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南充浩 オフィシャルブログ

モノヅクリガーも「売ること」からは逃れられない

2018年11月29日 産地 0

なんだかんだとディスっているが、実は製造加工業の現場は好きである。
やっぱり、織機にしろ編み機にしろその動きはすごいし、調整する工員もすごいと思う。とはいえ、結局は製品にして売れてなんぼである。
もちろん、自社の目標とする売り上げ規模はまちまちだ。
ファーストリテイリングのように3兆円を目指す会社もあれば、社員3人で5億円も売れれば満足する会社もある。
企業規模によって「どれだけ売らねばならないか」は変わってくる。とはいえ、「売る」ということ抜きに経済活動は一切成り立たない。
その「売る」ことだけしかやってない某大手洋服通販ECモールの社長が「この世からお金を廃止したい」なんてアホみたいな寝言を起きたままで言ってるから笑えてくる。
 
物作り系の理想とする企業活動はドラマ「下町ロケット」ではないかと思う。
工業製品のすべてのカギは「バルブ」が握っているという描き方は正しいのかどうか釈然としないが、佃製作所はその「バルブ」のクオリティを高めるために研究開発を欠かさない。そこには試行錯誤を繰り返し、成功させるという情景は当方が見ていても熱くなる。
繊維関係の製造現場なら「陸王」の方が近しいだろうか。
足袋の縫製工場であり、新型スニーカーの開発を行っていたのが「陸王」である。
 
しかし、「下町ロケット」にしろ「陸王」にしろ、多くの視聴者は「製造現場」に心を熱くさせると思うのだが、結局のところ、どちらも売れなくては会社は成り立たない。
現に、ドラマでは何度も危機が訪れるが、その中のいくつかは「売れない」という危機である。
現に「下町ロケット」ではせっかく開発したトランスミッション(変速機)を、主力製品であるエンジンと抱き合わせで売ろうとして、いったんは契約が決まりかけたが、あとから競合にひっくり返されて、社内は暗然となってしまうという描写があった。
要するにいくら、「物作りガー」と言っていても、売れなかったら社内は暗然となるし、会社は存続の危機に立たされるのである。
だから個人的には「下町ロケット」は営業の重要性、販売の重要性を描いているドラマなのではないかと思って毎週見ている。
 
先日、ある縫製工場からこんな話を聞いた。

「最近、物作りをしたいと言ってやってくる人がちょこちょこ増えたが、地に足のついていない人が多いと感じる」

と。
この手の話は何度もここから聞いているのだが、以前に聞いた話だと、だいたい20代~30代前半くらいの若者が多く、ちょっと浮世離れしているというか、正確にいうと「浮世離れ志向」のある若者が来ることが多かったようだ。
例えば、縫製工場は立ち仕事が多いから、歩きやすい靴でないと足が疲れる。にもかかわらず、その若者は「気分が上がらない」と言って頑なにワークブーツを履き続けたそうで、毎日相当に疲労を溜めていたようだ。最終的に長く居続けることができずに辞めてしまったのだが、「モノヅクリで働きたい」ことが目的なら工場内で履く靴なんてなんでもいいはずで、それこそ疲労が溜まりにくいスニーカーを履くべきである。ワークブーツは通勤時に履いて楽しめばいいだけのことである。工場に着いたら、靴を履き替えれば済む話でしかない。
これなんかは完全に「目的」と「手段」が入れ替わってしまっている実例といえる。
その若者の中ではワークブーツを履くことが目的になってしまっている。
先日、聞いた話だと今度は40代の夫婦が来たらしい。日清食品の安藤百福さんがチキンラーメンを開発したのが48歳のときだから人生に遅すぎるということはないというのは一面では正しいが、40代から一から工場の仕事を覚えるというのはリスクが高い。夫婦のどちらか片方が正業に就いているならまだしも二人そろってというのはちょっと錯乱しているとしか思えない。
しかも聞いた話では、このご夫婦は通常の企業に属しており、それなりに責任のある地位にいたという。恐らく収入も平均よりは高いだろう。夫婦二人の収入を合わせると1000万円前後はあったのではないかと勝手に他人の家計を推測した。
しかし、二人は「通常の企業活動」に飽きたのか、物作りに進みたいという主張が強かったそうである。
もしかすると単に「隣の芝生は青かった」というだけのことかもしれないが、実際にもう二人とも企業を退職してしまったらしい。
 
下町ロケットなんかを見ていても、随所に「モノヅクリ礼賛」を感じ、それはそれで一面では正しいのだが、逆に持ち上げすぎるのはいかがなものかと思う。
いくら、物を作ったって売れなかったら1円の収入にもならない。
営業や販売という仕事はつらいことも多い。
「店内商品1000円」という看板を見て「100円なんですか?!」と飛び込んでくる大阪のオバハンも相手にしなくてはならない。都合よくゼロを一つ読み飛ばす大阪のオバハン脳には唖然とさせられる。
とはいえ、そういうことが営業や販売の重要な仕事でその先に売り上げができる。
 
先のご夫婦も何年か先にいざ、自分達で何らかの商品を作ったら、そのとたんに「どうやって売るか」という現実が待っている。そしてそれを忘れている人は意外に多い。商品を完成させることがゴールではなくて、作った商品を売ることがゴールである。
商品が売れないと収入にはならず、研究開発費も出なければ、次の商品製造もできなくなる。
「売ること」から逃げるために製造加工業を目指す人をチラホラと見かけるが、製造加工業に就いたところで、その先には「売ること」が待っているのは何も変わらない。
もう一度日本人は「売ること」の重要性を認識しなおさねばならない。
 

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【有料記事】地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 
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