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南充浩 オフィシャルブログ

帝人の「ソロテックス」は新素材などではない

2019年3月18日 素材 0

繊維・衣料品業界は「業界」と一括りにされることが多いが、川上・川中・川下と分かれており、さらにその上中下の中も水平分業となっているため、全体像が把握できない。
すべてを完全に網羅している人などこの世にはいないのではないかと思う。当方なんてまったく把握できていない。
 
例えば、衣料品の店頭や販売に詳しい人は、原料や製造工程についてはあまり詳しくない。その逆も同様である。
だから、店頭(川下)の人が素材や原料(川上)のことを語ると、知識の浅さが露呈するし、その逆も同様である。
そのポイントのズレ方は同等なのだが、メディアへの露出は川下の人の方が圧倒的に多いから、どうしてもそちらの方が目立ってしまう。
そして川下の人の川上に対するトンデモ発言が目立つし、下手をするとそれが「事実」であるかのように吹聴されてしまい、それをもとに明後日の方向の世論が形成されてしまうという具合だ。
 
先日、有名なファッションブロガーが「新素材ソロテックス」と書いているのを見てちょっと驚いてしまった。
ソロテックスは帝人の機能素材なのだが、決して「新素材」などではなく17年くらい前から存在する素材である。
5年くらい前から、突然、さまざまな有名セレクトショップや有名ブランドとコラボするようになった。だから、川上に詳しくない人からすると「新素材」と思っても不思議ではないが、それはまったく事実ではない。
ソロテックスの経緯に関しては東洋経済オンラインのこの記事にくわしい。
 
帝人の機能繊維「ソロテックス」が人気のワケ
ジャケットやパンツなどで採用相次ぐ
https://toyokeizai.net/articles/-/211481
 

実は、このソロテックス、一時は消えかけた素材だった。帝人と旭化成が2002年にPTT繊維の合弁会社を設立し、ソロテックスの商標で関連生地の販売を開始したが、期待したほどは普及せずに業績が低迷。原糸の製造を担っていた旭化成が見切りをつけて事業撤退を決め、2010年に合弁会社は解散、商売がいったん途絶えた。
しかし、「この技術を捨てるのはもったいない」と帝人が原糸の調達先を新たに手配し、2011年に単独で事業を再開。
 

とある。
2010年に合弁会社が解散しているとはいえ、2002年から合弁がスタートしている。これだけでも到底「新素材」とは呼べないことがわかる。
2011年から帝人が単独で再開したが、それとてすでに8年前のことであり、この再スタートからしても「新素材」とはまったく呼べない。
 
再スタートしたものの、当初はやはりあまり売れなかったようで、実は4~5年前に、帝人のある部門の担当者から非公式に相談を受けたことがある。
「ソロテックスをどうやって売り出せばよいのか」という内容である。
再開したのはいいが、やっぱり売り先の開拓と売り出し手法に苦戦しているということだった。
「ファッションとして売り出すなら有名ブランドや有名アパレル企業とのコラボしかないのでは?」と答えたが、帝人も同様の答えにたどり着いたようで、その後、しばらくしてからソロテックスのブランドコラボ第1弾が発表された。
当方の意見が採用されたとはまったく思わないが、「ファッション分野」で売りたいのならそれしか手がないことは誰が考えてもわかる。
ただ「有名ブランド」がユニクロや無印良品を指すのか、大手セレクトショップを指すのか、欧米高級ブランドを指すのかはだいぶと違う。どのゾーンを選択するも事業主である帝人の自由であり、それによって素材のイメージ付けの方向性も変わる。
今のところ、大手セレクトショップや百貨店向けブランドとのコラボが続いており、帝人はそのジャンルを選択したといえる。
じゃあ、ソロテックスという素材の何が良いのかということになるが、実はその際の担当者との雑談ではそれがまったく見えてこなかったが、東洋経済オンラインには端的にまとめられている。(笑)
 

PTT繊維は代表的な化繊であるポリエステルの一種だが、分子構造が異なり、生地の触感がソフトなうえ、回復力が高くて型崩れしにくく、シワも入りにくい。また、通常のポリエステル糸と組み合わせると、加熱染色時の収縮率の違いから混合糸がらせん状になり、高いストレッチ性を帯びる。
 

とのことで、ものすごく乱暴に一言でまとめるなら
ポリエステル系のストレッチ素材
ということになる。
 
 

ポリエステルのストレッチ素材だったらなにがすごいの?
 

と川下の人は疑問を持つだろう。
ポリエステル系のストレッチ素材は、通常使われているポリウレタン系のストレッチ素材に比べて、劣化・断裂しにくいという長所がある。
東洋経済オンラインはこうまとめている。
 

これまでストレッチ素材の多くは、化繊や綿にゴムのような性質のポリウレタン弾性糸を混ぜたものが大半だった。しかし、ポリウレタンは劣化が早く、着用や洗濯を重ねるうちに型崩れしたり、ひび割れしてしまう。そこで帝人のソロテックスが新たなストレッチ機能素材として注目され、冒頭のノース以外にもアパレル業界で採用が相次いでいる。

 
とのことで、ストレッチ素材について「繊維が断裂してストレッチ性がなくなってしまうからモノとして粗悪品だ」と主張する人もいるが、ポリエステル系ストレッチ素材を使うと、この断裂する時期は随分と先まで延ばすことができる。今回俎上に載せているソロテックス以外にも業界にはポリエステル系ストレッチ素材はまだまだある。
ポリエステルの繊維の特徴としては、劣化しにくい・色落ちしにくいというものがもともとからあるから、それを使ったストレッチ素材が断裂しにくいことは当然の結果といえる。
コラボが頻発するようになってから、ソロテックスには新バージョンが多く開発されるようになった。
1年前の東洋経済オンラインの記事でもすでに
 

その販売を伸ばしていくため、高ストレッチタイプだけでなく、ソフト感を重視した生地や天然素材との混紡生地、さらには編み方・織り方が異なるタイプなど、素材のバリエーションを積極的に増やしている。昨年末には蓄熱・保温機能を持たせた「ソロテックスTHERMO(サーモ)」を発表し、2018年秋冬物での採用に向けた営業活動を始めた。
 

と触れられている。
だから、素材や製造に詳しくない川下の人が「新素材ソロテックス」と認識してしまっても仕方がない側面はあるのだが。。。
とはいえ、新素材という認識は不味いことこの上ない。
 
それにしても繊維・衣料品業界はこの手の知識の溝がいたるところにある。
そして、その溝は埋まる気配もない。
 
 
ナノ・ユニバースのソロテックス使いのパンツをどうぞ~

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