の輪郭や形に応じて「似合いやすい髪型」が毎号のように特集されている。
いくら往年の江口洋介が大好きで、サラサラロン毛にしたいと思っていても、岩みたいな輪郭と顔立ちをしていてはまったく似合わない。自己満足に浸りたいならそれでもかまわないだろうが、他人に1ミリでも「カッコイイですね」とか「似合ってますね」と言われたいなら、岩みたいな顔立ちの男がサラサラロン毛にするべきではない。
洋服も同様である。
自己満足だけに浸りたいなら「好きな物」を着れば良いが、多少は他人に褒められたいのであれば、他人の目も気にする必要があり、それにはカラー診断や骨格診断は役立つ。
 
MBさんという人気ファッションブロガーがおられる。
人気の理由は、メンズに限ってだが、「他者から良く見える」という視点の着こなしをある程度理論立てて解説しているところにある。
たしかに生地に関しては「新素材ソロテックス」とか「極細糸の光沢のあるデニム」とかちょっと意味不明なことも書かれているが、ことコーディネイトに関して言えば理論立てられていてわかりやすい。もちろん、あの理論にアンチもいるが、旧態依然のコーディネイト指南に比べるとはるかにわかりやすいことは間違いない。
 
洋服のコーディネイトなんてよく考えてみれば誰も教えてくれる人もいなかったし、それを理論立てて説明してくれる人もいない。
その上、古き良き時代の業界人は
 
「自分の好きな物を着ろ」とか「生まれ持ったセンス」だとか「ファッションは自由だ」とか「理屈じゃない」とか
 
極めて理解しづらく無責任なアドバイスをくれる。
そのため、ファッションが大好きという人以外からすると、「ファッションは難しい」とか「ファッションは特別な才能が要る」とか「ファッションはめんどくさい」とか、そういうふうに受け取られ、ますます入門者が減っている。
MBさんが人気を博するのは当然といえる。
 
例えばこんな意見もある。
 

ファッションは自由だから 自分が着たい服を着る!それが正解です。
カラー診断なんか意味ない 。

 
旧態依然の業界人の悪弊丸出しである。
 
ある程度の理論や教本がないと、多くの人は学ぶことすらできない。世の中には極稀に、本物の天才がいて教えられずとも自得する場合がある。しかし、それは極めて少数で、大衆向けの参考にはならない。
 
他人からの評価はどうでもいい。自分の着たい服を着る。似合ってなくても構わないという人がいるのは否定しないが、圧倒的に少数派だろうし、そう嘯いている人のうちの何割かだって、他者から少しは「かっこいい」とか「似合ってる」と思われたいのではないだろうか。
他人からの評価はどうでもいいというのが行き着く先は、往年の志茂田景樹さんのスタイルになる。あれを見て「素敵」とか「憧れる」とか思った人はいるだろうか。当方はまったく思わなかった。個性的だとは思うが、憧れはまったくなかった。
 
論語には
 

「学而不思則罔 思而不学則殆」

 
という有名な一節がある。
 
我が国では
 

学びて思わざれば則ち罔(くら)し、思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し

 
と読み下す。
罔はあまり使わない漢字で「くらい」と読み下すのだが、意味的には「暗い」と同じである。殆も「危うし」と意味は同じである。
 
この文章の意味は
 

知識を学ぶだけで思考しなければ身に付かない、思考するばかりで知識を学ばなければ正確な判断ができない

 
という感じになる。
 
カラー診断や骨格診断で自分の外見を知った上で、コーディネイトを考えるのは有益だし、仮に「ピンクが似合わない」と診断されてもピンクだって、赤に近いものから白に近いものまである。どの彩度のどの明度のピンクが似合うかを工夫すれば済むことだし、インナーやアウターに違う色を組み合わせることでピンクを着てもおかしくなくす方法もある。
理論や理屈なしで「好きな物を自由に着ろ」というのは「思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し」という状態でしかない。その結果、往年の志茂田景樹さんが量産されてしまうことになる。
旧態依然の業界人はそういう量産を目指しているのだろうか?
 
