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南充浩 オフィシャルブログ

洋服の価値と価格がわかりにくい理由

2019年5月13日 素材 0

先日、洋服の価値というのはわかりにくいよねという話になった。
パソコンでも家電でも自動車でもその手の商品はどれも、「高価格=高機能、高品質」がはっきりとわかる。もちろん、A社の商品はB社の商品と性能は同じなのに割安ということは珍しくない。
しかし、そのA社の商品もA社商品群の中では、「高性能=高機能、高品質」になっている。
買う側からすると非常にわかりやすい。
 
洋服はそうではない。そもそも洋服を構成する生地自体がそうではない。
1メートルあたり数百円くらいの定番生地を使いながら、高価格の商品を作って売っているブランドはいくらでもある。
念のために言っておくと、これが悪いことだとは考えていない。定番生地というのは、大量生産されているからこその安定した品質がある。
また、仕入れ原価や製造原価を抑えて、高額で販売するのは商売の基本中の基本である。
 
某人気ブランドのチノパンはだいたい3万~4万円くらいするが、使用している生地は某大手生地問屋の定番生地だと言われている。1メートルあたりの価格はだいたい数百円だ。高くても1000円は越えない。
となると、用尺は2メートルだから、生地代としては1500円くらいということになる。
副資材(ボタンやファスナーなど)や下げ札、織りネーム代、縫製工賃を含めても製造コストに1万円もかからないだろう。上手く行けば5000円程度に抑えられる。
粗利益額は3万円くらいになる。
 
「高い商品は良い」という人が今でもいるが、洋服に関していうとそれは当てはまりにくい。ただ、定番生地は粗悪品ではないということは間違いない。
「原価率ガー」となんでもかんでも叫ぶ人がいるが、そういう人からするとこのブランドの商品は受け入れがたいだろうが、ブランドのビジネス姿勢としてはまことに正しいとしか言いようがない。
 
一方で、「結果的に」高い生地を使っている(使わざるを得ない)場合もある。
例えば、某欧州ラグジュアリーブランドは10万円くらいするジーンズを販売しているが、使用している生地は某国内デニム工場の定番生地である。
その定番生地はだいたい1メートルあたり700円くらいの価格なので、普通に作れば、ジーンズの用尺はだいたい2メートルなので生地代は1400円くらいで済む。
ところが、この生地がラグジュアリーブランドに届くまでに幾重にもエージェントやコーディネイターが介入するので、そのたびに手数料や仲介料が上乗せされ、ラグジュアリーブランドは1メートル7000円くらいの高価格で定番デニム生地を購入している。
ラグジュアリーブランドからすると、1メートル7000円の生地なので、2メートル使用すると1万4000円かかることになる。
その他の製造コストを含めると2万円くらいにはなると考えらえるので、10万円で販売することはあながち暴利とは言い難い。
2000円で製造した服を1万円で売るブランドなんて掃いて捨てるほどあるわけで、粗利益率に関していえば、それと何の違いもない。
しかし、このブランドが使用している「高価格な」デニム生地は果たして希少性があったり、機能性に特別に優れていたりするのだろうか?
答えはNOである。
何せ、定番デニム生地に過ぎないのだから。
 
このように見ると、洋服や生地の価格はまことにわかりにくいといえる。
「原価率ガー」な人々にとっては相当に受け入れがたい商材だろうと考えられる。
一般消費者に「ファッションは難しい」と考える人がまだまだ多いのはこういう業界構造に原因の一つがあるのではないかと思う。
パソコンや家電製品の価格差のような明快さがない。
 
だが、それがあるから面白いということもいえる。洋服好きな人や洋服業界で勤めている人は、そこに面白味を感じているのではないかと思う。
陶磁器や漆器なんかと似たようなところがある。
陶磁器でいえば、有名なナンタラ先生が焼いた器は何百万円もするが、量産品は1個100円くらいで売られている。使用している土が大幅に違うかというとそうでもない。機能性や耐久性に圧倒的に優れているかというとそうではない。
好事家や愛好家は「そういうものだ」と納得して買っている。洋服や生地も似ている部分がある。
だから、洋服業界や生地業界には、工芸品と混同して勘違いするような人が多くいるのだと思う。
 
売り方一つ、見せ方一つで売れたり売れなかったりする辺りが、洋服の面白さであり不安定さでもあるのではないかと思う。
20年以上前のビンテージジーンズブームのころ、大人気だった某ブランドがある。その創業者は天才的で山師的な商売センスがあった。
通常、デニム生地に「織り傷」があると、その部分は検品ではねられるか、その部分を使った商品は不良品として値下げ販売されるかである。
しかし、その天才的な創業者は、織り傷のあるデニム生地を使ったジーンズを値下げ販売せず、逆に「それは当たりだ。何本かに1本しかない珍しい商品だ」と説明することで通常の値段で売ったと言われている。
もちろん、織り傷だということは承知してのことだから、詐欺スレスレ、ペテンスレスレともいえるが、言い方一つで欠点を価値に転換できる面白味というものが衣料品にはある。
当方はこういう機転がまるでないし、そういうセンスもないし、やりたいとも思わないが、そういうものだとしか言いようがない。
完全透明化を確実に実施すれば、全ブランドの「エバーレーン化」になるが、そういう世界が面白いのかどうかは意見のわかれるところではないかと思う。
 
 
 
Everlaneで検索したらこんなのが出てきたのでどうぞ~

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