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南充浩 オフィシャルブログ

価格競争に巻き込まれたくないならフォーカスマーケティングを

2019年1月10日 考察 0

3回くらいで終わるかと思った正月の雑談シリーズだが4回目になる。これで多分終わる。
衣料品業界は、売れ行きの格差が激化している。
例えば、正月恒例の福袋だが、どんどんと利便性が高まったが、売れるブランドと売れないブランドの格差が明確になっている。
ずっと衣料品ブランドの販売をしている某専門学校生は今回の正月も店頭に立ち続けたそうだが、福袋が一瞬で完売するブランドと、何日間も残るブランドとの格差が激しかったと語っている。
同じような商品内容、同じような価格にもかかわらず、それほどの売れ行き格差が生まれている。
売れ行きが鈍いブランドや、値下げして投げ売らないとダメなブランドはもう来年から福袋を販売する必要がないのではないかとさえ思える。
福袋もそうだが、「とりあえず販売してみて、マスへのヒットを狙う」という売り方は洋服に関しては通用しない時代ではないか。
一般的に国内アパレルブランドは「マス」に売るための「マスマーケティング」を意識しているが、「マス」層には国内でほぼ二強といえるユニクロと無印良品がある。加えてZARA、ジーユーなどもあり、マス向け低価格ブランドの中でも好不調の格差が激しくなっている。
バブル期の低価格ブランドは、安いが見た目は「ブランド物」とは異なっていたため、すみわけが可能だった。しかし、現在、ユニクロや無印良品などの商品の見た目はかなり「マシ」になっており、中途半端な百貨店ブランドやファッションビルブランドとほぼ同様の見え方の商品も増えた。
そうなると、安い方で構わないと考える消費者が増えるのは当たり前といえる。
一方、百貨店ブランドやファッションビルブランドはユニクロやジーユーとの価格競争に巻き込まれたくなく、ある程度の高値で売って利益を確保したいと考えている。
しかし、「マスマーケティング」を志向しているから、マス向けのユニクロや無印良品に破れるということになる。
オッサン対談をした前部長によると、

「自分達の望む(高い)価格で売りたいのなら、発売してみてマスヘのヒットを狙うという従来のマスマーケティングではなく、自分たちの商品のファンである少数に向けてのフォーカス(焦点)マーケティングが必要なのではないか」

という。
フォーカスマーケティングはこの部長の造語であり、ピンポイントマーケティングとかニッチマーケティングと言い換えてもよいかもしれない。
要するに、広く一般大衆に売ることを考えるのではなく、少数の自分たちのファンへ高く売ることを志向すべきだということである。
 
昨年、メガネスーパーを再建した星﨑尚彦社長のインタビューをさせてもらった。
https://www.style-picks.com/archives/723
https://www.style-picks.com/archives/732
 
星﨑社長はメガネスーパーに先だって「リップサービス」というヤングレディースブランドを展開していたクレッジ(星﨑社長退任後、社名をオルケスに変更される)も経営再建した。
施策はさまざまあったが、「リップサービスのコアなファンというものが存在したからそこに向けた訴求を強化した」というのもその中の一つにあった。
これもフォーカスマーケティング、ピンポイントマーケティングと同様の考え方ではないかと思う。
 
マスへ売りたくてもユニクロ、無印良品、ジーユーあたりの価格には勝てない。ZARAなら同等の価格の商品もあるが、販売手法で勝てない。
となると、マスが好みそうな物を高値で売るということはかなり難しいということになる。
 
ブランドロゴ入りのTシャツなどのアイテムは、アイテムとしては白無地・黒無地Tシャツではあっても、ブランドロゴというブランド独自のマークが入ることによって、消費者からすると「他社にはない製品」ということになる。
ビッグジョンのロゴ入りTシャツがジーンズメイトやライトオンで販売されることはあっても、リーバイスやエドウイン、ジョンブルなどがビッグジョンのロゴ入りTシャツを企画製造することはできない。
業界人からすると無地のTシャツにブランドロゴをプリントしただけの簡単で製造原価の安いTシャツにすぎない。しかし、消費者は「他社にはない商品」としてとらえており、だからこそ5000円とか7000円の高値で買うのではないか。
 
ラムウールの黒無地の丸首セーターなんてはっきり言ってしまえばユニクロの1990円で十分である。そこにブランドロゴの刺繍でも入れば、「別物」になるが、本当の無地ならユニクロの1990円で十分ということになってしまう。
黒無地ラムウール丸首セーターを9800円とか1万円オーバーでマスに販売するためには、よほどの「何か」が必要になる。
単にタレントの誰それが着ていたとか、ルミネで売っているとかそんな程度の「何か」ではまったく足りない。しかし、そういうことを好む層は少しはいるのだから、その少しに向けて訴求すればいいということになる。
 
高額セーターといえば、気仙沼ニッティングがある。1枚10万円を越えるセーターを販売していて、物作り企業の憧れになっているといえるが、しかし、年間の販売枚数はそれほど多くない。数百枚規模である。
それも当然で、いくらストーリーがあろうが、販促が上手かろうが、上質であろうが、1枚10万円を越えるセーターを買いたいと思う消費者はそれほどいない。また、買える能力のある消費者もそれほどいない。
だから数百人規模にしかならない。逆に気仙沼ニッティングが成長戦略を志向し、購買客を1000人、1万人に拡大したいと考えるなら今の価格設定では無理で、逆にいえば、数百人規模に響くフォーカスマーケティングが成功した例だといえる。
 
ユニクロ、無印良品に対抗できない百貨店ブランド、ファッションビルブランドはフォーカスマーケティング、ピンポイントマーケティングを志すべきではないか。
 
 
 
 
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