 
 
新1万円札の渋沢栄一が書いた「論語と算盤」の現代語訳をどうぞ~

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 comment
  • ke より: 2019/09/08(日) 11:47 AM

    こんにちは。
    業界のことを色々考察されていて、とてもためになります。

    数年前にパーソナルカラー診断とパーソナルデザイン診断を受け、それなりに服に対する見方も変わったのですが、実際の運用はとても難しいと感じてます。(ですが、時間ができたら骨格診断と顔タイプ診断も受けようと思ってますが・・・)
    同じグレーでも、黄味よりだとイエローベース、青味よりだとブルーベースと知っていても、実際の商品で見分けがつくかは別の話ですし、トップスもボトムスもばっちりの色を選んでいても、その配色がまずければダサいです。色が良くても形が合わなければアウトです。

    あればいいなあと思うサービスは、ネット通販のサイト上で、パーソナルカラー、骨格診断、顔タイプ診断orパーソナルデザイン のそれぞれの選択肢を設定して検索を押せば、その組み合わせでおすすめのコーディネートで商品が買えることです。何も考えず全身買いで楽チン。
    ◯◯診断といえども個人差があるので、検索結果がばっちりハマるかといえば必ずしもそうではないと思いますが、雑誌のモデルよりかは随分マシかと想像します。

    AIでも人力でもいいので、そういうサービスはできないでしょうかね。

  • BOCONON より: 2020/04/29(水) 11:17 PM

    MBクンの言っている事は「理論」というほどのものじゃありませんね。要するに「ドレス(ドレッシーの意ならん)+カジュアルでお洒落になろう → 黒スキニーはドレスなアイテムだから基本これを穿いていればほかは何を合わせてもOK」というだけ。
    黒のスキニーデニムはレギンス/タイツのようなズボンだから,言うならむしろドレスではなくフェミニンである(だから大ていの女性はこれを穿いた男を嫌うのです)。多分そんなに遠くない将来黒スキニーも流行らなくなるだろうから,その頃には彼の本も物笑いのたねになっているでありましょう。
    そもそも「ドレス+カジュアルと言えば,例えば “紺ブレザーにチノ穿いたオジサン” や “花柄のワンピースにジージャン羽織った女子” なんて珍しくもないが,彼/彼女らが全員おしゃれに見えるか?」とか,見りゃ分かりそうなもんである。
    だいたい全身ドレッシーだって全身カジュアルだってお洒落な人はお洒落なわけで・・・って,まあ僕としては「よくあんな子供だましを真に受ける人がいるもんだ」とでも言うよりないですね。

  • BOCONON より: 2020/04/29(水) 11:37 PM

    パーソナルカラー診断や骨格診断も似たようなものです。ネットに転がっているそれらの「使用前/使用後」の写真見れば分かる。「これは・・・これで “お洒落になれたでしょ” って言うつもりなのか? だとすれば随分とツラの皮の厚い奴もいたもんだ」と云ったようなもので。
    だから結局「何だって着てみなきゃ分からない」。月並みな結論ですが,それが結局一番確実だと僕は思っています。
    強いて言うなら例えば色については「一般に日本人の肌にはイエローや鮮やかなグリーン,ピンク,オレンジ等は合わないからやめといた方が良い」なんて事は知っておいた方がよろしかろうと思いますが。

  • BOCONON より: 2020/04/30(木) 12:09 AM

    誤解を招いては困るので付言すると,僕は南さんの言う事に反対している訳ではありませぬ。
    例えば「ピンクのシャツは肌が黄色っぽい上に髪の黒い日本人の男が着るとクドい感じになってどうも良くない」というのはたいていの場合正しい。けれども,髪に白髪が多くなった人や茶髪の男だと大分話が変わってくる。またピンク自体もくどいピンクじゃなくて “桜色” というのに近い抜けの良いピンクなら案外イケたりする。さらには「ピンクのシャツと言うと紺のスーツやジャケットに合わせる人が多いけれど,紺にピンクではキレイキレイし過ぎて普通の男には無理。むしろグレーのスーツの方が似合う」・・・と云った按配で。
    こういう事が経験的に分かってくるので「着てみるのが一番」と僕は申し上げたのでした。

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