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南充浩 オフィシャルブログ

「手段」を「目的」にしてしまうアパレル業界

2019年4月19日 考察 0

某専門学校で毎週見かける講師の方がいる。名前も知らないし言葉を交わしたこともない。
しかし、服装に特徴があるので覚えている。いつも70年代調のファッションでキメておられ、ズボンは必ずベルボトムというかパンタロンというかで、凄まじく裾が広がり、おまけになんとも言えない幾何学柄やサイケ柄が描かれている。
 
この手のズボンが仮に、どこかの店頭で「在庫処分投げ売りセール 100円」くらいで売られていたらどうだろうか。多分この講師の方は喜んで何本も買うだろうが、当方は絶対に買わない。
絶対に穿かないことがわかっているからだ。
そして恐らく、今のマス層も買わないだろう。トレンドでもないし、ベーシックでもないからだ。いわゆるゴスロリのようにコアな愛好者にしか好まれない商品だからだ。
 
要するに「要らない物は要らない」のである。
 
在庫処分店の店頭に立つこともある。立っていて感じるのは、良い商品がなければお客は買わない。パンタロンのように「絶対に着用しない」とわかっている商品は100円だろうが売れない。
いくら店員と仲良くなろうが、いくら店員が親切に応対しようが、いくらディスプレイが美しかろうが、要らない物は買わない。

「ねえちゃんが愛想いいから、絶対に着用しないけどこのセーターを買うわ」

なんてお客は一人もいない。
 
値下げして売れる商品は、「着用する可能性があるかもしれない」くらいのレベルなのである。例えばゴスロリ服が50円で投げ売りされていても多くの人は買わないだろう。絶対に着用しないからだ。
 
バブル崩壊以降、洋服の売れ行きが不振に陥ったことから、サービス強化や「コト販売」強化に乗り出した。しかし、それほど効果は出ていない。強化した「サービス」や「コト」のピントがズレているという可能性もあるが、それよりも当方は、結局は販売する「物」の出来が良くないからだと感じる。
粗悪品を作っているという意味ではない。まあ、たまにそんな有名ブランドも見かけるが。(笑)
欲しいと思わせる「何か」が足りなかったり、「着用するかも」と思わせる「何か」が足りないのではないかと思う。
 
で、国内アパレル業界は洋服販売不振に陥ったこの20年間ずっと迷走してきた。
例えば「コト販売」だが、あくまでも「コト販売」というのは商品を売るための「手段」に過ぎない。しかし、いつの間にか「コト販売」すること自体が目的になってしまっている不振店や不振ブランドを多く見かける。
ネット販売しかりだ。
物が売れるならネットであろうが、実店舗であろうが、行商であろうが、カタログ通販であろうがなんでも構わない。
だが、いつの間にか「ネット販売すること」が目的となってしまっている。
アホな業界コンサルやメディアは「ネット通販比率が高ければ高いほど優良ブランド」なんていう意味不明の基準で論じているが、売上高が落ち込んでおらず、利益が確保できるなら販売方法は何でも構わないのである。
 
クラウドファンディングもそうだ。
 
最近は工場がオリジナル製品を作ってクラウドファンディングをするケースが増えた。それはそれである種の進歩だといえるが、クラウドファンディングで目標金額を達成してお終いというケースが珍しくない。
たかが30万円や50万円の売上高を稼ぎたいだけだったのか。
クラウドファンディングも手段に過ぎない。クラウドファンディングで試してから、それを量産・販売することが目的である。
「工場が自分で開発しました」という「お涙頂戴」みたいなストーリーだけで、工場の社長あたりがやったド素人丸出しのデザインの服や雑貨をクラウドファンディングと称して高値で売りつけるというのは到底賛同できない。
 
本来なら、量産・販売を目的に商品開発をし、それをクラウドファンディングで試し、知名度を高めてから、量産販売に結びつけなくては意味がない。
そして、クラウドファンディングの目標金額を達成したなら、それを自社サイトでも卸売りでも構わないから販売を開始すべきである。
「クラファンやりっぱなし」の工場オリジナル商品があまりにも多すぎる。
こういう工場はクラウドファンディングが手段ではなく目的だったということになる。
 
現在はAI(人工知能)にアパレル業界の話題が移っている。しかし、業界の悪癖で、手段に過ぎないAI導入が目的化してしまっているケースもすでに散見される。
例えば、不振が続いている某百貨店向け大手アパレルはAI企業2社と契約を結んだ。同じ業種2社と契約をする意味が一向にわからない。
2社との契約は合計で15億円だと聞いているが、この会社はその一方で社員をリストラしている。仮に1社との契約に絞った場合、最低でも5億円は削減できるだろうからリストラをしなくても済む。
まことに本末転倒でしかない。
また、「AIを導入して在庫を大幅に削減できた」と公言するブランドの商品がなぜか大量に在庫処分店に流れているのだが、どのあたりの在庫が大幅に削減できたのか、理解に苦しむ。
 
90年代後半の「SPA化」「QR(クイックレスポンス)対応」なんかも本来は「手段」でしかなかったのに、いつの間にか「目的」になっていて、決算発表や社長会見で嬉々として「当社のSPA化比率は90%を越えました」なんて発表を繰り返していた大手アパレルもあった。
 
まあ、そんな業界である。
 
 
 
ところで、クラウドファンディングの本をどうぞ~

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