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南充浩 オフィシャルブログ

アパレルブランドは「少し多めに作る」という悪癖を治せ

2018年12月11日 企業研究 0

先日、メガネスーパーの星崎尚彦社長のインタビュー取材をさせてもらった。
インタビュー記事は後日、スタイルピックスドットコムに掲載するので、しばらくお待ちいただきたい。
「リップサービス」というヤングレディースブランドを展開していたクレッジ(変更後社名オルケス)と、メガネスーパーを2社連続で経営再建された凄腕社長なので、柄にもなく緊張して出かけたが、予想以上に気さくな人柄で安心した次第だった。
10月に発売された星崎社長の著書「ゼロ秒経営」(KADOKAWA)も読了した。

 
 
ここにはメガネスーパーもさることながら、クレッジでどのように再建に取り組んだかが割合に詳細に描かれている。アパレル関係者には一読を勧めたい。
当方にとっても勉強になったと感じる箇所は様々あるのだが、その中にこんな一節がある。
 

300作るよりも1000作った方が20円安く上がるとしても、20円のために700枚の在庫を抱えることの方が恐ろしい
 

と。
これはどういうことかベテランの業界人なら読んだ通りのことだと思うが、初心者の方のためにくどくどしいが補足解説してみる。
一般に縫製工場は「最低これだけの量は注文してくださいね」という「ミニマムロット」が各工場で設定されている。これは工場の規模や経営者の考え方によってその基準は様々ある。例えば50枚でも良い工場もあるし、100枚でないとダメな工場もある。
ミニマムロットを下回れば、1枚当たりの工賃はアップする。いわゆる「アップチャージ」というやつだ。
反対にミニマムロットを大きく上回れば上回るほど1枚当たりの縫製工賃は安くなる。平均で1型50万枚を作るといわれるユニクロが洋服を安く作れる理由である。
ミニマムロットを越えていても、それ以上にたくさん作れば作るほど1枚当たりの縫製工賃は安くなるから、「売れる」という確証があれば枚数を作った方が原価率は下がり、利益は確保されやすい。だからアパレルの多くは、枚数を多めに製造したがる。
しかし、多くのアパレルの「売れるという確証」は企画担当者や店舗責任者の「願望」「妄想」に過ぎないことが多いから、洋服は大量に売れ残り、期末に破格値で投げ売られたり、バッタ屋に流されたり、減損処理をして廃棄されたりする。
ちなみに廃棄するには産業廃棄物処理としての費用がかかるから、会計上は最も損失が大きくなる。まだ投げ売ったり、バッタ屋に流したりしている方が金銭的損失は少ないということになる。
300枚作るより1000枚作った方が1枚当たりの工賃は安くなる。問題はいくら安くなるかである。
これが500円とか1000円くらい安くなるなら作っても良いかもしれない。しかし、たった20円や30円安くするために700枚の在庫を抱えるのでは意味がない。20円安くなったとして1000枚の総額ではたった2万円しか製造費は削れない。2万円のために700枚の在庫を抱えるのではリスクが大きすぎる。
しかし、案外と、この決断ができないアパレルやブランドは皆さんが想像するよりもはるかに多い。
だから今、アパレルの売れ残り品の処分が問題になっているのである。
アパレルの売れ残り品を減らすために「AIによる需要予測を」なんて言っているポジショントーカーも数多くいるが、需要予測したところで、例えば「マスタードイエローの丸首セーター」という答えが導き出されたとして、今まで通りの「少し多めに作る」ということを各社がやらかせば、結局は売れ残りが生じて処分する必要に迫られる。お分かりだろうか。
アパレル業界に必要なのは「AIによる需要予測」などではなく、「自社で売り切れる枚数分だけを作る」という姿勢であり、たかが20円や50円をケチるために「数量多め」に作るという悪癖を治さない限りは、在庫処理問題は永遠になくならないということである。
アパレル業界人には深く考えないミーハーが多いから、あまり考えずに最新テクノロジーに飛びつきたがる傾向がある。
POSしかり、クイックレスポンスしかり、インターネット通販しかり、今回のAIしかりである。
POSだってインターネット通販だって満足に使いこなせず、データを分析できない輩がAIなんて導入したところで無駄である。
星崎社長在任当時の「リップサービス」は全国30数店だったから、300枚の製造だとすると1店舗あたり10枚弱ということになる。この程度の枚数ならほぼ完売できるだろう。
しかし、1000枚作るとなると1店舗当たりの配布数は30枚くらいになる。
30枚程度なら売り切れる店もあるだろうが、売り切れずに残す店もあるだろう。だったら確実に消化できる300枚だけを製造すべきであり、この考え方を各ブランドが導入するだけで不良在庫は劇的に削減されるだろう。AIを導入するのはその後の話であり、この程度の工夫もできない企業やブランドがAIを導入したところでまたぞろクイックレスポンスの失敗を繰り返すだけのことである。その程度のこともわからない人がそろっているからアパレルは不良在庫に苦しんでいるといえる。
 
以前から、クレッジは2年弱で再建されたのにどうして社長が交代したのか不思議でならなかったが、この本にはそのいきさつも書いてある。
当時、クレッジを所有していたファンドが別のファンドに売ったためだ。当初は売却後も布陣は変わらないはずだったが新ファンドがその約束を反故にして新社長を迎え入れたとある。
そしてその新社長がかの有名なW-ルド出身のブランドクラッシャー氏で、就任後わずか16か月でクレッジを経営破綻に追い込むことになる。どうすればそんな短期間でやすやすと会社を経営破綻に追い込めるのか、逆に驚異的としか言いようがないが、これはまた別稿で考えてみたい。
 

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【有料記事】地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 
「ゼロ秒経営」の本をどうぞ~
 

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